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四章 二体目ですよ

六十八話

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 ライトに照されてぼんやりと浮かび上がったのは、巨大な竜のシルエットだった。

 緑にも青にも見える鱗に覆われた蛇身、鋭い爪をもつ手、二本の角がある頭部には鬣が生えている。

 トグロを巻いているから分かりにくいけど、全長は50mどころじゃないだろう。威圧感がハンパない。今もビビって足が震えてる。

 しかし、そんな恐ろしい姿だけど、どことなく生気が無い。ぐったりと横たわる頭、目は閉じられ、デカイ口からは荒い呼吸音が漏れている。

 周りを照らせば抜け落ちたであろう鱗や爪、鬣なんかが散らばっている。

 身体の方も鱗が剥げていたり、抉れたような傷があった。みるからに瀕死って感じだ。


「何か病気なのかな?」
「ちぅ」


 俺の呟きに、ツクモが違うというように首を横に振る。そして、俺の肩から飛び降りると竜に駆け寄り、頭の上に登り始めた。

 頭だけで俺の身長よりデカイけど、鱗がゴツゴツしてるから登りやすいみたいだ。


「お、おい、ちょっと」


 竜がいつ襲ってくるか気が気じゃない俺はツクモを止めようとするけど、そんな事は気にしないとばかりにチョロチョロと登っていく。

 今のところ【危険察知】は反応してないけど、さっき過信したばかりに転移罠に引っ掛かったから安心なんか出来ない。

 そんな俺の気持ちをよそに、ツクモは角の近くで立ち上がり、両手で手招きをする。場違いだとは思うけど、可愛い仕草だ。

 それより俺もいかなきゃダメなの?

 例え死にかけだとしても、寝返りされただけでもブチッといっちゃいそうだけど。

 周囲に魔力が無いから特殊攻撃なんてほとんど出来ないだろうけど、巨大な質量っていうのはそれだけで脅威なんだよ。


「ちぅ」
「う、分かった。行くよ」


 小首を傾げて両手を合わせるツクモ。いつの間にこんなあざといポーズを覚えたんだろ?

 あまりの可愛さにやられた俺は、しぶしぶながらも竜に近付いていく。


「ちぅ」


 真横まで来ると本当にデカイな。側頭部が断崖絶壁に見える。

 覚悟を決めてよじ登っていく。

 登るのに邪魔になるから、ウエストポーチのベルト部分に棒を挟み、ライトは手首に輪ゴムで止めておく。

 魔力が無くてステータスが無効になってるから苦戦すると思ったけど、わりと楽に登っていけるな。


「ちぅ」
「そこに何かあるのか?」


 頭に登りきったら、ツクモが鬣の方を指差していた。

 手首からライトを外して、ツクモが指差してる方を照す。すると、鬣がもぞもぞと動いているのが見える。

 もう少し近付くと、【危険察知】が反応した。


「ヤバいな。ツクモ、あんまり近寄るなよ」
「ちぅ」


 周囲に魔力が無い今、ツクモは見た目の通り少し大きめのネズミに過ぎない。もし、戦闘になった場合、簡単に潰されてしまうだろう。

 まぁ、それは俺もなんだけどね。

 しかし、ツクモは逃げるでもなく、もぞもぞ動いている場所を指差し続ける。

 仕方ないから俺はしっかり見ようと、鬣を棒でかき分けてライトを当てる。


「ゥゲッ!」

 そこにいたのは巨大な虫だった。ノミのような甲虫のようなよく分からない虫だ。かなりの大きさで、20cm以上はある。

 それがジュクジュクになった竜の傷口から何かを啜っていた。正直、見ていて気持ち悪い。そんなのが十匹以上鬣の中に固まって蠢いていた。集合体恐怖症だったら閲覧注意だよ、これは。


「ちぅ!」
「え?こいつをどうにかしろって?」
「ちぅ!」


 またもやツクモが可愛いお願いポーズをする。ちょっと調子に乗ってるなとは思うけど、可愛くお願いされたらついついやってしまう。

 幸い光が苦手らしく、ライトで照すと逃げようと身じろぎするから、その隙に棒で払い落とす。

 多分この気持ち悪い虫もエネミーだから、魔力の無い環境だと弱体化しているのだろう。思ったより簡単に払い落とす事が出来た。

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