推し活するため、平民にならせていただきますわ!

ミルクラウン

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第一章

12話

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 「あ、あぁ、泣かないでください!!申し訳ありません、私がおかしなことを言いから……」



 ぽろぽろと涙をこぼす美少女____ではなく美少年を前に、私はおろおろするばかり。





 ……っていうかこれ、下手したら事案なのでは?





 小動物のような美少年と、わがまま令嬢。







 ……いやいやいや、どんな組み合わせですか!?







 「ぐすっ、ひっく、ボク、ボクは、女なんかじゃない!ちゃんとした、男で……」



 えぐえぐとしゃくり上げる美少年。困った。本当に困ってしまった。



 こんな可愛い子が泣いているところなんて___そりゃあ全然嫌いじゃないが____泣かせている当事者になってみればたまったもんじゃない。



 な、何か、何かないかしら……!



 おろおろしながらドレスのポケットを……はっ!!



 そこで私はとある重大な問題に気がつく。







 このドレス、シンプルすぎてポケットがない!!







 し、しまった。お城のお手洗いにしっかりと手を拭くものが用意されていたから気づかなかった……!





 次からはポケットのあるもの、もしくはウエストポーチか何かを持ってこようと硬く決意したはいいが、さて、どうしよう。



 こ、子供を笑顔にする方法……己の身ひとつで……はっ!!



 「そうだ!!見てください!」



 私はバッ、と両手を斜め上に上げた。



 「…………は?」 



 まだ涙は伝っているものの、彼は顔をこちらに向けてくれた。そして、同時にぽかんとした声をあげる。





 「……えっと」





 次いで、困惑したような声。何、してるんです?と、小さな声で尋ねられた。





 「よくぞ聞いてくれました!これこそ私の得意技……その名も、"威嚇するアリクイのモノマネ"です!!」





 両手をバッ!と勢いよくあげるのがポイントだ。実際のアリクイは手を横に広げているが、人間風にアレンジするとこっちの方がやりやすい。小学生の時、教育番組で見たアリクイの映像に感動した私は、この技を鍛え続けたのだ。『まったく意味がわからない上にそんなに似てもいないが、度胸だけはある』と言われ続けたこの技。それに、私の弟がこれで泣き止まなかった試しはない。これは、確かな自信に裏付けられるものだ。ドヤ顔で、決まった……と悦に浸っていると、







 「……はぁ」







 ひどく呆れたようなため息が聞こえた。







 ……ん?あれ?ため息?







 当然私のものではない。だとすれば、もう1人のものだとしか考えられない。だがしかし。



 私は腕を上げたまま困惑する。この美少年、今まで泣いてたよね?どうしてケロっとした顔で私を見て小馬鹿にしたような顔をしてるの?





 「……噂には聞いていましたが、"フィリア嬢"。貴女は少々頭の出来が悪いようですね」





 涙なんて欠片も残っていない。小馬鹿にどころかはっきりと見下した目をする美少年。いやぁ、絵になる……ではなく!!





 「な、何ですって!?」





 何故出会ってまもない人間にそこまでいわれなくてはならないのだ!と私は憤りを感じる。確かにフィリアはアホの子だったから強く否定はできないけど!私自身も昔から『お前は狂っている』と真顔で友達から言われてたクチだから強くは出られないけど!!



 強い口調でそう言えば、彼は馬鹿にした笑みを深くする。





 「僕は本当のことを言ったまでですが?」



 「……仮にも公爵家の人間によくそんなことが言えるわね……ルカ=トライデル=クーゼリア」





 怒りは感じていたが、一周回って関心してしまう。まぁでも、このくらいの年齢の子って案外皆そうかもしれない。先生とか親とかにかみつく子もいるもんね。そうだよなぁ、7歳って小学二年生だもんな……。



 そうやって少しだけ冷静になった、そのおかげで、彼の名前も思い出した。ついでに、性格も。





 ルカ=トライデル=クーゼリア。"初見殺しの白銀の花"。





 彼は、見た目と表向きは完璧な美少年だ。ゲーム内でも屈指の可愛らしさを持ち、女の子よりも女の子している。



 しかし、その本性は実はとても腹黒く、ドSだ。初めて彼のルートをプレイした時、大抵の人は衝撃に見舞われる。一体どこの世界に告白してきた相手に対して『いいよ、ボクが飼ってあげる』などという人間がいるのだろうか。



 そして、彼はゲームにおいて、悪役令嬢であるフィリアの天敵でもある。



 彼のルートそのものにはフィリアはそんなに関わってはいないのだが、攻略対象やヒロインと話しているフィリアの間に必ず入ってくるのが彼だった。可愛らしく『ねーねー、あっちに小鳥さんがいたんだよ~!』などと言って割り込んでくる。セリフだけ聞けばぶりっ子のようだが、その実、彼はかなり頭の回る人間であるらしく、やることなすこと全てを計算して行なっている。





 そんな情報を頭で整理しながら名前を呼んでやると、彼は面白そうにくすりと笑った。





 「へぇ。ボクの名前は知ってたんだ。じゃあ好都合だ。……フィリア=リル=クラネリア。はっきり言わせてもらうよ。貴女と王子では釣り合わない。早く婚約を解消した方がいい」





 意地の悪い顔だ。きっと、私が怒るのを期待しているのだろう。おそらく、この子は人が焦ったり怒ったりする様を見るのが好きなのだろう。ゲームが始まる年齢では見えなかったそのことも、幼いからなのか言葉の端々ににじみ出ている。多分、彼は今まさに猫かぶりを覚えようとしているのだろう。









 だから______









 「ええ、本当にそう思います。私と殿下では全くもって釣り合いません。唯一釣り合うと言えば身分くらいでしょうか。ですが、王家と公爵家ではそれすらも風の前の塵と同じことです。……しかし、この件につきましては、私の一存で決められることではありません。もしも貴方がこの件に関して何か仰りたいなら、私ではなく、陛下や殿下に直接仰ってくださいな」





 絶対に怒ってなんかやらないぞ!





 嫌味には嫌味だ。10返ってくるなら11返せばいいのだ。古代の人々はそう言っている。目には目を、歯には歯を。





 私はあえてにっこりと、困ったように笑いながら美少年__ルカの方を伺う。





 「……なんだ。怒らないんだ」





 驚いたことに、彼はつまらなそうな顔をしていた。やはり、私が怒ることを期待していたらしい。



 こちらとしては、悔しそうにする表情を見たかったのだけど、そういうわけでもないようだ。





 「まぁ、いいや。そろそろお茶会も終わりの時間だ。いい退屈しのぎにはなったよ、アリクイさん」

 「あら、どうも、美少女さん」

 「っ、だからボクは男で……!」





 嫌味に嫌味で返すと背を向けていた彼が振り向いた。どうやら、美少女は地雷らしい。そこは、ゲームと変わらないんだ。あんなに女の子してるのに。



 ムキになっていることに気がついて恥ずかしくなったのだろう。彼は、少し赤くなりながら捨て台詞を吐いていった。





 「……言っとくけど、その左手の法則、上下空間があったりスタートが途中からだったりすると、何も意味ないから」





 それだけ言い残して彼の姿は去っていった。



 ……いやぁ、実に強烈な子だなぁ。昔からこんな感じだったのか……などと考えていた私は、重大なことを言われたような気がして考え込む。





 「……あっ」





 そうだ私、迷子でした。はい。
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