武者修行の仕上げは異世界で

丸八

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第6章

二話

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「ギンとチャチャだ」

 二匹の子コボルトはシローと一緒に、岩山の洞窟にいた。
 三匹は仰向けでお腹を出して寝ていた。その無防備な寝姿に、ルナは思わず「可愛いわねぇ」と言いながらチャチャのお腹を撫でようとする。

「危ない!」

 三郎がルナの襟ぐりを掴んで後に引っ張った次の瞬間、それまでルナのいた位置に茶色い衝撃が走った。
 それまで無防備に寝ていると思われたチャチャがその鋭い爪で攻撃を仕掛けてきたのだ。
 幼いコボルトが牙を剥いて威嚇してくるのを見て、ルナはようやく「魔獣は人に懐かない」という己の言葉を思い出した。
 いかに幼いといえど、魔獣は安易に己の身体を触らせたりはしないのだ。

「こら、チャチャも止めるんだ」

 三郎はチャチャを抱き上げると、その額を軽く小突いた。
 小突かれた事に納得がいかず、むくれるような顔をしたチャチャだったが、抱っこされるのが気持ち良かったようですぐに機嫌を治し、三郎の胸板に顔をすりつけてきた。

「なんかずるい」

 チャチャが三郎に甘えているのを見て、ルナもまたむくれる。
 子コボルトのフワフワの毛をモフモフしたくてたまらないのだ。
 じっとりとした視線を、チャチャを撫でている三郎の手元に注ぐ。

「撫でてみるか?」
「良いんですか?」
「大丈夫だな、チャチャや?」
「……わん」

 チャチャは仕方なさそうに自分の頭をルナに差し出す。
 ルナは恐る恐る差し出された頭を撫でる。
 まだ子供の柔らかな毛の感触が気持ちいい。

「モコモコのフワフワね」

 手触りもさることながら、生き物特有の暖かさがまた気持ちいいのだ。
 ルナはうっとりしている。
 対してチャチャはと言うと、そろそろ止めて欲しそうに三郎を見上げる。
 それを察した三郎は、話題を変えることにした。

「それにしてもルナ殿、このような朝からなに用があって参られた?まさか、新しい従魔を見にきただけではあるまい」
「え、ええ、もちろん」

 三郎はチャチャを抱きなおし、さりげなくルナから遠ざける。
 ルナは一瞬恨みがましい目を三郎に向けたが、気を取り直して返事をした。

「三郎さんに報告があるの」
「ほう、報告とな?」
「実は昨日辞令が出まして、今日付けでここテイマーギルドホムベ支部に出向になりました」
「ん?」

 三郎はいまいち理解していないようだ。

「今日からここで働く事になりました」

 なので、ルナはもう一度わかりやすい言葉で言い直した。
 三郎は抱っこしていたチャチャを地面に下ろすと破顔した。

「それは心強い。今後とも宜しく頼む」
「ええ、こちらこそ」

 二人は互いに頭を下げる。

「それで、今後の予定なんですが、今から打合せしても良いですか?」
「うむ、大丈夫だが」
「では、ここではなんですので執務室に行きましょうか」

 二人は厩舎を出ると、執務室に向かった。
 ルナは前に三郎から預かった書類と、新たにボーグから渡された紙の束を執務机の上に置く。

「………という訳で、昨日までに建物の修繕は終わっています」

 ルナは書類に書かれていたタイムスケジュールの進捗状況を三郎に伝える。
 三郎にはまだ読めない文字もあるため、全てルナが口頭で説明していた。

「この協会からの出向職員というのが私になります。それで、今朝から協会とこちらの端末の再接続を行っていました。これにより、情報の共有化がスムーズに出来るようになります」

 三郎は難しい顔をしている。
 この世界の高度に発達した人工精霊による情報通信技術ICTについてなどは欠片も分からないので、黙って聞いてるしか出来ないのだ。
 迂闊に質問しようものなら、三郎が理解したとルナが判断するまで、何日でも説明してくれるであろう事はこれまでの経験で分かっている。
 本当に知りたいと思うこと以外は黙ってやり過ごした方が良いと学習していた。

「これからはテイマー向けのミッションはこちらで受けられるようになりますよ」

 今まで三郎はテイマー向けのミッションを受けたことはない。
 むしろ、ここ何年かはホムベの冒険者支援協会にテイマー向けのミッションが発生したことすらなかった。

 三郎が支部長ブランチマスターに就任すると同時に、業務が開始される。
 当然、ミッションや仕事の依頼が発生するだろう。

 だが、今のところホムベはおろかこの周辺の街でテイマーギルドに所属しているのは三郎だけだ。
 したがって、当面は三郎が全てのミッションをこなさなければいけないのだ。

「テイマーギルドにくるミッションは、やはり魔獣の捕獲依頼が多いです。それから、捕獲された魔獣の調教もあります。学院アカデミーの学者と一緒に生態調査なんていうのもあるらしいです」
「なるほどな」

 逆に他の冒険者のような討伐ミッションは、テイマーギルドにはこない。
 もちろん受けても良いが、その場合には冒険者支援協会まで受注しにいかなければいけないとルナは説明した。

「テイマーギルドの業務の一つである従魔の預かりは、専門の飼育員が来る事になっていますので、基本的に三郎さんはやらなくて結構です。ただ、ギン君とチャチャちゃんは手伝ってもらうかもしれません」

 子コボルト達が厩舎の手伝いをすることは、従魔契約を行いにいく時に聞いていた。
 その為にコボルトを選んだと言っても良いのだ。
 ただ、まだ幼い二匹にそれが勤まるかは不安があるが。

「それなら大丈夫ですよ。魔獣、特に力の弱いコボルトなんかは成長が早いので、あの様子だともう二ヶ月もすればほぼ成体と変わらなくなります」
「ほう、そうなのじゃな」

 そういえば、シローやミドリもこの3ヶ月でかなり大きくなったなと三郎は納得した。

 その後も幾つか打合せして段取りを確認すると、いつの間にか昼食の時間になっていたので三郎はシロー達従魔をつれて食事に出掛けていった。
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