49 Daysー絶対死んだと思った自衛隊員が、最愛の彼女の教え子(問題児)として目覚めてしまい!? ★アルファポリスVer

茶山ぴよ

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2:初?登校の波乱(6)

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 放課後の指導室。窓から差し込む西日が、机の上に長く伸びていた。 

「……短すぎ。書き直しねー」

 せっかく書いた反省文は、無情にも副担任の体育教師・若林先生から突き返されて、海斗は原稿用紙を前に、天を仰いだ。

(……八百文字も、何をかけばいいんだ)

 海斗は、指導室の机に向かって反省文と苦闘している。
 
 原因は――あのとき、思わず声を上げてしまったせいだ。
 
 この学校では、授業中にスマホを使ったことがバレた場合は、即没収。放課後に指導室で反省文を書き、提出しなければ返してもらえないらしい。

 なお、担任の里玖は進学クラスの補習授業で忙しいらしく、指導室での対応は副担任の若林先生が行っていた。

 そのことが、海斗にとっては少し救いだった。
 
 里玖の姿を見られないのは残念だが、「反省文を書かされている姿」を見られるのも立つ瀬がない。

 廊下側の小窓からは、杏奈が心配そうに、あるいは退屈そうにこちらを覗き込んでいる。海斗は彼女に「先に帰っていい」という意味で合図したが、伝わっていないのか彼女はそこに居座り続けている。

 手書きで文章を書くという行為自体、海斗には何年ものブランクがある。が、それ以上に、頭の中は先ほど検索で見つけたニュースへの疑問で飽和状態だった。

 胸の奥がざわつき、反省文どころではなかった。

 あの検索結果は、あまりにも短く、不自然だった。

 『海自偵察機、訓練中に行方不明』 

 ヒットしたのはそれだけだ。
 
 記事を読み込むと、天候不良や機体故障による墜落の可能性が示唆されていたが、機体も、搭乗員の手がかりも一切見つかっていないという。

(違う……あれは“攻撃”だった。間違いなく)

 電測員として感知した、あの鋭い反応。
 機体を揺さぶった衝撃。
 耳鳴りと、焼けるような光。

 すべて海斗には「昨日」起こったことだから、生々しい感覚が全身に刻まれている。

 あんなすさまじい攻撃を受けて、機体の破片すら見つからないなどということがあり得るだろうか。 続報を追おうとした瞬間にスマホを没収されたため、それ以上のことはわからずじまいだ。

 一時間後。ようやく「今後二度と授業中に通信機器を使用せず、授業に集中し……」という空虚な言葉を並べ立て、八百文字のノルマを達成した。 

 スマホを返してもらい、解放された瞬間、海斗は背後にぴたりと寄り添う杏奈も構わず、画面を猛烈な勢いでスワイプした。

 だが、期待した続報は、どこを探しても見つからなかった。

 行方不明の捜索記事が一週間ほど続き、二週間目には「大規模捜索終了」。
 一か月後には「偵察機行方不明から一か月」という小さな振り返り記事があるだけ。

 「……うそだろ」

 海斗は深くため息をついた。

(行方不明……? あれだけの攻撃を受けて?)

 気づけば、海斗は廊下の壁に背を預け、そのまま地べたに力なくしゃがみ込んでいた。杏奈も隣にしゃがみ、覗き込んでくる。

「ショウ、大丈夫~?」
「……ああ、うん。大丈夫」

 立ち上がろうとした瞬間、視界が揺れた。
 杏奈が慌てて腕を支える。

「まだ体がきついんじゃないと?」
「……そうかもしれん」

 体調不良を装ったのは、杏奈がさっき言っていた「このあとカフェ行こうよ~」を断る口実にもなると思ったからだ。

「ごめん、今日はもう帰るわ」
「じゃ、バス停まで一緒にいこ!」

 杏奈は当然のように海斗の腕を取り、歩き出す。

 靴箱を出て校門へ向かう途中——海斗は、視界の隅に違和感を覚えた。 
 校舎の脇、植え込みの近くの地べたに、小さな人影がしゃがみ込んで絵を描いている。 

 四歳か五歳……幼稚園児くらいの幼児だ。
 高校の敷地内にはおよそ似つかわしくない年齢の子供だった。

「ぼく? どうしたと?」 

 ギャル風の見た目に反して、杏奈は子供に目がないらしい。
 すぐに駆け寄り、幼児の目線に合わせて腰を下ろした。 

「ままを、待ってる」 

 幼児は顔を上げ、ハキハキと元気に答えた。

「そうなんだ~。ひとり~?」
「うん!」
「誰か先生の子供かなあ……ショウ、どうしよう」
「そうだな……」

 海斗も戸惑いながら杏奈の隣に立ち、幼児を見下ろした。
 杏奈はさらに優しく尋ねる。

 「お名前、なんていうの?」
 「ななみくん!」
 「ななみくん。名字は?」 
「はやたーななみくん!」

「はやた……? そんな名前の先生、おったっけ」 

 杏奈が海斗に振り返るが、記憶障害の翔生――ましてや海斗にわかるはずもない。

 そのとき。

「あっ! ままだ!」

 幼児が突然立ち上がり、駆け出した。

「まま~!」

 その小さな体が勢いよく飛びついた相手を見て、海斗は、今日何度目かの、そして最も激しい衝撃を受けて真っ白になった。

――里玖だった。
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