53 / 62
第6章
二話
しおりを挟む
「ギンとチャチャだ」
二匹の子コボルトはシローと一緒に、岩山の洞窟にいた。
三匹は仰向けでお腹を出して寝ていた。その無防備な寝姿に、ルナは思わず「可愛いわねぇ」と言いながらチャチャのお腹を撫でようとする。
「危ない!」
三郎がルナの襟ぐりを掴んで後に引っ張った次の瞬間、それまでルナのいた位置に茶色い衝撃が走った。
それまで無防備に寝ていると思われたチャチャがその鋭い爪で攻撃を仕掛けてきたのだ。
幼いコボルトが牙を剥いて威嚇してくるのを見て、ルナはようやく「魔獣は人に懐かない」という己の言葉を思い出した。
いかに幼いといえど、魔獣は安易に己の身体を触らせたりはしないのだ。
「こら、チャチャも止めるんだ」
三郎はチャチャを抱き上げると、その額を軽く小突いた。
小突かれた事に納得がいかず、むくれるような顔をしたチャチャだったが、抱っこされるのが気持ち良かったようですぐに機嫌を治し、三郎の胸板に顔をすりつけてきた。
「なんかずるい」
チャチャが三郎に甘えているのを見て、ルナもまたむくれる。
子コボルトのフワフワの毛をモフモフしたくてたまらないのだ。
じっとりとした視線を、チャチャを撫でている三郎の手元に注ぐ。
「撫でてみるか?」
「良いんですか?」
「大丈夫だな、チャチャや?」
「……わん」
チャチャは仕方なさそうに自分の頭をルナに差し出す。
ルナは恐る恐る差し出された頭を撫でる。
まだ子供の柔らかな毛の感触が気持ちいい。
「モコモコのフワフワね」
手触りもさることながら、生き物特有の暖かさがまた気持ちいいのだ。
ルナはうっとりしている。
対してチャチャはと言うと、そろそろ止めて欲しそうに三郎を見上げる。
それを察した三郎は、話題を変えることにした。
「それにしてもルナ殿、このような朝からなに用があって参られた?まさか、新しい従魔を見にきただけではあるまい」
「え、ええ、もちろん」
三郎はチャチャを抱きなおし、さりげなくルナから遠ざける。
ルナは一瞬恨みがましい目を三郎に向けたが、気を取り直して返事をした。
「三郎さんに報告があるの」
「ほう、報告とな?」
「実は昨日辞令が出まして、今日付けでここテイマーギルドホムベ支部に出向になりました」
「ん?」
三郎はいまいち理解していないようだ。
「今日からここで働く事になりました」
なので、ルナはもう一度わかりやすい言葉で言い直した。
三郎は抱っこしていたチャチャを地面に下ろすと破顔した。
「それは心強い。今後とも宜しく頼む」
「ええ、こちらこそ」
二人は互いに頭を下げる。
「それで、今後の予定なんですが、今から打合せしても良いですか?」
「うむ、大丈夫だが」
「では、ここではなんですので執務室に行きましょうか」
二人は厩舎を出ると、執務室に向かった。
ルナは前に三郎から預かった書類と、新たにボーグから渡された紙の束を執務机の上に置く。
「………という訳で、昨日までに建物の修繕は終わっています」
ルナは書類に書かれていたタイムスケジュールの進捗状況を三郎に伝える。
三郎にはまだ読めない文字もあるため、全てルナが口頭で説明していた。
「この協会からの出向職員というのが私になります。それで、今朝から協会とこちらの端末の再接続を行っていました。これにより、情報の共有化がスムーズに出来るようになります」
三郎は難しい顔をしている。
この世界の高度に発達した人工精霊による情報通信技術についてなどは欠片も分からないので、黙って聞いてるしか出来ないのだ。
迂闊に質問しようものなら、三郎が理解したとルナが判断するまで、何日でも説明してくれるであろう事はこれまでの経験で分かっている。
本当に知りたいと思うこと以外は黙ってやり過ごした方が良いと学習していた。
