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第6章
一話
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「ほう、見事なものだな」
煉瓦造りの建物を見上げ、三郎は感嘆の声をあげた。
それはホムベのテイマーギルドに戻ってから、ムラクモが一晩の間に組み上げたのだ。
「外側がようやく出来ました」
ユリアの声がツチグモのスピーカーから発せられる。
出会って丸一日が過ぎようとしているが、これにはなかなか慣れる事が出来ない。
なにせ、武骨な鋼鉄の巨人から可憐な女性の声が聞こえてくるのだ。聞く度に三郎は軽く混乱してしまう。
それを冗談混じりに言ってみると、ユリアは少し考える素振りをした。
「あら、でしたら三郎さんのアビリティを使ってもらえませんか?ドラゴさんに使っているやつです」
「む、【顕現】の事か?」
「そうです、それです」
言われるがままに、三郎はアビリティを使ってみた。
冒険者カード以外に向けて使うのは初めてだったが、程なくしてツチグモの腹部装甲が淡い光を放ち始めた。
三郎は知らない事だが、そこにはユリアのデータが記録されたメモリーが収納された場所だった。
「おぉ、上手くいったか?」
やがて光が収まると、ツチグモの前に一人の少女が立っていた。
ユリアに似ているその少女は、自分の手足を見たり、飛びはねたりしている。
「これが生身の身体なんですね?少し縮んだ気もしますが、それは三郎さんの好みなんですか?」
「好みとは?」
「ロリコ………ゲフンゲフン、幼い女性がお好きとかではないんですか?」
「ふむ、幼いか」
出てきた少女をしげしげと見る三郎。
少女はいろいろなポーズをとっている。だが、それを見る三郎の目は冷めたものだった。
「どちらかというと拙者は、こう腰回りの肉置きの豊かな、色気のある年増が良いな」
「………誰が年増ですって」
まるで極北を吹き荒ぶ冷風のような声が、その場を凍らせた。
ぎちぎちとまるで錆びたオモチャのように三郎が振り返ると、そこには氷点下の冷気をその目に宿したルナが立っていた。
「三郎さん、支部とはいえギルドマスターになろうとする方がこんな所でそのような話をなさるとは、少々品位に欠けますよ?」
氷よりなお冷たい声に、三郎達は戦慄する。
たまたま格納庫から出てきたばかりのキールも、思わず引き返しそうになっている。
「申し訳ない」
「そんな年端もいかない幼児に、貴方は何を吹き込んでるんですか?」
「いや、それは………」
「言えないことなんですか?」
「ワタクシが三郎さんに好みの女性をお聞きしたのです。そしたら、三郎さんがぽっちゃりした人生経験が豊かな年上の女性が良いと仰ったのです」
「あら、貴女のその声は………」
「ユリアです。三郎さんの能力でこうして実体化して頂きました」
「あら、そう」
ユリアのフォローで、冷気が僅かに緩む。
三郎の住む江戸の結婚適齢期は十代半ばだ。後半ともなれば行き遅れと言われる事もある。
二十歳も過ぎれば年増だ。
なので、三郎は同年代位が良いと言ったに過ぎないのだが、敢えてそこに触れるほど三郎も向こう知らずではない。
「キール君は年上か年下どっちが良いの?」
突然、話を振られたキールは言葉に詰まった。
ここで選択を間違えれば、どんな目に遭うか分からない。
「と、年上です」
キールは皆が幸せになる言葉を選んだ。
三郎達は子コボルト達を従魔に加えたその日、休息もとらずにホムベに帰った。
テイマーギルド支部に帰ってきたのは既に夜半過ぎだったので、一先ず支部の二階にある宿直室で休んだ。
一晩明けた今日、一階に降りると何故かルナが難しい顔をしながら窓口にある端末を操作していた。
一応、声はかけたのだが、よっぽど集中しているようで三郎達に気付く様子もない。
そこで、彼等は外に出て、ユリアが昨晩から自分の住む格納庫をムラクモを使って作っているのを眺めていたのだった。
「後はメンテナンスや通信の設備を構築すれば取り敢えず一段落ですわね」
小さなユリア、略してコユリはムラクモ達の作業を頷きながら見ている。
さっきのやり取りの後、自分が小さくなったのは、恐らくツチグモに自身のプログラムを移築する際、不要な機能をオミットしたせいではないかと必死になってルナに説明していた。
彼女達は、朝一番でルナがギルド支部に来たときに軽く挨拶を交わしていたようだ。
「三郎さん、キール君お帰りなさい。首尾良くいきましたか?」
コユリが従魔では無いことを聞いていたルナは、改めて三郎に尋ねた。
「うむ、コボルト二匹、従魔になってもらってきたぞ。今は厩舎におるはずじゃ」
「そうですか。それは良かったです」
三郎の答に、ルナは安堵の息をもらした。
スケジュールが押し迫っている中、もし失敗していたら次は無かったかもしれないのだ。
「見せて頂いても良いですか?」
「勿論じゃ。今からでも案内しよう」
