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第6章 雪山の一夜
第87話 修学旅行はじまる(1)
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「すごっ。真っ白」
「ね、ね、あれ白樺だよね」
千歳空港に着陸したとたん、荒江高校2年生2クラス約80人が搭乗した飛行機の機内はどよめいた。
1月11日、3学期が始まってまもなくの修学旅行・スキー研修である。
「まだ、座席を立たないで」
一般客が降りてから、修学旅行生という順に飛行機を降りるのだが、シートベルトをはずして席を立つ生徒が早くもいる。
生徒に注意しながら聡は『まあ仕方ないか』と思っている。
初めての北海道という生徒も多いのだ。
学生時代に一度スキーで来たことがある聡も、やはり東京では見られない真っ白な景色を見るとやはり浮き立つ。
青空ではない小さな窓の外は、空と地面の境界がわからないほど、一面白だった。滑走路と木立でようやく地上だというのがわかる。
注意しながら、将のほうをさりげなく見る。
伸びをして大あくびをしている将と目が合った。目が合うなり将はニッと笑った。
さっき飛行中に気分を悪くした生徒がいないかどうか、見回ったところ、狭い座席に窮屈そうに納まりつつもぐうぐう眠っていたのを見ている。
「センセ、そのダウン、超カワイイ。いいな」
座席をまわる聡にカリナが声をかけた。
「ありがと」
聡が着ているメタリックな光沢のあるダウンジャケットは実はスキーウェアだ。
ファーにふちどられたフードがついていて、街で着るのにも違和感はない。
スキーをするチャンスがあるかもしれないので一応着てきたのだ。
ようやく、キャビンアテンダントから案内があり、聡たちは降りる指示を生徒たちに伝えた。
待ちくたびれたように生徒たちはゾロゾロと降り始める。
「飛行機の中で、気分が悪くなった生徒さんはいないようですね」
看護士の山口が聡にほっとした笑顔で話し掛けた。
今回、生徒を引率する教師は聡とリーダーの多美を含め4人。それに看護士が一人。
彼女『山口さん』は聡より2つ年上で、荒江高校の掛かりつけ病院でチーフをしているという。小柄だけど頼りになりそうな女性だ。
到着ラウンジに着くと聡ら教師は軽く点呼をとり、代表の多美先生が今後のスケジュールをメガホンスピーカーをつかって簡単に説明した。
なんと今回の修学旅行は、一人の欠席者もおらず、全員参加しているのである。
聡にはあの葉山瑞樹が参加しているのが信じられない。
将はもちろん、誰も彼女に話し掛けようとしない。
が、瑞樹は、そんなことを気にもしないように、淡々と行動している。今も、耳にイヤホンを突っ込んで、注意事項など聞いていない。
聡は、仕方なく、生徒たちが体育座りしている中に分け入り、瑞樹に注意する。
瑞樹は、うるさそうに聡を横目でちらりと睨みつけ、
「うっせーな」
と小さく呟いて、それでも一応イヤホンを取った。聡はホッとした。
聡を目で追っていた将は、それを見てなんだかハラハラした。
一同は、バス2台に分乗して、まずは空港近くのホテルで弁当の昼食を取った後、Nという北海道で一番大きなスキー場に向かうことになっている。
中宴会場を開放したホテルで、生徒たちは仲良し同士で、思い思いに配られた弁当を食べ始めた。
弁当を配り終えた聡は、看護士の山口に誘われて、空いている席を探す。
将は、2人の姿を見て、呼び寄せようとしたが、あいにく将のいる円卓は、井口やカイト、ユウタなどですでに埋まっており空いている席はなかった。
「古城先生、あそこ……」
山口が指差した先には、瑞樹がぽつんと一人で弁当を食べているテーブルがあった。
「あのこ、イジメというかシカトされてるんですか?」
さすがに山口もおかしいと思ったらしい。
「いえ……。あまり学校に来ないから……だけだと思いますけど」
聡は自分の言っていることが担任としてあまりに無責任なのでは、と少し恥じた。
「まあ、あそこしか空いてなさそうですから、行きましょう」
「ハイ」
率先していく山口に聡は、気が進まないがついていった。
「ここ、いいかしら?」
山口は看護士の職業柄なのか、爽やかな笑顔で瑞樹に近づいた。
瑞樹は見上げると無言でうなづいた。見るとまたイヤホンで音楽を聴いていたらしい。
山口の後ろにいる聡のことを、まるで、見えないがごとく無視する。
しかし、聡としては無視してくれて少しほっとした。
山口は、瑞樹の名前などを聞き出し、
「葉山さんはスキーは初めて?」などと積極的に話し掛けていた。
瑞樹は少しうるさそうにそれらの質問に最低限の言葉だけで答えている。
しかし、とうとう、弁当を半分も食べないうちに立ち上がった。
「あら、そんなに残っているじゃない」
山口が瑞樹を咎める。
「食欲ないから」
と言い捨てると瑞樹は長い髪をなびかせて立ち去った。
バスは千歳の町を抜けると、森を両側に見るまっすぐな坂道をのぼるように走る。
道路の両側にうずたかく積み上げられた雪に最初はいちいち「スゲエ」と歓声をあげていた生徒も、
もう慣れたのか、バスガイドの説明を聞きながら、シートに寄りかかっている。
白樺やダテカンバがまじった白い幹が立ち並ぶ森の地面にもふっくらと白い雪が積もっている。
誰も踏んでいない新雪が惜しげもなく道路わきにある。
東京だったら、皆にまっさきに踏み荒らされてしまうだろうに、ここではそんな新雪など珍しくもないのだ。
一番前の二人がけのシートに一人で座る聡のもとにメールが届いた。将だ。
>聡、北海道は初めて?
さりげなく振り返ると、後方の通路がわ座席に座る将がさりげなく手を振った。
メールを送信すると同時にこっちを見ていたらしい。将の隣、窓側のシートの上から井口の金髪が見えている。
学校のみんながいる前で、大胆な気がしたが、
>学生時代のときに来たことある。将は?
まあ差し障りはないだろう、と聡はメールを返信した。
誰も電波を傍受できるわけないだろうけど、スリルに聡は少しときめく。
将からの返事はすぐに来た。
>小学校のときに。夏だけど。
聡は、『スキーは?』と続ける。
>初めて。聡は?
>少しできるよ
>じゃ教えてよ
>研修で習うでしょ
とバスの中、何食わぬ顔で二人、メールで語らう。
と、そんなとき。
「センセイ、葉山さんが、気分悪そうです」
と女生徒が声をあげた。
聡は携帯を閉じると、山口とともに後ろの瑞樹の席のほうへ向かった。
「バスに酔った?」
山口は瑞樹に問い掛けた。
青い顔をした瑞樹は、いかにも具合が悪そうに、うなづいた。
「吐きそう?」
瑞樹は首を苦しげに振った。
「とりあえず、前の席のほうが揺れが少ないわね」
山口に抱えられるようにして、瑞樹は運転席の後ろの席、すなわち、通路をはさんで聡の隣の席に移った。
とりあえず、山口に薬をもらって、できるだけ横になるように座席に落ち着く。その姿は聡が見てもつらそうだった。
ただ、ガイドによると、あと15分ほどで休憩所だというので、瑞樹にはしばらく辛抱してもらう。
思わぬハプニングでガイドが中断したが、窓の外をみてバスガイドはあわててガイドを続け始めた。
「みなさん。窓の右手に見えておりますのが支笏湖です。凍らない湖として知られていまして、凍るのはわずか50年に一度ということです……」
反対側にいた聡は、具合の悪そうな瑞樹の向こうの車窓を見た。
白い山々に抱かれるように、黒っぽい湖面がはるか一面に広がっていた。
「ね、ね、あれ白樺だよね」
千歳空港に着陸したとたん、荒江高校2年生2クラス約80人が搭乗した飛行機の機内はどよめいた。
1月11日、3学期が始まってまもなくの修学旅行・スキー研修である。
「まだ、座席を立たないで」
一般客が降りてから、修学旅行生という順に飛行機を降りるのだが、シートベルトをはずして席を立つ生徒が早くもいる。
生徒に注意しながら聡は『まあ仕方ないか』と思っている。
初めての北海道という生徒も多いのだ。
学生時代に一度スキーで来たことがある聡も、やはり東京では見られない真っ白な景色を見るとやはり浮き立つ。
青空ではない小さな窓の外は、空と地面の境界がわからないほど、一面白だった。滑走路と木立でようやく地上だというのがわかる。
注意しながら、将のほうをさりげなく見る。
伸びをして大あくびをしている将と目が合った。目が合うなり将はニッと笑った。
さっき飛行中に気分を悪くした生徒がいないかどうか、見回ったところ、狭い座席に窮屈そうに納まりつつもぐうぐう眠っていたのを見ている。
「センセ、そのダウン、超カワイイ。いいな」
座席をまわる聡にカリナが声をかけた。
「ありがと」
聡が着ているメタリックな光沢のあるダウンジャケットは実はスキーウェアだ。
ファーにふちどられたフードがついていて、街で着るのにも違和感はない。
スキーをするチャンスがあるかもしれないので一応着てきたのだ。
ようやく、キャビンアテンダントから案内があり、聡たちは降りる指示を生徒たちに伝えた。
待ちくたびれたように生徒たちはゾロゾロと降り始める。
「飛行機の中で、気分が悪くなった生徒さんはいないようですね」
看護士の山口が聡にほっとした笑顔で話し掛けた。
今回、生徒を引率する教師は聡とリーダーの多美を含め4人。それに看護士が一人。
彼女『山口さん』は聡より2つ年上で、荒江高校の掛かりつけ病院でチーフをしているという。小柄だけど頼りになりそうな女性だ。
到着ラウンジに着くと聡ら教師は軽く点呼をとり、代表の多美先生が今後のスケジュールをメガホンスピーカーをつかって簡単に説明した。
なんと今回の修学旅行は、一人の欠席者もおらず、全員参加しているのである。
聡にはあの葉山瑞樹が参加しているのが信じられない。
将はもちろん、誰も彼女に話し掛けようとしない。
が、瑞樹は、そんなことを気にもしないように、淡々と行動している。今も、耳にイヤホンを突っ込んで、注意事項など聞いていない。
聡は、仕方なく、生徒たちが体育座りしている中に分け入り、瑞樹に注意する。
