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四章 二体目ですよ

六十九話

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 地面に払い落としても、まだ気味の悪い虫はモゾモゾと動いていた。流石に虫は生命力が違うね。

 とりあえず見える範囲にいる虫は全部落としていく。殺虫剤でもあったらもっと楽だったかもしれないな。

 たまに脚についてる爪や棘のような毛が引っ掛かったりしたけど、なんとか引き剥がして地面に落とす。


「こいつで最後だな」


 最後の一匹に近付くと、クルリとこちらにお尻を向けた。

 その瞬間、【危険察知】が反応した。咄嗟に後ろに跳び、身を伏せる。

 間一髪で虫のお尻からボンという破裂音が響き、頭の上を何かが通り過ぎる。


「うわっ!?熱っ!?臭っ!なんだこれ!?」


 どうやら虫がお尻から出したのは高温のガスみたいだ。しかも、ものすごい悪臭のガスだ。

 これは魔力を元にした攻撃じゃなくて、元々の生体機能なんだろう。

 昔、図鑑か何かでそんな虫がいるって見たことがあるな。一生遇いたくは無かったけど。

 二発目を発射されては堪らないから、すぐに鼻を押さえて立ち上がり、思い切り棒で叩く。メシリと音がして甲殻が少し割れた。それほど硬くはないようだね。

 何度か叩いたらお尻の部分がもげた。これだけ大きいとグロいね。ただ、まだ生きていたから、頭の方を掴んで竜から引き剥がす。

 脚とか動かして抵抗しているけど、背中までは届かない。そのまま遠くに投げてやる。


「とりあえず、これで全部かな?」
「ちぅ」


 鬣をかき分けてよく観察したけど、もういないようだ。それよりも臭いが酷いから一旦竜の頭ここから降りよう。

 下に落とした虫もまだ生きてるみたいだから、また竜に取りつく前に始末しないといけないしね。

 竜の頭は登るより下る方が気を使った。滑るし暗いから足下があんまりよく見えないからね。

 半分くらい降りたところで、ジャンプする。着地地点は虫の上だ。

 グシャリと嫌な感触が長靴越しに伝わる。無事に一匹潰せたようだ。

 虫は魔石に変わる。


「おかしいな。地上だと倒したら死骸はそのまま残るって聞いたけどな」
「ちぅ」
「まぁ、細かい事はどうでもいいか。早いとこ虫を駆除しちゃおう」
「ちぅ!」


 数えたら虫たちは全部で15匹だった。あの高さから叩き落とされただけあって、流石に無傷では無さそうだ。脚が折れたり捥げたりしていて、満足に動くことが難しい様子だな。

 またあの熱くて臭いガスを吹き掛けられる前に潰していこう。

 比較的軽症そうなヤツから叩いていく。ズリズリと竜に近付いていくところを渾身の力で叩く。

 2、3発も棒で打てば魔石に変わるけど、なかなかの重労働だ。でも、怪我に加えて竜の血か何かでお腹がパンパンに膨らんでいて動きが鈍くなってるから、まだ楽なのかもしれないな。

 何匹かお尻を向けてきたけど、ガスを出す前にソイツを叩いて潰してやった。あれはもう食らいたくないからね。

 本当に臭いんだから。


「よし、終わったね」
「ちぅ!」
「え、まだ何かあるの?」
「ちぅ!」


 全部潰し終わる頃には汗ぐっしょりだった。結構な重労働だったからね。おまけに暑いし。

 タオルで汗を拭きながらツクモに笑いかけると、ツクモが今度は部屋の隅を指差している。

 ライトを向けてもよく分からないから、指差してる方へ歩いていく。


「なにこれ、剣?」
「ちぅ」


 部屋の隅にいくと、黒塗りの剣が地面に突き刺さっていた。見るからに禍々しい装飾が施された剣だ。


「ちぅ!」
「え、これを引き抜くの!?嫌だよ、呪われそうじゃん」
「ちぅ」


 剣を引き抜くのを拒否すると、またあのおねだりポーズが炸裂した。

 まぁ、【危険察知】には反応が無いし、引き抜くだけならやってあげよう。


「よいしょっ!」


 ちょっと片手で引っ張ってみたら相当硬かったから、ライトを下に置いて思いっきり力を入れる。すると、パリンとガラスが割れるような音がしたと同時に、スルリと剣が抜けたのだった。

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