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第6章
七話
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その日、ルナは朝早くに職場にやってきた。
事前準備は既に終わっていたが、当日にしか出来ないこともあるのだ。
ルナの作業が終った、三郎も鍛練を終えて建物内に入ってきた。
キールはというと、一昨日からコユリと共に少し遠方までミッションで出掛けている。
テイマーギルド再開のドタバタから上手く逃げ出した格好だ。
三郎とルナが顔を合わせた直後、外が騒がしくなってきた。
何事かと思い、二人が外に出ると周りの住人がこぞって空を見上げていた。
「お、なんじゃ?」
三郎もつられて空を見上げると、そこには翼の生えた大きなトカゲがいた。
その大きさに流石の三郎も目を見開いて驚いた。
「ワイバーンですね」
いつの間にかターニャが三郎の隣で同じように空を見上げていた。
その目は魔獣より鋭い。
「ワイバーンって確か………」
「ええ、現テイマーギルド長の乗騎の一つですね」
ワイバーンは飛ぶことに特化したドラゴン種だ。
危険度はBと決して高くはないが、その力は侮れるものではない。
その身を守る鱗は硬く、獲物を切り裂く爪は鋭い。上空から繰り出される超高速の一撃は、容易く冒険者の命を奪う。
そんな危険な魔獣だが、その移動スピードから乗騎とする冒険者は少なくはない。
むしろ、活動範囲の広い高レベルの冒険者になると、無くてはならないものと言える。
だが、ここまで大型のワイバーンを駆るのはテイマーギルドの長であるミラー・ネコダニヤしかいない。
そんなような事を、ベニーは三郎に語って聞かせた。
その間に、ワイバーンはゆっくりと旋回しながら地上に降りてくる。
「よっ!」
壮年の男がワイバーンの背から降りてきた。
片手を上げ、挨拶をする。
態度は軽いが、なかなかどうして体格はがっしりとしている。
だが、頭の上にピンと立っている耳からして、どうやら猫の獣人であるミラーはその重厚な筋肉量に反して、足取りは非常に軽やかだ。
「君が三郎君だね。話は聞いてるよ。これからうちの支部長として頑張ってね」
男臭い笑みを浮かべて、がっちりと握手を交わす。
二人とも涼しげな顔をしているが、お互いに目一杯力を入れている。その様子を隣で見ていたルナとベニーは似た者同士だなとの感想を持った。
「はぁ、はぁ………お、おはようございます」
息を荒げて登場したのは、冒険者支援協会ホムベ支部長のボーグであった。
上空にワイバーンが現れたと報告を受け、ここまで走ってきたのだ。
「おう、ボーグ!おはようさん!遅かったじゃないか」
「おはようございます」
ミラーに三郎、ルナそれからベニーも挨拶をする。
ボーグは全速力で来て息が荒いため、咄嗟に言葉が出てこない。
代わりに、その後を付いてきていた秘書が涼やかな声で挨拶をする。こちらは、ボーグと共に走ってきたのだが、汗ひとつかいていない。
「おはようございます」
少し遅れて、大量の荷物を抱えたシレンがやってきた。
流石に重いのかフーフー言っている。
「よし、これで全員揃ったね」
やっと息が整ったボーグは手を打ち鳴らし、注目を集める。
そのまま先頭に立ち、テイマーギルドの中に入っていく。
「なんで、お前が仕切っている」
ミラーの底冷えするような声に、ボーグは竦み上がった。
恐る恐る振り向くと、ミラーの笑顔があった。
質の悪い冗談だと気付くと、ボーグは抗議の声を上げた。
「勘弁してくださいよ」
「軽い冗談じゃないか。許せ」
パンパンと軽く背中を叩き、詫びをいれる。
笑っているミラーに対し、ボーグはまだむくれたままだ。
いじめっこ気質が伺えるミラーだったが、仕事の手際は見事なものだった。
その太い指で器用にキーボードを操作すると、三郎のステイタス等を呼び出して閲覧する。
それが終わると厩舎に行き、三郎の従魔のチェック。
「ふむ、見事なものじゃの。よく鍛えられている」
一目で従魔達の状況を見抜くと、満足そうに頷いた。
三郎から細かい聞き取りなども行い、厩舎から出ていく。
もう一度、窓口の精霊器端末の前に座り、ギルド本部のページを開く。
自分の冒険者カードを読み込ませると、画面を一旦閉じた。
「さて、これでワシの仕事は終わりだ。ボーグよ後は任せるぞ。三郎君もこれからよろしく頼むよ」
「分かりました、お気をつけて」
「こちらこそ宜しくおねがいします」
挨拶もそこそこに、外に出たミラーはワイバーンに跨がった。
どんどん小さくなるワイバーンを見送り、三郎達は建物の中に戻った。
「さて、私の方の承認はもうルナ君を通じて終わっているから、もう三郎君は支部長になっているね」
確認の為に秘書が三郎から受け取った冒険者カードを端末に通す。
すると、称号の欄に「テイマーギルド支部長」とあった。
確認が終わると、冒険者カードを三郎に返す。
「では、これがギルド活動を認める書類だ。目を通しておいてね」
「はっ」
また書類と聞いて、三郎はうんざりする。
その顔を見たルナは若干顔をしかめ、ボーグの秘書はクスクスと笑っている。
「じゃあ、あんまり長居をしても悪いから、さっさと帰ろうか」