「これからはテイマー向けのミッションはこちらで受けられるようになりますよ」
今まで三郎はテイマー向けのミッションを受けたことはない。
むしろ、ここ何年かはホムベの冒険者支援協会にテイマー向けのミッションが発生したことすらなかった。
三郎が支部長に就任すると同時に、業務が開始される。
当然、ミッションや仕事の依頼が発生するだろう。
だが、今のところホムベはおろかこの周辺の街でテイマーギルドに所属しているのは三郎だけだ。
したがって、当面は三郎が全てのミッションをこなさなければいけないのだ。
「テイマーギルドにくるミッションは、やはり魔獣の捕獲依頼が多いです。それから、捕獲された魔獣の調教もあります。学院の学者と一緒に生態調査なんていうのもあるらしいです」
「なるほどな」
逆に他の冒険者のような討伐ミッションは、テイマーギルドにはこない。
もちろん受けても良いが、その場合には冒険者支援協会まで受注しにいかなければいけないとルナは説明した。
「テイマーギルドの業務の一つである従魔の預かりは、専門の飼育員が来る事になっていますので、基本的に三郎さんはやらなくて結構です。ただ、ギン君とチャチャちゃんは手伝ってもらうかもしれません」
子コボルト達が厩舎の手伝いをすることは、従魔契約を行いにいく時に聞いていた。
その為にコボルトを選んだと言っても良いのだ。
ただ、まだ幼い二匹にそれが勤まるかは不安があるが。
「それなら大丈夫ですよ。魔獣、特に力の弱いコボルトなんかは成長が早いので、あの様子だともう二ヶ月もすればほぼ成体と変わらなくなります」
「ほう、そうなのじゃな」
そういえば、シローやミドリもこの3ヶ月でかなり大きくなったなと三郎は納得した。
その後も幾つか打合せして段取りを確認すると、いつの間にか昼食の時間になっていたので三郎はシロー達従魔をつれて食事に出掛けていった。
二匹の子コボルトはシローと一緒に、岩山の洞窟にいた。
三匹は仰向けでお腹を出して寝ていた。その無防備な寝姿に、ルナは思わず「可愛いわねぇ」と言いながらチャチャのお腹を撫でようとする。
「危ない!」
三郎がルナの襟ぐりを掴んで後に引っ張った次の瞬間、それまでルナのいた位置に茶色い衝撃が走った。
それまで無防備に寝ていると思われたチャチャがその鋭い爪で攻撃を仕掛けてきたのだ。
幼いコボルトが牙を剥いて威嚇してくるのを見て、ルナはようやく「魔獣は人に懐かない」という己の言葉を思い出した。
いかに幼いといえど、魔獣は安易に己の身体を触らせたりはしないのだ。
「こら、チャチャも止めるんだ」
三郎はチャチャを抱き上げると、その額を軽く小突いた。
小突かれた事に納得がいかず、むくれるような顔をしたチャチャだったが、抱っこされるのが気持ち良かったようですぐに機嫌を治し、三郎の胸板に顔をすりつけてきた。
「なんかずるい」
チャチャが三郎に甘えているのを見て、ルナもまたむくれる。
子コボルトのフワフワの毛をモフモフしたくてたまらないのだ。
じっとりとした視線を、チャチャを撫でている三郎の手元に注ぐ。
「撫でてみるか?」
「良いんですか?」
「大丈夫だな、チャチャや?」
「……わん」
チャチャは仕方なさそうに自分の頭をルナに差し出す。
ルナは恐る恐る差し出された頭を撫でる。
まだ子供の柔らかな毛の感触が気持ちいい。
「モコモコのフワフワね」
手触りもさることながら、生き物特有の暖かさがまた気持ちいいのだ。
ルナはうっとりしている。
対してチャチャはと言うと、そろそろ止めて欲しそうに三郎を見上げる。
それを察した三郎は、話題を変えることにした。
「それにしてもルナ殿、このような朝からなに用があって参られた?まさか、新しい従魔を見にきただけではあるまい」
「え、ええ、もちろん」
三郎はチャチャを抱きなおし、さりげなくルナから遠ざける。
