推し活するため、平民にならせていただきますわ!

ミルクラウン

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第一章

14話

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「お嬢様!!」





 「……っ」





 体を揺すぶられる感覚に、ガバッ!っと飛び起きる。





 「お、お嬢様……!よかった……、ご気分はいかがですか?」





 そんな私の様子に、安心したようにセシルが瞳を潤ませる。





 「せ、セシル……」

 「はい、セシルでございます。朝のご準備に参りましたら、ひどくうなされていて……不躾とは思いましたが、起こさせていただきました」

 「そう……ありがとう」

 「お嬢様、顔色が良くありません。すぐにお医者様を……」

 「いえ、お医者様は大丈夫よ。気を使ってくれてありがとう。それより、紅茶を一杯いただけるかしら?」

 「かしこまりました。すぐにお持ちいたしますね」



 焦っていたセシルは落ち着きを取り戻したらしく、すっと一礼すると部屋を出ていった。



 改めて部屋を見渡す。そこは、いつものショッキングピンクの部屋で、暗闇ではない。





 「……お日様を浴びたい……」





 まだぼんやりとする頭でそんなことを考えると、私はむくりと起き上がり、パジャマのまま部屋にあるバルコニーへと足を向けた。









◇ ◇ ◇









 「んーっ!」





 はしたないと思わなくもないが、大きく伸びをする。朝の光は眩しく輝いていた。青い空には雲ひとつなく、爽やかな快晴と言って差し支えないだろう。



 バルコニーの柵に手を当て、庭を見る。



 幾度となく目にすることができたはずの光景だが、フィリアの時はただ「華やかじゃない」の一言だったその庭は、素晴らしいものだ。



 確かに、華やかなバラ園や、ベルサイユ宮殿のような庭があるわけではない。でも。



 白い石でできた細い小道に、所々にある木陰や池。メインは中央にある噴水だろう。何よりも、夏を迎えようとしているこの庭には、一面に花が咲き乱れていた。



 そんな、普通では中々味わえないであろう光景に感謝しつつ、庭を眺めていると、





 「おーい」





 と、声が聞こえてきた。



 あれ?と思って後ろを振り返る。しかし、セシルはおろか、誰もいない。



 ま、まさか……ピンクおばけが現実にまで……!?と、身構えると、





 「違う違う、下だよ、フィリア!」







 ……この、声……







 聞き覚えのある声に、慌てて下を見て、私はぱあっ、と笑顔になった。





 「レオン兄様!」





 階下で手を挙げて振っているのはフィリアの優秀な兄、レオン=アッシュ=クラネリア。クラネリアの人間の特徴とも言える、くすんだ金色の髪に、マンダリンオレンジ色の瞳を持つ。



 彼は、ラビファンにおける攻略対象の1人だ。明るく、爽やかな熱血系。いざとなると頼りになるし、優秀なのに、時々とんでもないドジをする……と、母性と乙女心、両方掴むような爽やかイケメンの彼は、ラビファンでも1、2を争う人気キャラクターだ。ちなみに、「何であんな素敵な人がフィリアなんかのお兄ちゃんなのーー!?!?」と、絶叫されるキャラクターでもある。



 ゲーム内では、彼はあまり妹に良い感情はもっていなかった、のだが……





 「おはよう、寝坊助のお嬢様。天気もいいし、よかったら庭で朝食はいかがですか?」

 「まぁ、嬉しい!すぐに参りますわね!」

 「転ばないように気を付けろよ!」





 にこっと無邪気に笑う彼は、単なる妹大好きなお兄ちゃんにしか見えない。かく言う私自身も、お兄ちゃん大好きな妹でしかないのだが。……この辺は、フィリアの人格だけだった頃から変わっていない。実際に、フィリアは昔からお兄ちゃん大好きっ子だし、ゲーム内でも凄まじいブラコンぶりだった。あそこまでいくともはや病気である。



