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❇︎綧のトラウマ
しおりを挟む交際を始めてからそれまでの当たり障りのない話以外にもらお互いのなかなか人には話さないような事も少しずつ話すようになった。
そして綧自身の過去を聞くに至っては、数年にわたって小出しではあるが驚くほど詳しく話してくれた。
(当時は話してくれることに「うんうん」と聞いていたが、「あんな事細かに普通は話さないよな」て部分も数多くあった。)
綧の仕事は車関係の中でも少し特殊らしく、日本国内でも数少ない業種で全国から仕事の依頼が来るらしい。
しかし請け負う会社も少なければ、跡継ぎや若年層での働き手も少なかった。
なので当時20代だった綧のような存在は大変貴重なのだと。
「元カノと付き合ってる時は土木やったけど、天気に左右されて仕事があったりなかったりでめっちゃ貧乏やったんよね。雨とか雪がひどかったら当日仕事無くなったりもしよって、毎月収入が不安定。今の仕事は残業とか休日返上とか多いけど安定した収入はあるけんね。働き出した頃はもっとチャラチャラしてたけど、今はだいぶ落ち着いたよ。」
綧は身長166cmと特別高身長というわけでもなければ体格も細く、体重も50kgに満たないほどだったので車関係の仕事もだが土木関係の仕事をしていたのは意外だった。
「何か落ち着くきっかけでも合ったの?」
と聞くと、
「元カノと別れてから人生のどん底を味わって、もうどうでもいいやって仕事にも行かなくなったことあってね。友達の彼女にそれはダメやろってハロワに引っ張り出されて、今の仕事の面接無理矢理取り付けられたのがきっかけやね。社長が真っ当な人間になれるようにって、ずっと目をかけてくれよるけん。」
「そうやったんやね。そんな考えるくらい酷い別れ方してたんやね。」
「まあね。」
この時に聞いた『どん底』というのは元カノとの別れ。
元カノ『さえ』とは約5年ほど交際し同棲までしていたが、さえの繰り返される浮気に嫌気がさして数年前に破局したとのこと。
「長く一緒おったけん、結婚考えよったんやけどね。耐えれんくなって別れ話しても相手が引き下がらんで、それまでは俺が折れてたけど無理って突っぱねた。それでも食い下がって、半分ストーカーみたいになったから親に頭下げて間に入ってもらってやっと別れれたんよ。」
これだけ聞くとおそらく大部分の人が、『だいぶ厄介な女性だったんだね』と言わざるを得ないと思う。
私も何の迷いもなく「そんな人とよく別れれたね」と同情し言葉を返した。
私が綧に同情したのが伝わるや否や、続け様に話してくれた内容に言葉を失う。
「まあね。結婚も考えよった人やけん、別れてから俺は引きずったよ、でも元カノは他の男とデキ婚したけんね。やけん所詮女はそんなもんってわかったけん、親にも『ごめんけど、他に女作っても結婚とかせんけん。やけん孫も抱かせてやれんけん、俺に期待せんどって』って言ったもんね。」
何を思って綧が私にこの話をしたのかわからない。
わからないけれど、ただ言えるのは
「今現在、付き合い出したばかりの私はあなたにとって何?」である。
交際を始める前に「結婚願望は人並みにあるし、子供もいつか欲しいとは思ってる」と話しているから、私に結婚願望があることを綧が知らないわけがない。
にも関わらず「『結婚もしなければ、孫も抱かせてやれん』って言ってある」発言。
これからお互いを知って、色んなことを経験して、そしてゆくゆくはそうなれればっていう時である。
しかし元カノと壮絶な別れをして、その時の傷がまだ癒えていないのなら仕方ないのかな?など
色んな考えが駆け巡る中、何と返事を返したかは覚えていない。
ただ覚えているのは、「なんて厄介なトラウマを植え付けてくれたんだ」と思っていた。
のちに、この話が嘘であったと知るまでは。
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