瑞樹は、うるさそうに聡を横目でちらりと睨みつけ、
「うっせーな」
と小さく呟いて、それでも一応イヤホンを取った。聡はホッとした。
聡を目で追っていた将は、それを見てなんだかハラハラした。
一同は、バス2台に分乗して、まずは空港近くのホテルで弁当の昼食を取った後、Nという北海道で一番大きなスキー場に向かうことになっている。
中宴会場を開放したホテルで、生徒たちは仲良し同士で、思い思いに配られた弁当を食べ始めた。
弁当を配り終えた聡は、看護士の山口に誘われて、空いている席を探す。
将は、2人の姿を見て、呼び寄せようとしたが、あいにく将のいる円卓は、井口やカイト、ユウタなどですでに埋まっており空いている席はなかった。
「古城先生、あそこ……」
山口が指差した先には、瑞樹がぽつんと一人で弁当を食べているテーブルがあった。
「あのこ、イジメというかシカトされてるんですか?」
さすがに山口もおかしいと思ったらしい。
「いえ……。あまり学校に来ないから……だけだと思いますけど」
聡は自分の言っていることが担任としてあまりに無責任なのでは、と少し恥じた。
「まあ、あそこしか空いてなさそうですから、行きましょう」
「ハイ」
率先していく山口に聡は、気が進まないがついていった。
「ここ、いいかしら?」
山口は看護士の職業柄なのか、爽やかな笑顔で瑞樹に近づいた。
瑞樹は見上げると無言でうなづいた。見るとまたイヤホンで音楽を聴いていたらしい。
山口の後ろにいる聡のことを、まるで、見えないがごとく無視する。
しかし、聡としては無視してくれて少しほっとした。
山口は、瑞樹の名前などを聞き出し、
「葉山さんはスキーは初めて?」などと積極的に話し掛けていた。
瑞樹は少しうるさそうにそれらの質問に最低限の言葉だけで答えている。
しかし、とうとう、弁当を半分も食べないうちに立ち上がった。
「あら、そんなに残っているじゃない」
山口が瑞樹を咎める。
「食欲ないから」
と言い捨てると瑞樹は長い髪をなびかせて立ち去った。
バスは千歳の町を抜けると、森を両側に見るまっすぐな坂道をのぼるように走る。
道路の両側にうずたかく積み上げられた雪に最初はいちいち「スゲエ」と歓声をあげていた生徒も、
もう慣れたのか、バスガイドの説明を聞きながら、シートに寄りかかっている。
白樺やダテカンバがまじった白い幹が立ち並ぶ森の地面にもふっくらと白い雪が積もっている。
誰も踏んでいない新雪が惜しげもなく道路わきにある。
東京だったら、皆にまっさきに踏み荒らされてしまうだろうに、ここではそんな新雪など珍しくもないのだ。
一番前の二人がけのシートに一人で座る聡のもとにメールが届いた。将だ。
>聡、北海道は初めて?
さりげなく振り返ると、後方の通路がわ座席に座る将がさりげなく手を振った。
メールを送信すると同時にこっちを見ていたらしい。将の隣、窓側のシートの上から井口の金髪が見えている。
学校のみんながいる前で、大胆な気がしたが、
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まあ差し障りはないだろう、と聡はメールを返信した。
誰も電波を傍受できるわけないだろうけど、スリルに聡は少しときめく。
将からの返事はすぐに来た。
>小学校のときに。夏だけど。
聡は、『スキーは?』と続ける。
>初めて。聡は?
>少しできるよ
>じゃ教えてよ
>研修で習うでしょ
とバスの中、何食わぬ顔で二人、メールで語らう。
と、そんなとき。
「センセイ、葉山さんが、気分悪そうです」
と女生徒が声をあげた。
聡は携帯を閉じると、山口とともに後ろの瑞樹の席のほうへ向かった。
「バスに酔った?」
山口は瑞樹に問い掛けた。
青い顔をした瑞樹は、いかにも具合が悪そうに、うなづいた。
「吐きそう?」
瑞樹は首を苦しげに振った。
「とりあえず、前の席のほうが揺れが少ないわね」
山口に抱えられるようにして、瑞樹は運転席の後ろの席、すなわち、通路をはさんで聡の隣の席に移った。
とりあえず、山口に薬をもらって、できるだけ横になるように座席に落ち着く。その姿は聡が見てもつらそうだった。
ただ、ガイドによると、あと15分ほどで休憩所だというので、瑞樹にはしばらく辛抱してもらう。
思わぬハプニングでガイドが中断したが、窓の外をみてバスガイドはあわててガイドを続け始めた。
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