推し活するため、平民にならせていただきますわ!

ミルクラウン

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第一章

19話

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相変わらず広い廊下を進む。



時刻は夜の11時。遅番の使用人であればまだ働いている時刻だが、今回は人払いをしてある。廊下には誰もいなかった。



やがて辿り着いたのは、重厚な作りの扉の前。深呼吸をひとつして、俺は扉をノックし、中に声をかけた。





「ただ今参りました。レオンです」





入れ、という短い返答の後、俺は部屋に続く扉を開いた。



途端に感じる、圧倒的な重圧。何年経ってもこの空気には慣れそうにもない。





「久しいな、レオン」





どっしりとした書き物机に向かい、何やら仕事をしていた父上___シグルド=ベルトル=クラネリアは、体を俺の方へと向けた。



くすんだ金色の髪に、青い瞳。カラーリングはフィリアと同じだが、纏う空気は覇王のようなそれだ。



昔から、厳格であることを定められてこの世に生を受けた父だ。人は、彼のことをまるで凍りついたガラスのようだ、という。確かに、造形は美しい。若い頃はさぞモテモテだったのだろう。



そんな父上を前に、やや緊張しながらも頭を下げる。





「はい。お久しぶりです、父上」



「向こうの屋敷はどうだった。変わりはなかったか?」



「ええ。皆、元気でした。大変良くしてもらいましたし」



「そうか。私は久しく足を運んでいないが、何よりだ」





満足気に笑う。その顔は、本当に嬉しそうだった。



……そう、この父上、見た目はそんな感じだし、纏う空気もこんなだし、よく勘違いされるが、実はめちゃくちゃ家族思いの人なのである!





「向こうの学校はどうであったか?有意義な場所だったか」



「ええ、先進的な授業に様々な国籍の生徒……やはり、こちらの学校とは違いました」



「そうか。ではやはり、あちらの学校に行くのか?」



「これから何があるかわからないので明確ではありませんが……その可能性は、十分にあります」



「そうか。まぁ、お前はお前が選ぶ道を進むとよい。選択肢はたくさんある。……母様は寂しがるだろうがな」



「はは……」





母親である、サリア=ルナ=クラネリアもまた、父と同様に家族思いだ。その上、心配性。そっちの説得の方が大変そうだな、と思いながら、苦笑した。





「時に父上。私を呼び出したのは、何故ですか?まさか、これだけではないでしょう」





普段仕事で家を開けることも多い父上が、わざわざ夜に俺を呼び出したのだ。そこにはなんらかの意図が必ずある。いや、なんとなく予想はついているのだが______







「フィリアのことですか?」







口にすると、果たして父上は嘆息してうなずいた。





「あぁ、そうだ。レオン。今のフィリアを見て、お前はどう思う」





一瞬探るような眼光になる。これは、父上の癖のようなものだが、嘘は許されないことの合図でもある。だから、俺は正直に答える。





「まるで、別人のようです」





わが妹のフィリアは、俺が2ヶ月間家を留守にするまで、あんな性格では決してなかった。どちらかというと、わがままで、手のつけられないような子だったのだ。それが、今はどうだ。





「前までは何だかんだと不満を言っていた使用人に対し、文句ひとつ言わないどころか、ことあるごとに感謝の意を伝えているのです」



「あぁ、私のところにも報告が入っている。あの頑固な庭師のウィルが、誕生日にフィリアから手書きのカードを貰ってすっかりデレデレになってしまったとエドから聞いた時は流石に驚いた。セシルをはじめ、他の使用人たちも皆、困惑しているそうだ」



「そうでしたか、あのウィル爺さんが……。父上、では私からも。実は今日、フィリアを孤児院に連れて行ってみたのですが……」



「なんだと、天使の家にか!子供達は大丈夫だったか!?」



「それが、傷つけるどころか大層な面倒見の良さで……鬼ごっこを6回もしてくれたと皆とても喜んでいました。あのやんちゃなテトルですらまた来いよ!と言ったんです」



「なんと、あのテトルが……」



「父上。今のフィリアは一体どうしてしまったのでしょう?いえ、喜ぶべきことなのはわかっているのですが、あまりの変貌ぶりで、正直頭が追いついていません。俺がいない間に一体何があったのです?」



「それがわかれば苦労はないのだが……。あの時、階段から落ちたのがいけなかったのか……」





そう言って、父上は1枚の封筒を俺に差し出した。なんだいきなり?と、不思議に思いながら受け取った俺はその封筒を見て、それを取り落としそうになる。





「オリーブの枝と鷲のマーク……!?ち、父上、これは、まさか……」





レカファウロスでは、王家の者はそれぞれが自分の身分を証明するマークを有している。国王陛下は王冠と護符、皇后は守護天使と誕生花、と言った具合だ。その中でも鷲とオリーブの枝は、第一王子を指している。



そのマークが透かしに入った封筒ということは。





「そのまさかだ。そのまさかなんだよレオン。……アレスフィア殿下直々の招待状だ」



「そ、そんな、一体何故です?だって、あの婚約は……」





俺は本気で困惑していた。そこにはとある事情がある。



























"フィリアと殿下の婚約は、まやかしである"































……という事情が。
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