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2:初?登校の波乱(6)
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放課後の指導室。窓から差し込む西日が、机の上に長く伸びていた。
「……短すぎ。書き直しねー」
せっかく書いた反省文は、無情にも副担任の体育教師・若林先生から突き返されて、海斗は原稿用紙を前に、天を仰いだ。
(……八百文字も、何をかけばいいんだ)
海斗は、指導室の机に向かって反省文と苦闘している。
原因は――あのとき、思わず声を上げてしまったせいだ。
この学校では、授業中にスマホを使ったことがバレた場合は、即没収。放課後に指導室で反省文を書き、提出しなければ返してもらえないらしい。
なお、担任の里玖は進学クラスの補習授業で忙しいらしく、指導室での対応は副担任の若林先生が行っていた。
そのことが、海斗にとっては少し救いだった。
里玖の姿を見られないのは残念だが、「反省文を書かされている姿」を見られるのも立つ瀬がない。
廊下側の小窓からは、杏奈が心配そうに、あるいは退屈そうにこちらを覗き込んでいる。海斗は彼女に「先に帰っていい」という意味で合図したが、伝わっていないのか彼女はそこに居座り続けている。
手書きで文章を書くという行為自体、海斗には何年ものブランクがある。が、それ以上に、頭の中は先ほど検索で見つけたニュースへの疑問で飽和状態だった。
胸の奥がざわつき、反省文どころではなかった。
あの検索結果は、あまりにも短く、不自然だった。
『海自偵察機、訓練中に行方不明』
ヒットしたのはそれだけだ。
記事を読み込むと、天候不良や機体故障による墜落の可能性が示唆されていたが、機体も、搭乗員の手がかりも一切見つかっていないという。
(違う……あれは“攻撃”だった。間違いなく)
電測員として感知した、あの鋭い反応。
機体を揺さぶった衝撃。
耳鳴りと、焼けるような光。
すべて海斗には「昨日」起こったことだから、生々しい感覚が全身に刻まれている。
あんなすさまじい攻撃を受けて、機体の破片すら見つからないなどということがあり得るだろうか。 続報を追おうとした瞬間にスマホを没収されたため、それ以上のことはわからずじまいだ。
一時間後。ようやく「今後二度と授業中に通信機器を使用せず、授業に集中し……」という空虚な言葉を並べ立て、八百文字のノルマを達成した。
スマホを返してもらい、解放された瞬間、海斗は背後にぴたりと寄り添う杏奈も構わず、画面を猛烈な勢いでスワイプした。
だが、期待した続報は、どこを探しても見つからなかった。
行方不明の捜索記事が一週間ほど続き、二週間目には「大規模捜索終了」。
一か月後には「偵察機行方不明から一か月」という小さな振り返り記事があるだけ。
「……うそだろ」
海斗は深くため息をついた。
(行方不明……? あれだけの攻撃を受けて?)
気づけば、海斗は廊下の壁に背を預け、そのまま地べたに力なくしゃがみ込んでいた。杏奈も隣にしゃがみ、覗き込んでくる。
「ショウ、大丈夫~?」
「……ああ、うん。大丈夫」
立ち上がろうとした瞬間、視界が揺れた。
杏奈が慌てて腕を支える。
「まだ体がきついんじゃないと?」
「……そうかもしれん」
体調不良を装ったのは、杏奈がさっき言っていた「このあとカフェ行こうよ~」を断る口実にもなると思ったからだ。
「ごめん、今日はもう帰るわ」
「じゃ、バス停まで一緒にいこ!」
杏奈は当然のように海斗の腕を取り、歩き出す。
靴箱を出て校門へ向かう途中——海斗は、視界の隅に違和感を覚えた。
校舎の脇、植え込みの近くの地べたに、小さな人影がしゃがみ込んで絵を描いている。
四歳か五歳……幼稚園児くらいの幼児だ。
高校の敷地内にはおよそ似つかわしくない年齢の子供だった。
「ぼく? どうしたと?」
ギャル風の見た目に反して、杏奈は子供に目がないらしい。
すぐに駆け寄り、幼児の目線に合わせて腰を下ろした。
「ままを、待ってる」
幼児は顔を上げ、ハキハキと元気に答えた。
「そうなんだ~。ひとり~?」
「うん!」
「誰か先生の子供かなあ……ショウ、どうしよう」
「そうだな……」
海斗も戸惑いながら杏奈の隣に立ち、幼児を見下ろした。
杏奈はさらに優しく尋ねる。
「お名前、なんていうの?」
「ななみくん!」
「ななみくん。名字は?」
「はやたーななみくん!」
「はやた……? そんな名前の先生、おったっけ」
杏奈が海斗に振り返るが、記憶障害の翔生――ましてや海斗にわかるはずもない。
そのとき。
「あっ! ままだ!」
幼児が突然立ち上がり、駆け出した。
「まま~!」
その小さな体が勢いよく飛びついた相手を見て、海斗は、今日何度目かの、そして最も激しい衝撃を受けて真っ白になった。
――里玖だった。
「……短すぎ。書き直しねー」
せっかく書いた反省文は、無情にも副担任の体育教師・若林先生から突き返されて、海斗は原稿用紙を前に、天を仰いだ。
(……八百文字も、何をかけばいいんだ)
海斗は、指導室の机に向かって反省文と苦闘している。
原因は――あのとき、思わず声を上げてしまったせいだ。
この学校では、授業中にスマホを使ったことがバレた場合は、即没収。放課後に指導室で反省文を書き、提出しなければ返してもらえないらしい。
なお、担任の里玖は進学クラスの補習授業で忙しいらしく、指導室での対応は副担任の若林先生が行っていた。
そのことが、海斗にとっては少し救いだった。
里玖の姿を見られないのは残念だが、「反省文を書かされている姿」を見られるのも立つ瀬がない。
廊下側の小窓からは、杏奈が心配そうに、あるいは退屈そうにこちらを覗き込んでいる。海斗は彼女に「先に帰っていい」という意味で合図したが、伝わっていないのか彼女はそこに居座り続けている。
手書きで文章を書くという行為自体、海斗には何年ものブランクがある。が、それ以上に、頭の中は先ほど検索で見つけたニュースへの疑問で飽和状態だった。
胸の奥がざわつき、反省文どころではなかった。
あの検索結果は、あまりにも短く、不自然だった。
『海自偵察機、訓練中に行方不明』
ヒットしたのはそれだけだ。
記事を読み込むと、天候不良や機体故障による墜落の可能性が示唆されていたが、機体も、搭乗員の手がかりも一切見つかっていないという。
(違う……あれは“攻撃”だった。間違いなく)
電測員として感知した、あの鋭い反応。
機体を揺さぶった衝撃。
耳鳴りと、焼けるような光。
すべて海斗には「昨日」起こったことだから、生々しい感覚が全身に刻まれている。
あんなすさまじい攻撃を受けて、機体の破片すら見つからないなどということがあり得るだろうか。 続報を追おうとした瞬間にスマホを没収されたため、それ以上のことはわからずじまいだ。
一時間後。ようやく「今後二度と授業中に通信機器を使用せず、授業に集中し……」という空虚な言葉を並べ立て、八百文字のノルマを達成した。
スマホを返してもらい、解放された瞬間、海斗は背後にぴたりと寄り添う杏奈も構わず、画面を猛烈な勢いでスワイプした。
だが、期待した続報は、どこを探しても見つからなかった。
行方不明の捜索記事が一週間ほど続き、二週間目には「大規模捜索終了」。
一か月後には「偵察機行方不明から一か月」という小さな振り返り記事があるだけ。
「……うそだろ」
海斗は深くため息をついた。
(行方不明……? あれだけの攻撃を受けて?)
気づけば、海斗は廊下の壁に背を預け、そのまま地べたに力なくしゃがみ込んでいた。杏奈も隣にしゃがみ、覗き込んでくる。
「ショウ、大丈夫~?」
「……ああ、うん。大丈夫」
立ち上がろうとした瞬間、視界が揺れた。
杏奈が慌てて腕を支える。
「まだ体がきついんじゃないと?」
「……そうかもしれん」
体調不良を装ったのは、杏奈がさっき言っていた「このあとカフェ行こうよ~」を断る口実にもなると思ったからだ。
「ごめん、今日はもう帰るわ」
「じゃ、バス停まで一緒にいこ!」
杏奈は当然のように海斗の腕を取り、歩き出す。
靴箱を出て校門へ向かう途中——海斗は、視界の隅に違和感を覚えた。
校舎の脇、植え込みの近くの地べたに、小さな人影がしゃがみ込んで絵を描いている。
四歳か五歳……幼稚園児くらいの幼児だ。
高校の敷地内にはおよそ似つかわしくない年齢の子供だった。
「ぼく? どうしたと?」
ギャル風の見た目に反して、杏奈は子供に目がないらしい。
すぐに駆け寄り、幼児の目線に合わせて腰を下ろした。
「ままを、待ってる」
幼児は顔を上げ、ハキハキと元気に答えた。
「そうなんだ~。ひとり~?」
「うん!」
「誰か先生の子供かなあ……ショウ、どうしよう」
「そうだな……」
海斗も戸惑いながら杏奈の隣に立ち、幼児を見下ろした。
杏奈はさらに優しく尋ねる。
「お名前、なんていうの?」
「ななみくん!」
「ななみくん。名字は?」
「はやたーななみくん!」
「はやた……? そんな名前の先生、おったっけ」
杏奈が海斗に振り返るが、記憶障害の翔生――ましてや海斗にわかるはずもない。
そのとき。
「あっ! ままだ!」
幼児が突然立ち上がり、駆け出した。
「まま~!」
その小さな体が勢いよく飛びついた相手を見て、海斗は、今日何度目かの、そして最も激しい衝撃を受けて真っ白になった。
――里玖だった。
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