推し活するため、平民にならせていただきますわ!

ミルクラウン

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第一章

13話

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「ま、にあった……」



 貴族のご令嬢がしてはいけないような疲れ切った顔で、ぜぇぜぇと息を切らせながらお茶会の会場に戻った時には、もう夕方だった。



 丁度お開きになる時間だったようで、会場から出て行く人たちは皆、私を見てギョッとしていた。



 えぇ、そりゃあギョッとしもするでしょうよ!迷子ですから!



 ルカの言った通り、結局左手の法則はさっぱり役に立たず、たまたま通りかかった宮仕えのメイドさんに道を聞いて、ようやく会場まで戻ってこられたのだ。



 ハイヒールではないが、この世界の靴は靴底が異様に硬いため、ろくに走ることもできない。だから、持てる力を全て出して全力の早歩きで帰ってきた。くそぅ、お城が広いのが悪い。





 はぁはぁと息を整えていると、









 「お嬢様?」









 「……アラ、ナンテキレイナユウヒカシラ」



 後ろから聞こえてきた、聞き覚えしかない声。ダラダラと汗と冷や汗を流しながら、恐る恐る振り返る。









 「……ゴメンナサイ……」









 どうやらいつまでも出てこない私を心配して迎えに来てくれたらしいセシルが、魔王のようなドス黒い笑顔で立っていたので、私は蚊の鳴くような声で謝罪するしかなかったのです。ええ!







◇ ◇ ◇







 「つーかーれーたー!!」





 帰り道からおやすみまで、いいですかお嬢様貴女様はクラネリア家の顔でもありレディでもありそれがなんですかお茶ね飲み過ぎでどうたらこうたらくどくど、と続いていたお説教もどうにか終わり、楽な格好に着替えた私は天蓋付きのベッドに倒れ込む。



 もふっ、と柔らかく質のいい毛布は私を受け止めてくれる。あぁ、ベッドよ、あなたはどうしてベッドなの?もし貴方が人間だったら私、間違いなくあなたに求婚しているのに。



 ごろん、と仰向けになり、ぐるりと部屋を見渡す。……とたん、目が痛くなった。



 何故か?それは、一重にこの屋敷とフィリアに原因がある。



 公爵家であるクラネリア家は、屋敷を3つ所有している。ひとつはここ、王都に構えられた普段私が住んでいる屋敷。もうひとつは公爵領の方にある屋敷。お父様が領地の視察に行く時などに使っている。最後に、避暑地にある屋敷。海辺のお屋敷で、プライベートビーチが付いている。プールもある。実に楽しい所だ。私は密かにあの屋敷をウォーターパラダイスと呼んでいる。



 それぞれが個性を持ち、同様にとても立派な屋敷だが、共通していることは派手すぎないということだ。これは、ご先祖様の趣向だったらしい。派手さはないが、とても上品な作りになっている。



 しかし、そんなお上品な屋敷など、年頃の女の子にありがちなキラキラ!ピンク!ド派手!!が大好きなフィリアが満足するはずもなく。



 物心ついたときには、このフィリアの部屋はゴテゴテしたショッキングピンクの家具で溢れた部屋になってしまっていた。使用人が優秀だったので、散らかってはいないのだがそれでも無駄なものが多い部屋だった。



 私が目覚めてから初めのうちは、毎晩ピンクの毛むくじゃらのオバケに追いかけられる悪夢を見たものだ。ピンクが目に痛かったのだと思う。我ながらよくこの部屋で堂々と生きていたものだ。



 壁は流石に変えられなかったので落ち着いたオフホワイトだが、他は殆どが目が痛くなるショッキングピンクだ。流石に名前を裏切らない。実にショッキングな家具の数々だ。





 「……せめてもうすこしこう、薄いピンクに統一すればよかったのに……」





 どれもこれも質は一級でとてつもなく高価なものなので、安易に買い替えたりはできないと我慢していたが、いい加減我慢の限界だ。疲れているからよけいそう思うのかもしれない。





 「……明日、セシルに相談してみよう……」





 そんなことを考えているうちに、眠たくなってきてしまった。まだ夜の9時なのに。子供って、案外すぐ寝てしまうものだ。





 「さすが……夜中の1時までネットサーフィンしてた大学生とは……ちがう……」





 懐かしいな、レポートとかあったなぁ、と思いながら、私の意識はすとんと闇の中に落ちていった。











◇ ◇ ◇









 誰かの泣き声が聞こえていた。









 くすんくすん、とすすり泣く声。









 どこから聞こえてきているのか気になって、私は暗闇の中を進んでいた。









 何故か、足を止めてはいけないと。











 それだけを考えながら体は進んでいく。











 やがて、暗闇の中で、ぽつんと明かりが灯っているのが見えた。











 それを見た瞬間、私はそこに行かなくてはならないと思って駆け出す。











 ______しかし、いつまでたっても明かりは近づいてこない。それどこれか、走れば走るほど遠ざかっていく。











 (まって)













 叫ぼうとして、声が出ないことに気付いて両手で喉を抑える。











 どうして、どうして声が出ないの?











 私、行かなくちゃいけないのに。あの子の所に行って、それで……













 (あれ?)













 私、どうしてこんなに必死なんだろう。











 何か大切なことがあって、でも、何だっけ。











 足が歩みを止める。











 今、私の目の前には1人の女の子が立っていた。















 「どうして?」















 どこかで見たことがある女の子は、そう言って私の首に両方の手を伸ばして、掴んで、そして__________

























 そして、その両手に力を込めた。
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