49 Daysー絶対死んだと思った自衛隊員が、最愛の彼女の教え子(問題児)として目覚めてしまい!? ★アルファポリスVer

茶山ぴよ

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9:悪夢(1)

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 杏奈をソファに押し倒した海斗は、至近距離からその姿を睥睨(へいげい)した。  

 仰向けになった彼女の胸は、サマーニットの網目を押し広げるように、重力に逆らって豊かな弧を描いている。

 十七歳の男子高校生であれば、理性を失ってもおかしくない扇情的な光景だ。

「ショウ……」 

 杏奈の声に、戸惑いが混じる。

 海斗は一瞬だけ躊躇したが、意を決して彼女の首筋に唇を這わせた。

 里玖への罪悪感は無理やり心の奥底に沈め、今はただ「朝倉翔生」という肉体になりきる――そこには、ある明確な目的があった。

 首筋の素肌に翔生の唇が触れた瞬間、杏奈の体がビクッと硬直した。 

 だが、その震えは悦びからくるものではない。刺されるのがわかっていて動けない獲物のような、強烈な緊張による硬直。海斗はそれを敏感に察知した。

 (やっぱりな……) 

 海斗は杏奈の反応を見ながら、自らの中にある「手続き記憶」の覚醒を待った。  

 隠す収納の中のモノ。登校の道のりに下駄箱、マシンエクササイズ。

 これまでの経験から、翔生の身体に染み付いた習慣は、思考を介さずとも自然に動き出すことを知っていた。

 もし杏奈が主張するように、二人が「何度も」重なっていたのであれば。 

 この密着した状況で、次に手がどこへ伸びるべきか、どう身体を重ねるべきか、肉体が勝手に最適解を導き出すはずなのだ。

 しかし――指先一つ、腰一つ、自律的に動こうとする気配は微塵もなかった。  

 静まり返った朝倉翔生の身体が、何よりも雄弁に真実を物語っていた。

 海斗はそのまま、冷めた動作で身を起こした。 

 視線を落とすと、そこには解放されたことに露骨に安堵し、肩で息をする杏奈が横たわっていた。

「俺たち、今までこういうこと……一回もしたことなかろ?」
「なっ……」 

 杏奈は顔を真っ赤にして絶句した。しかし、すぐに焦ったように言葉を継ぎ足す。 

「したよ! ……したじゃん。何回もしたから、妊娠したんでしょ!」 

「その子は、俺の子じゃない」 

 海斗は断定した。

「何言ってるの? 記憶が戻らないからって、そんなの勝手すぎる!」

「記憶はある」手続き記憶が。

 海斗のまっすぐな眼差しに射すくめられ、杏奈の表情が歪んだ。

 「……しらばっくれるなら、みんなに言いふらしてやるから。学校にも、親にも全部言ってやる!」

「好きにすればいい。……けど、そんなことをして一番傷つくのはお前やけん」 

 一気に突き放そうとした海斗は、ふと杏奈が、哀れに感じてしまう。 

「……もし、本当に困っとうことがあって、助けが必要なら相談には乗る。……友人としてならな」

「何よ、その言い方……ひどい……ひどいよ!」 

 杏奈はヒステリーのように泣き喚きながらバッグを掴むと、逃げるように部屋を飛び出していった。

 静まり返ったリビングで、海斗は深い溜め息を吐いた。 

(……里玖、ごめん) 

 手続き記憶を試すための形式上とはいえ、他の女を押し倒してしまった罪悪感で、みぞおちが重い。

 また、アドレナリンが引いていくのと同時に、さっきのゲリラ豪雨で濡れたままの身体が、急激に芯から冷えていった。

 その夜、海斗――朝倉翔生の肉体は、高熱を発して倒れ込んだ。

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