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第8章 引き離されて
第127話 陰謀
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ヤクザ教師・京極のやり方に不満を募らせながらも、生徒たちは我慢して、その週は過ぎるかに見えた。
将も、ときどき京極と小競り合いになりながらも、毎日学校には来ていた。
それは将自身の意思というよりも、マンションにいると瑞樹と二人になってしまうので、大悟に気を遣って学校に来ているのだった。
大悟はあいかわらず、日雇いの派遣に行っている。それは工場だったり、流通センターでの力仕事だったり。毎日へとへとになって帰ってくる。
そんな一生懸命に働く大悟に、瑞樹のことでいらぬ心配をさせたくなかったのだ。
そうこうするうちに将にとって、ようやく待ち焦がれた金曜日がやってきた。今夜は聡が帰ってくる。
おまけに松葉杖とギプスは今日まで、と医者から言われているのだ。
もちろん急に普通に歩くのを許可されるわけではなく、代わりに足には半ギプスとサポーター、歩くときは片手で支えるステッキが必須ではあるが、松葉杖の不自由さに辟易していた将は解放的な気分でいっぱいだった。
ちなみに聡とは毎日欠かさずメールをしていた。
山奥の学校の準備が忙しいのか、それは短いやりとりだったけれど、
短い文面でも聡とつながっていることが、ここのところの理不尽な学校生活を送る将の唯一の救いになっていた。その聡に今日やっと逢えるのだ。
将は久しぶりに明るい気分で、かなり早めに学校へ向かった。
「鷹枝くん、今日日直だよ」
浮かれていた将は、同じく早めに登校していた部活の生徒にいわれて当番だったことに気付いた。
日直は、主に授業の後の黒板消しと日誌を書くことが役目である。機嫌がとてもいい将は、
「日誌取ってくるよ」
と率先して松葉杖を操るのも軽ろやかに、職員室まで日誌を取りにいった。
しかし、廊下に近い場所にある、各クラスの日誌置き場に日誌が置いてない。
将は、前の日直が
「京極のヤツ、日誌を適当に放り出してやんの。あれで担任かよ」
と憤慨していたのを思い出した。
おまけに、雑なサインだけをするだけで、内容をチェックする様子もない。
聡のときは……個別補習授業にオリジナル教材づくり、社会見学の準備で忙しいだろうに、ちゃんと毎日、日誌の内容に合ったコメントが書いてあった。
それはユーモアや時事問題を交えたりして、よく考えた内容であることは明確だった。
聡を思い出すと、京極のようすが腹立たしくなる。
将は、京極の机に移動した。幸い京極はいない。……それにしても汚い机である。
聡のときも、仕事が忙しいせいか、書類が山積みになり、決してキレイとは言えなかったのだが、少なくとも京極のように、飲んだ後の缶が何本も置きっぱなしになっている、というようなことはなかった。
将はビニールの下敷きの上に、缶の輪染みが残る京極の机をざっと見渡した。
日誌は見当たらず、今朝のスポーツ新聞がばさっと置いてあるのが目立った。
「どうした?」
将の姿を見て、多美先生がコーヒー片手に声をかけてきた。
「いや、日誌がないんで……。京極はどこ?」
「ああ、今校長室に行ったみたいだぞ」
「ふーん、わかった」
将は、日誌は諦めて、いったん教室に戻ろうとした。
だが、京極が校長と何を話しているのかが気になりだした。場合によっては弱みを握れるかもしれない。
将は、松葉杖をついて、校舎をいったん出ると、校長室の窓の外、カーテンの陰に立った。
南側を向いた校長室の窓には冬の薄い陽射しが差しているが、まだ早朝だ。
冷え込んだ空気に、コートを着ていない将は震え上がった。
カーテン越しのすりガラスを通して、中の会話が聞こえる。
「京極先生、その後、例のプロジェクトはいかがですか?」
とは校長の声。
「はい。意外にしぶとくて苦労してます」
京極がふだんとは違う神妙な口調で答えている。
――何がしぶといんだろう。それにプロジェクトって何だ?