ルナは一瞬恨みがましい目を三郎に向けたが、気を取り直して返事をした。
「三郎さんに報告があるの」
「ほう、報告とな?」
「実は昨日辞令が出まして、今日付けでここテイマーギルドホムベ支部に出向になりました」
「ん?」
三郎はいまいち理解していないようだ。
「今日からここで働く事になりました」
なので、ルナはもう一度わかりやすい言葉で言い直した。
三郎は抱っこしていたチャチャを地面に下ろすと破顔した。
「それは心強い。今後とも宜しく頼む」
「ええ、こちらこそ」
二人は互いに頭を下げる。
「それで、今後の予定なんですが、今から打合せしても良いですか?」
「うむ、大丈夫だが」
「では、ここではなんですので執務室に行きましょうか」
二人は厩舎を出ると、執務室に向かった。
ルナは前に三郎から預かった書類と、新たにボーグから渡された紙の束を執務机の上に置く。
「………という訳で、昨日までに建物の修繕は終わっています」
ルナは書類に書かれていたタイムスケジュールの進捗状況を三郎に伝える。
三郎にはまだ読めない文字もあるため、全てルナが口頭で説明していた。
「この協会からの出向職員というのが私になります。それで、今朝から協会とこちらの端末の再接続を行っていました。これにより、情報の共有化がスムーズに出来るようになります」
三郎は難しい顔をしている。
この世界の高度に発達した人工精霊による情報通信技術についてなどは欠片も分からないので、黙って聞いてるしか出来ないのだ。
迂闊に質問しようものなら、三郎が理解したとルナが判断するまで、何日でも説明してくれるであろう事はこれまでの経験で分かっている。
本当に知りたいと思うこと以外は黙ってやり過ごした方が良いと学習していた。
「これからはテイマー向けのミッションはこちらで受けられるようになりますよ」
今まで三郎はテイマー向けのミッションを受けたことはない。
むしろ、ここ何年かはホムベの冒険者支援協会にテイマー向けのミッションが発生したことすらなかった。
三郎が支部長に就任すると同時に、業務が開始される。
当然、ミッションや仕事の依頼が発生するだろう。
だが、今のところホムベはおろかこの周辺の街でテイマーギルドに所属しているのは三郎だけだ。
したがって、当面は三郎が全てのミッションをこなさなければいけないのだ。
「テイマーギルドにくるミッションは、やはり魔獣の捕獲依頼が多いです。それから、捕獲された魔獣の調教もあります。学院の学者と一緒に生態調査なんていうのもあるらしいです」
「なるほどな」
逆に他の冒険者のような討伐ミッションは、テイマーギルドにはこない。
もちろん受けても良いが、その場合には冒険者支援協会まで受注しにいかなければいけないとルナは説明した。
「テイマーギルドの業務の一つである従魔の預かりは、専門の飼育員が来る事になっていますので、基本的に三郎さんはやらなくて結構です。ただ、ギン君とチャチャちゃんは手伝ってもらうかもしれません」
子コボルト達が厩舎の手伝いをすることは、従魔契約を行いにいく時に聞いていた。
その為にコボルトを選んだと言っても良いのだ。
ただ、まだ幼い二匹にそれが勤まるかは不安があるが。
「それなら大丈夫ですよ。魔獣、特に力の弱いコボルトなんかは成長が早いので、あの様子だともう二ヶ月もすればほぼ成体と変わらなくなります」
「ほう、そうなのじゃな」
そういえば、シローやミドリもこの3ヶ月でかなり大きくなったなと三郎は納得した。
その後も幾つか打合せして段取りを確認すると、いつの間にか昼食の時間になっていたので三郎はシロー達従魔をつれて食事に出掛けていった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる