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❇︎過去の事故と後遺症 1
しおりを挟む綧と友人関係にあった頃と比べて、一緒にいる時間は格段に増えた。
というか、お互いに仕事に行っている時間以外ずっと一緒にいた。
当時お互いに実家暮らしをしていたため、仕事が終わり帰宅後すぐにご飯を済ませでかける。
もしくは綧の仕事が終わるのが遅い日はお風呂も済ませ、翌日の仕事の準備まで済ませてでかけるというのがルーティン。
両親からは「以前の人は遠距離でなかなか会えなかったこともあるけど、今は今で会いすぎじゃない?たまにはお互いゆっくりする日を作らないと疲れ取れないよ?それに、あやせは12月に試験を控えてるのだから勉強もしないと…あと3ヶ月もないよ?」と心配と助言も受けているくらいだった。
のちに話すが交際を始めてから、離婚するまでの間に綧と一緒にいない期間は別居した時以外にない。
そしてこの両親から助言を受けた時、私は3ヶ月後に資格試験を控えていた。
でも私も綧もそうはしなかった。
私個人的にも好きな人と会えるのなら、いつでも会いたい!という気持ちももちろんあった。あったけれどもそれとは別に、綧から聞いていた話も理由の1つだったからだ。
両親からの「お互い疲れ取れない」と助言を受け、確かにゆっくり体を休めることをしていないと思った私は綧にその話を持ちかけたことがある。
「付き合いだしてから特に、仕事以外本当ずっと一緒におるけん会わない日もたまには作らん?私はまだ屋内仕事やけど、外仕事やけん気候の変動で私より疲れ溜まるとこあるやろうし。」
「まあね、でもそれすると忘れるとよね。」
「忘れるって何を?」
「あやせとの接し方を」
「え?」
耳を疑った。接し方を忘れる?どういうこと?
困惑している私を尻目に綧は話を続ける。
「昔でかい事故にあったことがあって、その時に骨盤割って頭もぶつけとるとよね。その時の後遺症で1週間会わんかったらその人との接し方忘れるんよ。やけんあやせとも今はこうやって話せよるけど、会わんかったら今と同じように接することできんと思って。」
『そんなことある!?それじゃ会社や家族以外、ほとんどの人と接し方忘れてるってことじゃん!』と、口をついて出そうになるものの言葉を飲み込んだ。
私も車の状況や、現場を目撃した人から「死んでいてもおかしくない。」というような大きな事故を経験したことはある。
しかし車は廃車になったものの、鎖骨を骨折した程度で幸いにも命に関わるものではなかった。
なので「頭をぶつけた後遺症」と言われると、疑念は抱いても投げかけることはできなかった。
半信半疑なまんま相槌と空返事を繰り返すほど、「だから仕事関係とかで業者とかくるけど、なかなか会わん人ばっかやけん悩むこと多いっちゃん。ま、なんとかやりすごしてはいる。」と、とてもではないが悩んでいるようには見えない素振りで話を続けられ、結局疑惑は拭えないまま話を終えることになる。
その後も
「いくら事故の後遺症とはいえ、その後の生活に支障きたすのに障害者手帳もなにもないまんまとかある?」
と頭をよぎるも、
「実際大きな事故にはあってて、死にかけたのは事実。記憶障害みたいななんらかの後遺症が残ってもおかしくはないのかもしれない。」
と延々と自問自答を繰り返す始末。
「俺のことを心配してくれてるのもあるやろうけど、あやせの試験ももうすぐやもんね。気にしないでって言っても無理と思うけど、俺に気を使わず勉強ならどこででもできるやん。ファミレスででも一緒にやろう。」
と、こんな調子の綧の言葉もあり結局「絶対にそんなことはありえない!」と言い切れる、確たる証拠や根拠もないまま私の「好きだから一緒にいたい」という気持ちに従う形で一緒に過ごし続ける事になった。
そして、この言葉を鵜呑みにしたことをすぐ後悔することになる。
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