彼が他人になるまで

あやせ

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初めてのケンカ

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知り合ってから離婚するまでの間で、私の方から唯一激怒した時の話。

きっかけは些細なこと。内容ははっきりと覚えていなけれど、綧の私に対する何かしらの行動が私はとても嫌で何度か静止するもしつこく繰り返され「やめてってば!」と声を荒げる形になりブチギレた。
そんな感じの些細な理由。

一言「ごめん」とあれば仲直りできるような事だったのに、「スキンシップやん、そんなことでキレるとか意味がわからん。」と逆ギレされてしまい泥沼化。

小学生レベルな口論をした後、帰ろうとするも「都合悪くなったら逃げるったい、しょうもない。」と煽られた。
当時の私は頭に血が上っていたのもあり、カチンと来てしまい「自分が私を怒らせとるんやん。謝りきりもせんくせに、なんなんその言い方。」と乗ってしまいヒートアップ。

結局時刻も深夜を回ってしまい自宅に帰るにも当時ペーパードライバーな私に帰る足があるわけもなく、そのまま綧の実家に泊まることになった。
といっても同じ布団に寝るのは癪で、地べたにクッションとタオルケットを持って行き寝る体制に入った。
綧はぶつくさ文句言っていたが、私は悪くないっ!と頑として折れる気のなかった私は背を向けそのまま眠りについた。

翌日、朝早くまだ眠っている綧を尻目に実家を後にし仕事に向かった。

この日は仕事が休みな綧は昼近くまで寝ていたようで、昼前に「おはよう」とラインが来た。
その一言だけのメッセージで「言うことあるだろ。」となんだか私が怒っていることを流されたような気がして、そのまま既読もつけずにシカトしていた。

その後もいつもなら休憩に入る時間になっても、返せるタイミングがあったとしてもシカトし続けた。
それまでの私なら喧嘩しても返信は返していたのでさすがにヤバいと思ったのか、
『そろそろ休憩?仕事おつかれ』
『今日忙しいと?無理せんごとね!』
『外暑いし、あやせの店いつも暑いけん水分補給もちゃんとしなね!』
など連続して綧から機嫌を伺うようなラインが入っていた。

そして
『友達が仕事終わったらしいけん今から会ってくる。あやせの店の近くで働きよるやつやけん、後で行くかも!』

げっ。まじか。
謝る内容のラインは一切よこさず、期限だけは伺って、あげく店に来る。
嫌なことこの上ない。

その日出勤していた東さんに綧が来たら教えてほしいと頼み、返信は仕事が終わることにするとしても謝るまで徹底的に顔は合わせないことに決めた。

が、思ったよりむちゃくちゃ早く店に来たため店の入り口で鉢合わせた。

「お!あやせ、おつかれ!」
「あー…おつかれ。」
「返信ないけんよっぽど忙しいのかと思った。」

その流れで友達を紹介される。あからさまな態度を取っているにも関わらず、綧はお構いなしで話し続ける。
友達には悪いが気持ちを切り替えることができず、耳元のインカムで店長に呼ばれたことにしてその場を離れた。

そして東さんに一言声をかけバックヤードに駆け込み、防犯カメラで綧達が店を後にしたのを確認して店内に出た。
その後も綧からは機嫌を伺うラインが退勤するまで定期的に送られてきた。
『こいつまじで謝る気ないの?』と思いつつも、店がそんなに忙しくないことがバレているので既読だけはつけた。

そして退勤後

「え?」
「あ、おかえり!はい!差し入れ!」
「あ、りがと…。」

店を出るとすぐそこに綧がいて、私に気づくや否や笑顔でこちらへ寄ってきてカフェラテを差し出された。

相変わらず「ごめん」という一言はなかったが、私の機嫌をずっと伺いつつとにかく仲直りをしようとしているのは伝わってきた。
なので「もういいや、悪いと思ってるみたいだし。」と仲直りをした。

これが最初で最後の私が激怒した話。





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