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五章 食べるんだ

八十七話

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 ゴブリンを駆除してからも、探索は順調に進んだ。

 二階層の正面奥へと向かう。途中で何体かのエネミーを倒しながら、ボス部屋を探していく。


「なかなか見付からないね」


 視界に入る範囲は脳内で勝手にマッピングされるけど、未だにボス部屋は現れない。

 まぁ、通路はここ一本じゃないし、当たり前といえば当たり前なんだけどね。


「そっスね。とりあえず奥に着いたらまたどうするか考えた方が良いっスね」
「そうだな。見付けたところでボスを駆除出来るか分からないし、レベル上げだと割り切って今日は進んだ方が良いのかもしれんな」


 言葉とは裏腹に、市場君の表情はどこか焦りも窺える。

 俺のせいで二週間も探索が遅れているから、申し訳ない気分になるな。


「あそこに見える壁が、どうやら最奥みたいだね」


 何度か戦闘と休憩を挟みながら探索を続けていると、ようやく一番奥の壁が見えてきた。時計を見たら、スタートから三時間くらい経っていた。


「ようやくっスね」
「やっぱり二階層は少し広いな」


 だいたい転移水晶のある小部屋からここまでが15km弱くらいだ。確かに一階層よりも広い。


「どうする?戻る時間を考えると、あんまり探索する時間は無いよ」


 俺がこれからどうするか聞くと、全員がぽかんとした顔をする。

 あれ、何か変なこと言ったかな?


「あ、悪かったっス。あれがあることを伝え忘れてたっス」
「あれ?」


 急に吉根が何か思い出したのか、手を合わせて謝ってきた。

 何を伝え忘れてたんだ?


「そっス。天子田さん、悪いけど見せてやって欲しいっス」
「うん、分かった」


 天子田さんは吉根に返事をすると、盾を壁に立て掛けてから手袋を脱ぐ。

 そして、左手の人差し指にはまった指輪を見せてきた。


「え、なに!?もしかして、吉根と天子田さん付き合い始めたの!?」
「違うっス!よく見るっス」
「そう、違うの。そういう指輪じゃないの」


 二人は顔を赤くして、必死で手を振って否定する。慌てふためいてるのを見て、思わず吹き出してしまった。

 言われてよく見てみると、なんだか見覚えのあるような指輪だ。


「俺がいない間に急接近したって事?」
「違うっス。この前のエネミーネストで宝箱に入ってたヤツっス!覚えてないんスか!?」


 そういえばそんなものもあったな。

 あの時はバタバタしてたし、鑑定が済んで分配する時には保健室にいたから、すっかり忘れてたわ。

 今日、ダンジョンに入る前に換金したお金を貰っただけだったな。


「で、これがどうしたの?」


 女子がつけるにはやや武骨な指輪だけど、そういえば泉ヶ丘さんが魔力を感じるって言っていたな。


「これ、脱出の指輪なの」
「脱出の指輪って、使うとダンジョンから出られる魔道具?」
「そっス」
「え、凄いじゃん」


 脱出の指輪は、魔法を阻害するような特殊なフィールド以外は、どこからでも地上に戻れる優秀な魔道具だ。

 こんな脅威度の低いダンジョンで出るのは稀だから、随分と俺達はラッキーだな。


「これがあれば、戻る時間を気にせずにギリギリまで探索出来るぞ」
「なんだよ。そういうことはもっと早目に教えてよ」
「いやぁ、すっかり伝えたつもりで忘れてたっス」


 帰りの時間を気にしなくてよくなった俺達は、昼飯を食べた後にまた探索を続ける事にしたのだった。
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