 そんなことを考えつつ、大慌てでバルコニーから部屋戻ると、丁度扉が空いてセシルが顔を出した。





 「お嬢様、先程レオン様にお会い致しまして、ご朝食は外で?」

 「えぇ、そのつもり!だから紅茶は……」

 「ご安心ください。既に外に運ばせましたわ。さ、手早くお着替えをすませてしまいましょう!」

 「流石セシル!」

 「光栄の至りですわ」





 会話をしながらもセシルの手は止まらない。10分もすれば、立派なフィリアお嬢様が鏡の前に立っていた。





 「ありがとう、セシル!それじゃあ、行ってきます!」





 「お気をつけてー!」というセシルの声を見送りに、私は庭へと急ぐ。目指すは外のテラスだ。









◇ ◇ ◇









 「兄様!」





 「おー、フィリア!久しぶり!」





 腕に飛び込むフィリアを躊躇なく抱きとめて、にぱっと笑う。屈託のない笑みだ。同じ兄妹なのに、何故フィリアはあんなに邪悪な笑顔ができていたのだろうか。



 そこまで考えて、はっとする。つい、いつもなフィリアの癖で飛びついてしまったが、今の私は"私"なのだ。慌てて離れて優雅に礼をする。





 「お久しぶりです、レオンお兄様。おはようございます」





 その様子に、おや、と目を見開いた彼は、しかしすぐに紳士としての礼の形をとった。





 「久しぶりだな、フィリア。そしておはよう」





 直後、顔を見合わせて吹き出す。お互いに似合わない挨拶だ。



 レオンもそう思ったのだろう。すぐにいつもの調子に戻った。





 「ははっ、フィリアもそんな年頃か?もう、俺に飛びつく可愛いフィリアとはお別れかぁ」

 「まさか。ひょっとしたら一生抜けない癖ですわ」

 「一生ときたか!じゃ、体力が続く限りは受け止めないとな」

 「まだそんな歳でもないでしょう?」





 雑談をしながらテラスに備えられたテーブルにつく。その上には、美味しそうな朝食が並んでいた。



 ハムとチーズが挟まれたホットサンド。カップに入ったポタージュスープ。ふかふかオムレツにカリカリベーコン、フルーツの盛り合わせ。オレンジジュースとミルク、そしてもちろん、紅茶。



 食べながらも私たちは会話に花を咲かせていく。





 「それにしても、驚きましたわ。朝起きたら、兄様がいるんだもの」

 「あぁ、昨日の夜こっちに戻ってきたんだ。本当は会いたかったんだが、執事長とセシルに全力で止められてしまって……」

 「私、昨日は疲れで早く眠ってしまったしね。エドウィンさん、セシル、ありがとう」

 「あ、どういう意味だー?俺の声が大きいからか?」

 「二階まで届く声を朝から張り上げられる人はそういないと思います」

 「……否定はできない」

 「でも、兄様の場所がいつでもわかるから、悪いことばかりじゃないわ」





 そう言うと、かわいいやつめ!と頭を撫でられた。とても今年で12歳になったとは思えない。一応この世界での成人は、16だというのに。





 「ところで兄様、エルンスト王国の魔法学校はどうでしたか?」





 エルンスト王国。この国、レカファウロスの隣にある国の名前だ。森と湖に囲まれているのがこの国なら、あちらは海と太陽の国。交易が盛んな海洋貿易の国で、世界中から人が集まる、ここらへんの国の中では1番の大国だ。



 ウォーターパラダイスの屋敷もその国の一角にある。私はしばらく行っていないが、そんな縁もあって現在絶賛学校選び中の兄はしばらくエルンストの屋敷に滞在していたのだ。





 「あー、うん。いいところではあったよ。国際色豊かで、授業もしっかりしてた。……ただ、なぁ」





 そこで苦笑して言葉に詰まる。あぁ、なるほど。





 「貴族問題、ですか?」





 思いついた単語を口にすると、兄は酷く驚いて、しばらくぽかんと私を見つめ、やがてふっと微笑んだ。





 「……ちょっと見ない間に、フィリアは本当に変わったな。まぁ、そんな感じ。お家柄とか、今はもうそんなこと言っていられない時代が来てるのに、中々、ね」





 実際のところは、"私"がゲームで知ったことだったのだが。



 レオンは、身分を微塵も気にしない新しい考え方を持った人間だ。ゲーム本編で、唯一隣国エルンストの魔法学校に通うレオンは、超えられない貴族と平民の身分差にいつも悩まされていた。そんな時、たまたま帰ってきた実家で、主人公のルリアと出会い____というストーリーがある。



 ちなみに、主人公がここに来たのはクラネリア家のパーティーで、ルリアを辱めるためにフィリアが彼女を招待したからである。そこでレオンがルリアを庇って……みたいな展開になるのだが……というかこれ、もしかして強制的に起きる出会いイベントだったような……あれ、この笑顔の兄様に冷たい眼差し向けられるのは耐えられません、どうしよう。





 「フィリア?」





 思考がトリップしていた私に、兄様が声をかける。おーい?と顔の前で手まで振られていた。





 「はっ、大丈夫です、今日のジャムはラズベリーです」

 「いや、そんなこと全然言ってないよ!?……大丈夫?何かあった?」





 オレンジ色の瞳がじっと見つめてくる。





 「え?い、いや……その……」

 「絶対何かあったよね?お兄様に話してみなさい!」





 本当のことを言うと、今朝方の悪夢について話したかった。しかし、兄様に会えた嬉しさで、内容はすっかり吹っ飛んでしまったわけで。しかも、こと妹に対しては激甘でとてつもなく心配性の兄様のことだ。すぐに医者を呼ばれてしまう。



 前世から医者が嫌いな私は、なんとか適当な言い訳を考えようと、考えて……







 「……か、家具」

 「家具?」

 「そう、兄様!____私、部屋の模様替えをしたいんです!!」







 咄嗟に出てきたのは、そんなある意味切実な言葉だった。
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