彼が他人になるまで

あやせ

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綧と話した内容を両親にも話し、「体を壊したら元も子もないから壊さないように気をつける。勉強もできる場所で会うからちゃんとする。」と半ば強引に話わや通した。

そして宣言通り試験勉強に必要な教材と、過去問とをカバンに詰め某ファミレスチェーン店で綧と会い続けた。

「ごめんね、仕事終わりなのに試験勉強付き合ってもらって。」
「いいよ、俺があやせと一緒にいたいから勝手にやってることやし。」
「私は勉強しながら食べるからポテトとかつまむけど、綧ちゃんは気にせず普通に食べて。」
「んー。」

こんなやり取りを数日続けつつ、1日約2時間ほど試験勉強。
その間、綧はご飯を食べたり趣味の雑誌を読んだりしていた。
おかげで滞りがちになっていた勉強は捗り、全5章からなる過去問も数日間で遅れを取り戻し1と2章はほぼ完璧と言っても過言ではないくらい詰めることができた。

最初の数日間だけは。

5日目あたりから次第に様子が変わり出す。
いつものように仕事が終わった後に夕飯がてらファミレスへ行き、注文を済ませ試験勉強を取り組む。そしていつものように注文した料理が出てくるまで落ち着く…かと思いきや違った。

注文を終えてほどなくして綧が声をかけてきた。

「ねえ、もう勉強するの?食べた後でよくない?」

え?っと思いつつも口を挟む隙もなく言葉が続く。

「いつも仕事終わってすぐこっちきて、注文したらすぐ勉強やん?ご飯食べ終わるまでの少しくらい休憩挟んでもいいやん。」

『ちゃんと伝えてたはずだけどな?』と戸惑いつつも試験まで時間がないこと、合格できなければ合格できるまで受けなければならないことを伝える。

「仕事に勉強って詰めてやって何になる?息抜きもせずに詰め込んでやりすぎても覚えんやん。人付き合わせとるっちゃけん、勉強するにしてもそこら辺考えて少しくらい相手してもいいやん。」

と畳み掛けるように言われ渋々承諾。
もともと食事メインというよりは、試験勉強をメインに据えていたので軽食ではあったので『すぐに済ませればいいか。』と安易に考えていたのも事実。

この日を境に『食事を終えるまでは試験勉強はタブー』とされることになる。
初めは私の食事が終わればすぐに取り掛かっても文句は言わなかったが、数日すると再び「人が食べてる時に勉強するとかなくない?疲れて帰ってきてるのに、おちおちご飯もゆっくり食べれん。」と言われ、食事自体が終わるまでタブーとなった。

おかげで勉強時間はそれまで平均2時間ほど確保できていたのが、およそ4分の1の30分ほどにまでカットされる羽目になった。
『これ以上減らされるわけにはいかない』さすがの私も試験まで時間がないときに、詰めるどころか勉強時間を減らされる事態に焦りを覚えた。

なんとかこの30分で試験対策を仕上げなければ

この頃の私の頭の中には、『綧とは会わずに勉強に取り組む』という選択肢はなかった。
「会えるのなら勉強する時間確保する」という綧の言葉をまだ信じていたし、「会わなかったら接し方忘れる」という不確かだけれども不安な話を聞いた後だったから。
そのくらい私の生活の中心は綧になりつつあった。

しかし「会えるのなら勉強する時間確保する」という言葉は、後日裏切られることになる。






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