49 Daysー絶対死んだと思った自衛隊員が、最愛の彼女の教え子(問題児)として目覚めてしまい!? ★アルファポリスVer

茶山ぴよ

文字の大きさ
27 / 81

5:激流の向こう側(2)

しおりを挟む
 時刻はもう午後だ。雨音は依然続いている。

 海斗はベッドに横たわったまま、暗い天井をぼんやりと見つめていた。

 体が重い。いや、体というより――心がどこかに置き去りになったようだった。

 自分が誰なのか。何のために、ここにいるのか。出口のない問いが、霧のように思考を塞いでいた。

 その時、玄関ドアが開く気配がした。アキトだろうか。

 不意に、部屋の照明がぱっと灯った。
 薄暗がりに慣れた目には、その光が刺すように眩しい。

 顔をそらした先……寝室の入り口に杏奈が立っていた。

「ショウ……。なんしとうと。カーテンも開けんで」

 彼女はためらうことなく窓際へ歩み寄り、重厚な遮光カーテンを勢いよく開け放った。

 雨天とはいえ、外の光が一気に流れ込み、海斗は無理やり光に引っ張り起こされるように上体を起こした。

 (……杏奈、普通に入ってくるんだな)

 杏奈は翔生の家に入るほどの仲ではないと思っていたが、それは海斗の勘違いだったのか。たまたま最近だけ遠慮していただけだったのだろうか。
 
 杏奈は迷いなくベッドの端に腰を下ろした。
 海斗のすぐ横。
 触れれば届く距離。

「……学校、休んだんやね。……なんかあったと?」

 声は柔らかい。
 杏奈は、海斗の顔を覗き込んできた。その瞳には、彼を心配する色よりも、自分を視界に入れない朝倉翔生への苛立ちが見えるような気がした。

 海斗は返事をしなかった。する気力がないといったほうがいい。

 杏奈は、そんな沈黙を“弱っている”と受け取ったのだろう。そっと身を寄せてくる。

「ショウ……あたし、心配しとったとよ。最近、なんか変だし……」

 慰めるようで、どこか甘えるような響きもあった。

 海斗は視線を落としたまま、何も言わない。

 杏奈は、さらに距離を詰めた。肩が触れそうなほど近い。

「ねえ、昨日あんなことがあったから……? 先生のことなんて、もういいじゃん。ショウには杏奈がいるでしょ?」

 その言葉と同時に、杏奈の手が海斗の胸元に触れた。

 拒む間もなく、彼女はそのままの勢いで海斗をベッドへ押し倒すと、覆いかぶさってきた。海斗から反射的に出た「ちょ、何すんだ」という抗議もおかまいなく、自らの胸を密着させてくる。

「いいじゃん、もう。ショウだって本当は寂しいんでしょ?」

 顔が近づく。杏奈の香水の匂いが鼻を突き、彼女の唇が重なろうとしたその瞬間――。

「やめろ!」

 海斗の体が、強く動いた。本能的な嫌悪での反射。
 
 杏奈の肩を強く突き放した。
 突き飛ばすまではいかなかったが、杏奈はベッドの端でバランスを崩し、小さく息を呑んだ。

「……なんで?」

 小さく発した声は震えていた。
 呆然と海斗を見つめる杏奈の瞳に、みるみるうちに怒りが燃えあがるのが見えた。

「ショウ……最近ずっとおかしいよ。あの先生のことばっか見て。昨日もさ……見たけんね」

 海斗の胸の中で、この一瞬だけ忘れていた絶望がピクリと震えた。

「学校の近くで、あの先生に怒鳴られよったやん。あれ、なに? 見るだけじゃ我慢できなくて、なんかしたっちゃないと!?」

 杏奈の声が、刺すように鋭くなる。

「担任のセンセイに必死すぎて笑うっちゃけど」

 はっ、と吐き出すように笑う。

「早川ちゃんのこと、そんなに好きなん? ……キモいんだよ、今のショウ! あんなババアに必死になって、惨めだと思わないわけ?」

 そこまで一気に畳みかけた杏奈はハッとして押し黙った。

 翔生が無言で、睨みつけている。殺気を含んだ鋭い視線。杏奈は一瞬、翔生が中年教師を病院送りにしたことを思い出して背筋が凍った。

「……ご、ごめん。言いすぎた。ショウ、あたし……」

「帰れ」

 杏奈の言葉を、翔生の声が断ち切った。刃物のように容赦ない口調。

「え……?」
「帰れって言ってんだよ」

 海斗は立ち上がり、杏奈の腕を掴み、問答無用で部屋の外へと引きずっていった。

「ショウ……待って、あたし――」

 悲鳴に近い杏奈の声も、今の海斗には届かない。
 玄関ドアから、突き飛ばすように無理やり彼女を押し出すと、玄関の扉を乱暴に閉めてチェーンをかける。

 重厚な扉が閉まった反響が止むと、マンションの長い廊下には、雨音だけが残った。

 マンションの廊下に取り残された杏奈は、雨音の中しばらく立ち尽くしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...