「もっと、厳しくしないとダメじゃないですか?」
と教頭。
「しかし、体罰禁止ですから……。そう厳しいことも出来ません」
渋る京極に対して
「力に訴えるより、理不尽かつ威圧的なことをやらないと、自主退学者は出ませんよ」
教頭は強い口調で主張した。
――自主退学?
将はさらにカーテンの陰のガラスに耳をくっつけるようにした。ガラスは氷のように冷えている。
「……理事命令とはいえ、いやな仕事ですな」
校長が、重々しく口をはさむ。続くセリフを聞いて、将の眉は一気に吊り上った。
「ご自分で、生徒を中退するように仕向けるとは……」
「しかしです。うちの学校から中退させれば、キャッシュバックを払わないで済みます。中退した生徒は、入学金を格安にして南アルプス予備校に入れれば、一石二鳥というものです」
教頭のしたり顔が見えるようだった。
「ですが、今のところ、退学の兆しが見えているのは鷹枝将一人です」
京極の声で自分の名前が出され、将は身を固くした。
「鷹枝将ですか。たしかに、官房長官の息子である彼が南アルプス予備校に入れば、宣伝効果は絶大ですね。おまけに彼の成績なら、順当に高校卒業資格試験に合格できるでしょうから」
将は、いつのまにか爪が手のひらに食い込むほど強く拳を握り締めていた。
連続殺人のニュースを見たあと、聡は、もう一度全室の戸締り、警報装置をチェックした。
なおかつ、ここに女性が一人でいることを知られてはならない、と窓からのぞきこめる場所にあるものをチェックした。それでも怖い。
ここのところ、ようやく山の中の静かな夜に慣れてきたところだったのに、聡はまた眠れない夜を迎えることになった。
一夜明けて、金曜日になった。今日の17時までが勤務時間である。
この日、聡はインフラ整備ではなく、滞っていたカリキュラム作成をやろうと思っていたが、どうも、この山奥にいるのが怖い。
最初は職員室でその作業をやっていたのだが、風が戸を揺らすガタっという音だけで震え上がってしまい、アイデアどころではない。
考えた挙句、聡は昼から車で麓に降りることにした。
ファミレスで昼食をとり、そのままそこでカリキュラム作成をする。
しかし、いくら暇な田舎のファミレスといっても、3時間も居座るのはとても気を遣う。
聡はランチとドリンクバーの他に、欲しくもないのに、ケーキを追加してしまった。
苦労のかいあって、『今週暫定分』としては、そこそこのものができたときには16時前になっていた。
ファミレスを出た聡は、そのままコンビニに向かい、1週間分の業務日報をFAXで学校に流した。
これで仕事は終了。東京に戻れる。とホッとしている聡のバッグで携帯が鳴った。教頭からだった。
「お疲れ様です。業務日報読みました」
本当に疲れたよ、と心の中でつぶやきつつ、聡は苦笑した。
「問題がないようなら、このまま東京に戻ります」
伝えた聡に、教頭は
「問題はないんですが、1つお願いしたいことが」
とさらに業務を付け加えるべく、話を切り出した。
もうすっかり終わったつもりでいた聡は思わず身構える。
「何でしょうか……」
「いえ、そちらの校舎の画像を撮影して送って欲しいんですよ。パンフレットをつくるんですが急遽必要だといわれまして」
「撮影といっても……」
カメラもデジカメもない。携帯電話のカメラでいいかときいたら、紙媒体なのでダメだという。
「適当なデジカメを買って頂いて、それで撮影してください。画像はパソコンで送信できますよね」
「今から、ですか?」
「そうです」
教頭は、こともなく言ってのけた。聡は向こうに聞こえないようにため息をついた。
電話を切った後、聡はあわてて量販店に駆け込み、一番使いやすそうなデジカメを買い、山に戻った。
――もう直接、特急に乗ろうと思っていたのに……。
聡は泣きたかったが、歯を食いしばるようにして、耐えて車を運転した。
外観から撮らないと日が暮れてしまうが、充電しないと撮影できない。
聡はあせりながら、コードをそれぞれの場所のコンセントにいちいち差しながら、教室、寮、職員室を撮影してまわった。
ようやく少しだけ充電が出来て外に出たときは、陽は翳り、校舎は紫色の山影の中に入っていた。
それでもいい、と聡はシャッターを切ったが、暗いせいか手ブレしてしまう。
――さっき、三脚を勧められたとき、一緒に買っておけばよかった。
後悔後先たたず。三脚無しで手ぶれしない写真をとるべく、聡は四苦八苦した。
あせって撮影をする聡は、恐ろしい風の音も、殺人鬼のニュースもすっかり忘れてしまっていた。
何度となく失敗して、ようやく撮影できたとき、充電がちょうど切れた。
聡はあせりながら校舎に戻り、ノートパソコンに画像を落とす作業に移る。
しかし、その前に、新品のデジカメは、ソフトをパソコンにダウンロードしなくてはならない。
ネットがまだつながってないから、インターネットからの自動ダウンロードができない。
あせる聡はキーッと叫びそうになりながら、ダウンロードを完了し、次にマニュアルと格闘しながら画像をなんとかパソコンに落とした。
あせっているときはなおさらだが……マニュアルってどうしてこんなに分かりにくいのだろう、と憤慨しつつ、パソコンを閉じる。
送信はどっちにしろ麓に行かないとできないので、聡は降りる支度を素早くする。
そのときには、外はすっかり暗くなっていた。
時計を見ると18時になるところ、である。まだまだ特急はある。
校舎をあとにしようとした聡の耳に、突如警報音が入ってきた。
そのけたたましい電子音に、聡のほうが思わずビクッと体を震わせる。
それは敷地に不審者が侵入したサインだった。
忘れていた殺人鬼のニュースを、聡は急に思い出した。
将も、ときどき京極と小競り合いになりながらも、毎日学校には来ていた。
それは将自身の意思というよりも、マンションにいると瑞樹と二人になってしまうので、大悟に気を遣って学校に来ているのだった。
大悟はあいかわらず、日雇いの派遣に行っている。それは工場だったり、流通センターでの力仕事だったり。毎日へとへとになって帰ってくる。
そんな一生懸命に働く大悟に、瑞樹のことでいらぬ心配をさせたくなかったのだ。
そうこうするうちに将にとって、ようやく待ち焦がれた金曜日がやってきた。今夜は聡が帰ってくる。
おまけに松葉杖とギプスは今日まで、と医者から言われているのだ。
もちろん急に普通に歩くのを許可されるわけではなく、代わりに足には半ギプスとサポーター、歩くときは片手で支えるステッキが必須ではあるが、松葉杖の不自由さに辟易していた将は解放的な気分でいっぱいだった。
ちなみに聡とは毎日欠かさずメールをしていた。
山奥の学校の準備が忙しいのか、それは短いやりとりだったけれど、
短い文面でも聡とつながっていることが、ここのところの理不尽な学校生活を送る将の唯一の救いになっていた。その聡に今日やっと逢えるのだ。
将は久しぶりに明るい気分で、かなり早めに学校へ向かった。
「鷹枝くん、今日日直だよ」
浮かれていた将は、同じく早めに登校していた部活の生徒にいわれて当番だったことに気付いた。
日直は、主に授業の後の黒板消しと日誌を書くことが役目である。機嫌がとてもいい将は、
「日誌取ってくるよ」
と率先して松葉杖を操るのも軽ろやかに、職員室まで日誌を取りにいった。
しかし、廊下に近い場所にある、各クラスの日誌置き場に日誌が置いてない。
将は、前の日直が
「京極のヤツ、日誌を適当に放り出してやんの。あれで担任かよ」
と憤慨していたのを思い出した。
おまけに、雑なサインだけをするだけで、内容をチェックする様子もない。
聡のときは……個別補習授業にオリジナル教材づくり、社会見学の準備で忙しいだろうに、ちゃんと毎日、日誌の内容に合ったコメントが書いてあった。
それはユーモアや時事問題を交えたりして、よく考えた内容であることは明確だった。
聡を思い出すと、京極のようすが腹立たしくなる。
将は、京極の机に移動した。幸い京極はいない。……それにしても汚い机である。
聡のときも、仕事が忙しいせいか、書類が山積みになり、決してキレイとは言えなかったのだが、少なくとも京極のように、飲んだ後の缶が何本も置きっぱなしになっている、というようなことはなかった。
将はビニールの下敷きの上に、缶の輪染みが残る京極の机をざっと見渡した。
日誌は見当たらず、今朝のスポーツ新聞がばさっと置いてあるのが目立った。
「どうした?」
将の姿を見て、多美先生がコーヒー片手に声をかけてきた。
「いや、日誌がないんで……。京極はどこ?」
「ああ、今校長室に行ったみたいだぞ」
「ふーん、わかった」
将は、日誌は諦めて、いったん教室に戻ろうとした。
だが、京極が校長と何を話しているのかが気になりだした。場合によっては弱みを握れるかもしれない。
将は、松葉杖をついて、校舎をいったん出ると、校長室の窓の外、カーテンの陰に立った。
南側を向いた校長室の窓には冬の薄い陽射しが差しているが、まだ早朝だ。
冷え込んだ空気に、コートを着ていない将は震え上がった。
カーテン越しのすりガラスを通して、中の会話が聞こえる。
「京極先生、その後、例のプロジェクトはいかがですか?」
とは校長の声。
「はい。意外にしぶとくて苦労してます」
京極がふだんとは違う神妙な口調で答えている。
――何がしぶといんだろう。それにプロジェクトって何だ?
「もっと、厳しくしないとダメじゃないですか?」
と教頭。
「しかし、体罰禁止ですから……。そう厳しいことも出来ません」
渋る京極に対して
「力に訴えるより、理不尽かつ威圧的なことをやらないと、自主退学者は出ませんよ」
教頭は強い口調で主張した。
――自主退学?
将はさらにカーテンの陰のガラスに耳をくっつけるようにした。ガラスは氷のように冷えている。
「……理事命令とはいえ、いやな仕事ですな」
校長が、重々しく口をはさむ。続くセリフを聞いて、将の眉は一気に吊り上った。
「ご自分で、生徒を中退するように仕向けるとは……」
「しかしです。うちの学校から中退させれば、キャッシュバックを払わないで済みます。中退した生徒は、入学金を格安にして南アルプス予備校に入れれば、一石二鳥というものです」
教頭のしたり顔が見えるようだった。
「ですが、今のところ、退学の兆しが見えているのは鷹枝将一人です」
京極の声で自分の名前が出され、将は身を固くした。
「鷹枝将ですか。たしかに、官房長官の息子である彼が南アルプス予備校に入れば、宣伝効果は絶大ですね。おまけに彼の成績なら、順当に高校卒業資格試験に合格できるでしょうから」
将は、いつのまにか爪が手のひらに食い込むほど強く拳を握り締めていた。
連続殺人のニュースを見たあと、聡は、もう一度全室の戸締り、警報装置をチェックした。
なおかつ、ここに女性が一人でいることを知られてはならない、と窓からのぞきこめる場所にあるものをチェックした。それでも怖い。
ここのところ、ようやく山の中の静かな夜に慣れてきたところだったのに、聡はまた眠れない夜を迎えることになった。
一夜明けて、金曜日になった。今日の17時までが勤務時間である。
この日、聡はインフラ整備ではなく、滞っていたカリキュラム作成をやろうと思っていたが、どうも、この山奥にいるのが怖い。
最初は職員室でその作業をやっていたのだが、風が戸を揺らすガタっという音だけで震え上がってしまい、アイデアどころではない。
考えた挙句、聡は昼から車で麓に降りることにした。
ファミレスで昼食をとり、そのままそこでカリキュラム作成をする。
しかし、いくら暇な田舎のファミレスといっても、3時間も居座るのはとても気を遣う。
聡はランチとドリンクバーの他に、欲しくもないのに、ケーキを追加してしまった。
苦労のかいあって、『今週暫定分』としては、そこそこのものができたときには16時前になっていた。
ファミレスを出た聡は、そのままコンビニに向かい、1週間分の業務日報をFAXで学校に流した。
これで仕事は終了。東京に戻れる。とホッとしている聡のバッグで携帯が鳴った。教頭からだった。
「お疲れ様です。業務日報読みました」
本当に疲れたよ、と心の中でつぶやきつつ、聡は苦笑した。
「問題がないようなら、このまま東京に戻ります」
伝えた聡に、教頭は
「問題はないんですが、1つお願いしたいことが」
とさらに業務を付け加えるべく、話を切り出した。
もうすっかり終わったつもりでいた聡は思わず身構える。
「何でしょうか……」
「いえ、そちらの校舎の画像を撮影して送って欲しいんですよ。パンフレットをつくるんですが急遽必要だといわれまして」
「撮影といっても……」
カメラもデジカメもない。携帯電話のカメラでいいかときいたら、紙媒体なのでダメだという。
「適当なデジカメを買って頂いて、それで撮影してください。画像はパソコンで送信できますよね」
「今から、ですか?」
「そうです」
教頭は、こともなく言ってのけた。聡は向こうに聞こえないようにため息をついた。
電話を切った後、聡はあわてて量販店に駆け込み、一番使いやすそうなデジカメを買い、山に戻った。
――もう直接、特急に乗ろうと思っていたのに……。
聡は泣きたかったが、歯を食いしばるようにして、耐えて車を運転した。
外観から撮らないと日が暮れてしまうが、充電しないと撮影できない。
聡はあせりながら、コードをそれぞれの場所のコンセントにいちいち差しながら、教室、寮、職員室を撮影してまわった。
ようやく少しだけ充電が出来て外に出たときは、陽は翳り、校舎は紫色の山影の中に入っていた。
それでもいい、と聡はシャッターを切ったが、暗いせいか手ブレしてしまう。
――さっき、三脚を勧められたとき、一緒に買っておけばよかった。
後悔後先たたず。三脚無しで手ぶれしない写真をとるべく、聡は四苦八苦した。
あせって撮影をする聡は、恐ろしい風の音も、殺人鬼のニュースもすっかり忘れてしまっていた。
何度となく失敗して、ようやく撮影できたとき、充電がちょうど切れた。
聡はあせりながら校舎に戻り、ノートパソコンに画像を落とす作業に移る。
しかし、その前に、新品のデジカメは、ソフトをパソコンにダウンロードしなくてはならない。
ネットがまだつながってないから、インターネットからの自動ダウンロードができない。
あせる聡はキーッと叫びそうになりながら、ダウンロードを完了し、次にマニュアルと格闘しながら画像をなんとかパソコンに落とした。
あせっているときはなおさらだが……マニュアルってどうしてこんなに分かりにくいのだろう、と憤慨しつつ、パソコンを閉じる。
送信はどっちにしろ麓に行かないとできないので、聡は降りる支度を素早くする。
そのときには、外はすっかり暗くなっていた。
時計を見ると18時になるところ、である。まだまだ特急はある。
校舎をあとにしようとした聡の耳に、突如警報音が入ってきた。
そのけたたましい電子音に、聡のほうが思わずビクッと体を震わせる。
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