「はい、ボーグ支部長」
こうしてテイマーギルドは再開初日を迎えたのだった。
事前準備は既に終わっていたが、当日にしか出来ないこともあるのだ。
ルナの作業が終った、三郎も鍛練を終えて建物内に入ってきた。
キールはというと、一昨日からコユリと共に少し遠方までミッションで出掛けている。
テイマーギルド再開のドタバタから上手く逃げ出した格好だ。
三郎とルナが顔を合わせた直後、外が騒がしくなってきた。
何事かと思い、二人が外に出ると周りの住人がこぞって空を見上げていた。
「お、なんじゃ?」
三郎もつられて空を見上げると、そこには翼の生えた大きなトカゲがいた。
その大きさに流石の三郎も目を見開いて驚いた。
「ワイバーンですね」
いつの間にかターニャが三郎の隣で同じように空を見上げていた。
その目は魔獣より鋭い。
「ワイバーンって確か………」
「ええ、現テイマーギルド長の乗騎の一つですね」
ワイバーンは飛ぶことに特化したドラゴン種だ。
危険度はBと決して高くはないが、その力は侮れるものではない。
その身を守る鱗は硬く、獲物を切り裂く爪は鋭い。上空から繰り出される超高速の一撃は、容易く冒険者の命を奪う。
そんな危険な魔獣だが、その移動スピードから乗騎とする冒険者は少なくはない。
むしろ、活動範囲の広い高レベルの冒険者になると、無くてはならないものと言える。
だが、ここまで大型のワイバーンを駆るのはテイマーギルドの長であるミラー・ネコダニヤしかいない。
そんなような事を、ベニーは三郎に語って聞かせた。
その間に、ワイバーンはゆっくりと旋回しながら地上に降りてくる。
「よっ!」
壮年の男がワイバーンの背から降りてきた。
片手を上げ、挨拶をする。
態度は軽いが、なかなかどうして体格はがっしりとしている。
だが、頭の上にピンと立っている耳からして、どうやら猫の獣人であるミラーはその重厚な筋肉量に反して、足取りは非常に軽やかだ。
「君が三郎君だね。話は聞いてるよ。これからうちの支部長として頑張ってね」
男臭い笑みを浮かべて、がっちりと握手を交わす。
二人とも涼しげな顔をしているが、お互いに目一杯力を入れている。その様子を隣で見ていたルナとベニーは似た者同士だなとの感想を持った。
「はぁ、はぁ………お、おはようございます」
息を荒げて登場したのは、冒険者支援協会ホムベ支部長のボーグであった。
上空にワイバーンが現れたと報告を受け、ここまで走ってきたのだ。
「おう、ボーグ!おはようさん!遅かったじゃないか」
「おはようございます」
ミラーに三郎、ルナそれからベニーも挨拶をする。
ボーグは全速力で来て息が荒いため、咄嗟に言葉が出てこない。
代わりに、その後を付いてきていた秘書が涼やかな声で挨拶をする。こちらは、ボーグと共に走ってきたのだが、汗ひとつかいていない。
「おはようございます」
少し遅れて、大量の荷物を抱えたシレンがやってきた。
流石に重いのかフーフー言っている。
「よし、これで全員揃ったね」
やっと息が整ったボーグは手を打ち鳴らし、注目を集める。
そのまま先頭に立ち、テイマーギルドの中に入っていく。
「なんで、お前が仕切っている」
ミラーの底冷えするような声に、ボーグは竦み上がった。
恐る恐る振り向くと、ミラーの笑顔があった。
質の悪い冗談だと気付くと、ボーグは抗議の声を上げた。
「勘弁してくださいよ」
「軽い冗談じゃないか。許せ」
パンパンと軽く背中を叩き、詫びをいれる。
笑っているミラーに対し、ボーグはまだむくれたままだ。
いじめっこ気質が伺えるミラーだったが、仕事の手際は見事なものだった。
その太い指で器用にキーボードを操作すると、三郎のステイタス等を呼び出して閲覧する。
それが終わると厩舎に行き、三郎の従魔のチェック。
「ふむ、見事なものじゃの。よく鍛えられている」
一目で従魔達の状況を見抜くと、満足そうに頷いた。
三郎から細かい聞き取りなども行い、厩舎から出ていく。
もう一度、窓口の精霊器端末の前に座り、ギルド本部のページを開く。
自分の冒険者カードを読み込ませると、画面を一旦閉じた。
「さて、これでワシの仕事は終わりだ。ボーグよ後は任せるぞ。三郎君もこれからよろしく頼むよ」
「分かりました、お気をつけて」
「こちらこそ宜しくおねがいします」
挨拶もそこそこに、外に出たミラーはワイバーンに跨がった。
どんどん小さくなるワイバーンを見送り、三郎達は建物の中に戻った。
「さて、私の方の承認はもうルナ君を通じて終わっているから、もう三郎君は支部長になっているね」
確認の為に秘書が三郎から受け取った冒険者カードを端末に通す。
すると、称号の欄に「テイマーギルド支部長」とあった。
確認が終わると、冒険者カードを三郎に返す。
「では、これがギルド活動を認める書類だ。目を通しておいてね」
「はっ」
また書類と聞いて、三郎はうんざりする。
その顔を見たルナは若干顔をしかめ、ボーグの秘書はクスクスと笑っている。
「じゃあ、あんまり長居をしても悪いから、さっさと帰ろうか」
「はい、ボーグ支部長」
こうしてテイマーギルドは再開初日を迎えたのだった。
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