58 / 62
第6章
七話
しおりを挟む
その日、ルナは朝早くに職場にやってきた。
事前準備は既に終わっていたが、当日にしか出来ないこともあるのだ。
ルナの作業が終った、三郎も鍛練を終えて建物内に入ってきた。
キールはというと、一昨日からコユリと共に少し遠方までミッションで出掛けている。
テイマーギルド再開のドタバタから上手く逃げ出した格好だ。
三郎とルナが顔を合わせた直後、外が騒がしくなってきた。
何事かと思い、二人が外に出ると周りの住人がこぞって空を見上げていた。
「お、なんじゃ?」
三郎もつられて空を見上げると、そこには翼の生えた大きなトカゲがいた。
その大きさに流石の三郎も目を見開いて驚いた。
「ワイバーンですね」
いつの間にかターニャが三郎の隣で同じように空を見上げていた。
その目は魔獣より鋭い。
「ワイバーンって確か………」
「ええ、現テイマーギルド長の乗騎の一つですね」
ワイバーンは飛ぶことに特化したドラゴン種だ。
危険度はBと決して高くはないが、その力は侮れるものではない。
その身を守る鱗は硬く、獲物を切り裂く爪は鋭い。上空から繰り出される超高速の一撃は、容易く冒険者の命を奪う。
そんな危険な魔獣だが、その移動スピードから乗騎とする冒険者は少なくはない。
むしろ、活動範囲の広い高レベルの冒険者になると、無くてはならないものと言える。
だが、ここまで大型のワイバーンを駆るのはテイマーギルドの長であるミラー・ネコダニヤしかいない。
そんなような事を、ベニーは三郎に語って聞かせた。
その間に、ワイバーンはゆっくりと旋回しながら地上に降りてくる。
「よっ!」
壮年の男がワイバーンの背から降りてきた。
片手を上げ、挨拶をする。
態度は軽いが、なかなかどうして体格はがっしりとしている。
だが、頭の上にピンと立っている耳からして、どうやら猫の獣人であるミラーはその重厚な筋肉量に反して、足取りは非常に軽やかだ。
「君が三郎君だね。話は聞いてるよ。これからうちの支部長として頑張ってね」
男臭い笑みを浮かべて、がっちりと握手を交わす。
二人とも涼しげな顔をしているが、お互いに目一杯力を入れている。その様子を隣で見ていたルナとベニーは似た者同士だなとの感想を持った。
「はぁ、はぁ………お、おはようございます」
息を荒げて登場したのは、冒険者支援協会ホムベ支部長のボーグであった。
上空にワイバーンが現れたと報告を受け、ここまで走ってきたのだ。
「おう、ボーグ!おはようさん!遅かったじゃないか」
「おはようございます」
ミラーに三郎、ルナそれからベニーも挨拶をする。
ボーグは全速力で来て息が荒いため、咄嗟に言葉が出てこない。
代わりに、その後を付いてきていた秘書が涼やかな声で挨拶をする。こちらは、ボーグと共に走ってきたのだが、汗ひとつかいていない。
「おはようございます」
少し遅れて、大量の荷物を抱えたシレンがやってきた。
流石に重いのかフーフー言っている。
「よし、これで全員揃ったね」
やっと息が整ったボーグは手を打ち鳴らし、注目を集める。
そのまま先頭に立ち、テイマーギルドの中に入っていく。
「なんで、お前が仕切っている」
ミラーの底冷えするような声に、ボーグは竦み上がった。
恐る恐る振り向くと、ミラーの笑顔があった。
質の悪い冗談だと気付くと、ボーグは抗議の声を上げた。
「勘弁してくださいよ」
「軽い冗談じゃないか。許せ」
パンパンと軽く背中を叩き、詫びをいれる。
笑っているミラーに対し、ボーグはまだむくれたままだ。
いじめっこ気質が伺えるミラーだったが、仕事の手際は見事なものだった。
その太い指で器用にキーボードを操作すると、三郎のステイタス等を呼び出して閲覧する。
それが終わると厩舎に行き、三郎の従魔のチェック。
「ふむ、見事なものじゃの。よく鍛えられている」
一目で従魔達の状況を見抜くと、満足そうに頷いた。
三郎から細かい聞き取りなども行い、厩舎から出ていく。
もう一度、窓口の精霊器端末の前に座り、ギルド本部のページを開く。
自分の冒険者カードを読み込ませると、画面を一旦閉じた。
「さて、これでワシの仕事は終わりだ。ボーグよ後は任せるぞ。三郎君もこれからよろしく頼むよ」
「分かりました、お気をつけて」
「こちらこそ宜しくおねがいします」
挨拶もそこそこに、外に出たミラーはワイバーンに跨がった。
どんどん小さくなるワイバーンを見送り、三郎達は建物の中に戻った。
「さて、私の方の承認はもうルナ君を通じて終わっているから、もう三郎君は支部長になっているね」
確認の為に秘書が三郎から受け取った冒険者カードを端末に通す。
すると、称号の欄に「テイマーギルド支部長」とあった。
確認が終わると、冒険者カードを三郎に返す。
「では、これがギルド活動を認める書類だ。目を通しておいてね」
「はっ」
また書類と聞いて、三郎はうんざりする。
その顔を見たルナは若干顔をしかめ、ボーグの秘書はクスクスと笑っている。
「じゃあ、あんまり長居をしても悪いから、さっさと帰ろうか」
「はい、ボーグ支部長」
こうしてテイマーギルドは再開初日を迎えたのだった。