「あら。では、早速お願いします」
三郎とキールはルナを伴い、厩舎へと入って行くのだった。
煉瓦造りの建物を見上げ、三郎は感嘆の声をあげた。
それはホムベのテイマーギルドに戻ってから、ムラクモが一晩の間に組み上げたのだ。
「外側がようやく出来ました」
ユリアの声がツチグモのスピーカーから発せられる。
出会って丸一日が過ぎようとしているが、これにはなかなか慣れる事が出来ない。
なにせ、武骨な鋼鉄の巨人から可憐な女性の声が聞こえてくるのだ。聞く度に三郎は軽く混乱してしまう。
それを冗談混じりに言ってみると、ユリアは少し考える素振りをした。
「あら、でしたら三郎さんのアビリティを使ってもらえませんか?ドラゴさんに使っているやつです」
「む、【顕現】の事か?」
「そうです、それです」
言われるがままに、三郎はアビリティを使ってみた。
冒険者カード以外に向けて使うのは初めてだったが、程なくしてツチグモの腹部装甲が淡い光を放ち始めた。
三郎は知らない事だが、そこにはユリアのデータが記録されたメモリーが収納された場所だった。
「おぉ、上手くいったか?」
やがて光が収まると、ツチグモの前に一人の少女が立っていた。
ユリアに似ているその少女は、自分の手足を見たり、飛びはねたりしている。
「これが生身の身体なんですね?少し縮んだ気もしますが、それは三郎さんの好みなんですか?」
「好みとは?」
「ロリコ………ゲフンゲフン、幼い女性がお好きとかではないんですか?」
「ふむ、幼いか」
出てきた少女をしげしげと見る三郎。
少女はいろいろなポーズをとっている。だが、それを見る三郎の目は冷めたものだった。
「どちらかというと拙者は、こう腰回りの肉置きの豊かな、色気のある年増が良いな」
「………誰が年増ですって」
まるで極北を吹き荒ぶ冷風のような声が、その場を凍らせた。
ぎちぎちとまるで錆びたオモチャのように三郎が振り返ると、そこには氷点下の冷気をその目に宿したルナが立っていた。
「三郎さん、支部とはいえギルドマスターになろうとする方がこんな所でそのような話をなさるとは、少々品位に欠けますよ?」
氷よりなお冷たい声に、三郎達は戦慄する。
たまたま格納庫から出てきたばかりのキールも、思わず引き返しそうになっている。
「申し訳ない」
「そんな年端もいかない幼児に、貴方は何を吹き込んでるんですか?」
「いや、それは………」
「言えないことなんですか?」
「ワタクシが三郎さんに好みの女性をお聞きしたのです。そしたら、三郎さんがぽっちゃりした人生経験が豊かな年上の女性が良いと仰ったのです」
「あら、貴女のその声は………」
「ユリアです。三郎さんの能力でこうして実体化して頂きました」
「あら、そう」
ユリアのフォローで、冷気が僅かに緩む。
三郎の住む江戸の結婚適齢期は十代半ばだ。後半ともなれば行き遅れと言われる事もある。
二十歳も過ぎれば年増だ。
なので、三郎は同年代位が良いと言ったに過ぎないのだが、敢えてそこに触れるほど三郎も向こう知らずではない。
「キール君は年上か年下どっちが良いの?」
突然、話を振られたキールは言葉に詰まった。
ここで選択を間違えれば、どんな目に遭うか分からない。
「と、年上です」
キールは皆が幸せになる言葉を選んだ。
三郎達は子コボルト達を従魔に加えたその日、休息もとらずにホムベに帰った。
テイマーギルド支部に帰ってきたのは既に夜半過ぎだったので、一先ず支部の二階にある宿直室で休んだ。
一晩明けた今日、一階に降りると何故かルナが難しい顔をしながら窓口にある端末を操作していた。
一応、声はかけたのだが、よっぽど集中しているようで三郎達に気付く様子もない。
そこで、彼等は外に出て、ユリアが昨晩から自分の住む格納庫をムラクモを使って作っているのを眺めていたのだった。
「後はメンテナンスや通信の設備を構築すれば取り敢えず一段落ですわね」
小さなユリア、略してコユリはムラクモ達の作業を頷きながら見ている。
さっきのやり取りの後、自分が小さくなったのは、恐らくツチグモに自身のプログラムを移築する際、不要な機能をオミットしたせいではないかと必死になってルナに説明していた。
彼女達は、朝一番でルナがギルド支部に来たときに軽く挨拶を交わしていたようだ。
「三郎さん、キール君お帰りなさい。首尾良くいきましたか?」
コユリが従魔では無いことを聞いていたルナは、改めて三郎に尋ねた。
「うむ、コボルト二匹、従魔になってもらってきたぞ。今は厩舎におるはずじゃ」
「そうですか。それは良かったです」
三郎の答に、ルナは安堵の息をもらした。
スケジュールが押し迫っている中、もし失敗していたら次は無かったかもしれないのだ。
「見せて頂いても良いですか?」
「勿論じゃ。今からでも案内しよう」
「あら。では、早速お願いします」
三郎とキールはルナを伴い、厩舎へと入って行くのだった。
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