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3:シンクロする面影(1)
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アキトは、チキン南蛮を平らげたあと、当然のようにリビングのプロジェクターを占拠し、爆音でゲームを始めた。
「うおおおお! ショウ、こっち援護して! 右! 右右右!」
「言われんでも……」
海斗はコントローラーを握りしめ、画面の敵影を正確に撃ち抜いていく。
もともと海自の電測員だ。レーダー画面で目標を捕捉し続けるのが仕事だった海斗にとって、モニター内の標的を瞬時に見つけて撃ち抜くシューティングゲームなど、赤子の手をひねるようなものだった。
アキトに教わった操作方法さえ理解すれば、あとは身体が勝手に動く。
「え、ちょ、ショウ……めっちゃ上達してない!?」
「いや、なんとなくコツがわかっただけ」
「コツってレベルじゃねーし!プロゲーマーなれるんじゃね?」
アキトが素で驚いている。
海斗は苦笑しながら、画面の敵を一掃した。
「ところで、こんな爆音、近所迷惑じゃ?」
「大丈夫大丈夫! この部屋、防音リフォームしてあるけん!」
ゲームがひと段落したアキトは笑いながら、部屋の隅に置かれたドラムセットをめちゃくちゃに叩き始めた。
ダンスやってるだけあり、叩き方はめちゃくちゃだがリズム感はなかなかだ。
だが、外には音は一切漏れていないらしい。
(……どんな高校生だよ、こいつ)
「翔生」に呆れながらも、海斗は少しだけ気が紛れた。
* * *
その後もゲームを散々やり倒し、アキトは満足げに伸びをした。
「んじゃ、また来るわ~。チキン南蛮ありがと!」
「……おう」
玄関の扉が閉まると、部屋に静寂が戻った。
その瞬間、胸の奥に沈めていた澱(おり)のようなモヤモヤが、再び浮かび上がってくる。
――早川里玖に、子供がいた。
アキトですら
「てか、早川ちゃん既婚者って初耳なんやけど。子供おったん?」
などといっていた。
そうだ、彼女は「早川」先生だ。
里玖が旧姓のままでいることに海斗は少し希望のかけらを見つけるが、すぐに職場では旧姓で通す教師も多いことに気づいて元の位置に落ちる。
「早川先生」と呼ばれているからといって、独身とは限らない。
それに独身だとて、あの「七海」の存在は……。
あの時の里玖は確かに「七海」という子を母親の顔で抱きしめていた。
事実と可能性がごちゃ混ぜになり、海斗の頭はさらに混乱した。
(直接聞きたい……でも)
単なる一教え子が、担任のプライベートに踏み込むような話を持ち掛けるなど、あまりに不自然すぎる。 理性が、海斗の足を止める。
結局、教え子の立場で、登校してできる範囲で観察するしかなさそうだ。
* * *
翌朝。
ワンチャン、すべてが夢だったことを期待して目をあけた海斗は、あいかわらず超高級マンションの一室にいることに失望を覚える。
「やっぱり今日も髪が黄色い……」
鏡の中の自分はあいかわらず「朝倉翔生」のままだ。
やっぱり沖島海斗は、一昨日の攻撃で死んでしまったのだろうか。
この世界では五年前、しかも訓練中の行方不明ということにされているようだが……。
ため息をつきながらも登校した海斗は、もどかしさを抱えたまま、さりげなく里玖の様子を窺った。
里玖は休み時間などには副担任の体育教師・若林とよく談笑している。
若林は清潔感のあるスポーツマンタイプで、里玖とも年が近そうだ。
双方がいつも笑顔でいるところを見ると、距離が近いようにも見える。
(若林に近づいて、探りを入れるか……?)