事前準備は既に終わっていたが、当日にしか出来ないこともあるのだ。
ルナの作業が終った、三郎も鍛練を終えて建物内に入ってきた。
キールはというと、一昨日からコユリと共に少し遠方までミッションで出掛けている。
テイマーギルド再開のドタバタから上手く逃げ出した格好だ。
三郎とルナが顔を合わせた直後、外が騒がしくなってきた。
何事かと思い、二人が外に出ると周りの住人がこぞって空を見上げていた。
「お、なんじゃ?」
三郎もつられて空を見上げると、そこには翼の生えた大きなトカゲがいた。
その大きさに流石の三郎も目を見開いて驚いた。
「ワイバーンですね」
いつの間にかターニャが三郎の隣で同じように空を見上げていた。
その目は魔獣より鋭い。
「ワイバーンって確か………」
「ええ、現テイマーギルド長の乗騎の一つですね」
ワイバーンは飛ぶことに特化したドラゴン種だ。
危険度はBと決して高くはないが、その力は侮れるものではない。
その身を守る鱗は硬く、獲物を切り裂く爪は鋭い。上空から繰り出される超高速の一撃は、容易く冒険者の命を奪う。
そんな危険な魔獣だが、その移動スピードから乗騎とする冒険者は少なくはない。
むしろ、活動範囲の広い高レベルの冒険者になると、無くてはならないものと言える。
だが、ここまで大型のワイバーンを駆るのはテイマーギルドの長であるミラー・ネコダニヤしかいない。
そんなような事を、ベニーは三郎に語って聞かせた。
その間に、ワイバーンはゆっくりと旋回しながら地上に降りてくる。
「よっ!」
壮年の男がワイバーンの背から降りてきた。
片手を上げ、挨拶をする。
態度は軽いが、なかなかどうして体格はがっしりとしている。
だが、頭の上にピンと立っている耳からして、どうやら猫の獣人であるミラーはその重厚な筋肉量に反して、足取りは非常に軽やかだ。
「君が三郎君だね。話は聞いてるよ。これからうちの支部長として頑張ってね」
男臭い笑みを浮かべて、がっちりと握手を交わす。
二人とも涼しげな顔をしているが、お互いに目一杯力を入れている。その様子を隣で見ていたルナとベニーは似た者同士だなとの感想を持った。
「はぁ、はぁ………お、おはようございます」
息を荒げて登場したのは、冒険者支援協会ホムベ支部長のボーグであった。
上空にワイバーンが現れたと報告を受け、ここまで走ってきたのだ。
「おう、ボーグ!おはようさん!遅かったじゃないか」
「おはようございます」
ミラーに三郎、ルナそれからベニーも挨拶をする。
ボーグは全速力で来て息が荒いため、咄嗟に言葉が出てこない。
代わりに、その後を付いてきていた秘書が涼やかな声で挨拶をする。こちらは、ボーグと共に走ってきたのだが、汗ひとつかいていない。
「おはようございます」
少し遅れて、大量の荷物を抱えたシレンがやってきた。
流石に重いのかフーフー言っている。
「よし、これで全員揃ったね」
やっと息が整ったボーグは手を打ち鳴らし、注目を集める。
そのまま先頭に立ち、テイマーギルドの中に入っていく。
「なんで、お前が仕切っている」
ミラーの底冷えするような声に、ボーグは竦み上がった。
恐る恐る振り向くと、ミラーの笑顔があった。
質の悪い冗談だと気付くと、ボーグは抗議の声を上げた。
「勘弁してくださいよ」
「軽い冗談じゃないか。許せ」
パンパンと軽く背中を叩き、詫びをいれる。
笑っているミラーに対し、ボーグはまだむくれたままだ。
いじめっこ気質が伺えるミラーだったが、仕事の手際は見事なものだった。
その太い指で器用にキーボードを操作すると、三郎のステイタス等を呼び出して閲覧する。
それが終わると厩舎に行き、三郎の従魔のチェック。
「ふむ、見事なものじゃの。よく鍛えられている」
一目で従魔達の状況を見抜くと、満足そうに頷いた。
三郎から細かい聞き取りなども行い、厩舎から出ていく。
もう一度、窓口の精霊器端末の前に座り、ギルド本部のページを開く。
自分の冒険者カードを読み込ませると、画面を一旦閉じた。
「さて、これでワシの仕事は終わりだ。ボーグよ後は任せるぞ。三郎君もこれからよろしく頼むよ」
「分かりました、お気をつけて」
「こちらこそ宜しくおねがいします」
挨拶もそこそこに、外に出たミラーはワイバーンに跨がった。
どんどん小さくなるワイバーンを見送り、三郎達は建物の中に戻った。
「さて、私の方の承認はもうルナ君を通じて終わっているから、もう三郎君は支部長になっているね」
確認の為に秘書が三郎から受け取った冒険者カードを端末に通す。
すると、称号の欄に「テイマーギルド支部長」とあった。
確認が終わると、冒険者カードを三郎に返す。
「では、これがギルド活動を認める書類だ。目を通しておいてね」
「はっ」
また書類と聞いて、三郎はうんざりする。
その顔を見たルナは若干顔をしかめ、ボーグの秘書はクスクスと笑っている。
「じゃあ、あんまり長居をしても悪いから、さっさと帰ろうか」
「はい、ボーグ支部長」
こうしてテイマーギルドは再開初日を迎えたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる