49 Daysー絶対死んだと思った自衛隊員が、最愛の彼女の教え子(問題児)として目覚めてしまい!? ★アルファポリスVer

茶山ぴよ

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7:真実(1)

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 21時の閉店を告げる札を裏返し、暖簾を落とす。晃が店内の照明を少し落とすと、柔らかい光だけが残った。

 夜の沖島食堂は、さっきまでの賑やかさが嘘のように静かになった。

 波多野も片付けを手伝い、そのまま四人で店のテーブルを囲む。

「ほら、飲め。今日は特別やけん」

 晃がビールを差し出す。海斗は苦笑して、手を軽く振った。

「いや……いちおう体は未成年なんで。やめとくわ」
「真面目か」

 波多野が笑いながら、自分は代行を呼ぶからと言ってビール瓶を開けた。

 店の残りをつまみながらの遅めの夕食兼反省会。試作品のカタプラーナは、女性客に好評だった。

「里玖ちゃん、今はすぐ近くの〇〇団地に住んどるとよ。去年まではここで一緒に住んどったたい。七海はちっちゃい頃は、よー熱出す子でね」

 ふと、懐かしそうに目を細めながら圭子が里玖について話し始めた。そこには知らなかった時間が、静かに積み重なっていた。

 圭子はビールが入ったコップを両手で包み込み、少し視線を落とした。

「あんたがいなくなったときね……ちょうど里玖ちゃんのお腹に赤ちゃんがおるって分かったとよ」

 知るのが怖いとさえ思えた、里玖の空白の時間が、圭子により語られようとしている。海斗は覚悟のようなものを静かに飲み込む。

「私たちはね、里玖ちゃんが海斗に縛られず、自由に生きてくれてもよかと思っとった。でも、あの子はどうしても産むって……」

 圭子の声はわずかに震えているようにも思えた。

「あちらさんのお母さんは大反対で、怒鳴り込んで来られたけど……無理もないよね。それでも里玖ちゃん、生むってきかんかった。海斗が帰ってこんなら、なおさら生むって……」

 海斗の心には、里玖の泣き顔が自然に浮かんでいる。

「だからね、あんたの貯金と生命保険……半分は里玖ちゃんにあげたよ。七海のために」

 さらに、晃が静かに付け加える。

「里玖ちゃん、最初は受け取らんって言い張っとったけどな。七海のためやけんって言うたら、泣きながら受け取った」

 海斗は目を伏せた。自分の知らないところで、どれほどの涙が流れたのか。

「……俺は、どういう扱いになっとうと……?」

 波多野が両親の代わりに答えた。

「訓練中に行方不明。ネットに出とるのと同じや。捜索開始から二ヶ月で死亡認定された」

――そんな……違う。あれは……

 と、喉まで出かかった言葉を、海斗は必死に飲み込んだ。守秘義務もある。

 それ以上に、ミサイル攻撃を受けたなどと、両親に言えるはずがなかった。

 圭子が、海斗の顔をじっと見つめる。

「あんたが……そんなイケメンの若い子になって帰ってくるなんてね。帰ってきてくれたのは嬉しいよ。でも……やっぱり私が生んだ海斗は、海で本当に死んじゃったんかね……」

 圭子はまた涙をこぼし、晃がそっと肩に手を置いた。

 しばらくして、波多野が立ち上がった。

「代行が来るまで、ちょっと海斗と話してきてよかですか」

 外に出ると、夜風がひんやりと頬を撫でた。昼は夏並みに気温があがるが、夜になるとまだまだ涼しい。

「……その顔に向かってこんな話をするのは、正直、猛烈な罪悪感があるわ」

 波多野は少し笑うと、真顔になった。

「海斗。……お前、攻撃された時のこと、どこまで覚えてる?」

 攻撃。波多野は、攻撃、と確かに言った。海斗は目を見開いた。

 自衛隊の給養員(コック)だった波多野は、隊員たちの胃袋をつかんでいただけあり、顔が広かった。ゆえに、報道されていない真実を知っているのだろうか。

「……ああ。はっきり覚えとう。あれはミサイル攻撃やった。レーダー照射からロックオンまでが一瞬で、回避する暇なんてなかった」

 「やっぱりか……」 

 波多野は声を潜め、元同僚たちから聞き出したという「噂」を語り始めた。

 ……攻撃直後、P-1を撃ち落とした艦船が所属する某国から、裏ルートを通じて極秘の謝罪があったという。 

 理由は「誤射」。 

 だが、その国は日本にとって経済的にも民間交流的にも切り離せない重要国だった。

 誤射とはいえ、自衛隊機が他国に撃墜されたという事実が国民に知れ渡れば、外交関係は破綻し、国家を揺るがす騒乱になりかねない。

「だから政府はこの件を闇に葬った。偵察任務ではなく、訓練中の事故に書き換え、海域に散らばった機体の破片はことごとく自衛隊が回収して処分した。クルーの遺体は……一体も見つからなかったってことになっとる」 

 波多野は夜空を見上げた。

「誤射した国がどこか……誰も知らん。いや、知っとるやつはおるんやろうけど、俺らには降りてこん」

 国家という大きな歯車によって「なかったこと」にされた受難。

 海斗は知らず、拳を握りしめていた。胸の奥で、言葉にならない感情が渦巻く。

 夜の風が、二人の間を静かに吹き抜けていった。
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