「ねえっ!」
突然杏奈が耳元で声を出した。
海斗は驚いて振り返った。
「ショウ、早川ちゃんばっか見てない?」
やばい。あまりにあからさまだったか。
「いや、ちょっと若林センセに質問があってさ~」
里玖が、若林と教壇で予定表かなにかを見ながら打ち合わせをしていたのが幸いだった。見ていたのは若林のほうだと、とっさに海斗はごまかした。
「ふ~ん」
杏奈はあまり納得してないようだ。アヒル口で拗ねた顔を作った。
そのとき、打ち合わせも終わったのか、若林と里玖は教室を出て、廊下で分かれた。
「ちょ、いってくる」
海斗は席を立つと、廊下を歩く若林を追った。
「若林……センセイ」
呼び止める。
若林は、かつての「狂犬・朝倉翔生」が近づいてきたことに反射的に身を構えたようだが、すぐに「ん? 朝倉、どうした」と表情を緩めた。
いざ目の前にすると、何を聞けばいいのかわからない。
「早川先生は結婚してるんですか?」などと聞けば、即座に不審者扱いだろう。
「あ、いえ。なんでもありません」
逃げるように背を向けようとした瞬間、 「あ、そうだ、朝倉」と逆に呼び止められた。
「金曜日の校外水泳特別実習、出欠出てないけど、どうするか?」
「……コウガイ?」
「ああ、そうか。記憶障害だったな。毎年恒例なんだけど、アクアパークのプールを貸し切って水泳の特別授業をやるんだ。3年生は今週の金曜日」
若林はそれについて記載されたプリントを差し出した。
「まだ事故のダメージもあるだろうし、見学にしとくか?」
「あ、いや。出席します」
海斗はプリントを一瞥するなり即答した。
「あ、そう……? まあ、無理はしないで体調悪くなったらすぐ言えよ」
若林はそういって立ち去った。
「へ~ショウ、今年はまじめに出るんだね。珍しい~」
そのとき、すぐ横から声がした。杏奈だ。いつの間にか隣に立っていた。
「う、うん……。あの、今までは?」
「あ、そうか記憶がないんだったね。1年も2年もぶっちしてたよ。見学すら来なかったし」
今の海斗には、出席しないという選択肢はなかった。
なぜならプリントに記載されていた引率教師一覧に里玖の名前があったから。
海斗はプリントを握りしめた。
「うおおおお! ショウ、こっち援護して! 右! 右右右!」
「言われんでも……」
海斗はコントローラーを握りしめ、画面の敵影を正確に撃ち抜いていく。
もともと海自の電測員だ。レーダー画面で目標を捕捉し続けるのが仕事だった海斗にとって、モニター内の標的を瞬時に見つけて撃ち抜くシューティングゲームなど、赤子の手をひねるようなものだった。
アキトに教わった操作方法さえ理解すれば、あとは身体が勝手に動く。
「え、ちょ、ショウ……めっちゃ上達してない!?」
「いや、なんとなくコツがわかっただけ」
「コツってレベルじゃねーし!プロゲーマーなれるんじゃね?」
アキトが素で驚いている。
海斗は苦笑しながら、画面の敵を一掃した。
「ところで、こんな爆音、近所迷惑じゃ?」
「大丈夫大丈夫! この部屋、防音リフォームしてあるけん!」
ゲームがひと段落したアキトは笑いながら、部屋の隅に置かれたドラムセットをめちゃくちゃに叩き始めた。
ダンスやってるだけあり、叩き方はめちゃくちゃだがリズム感はなかなかだ。
だが、外には音は一切漏れていないらしい。
(……どんな高校生だよ、こいつ)
「翔生」に呆れながらも、海斗は少しだけ気が紛れた。
* * *
その後もゲームを散々やり倒し、アキトは満足げに伸びをした。
「んじゃ、また来るわ~。チキン南蛮ありがと!」
「……おう」
玄関の扉が閉まると、部屋に静寂が戻った。
その瞬間、胸の奥に沈めていた澱(おり)のようなモヤモヤが、再び浮かび上がってくる。
――早川里玖に、子供がいた。
アキトですら
「てか、早川ちゃん既婚者って初耳なんやけど。子供おったん?」
などといっていた。
そうだ、彼女は「早川」先生だ。
里玖が旧姓のままでいることに海斗は少し希望のかけらを見つけるが、すぐに職場では旧姓で通す教師も多いことに気づいて元の位置に落ちる。
「早川先生」と呼ばれているからといって、独身とは限らない。
それに独身だとて、あの「七海」の存在は……。
あの時の里玖は確かに「七海」という子を母親の顔で抱きしめていた。
事実と可能性がごちゃ混ぜになり、海斗の頭はさらに混乱した。
(直接聞きたい……でも)
単なる一教え子が、担任のプライベートに踏み込むような話を持ち掛けるなど、あまりに不自然すぎる。 理性が、海斗の足を止める。
結局、教え子の立場で、登校してできる範囲で観察するしかなさそうだ。
* * *
翌朝。
ワンチャン、すべてが夢だったことを期待して目をあけた海斗は、あいかわらず超高級マンションの一室にいることに失望を覚える。
「やっぱり今日も髪が黄色い……」
鏡の中の自分はあいかわらず「朝倉翔生」のままだ。
やっぱり沖島海斗は、一昨日の攻撃で死んでしまったのだろうか。
この世界では五年前、しかも訓練中の行方不明ということにされているようだが……。
ため息をつきながらも登校した海斗は、もどかしさを抱えたまま、さりげなく里玖の様子を窺った。
里玖は休み時間などには副担任の体育教師・若林とよく談笑している。
若林は清潔感のあるスポーツマンタイプで、里玖とも年が近そうだ。
双方がいつも笑顔でいるところを見ると、距離が近いようにも見える。
(若林に近づいて、探りを入れるか……?)
「ねえっ!」
突然杏奈が耳元で声を出した。
海斗は驚いて振り返った。
「ショウ、早川ちゃんばっか見てない?」
やばい。あまりにあからさまだったか。
「いや、ちょっと若林センセに質問があってさ~」
里玖が、若林と教壇で予定表かなにかを見ながら打ち合わせをしていたのが幸いだった。見ていたのは若林のほうだと、とっさに海斗はごまかした。
「ふ~ん」
杏奈はあまり納得してないようだ。アヒル口で拗ねた顔を作った。
そのとき、打ち合わせも終わったのか、若林と里玖は教室を出て、廊下で分かれた。
「ちょ、いってくる」
海斗は席を立つと、廊下を歩く若林を追った。
「若林……センセイ」
呼び止める。
若林は、かつての「狂犬・朝倉翔生」が近づいてきたことに反射的に身を構えたようだが、すぐに「ん? 朝倉、どうした」と表情を緩めた。
いざ目の前にすると、何を聞けばいいのかわからない。
「早川先生は結婚してるんですか?」などと聞けば、即座に不審者扱いだろう。
「あ、いえ。なんでもありません」
逃げるように背を向けようとした瞬間、 「あ、そうだ、朝倉」と逆に呼び止められた。
「金曜日の校外水泳特別実習、出欠出てないけど、どうするか?」
「……コウガイ?」
「ああ、そうか。記憶障害だったな。毎年恒例なんだけど、アクアパークのプールを貸し切って水泳の特別授業をやるんだ。3年生は今週の金曜日」
若林はそれについて記載されたプリントを差し出した。
「まだ事故のダメージもあるだろうし、見学にしとくか?」
「あ、いや。出席します」
海斗はプリントを一瞥するなり即答した。
「あ、そう……? まあ、無理はしないで体調悪くなったらすぐ言えよ」
若林はそういって立ち去った。
「へ~ショウ、今年はまじめに出るんだね。珍しい~」
そのとき、すぐ横から声がした。杏奈だ。いつの間にか隣に立っていた。
「う、うん……。あの、今までは?」
「あ、そうか記憶がないんだったね。1年も2年もぶっちしてたよ。見学すら来なかったし」
今の海斗には、出席しないという選択肢はなかった。
なぜならプリントに記載されていた引率教師一覧に里玖の名前があったから。
海斗はプリントを握りしめた。
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