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⑤ 「生成AI」

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⑤ 「生成AI」

 如志はこの3日間、ワクワクが止まらなかった。帰り道の商店街にあるリサイクルショップニコニコで偶然見つけたNEC製のスーパーコンピュータTSUBASAを自分のマンションで使用するために、街の電気屋に電話をかけまくり、最短で200ボルトの工事を行える業者を探し出し、マンションの管理会社に許可を取り、200ボルトのコンセントが今日設置されるのだった。
 この2日間は、講義の後、全ての教室が終了し建物が施錠されるまでの時間ギリギリまで専門学校のコンピュータルームに籠りTSUBASAの操作を繰り返していた。
 ハードディスクに残されたプログラムを精査する中でいわゆる「ブラックボックス」と言われるフォルダがあった。パスワードを入力しないと開くことができないフォルダだった。
 (システム保護のための「地雷・・」やったら嫌やから、あえて削除もせんと触らずに置いておこうかな…。)と静音ラックに貼られていた8桁の番号がはじかれたのでそのまま置いてある。

 それまで如志が使っていた「市販パーツ」ベースのカスタムパソコンのデータをコンバートしてみたところメモリ増加による演算スピードに驚いた。MIT時代に作った「イケメン養成ゲーム」をTSUBASAで起動してみた。
「がおっ!動画グラフィックが会話に追いつくわ!いままでのパソコンだったら遅れ気味だったのに…。さすがはスパコンだわ。これなら静止画で目と口だけ動かしてたのがフルCGでもいけそう!
 それにこの演算スピードなら、事前入力のセリフだけじゃなく生成AIで会話させることも可能かも…。いや、お気に入りの恋愛映画やドラマをネットで読み込ませて、イケメンの会話をディープラーニングさせれば、「先読みプログラム」を使って会話ができるわ。そうすれば、私が「プレロード」したセリフ以外にTSUBASAが勝手にセリフを生成してくれる。思いっきりサプライズな会話も楽しめるかな?
 対話相手の満足ワードパラメーターを設定すれば、私がどんな告白の仕方をしても受け入れてくれるはず。
 「スーパーイケメン」の3DVFXも専用のソフトを取り込めば、まさに理想のヴァーチャル彼氏の誕生だわ!何といってもVEメモリ48ギガバイトに増設なしでも4テラバイトの容量。やりたいこと何でもできちゃうわ!きゃー、どうしよう!」
と夢が広がった如志の口元からよだれが垂れた。

 それまでのカスタムパソコンでギクシャクしていた如志の試作していた自動対話プログラムもスパコンならすいすいと動くことが確認された。しかも、購入時に残っていたプログラムは如志が作ったプログラムより、2年古いにもかかわらず「同等」か「それ以上」の機能を持っていることがわかってきた。
 「日進月歩」のコンピュータプログラムの世界で2年の差は「大人と子供」くらいの差があってしかるべきなのだが、TSUBASAに残されていたプログラムは現在のチャットGTPを越える機能を有しているように如志には感じられた。

 (早く家でゆっくりと触りたいよね。今日中には家に持って帰られるんだからもう少しの辛抱よね。)と講義の間も自然に顔が緩んでいたようで、「生成AI活用論」の講義の感想・質問欄に、受講していた「JBP」から「里景先生、何かいいことありました?今日は凄く楽しそうでしたね。」と書き込みがあった。
 返事を入れようとも思ったが、講義終了時間に合わせて運送業者が「TSUBASA」と「静音ラック」を引き取りに来る予定になっている。管理会社が200ボルトの工事に立ち会ってくれているはずなので、運送会社と一緒に自宅マンションに帰ればその瞬間から「人目」をはばかることなく、自作の「イケメン」達と戯れることができるという欲望が勝ってしまった。
 「うん、今日は凄い「お友達・・・が家に来るの。ゆっくりチャットできないからまたね。」と「JBP」に返事を送ると、講義用のパソコンの電源を落とした。

 金曜日、更に如志を喜ばせるサプライズが続いた。週末のスタッフ会議で、「土日開催」の大手商社による「スパコン展示会」に出席する予定だった男性講師に「不幸」があり、離れた田舎に弔事で帰省することになったのだった。
 専門学校で使用する設備やソフトの導入を検討する係として急遽如志が指名され、元々出席予定だった男性講師から出品予定リストを手渡された。その中に、学生の就職活動用のデモンストレーション作品を作る際に使用するソフトも出品されていた。
 「翌年モデルの対話型GPTのサンプルデモソフトの配布」という文字が目に入った。男性講師に内容を尋ねるとソフト開発企業が製品発表の時点で採用事例として「コンピュータ専門学校」をうたいたいというので毎年協力しているという話だった。
「それって、コピーさせてもらったりできるんでしょうか?」
とストレートに尋ねると男性講師は笑顔で返事した。
「里景先生、そういえばスパコン買わはったんですね。まあソフトを転売とかせえへんかったらええと思いますよ。買えば数十万から数百万かかるソフトですからね。そこは、個人使用限定ってことでうまくやってください。」

 土日のスパコン展示会は如志にとってはパラダイスそのものだった。最新式の機材、ソフトのオンパレードに目移りしまくり、二日間とも開場の10時から閉場の18時まで昼食をとることも忘れひたすら各社のブースをまわった。
 どのブースに行っても「大阪CPTS」の学校名と「MIT修士」と入った如志の名刺の力は強く、こぞってサンプルソフトの提供とモニターを勧められ、更には現在テスト中の未公開商品に対する「意見」とのバーターでサンプルを受け取ることもできた。
 各種基本プログラムに加え、2次元、3次元の画像生成および動画生成ソフトに自動会話を含む音響プログラムを手に入れることができた。さらに最新のVRバーチャルリアリティーの動画撮影キットとヘッドセット付きのVRモニターの貸与を受けることができた。もちろん如志の研究の主題でもある「先読み自動会話ソフト」のサンプルも複数社からゲット済みである。
 さらに「完全に私用」となるが、現在「最高レベル」とされる「イケメンアイドル育成ゲーム」、「イケメン武将恋愛ゲーム」等「美少年・美青年」のキャラクターデザインを行っているソフトメーカーも出店しており、そこの女性イラストレーター兼プログラマーと意気投合した。如志の思い描く「自動会話」できる「最高の2次元彼氏」計画に同調してくれて、500パターン以上のイケメンキャラクターの生成プログラムも提供してくれた。
 
 大戦果の詰まった大きな紙袋を両肘にいくつも掛けて会場を出た如志は、西の空に落ちようとする夕陽にむかって叫んだ。
「これだけ自分で組めば数年。買えば1千万以上するものがわずか16時間で交通費以外ほぼ無料で手に入るなんて、これは神様が「理想の彼氏」を創れ・・っていうお告げを私に下したのよね。
 世界中の「フィクトセクシャル女子」の為に頑張れっていう「使命」なのよ。そうでなければここ1週間の出来事が説明できないわ!さて、今晩から頑張るわよ!がおーっ!」



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