49 Daysー絶対死んだと思った自衛隊員が、最愛の彼女の教え子(問題児)として目覚めてしまい!? ★アルファポリスVer

茶山ぴよ

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5:激流の向こう側(7)

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「七海ちゃんが……いなくなりました!」

 若林先生が里玖のところへ血相を変えて駆けこんできた。里玖は胸が一瞬どきりと動いたが、また七海の“抜け出し癖”が出たのだとすぐに思い直した。 

「またあの子……。若林先生、本当に申し訳ありません」

 小さな子どもだ。そう遠くへ行けるはずがない――そう、甘く考えていた。

 ティータイムを楽しんでいた同僚たちも顔を見合わせ、

「じゃあ、私たちもまわりを探してみましょうか」

 と立ち上がった。まだ緊迫感はなく、日常の延長上のような雰囲気だった。

 一方その頃、海斗とアキトは、増水した川の岸辺近くの浅瀬に流れ着いた異物と格闘していた。

「なんでこんな所に自転車が埋まっとうとよ……」

「今日の雨で流されてきたんやろ。いくぞアキト、せーの!」

 埋まっているのか、それとも流木に絡まっているのか、なかなか動かない。

「おーい、気をつけろよ!」

 向こうから教師が声をかける。このあたりは本流から離れていて流れは緩いが、それでも油断はできない。

「うおおおおっ!」「おりゃあああっ!」

 二人が声を合わせて力を込めると、泥の中からざばりと、ひどくひん曲がったマウンテンバイクが姿を現した。

 タイヤは曲がり、フレームも歪んでいて、もう乗れる状態ではない。それでも二人はひと仕事した達成感に浸っていた――そんなとき。

 杏奈が、血相を変えて二人の前に飛び込んできた。

「どうしよう……ショウ、どうしよう……七海くんがいなくなっちゃった!」

「どうしたん!」

 詰め寄る海斗に、杏奈は涙声で事情を話し始めた。


 
 クラスの女子から浮きがちだった杏奈は、バーベキューのあとも清掃活動に参加せず、離れた場所でひとりでスマホをいじっていた。

 ふと目を上げた杏奈の視界に、草むらで何かを探している七海の小さな背中が映った。

 気晴らしに声をかけてみた。

『お姉ちゃんとお散歩しない?』
『うん!』

 七海は嬉しそうに立ち上がると杏奈の手を取った。



「で、七海と一緒に散歩していたのに、なんでいなくなったと?」

「野いちごを探してたら……」


 二人で林の散歩道を歩いていると、道端の草むらに赤い実が光っていた。

『ななみくん、野いちごだよ。ほら』

『いちご?』

『野いちご。ラズベリーの仲間だよ』

 杏奈はしゃがみ込み、熟した実を摘んで七海の前で食べて見せた。

『おいし~。まんまラズベリーじゃん。ななみくんも食べてみ?』

 七海は目を輝かせて頬張り、

『おいちい!』

 と目を輝かせた。

 見ると、その周辺には、誰にも摘まれず熟した野いちごが群生しているようだった。

『七海くん、これ、集めようか』
『うん! ままにもあげたい!』

 二人は夢中で実を摘み続け――杏奈が気づいた時には、七海の姿が消えていた。



「ごめん……ショウ……。ほんとに、気づいたらいなくて……」

「いなくなったの、どのへん?」

「こっち!」

 海斗、アキト、杏奈が、駆け出そうとしたその時――

「いたぞー!!」

 遠くから叫び声が響いた。

 里玖、教師たち、そして海斗たちは一斉に声の方へ走った。

 里玖は、視界に飛び込んできた光景に息を呑んだ。

 七海がいた。

 増水した川の中ほど――岩にしがみつき、必死で耐えていた。

 小さな腕は震え、指が白くなるまでに、岩を掴んでいた。

 濁流は下腹部まで達し、激しい水圧が今にも彼を剥ぎ取ろうとしていた。

 
「七海! 七海ぃー!!」 

 半狂乱になった里玖が川へ飛び込もうとするのを、周囲の教師たちが必死に押さえつけた。

「危険です! 先生、下がって!」

 そこは川幅が広がり、流れがやや緩む砂地の浅瀬だった。だが雨上がりの濁流は不規則で、足をすくわれれば一瞬で流される。

 七海は目をぎゅっと閉じ、ただ岩にしがみついていた。

「誰かロープを! 急いで!」

 若林先生が救助に向かう準備をする。

 腰にロープを巻き、周囲の大人たちに支えられながら救助に向かう。

 水深は大人の股下ほど、慎重に進めば救助は可能――そのはずだった。

 しかし足元をすくう水流の力は凄まじい。一歩、また一歩と距離を詰めようとするが、七海まであと数メートルが遠い。

 キャンプ場の客たちも集まり、緊張が走る。
 
 海斗は、七海の少し下流側の最前列で、息を呑んで見守っていた。

「七海くん、がんばれよ!」

 若林先生が声をかけながら近づく。

 その瞬間――

 突如、川の轟音が一段と高まり、壁のような水量が押し寄せた。 

「うわっ――!」

 足を取られた若林先生が濁流に倒れ込んだ。

 次の瞬間、七海の小さな体が、岩から剥がされるように流れへさらわれた。

「あっ!!!」

 誰かの叫びが響いた時には、海斗の体はすでに泥水の中にあった。
 考えるより先に、体が動いて――濁流の中に飛び込んでいた。無我夢中だった。

「ショウ!!」
「朝倉くん!」

 絶叫を背に、海斗は濁流の最も速い「筋」に乗った。流される七海の小さな頭。

 海斗は驚異的なストロークでその距離を詰め、流されていく七海に追いついた。

 だが、その先には岩が迫る狭窄部――急流の落ち込みが待っている。二人の姿は、濁流とともに水飛沫の中に消えた。

「119番! 早く!」 

 里玖は、そして人々は、絶望に駆られながらも下流へと走った。

 狭窄部の先は、川幅が広がり流れが停滞する淵(ふち)になっていた。急流が落ち込んだあと、深く静かなプールのような水域が広がっている。

 その本流から少し外れた水面に――ぽかり、と二つの頭が浮かんだ。

「出たぞ!!」

 ざわめきが歓声に変わる。二つの頭はそのまま岸に向かっている。

 やがて朝倉祥生が七海を抱え、底を蹴って立ち上がった。二人とも泥水にまみれている。

 祥生は肩で息をしながら水の中を歩いてくる。

「もう……大丈夫や。七海」

 七海を岸辺にいる教師らに渡すなり、祥生は砂地に座り込んだ。服はあちこち綻んでボロボロ、半袖の腕には血がにじんだ擦り傷が痛々しい。

 七海は咳き込みながらも、意識ははっきりしていた。ケガもしていないようだ。

 七海の無事を確認した瞬間、里玖は安堵からその場に崩れ落ちた。何か言おうとしても言葉にならず、ただ溢れる涙が止まらなかった。
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