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「内定」
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「内定」
幸が話している間、女は水晶玉に目をやり、男は四柱推命と書かれた本を開き、何やら色紙に書き込んでいるのが目に入った。2分の幸の自己紹介は、自分を売り込む「自己PR」と言うより困窮している自分を説明する「自己救済」のようだった。(わちゃー、一応就職面接なんだから、もっと自分を売り込まなきゃいけなかったんとちゃうんかなー?社長さんも専務さんも私の顔を全然見てなかったような気がするし…、こりゃ採用は無いかな…。くすん。)幸は一人で落ち込んだ。
紅音が緑に「どうやった?」と尋ねると「水…。全体的に悪く無かったで。社長のほうは?」と短く返事をした。「今は濁った黄色。二月後には赤とオレンジかな。まあ、採用でええんちゃう?」と紅音と緑が話すのを聞いて驚いた幸は
「えっ、採用してもらえるんですか?職務経歴書も読んでもらってないみたいですけど…。」
と二人に尋ねた。
「えぇ、採用よ。あなたさえよかったら、今日からここで働いてちょうだい。あぁ、もちろんあなたにも仕事を選ぶ権利はあるから、うちの事も説明しなきゃね。緑ちゃん、この子にうちの会社の事を説明しておいて。」
と言い残すと紅音は部屋を出ていった。
「じゃあ、今から小一時間、うちの仕事について説明させてもらうわな。わからへんことがあったら、途中でも質問してくれたらかまへんからな。」
と緑は幸に優しく話し始めた。
「準幸結婚パートナー紹介システムズ」は、いわゆる「結婚情報センター」であり、世間一般で一緒にされやすい「結婚相談所」とは違うと説明があった。「結婚相談所」と「結婚情報センター」の違いは、法的に明確な資格や登録制業務ではないため、結婚情報センターの中にも「結婚相談所」をうたっているところがあるが、根本的な違いは「仲人」の存在と「課金」システムの違いという事だった。
28歳を迎える幸の周りでもいわゆる「婚活」でこれらの「結婚相手を探すシステム」を利用しているという話は聞いたことがあったが明確な違いは理解できていなかった。そんな幸に緑は一台のタブレットを渡した。向かいの席でノートパソコンを操作するとタブレットの画面が変わっていく。最初に出た「結婚情報センターと結婚相談所の違い」とタイトルのついたページに解説が加えられた。
結婚情報センターは、求婚者の情報提供とお見合いパーティーの企画・開催までで、それ以外は関与しないところが多く、入会金と月会費とパーティー等の企画収入で運営されているところが多い。
それに対して、結婚相談所は入会金以外にいわゆる「お見合い」と呼ばれる男女二人での顔合わせの「デート」の斡旋に対して課金され、成婚時に礼金を支払うシステムでそこに仲人が存在するという事だった。
「へー、知りませんでした。仲人さんの有無と課金方法で違いがあるんですね。ちなみにネットでの「お見合いサイト」や「婚活サイト」と「結婚情報センター」は何が違うんですか?」
幸が質問をすると、緑は数ページ飛ばして、「お見合いサイトのメリット・デメリット」と書かれたページに移った。解説を聞くと、真面目な「お見合いサイト」も存在するのだが、多くのお見合いサイトは情報入力が登録会員に一任されているため、「所得」、「プロフィール」等の結婚相手を見つけるに際しての「情報ファクター」の信頼度が、結婚情報センターや結婚相談所と比べると低いと言って笑った。
「極端な話やけど、プロフの写真ですら本人が選んで張り付けるんやから「他人」の写真が貼ってあってもわからへんのが「お見合いサイト」やな。基本的には「出会い系サイト」と同じで、女性会員は「無料スタート」ができるなんてところがメリットやけど、「結婚」を餌にした「やり目(※身体目当ての男の意)」や「詐欺」が多いのも特徴やな。まあ、全て「自己責任」って納得できる人は、会員登録してプロフさえ乗せれば、後はメールが来るのを待つだけやからええけどな。カラカラカラ。」
「ふーん、そういう違いがあるんですね。確かに私の友達も登録したら凄い数のメールが来て、ようやくあったらその「やり目」の人ばっかりやったって文句言ってました。あと、会って見たらプロフも登録情報もみんなウソって人もいたって聞いてます。ここはそういうリスクはないんですね?」
幸が尋ねると、緑は、基本的に結構情報センターや結婚相談所は「独身証明」、「所得証明」の原本の提出はルールやし、違反通報があれば即時退会ってルールがあるから、入会時の「釣書」は正確だと説明した。
さらに結婚情報センター間の情報共有や相互の交流パーティーなどが企画されることもあって、会員数が多く選択肢が広いのがメリットであり、複数人との仮交際が認められていない点が結婚相談所との違いだと解説した。また、基本的に「放置プレイ」と言いつつも、最近はADがつく結婚情報センターも多く、「準幸結婚パートナー紹介システムズ」もAD制を採用していると加えられた。あと結婚相談所は、お見合い(デート)後の「断り」があった際の理由を伝えるのが基本だが、結婚情報センターでは基本的にそれはしないという。
「そりゃそうよね。断られたってことは、「ダメ出し」されるってことだもんね。わざわざ落ち込みたくはないよね。はぁーっ。」と幸がため息をつくと
「でも、うちは状況によっては話すで。おそらく、日本一おせっかいな「結婚情報センター」やからね。うちのADは変わった人やからじゃんじゃんそこは介入していくねん。まあ、自分を変えられへん人は結婚率も低いからそこはあえてうちは「傷に塩を塗り込む」こともするねん。まあ、後でうちのADにも会ってもらうけど、他は女性のADが基本やねんけど、うちは「太った中年のおっさん」やねん。まあ、無茶苦茶言うけど、凄い人やから驚かんように先に言うとくわな。カラカラカラ。」
緑は笑いながら幸に言うと、タブレットのページをめくった。
「薄井さんにやってもらうのはなぁ…。」と事務員の業務の説明に入った。基本的な事務所への電話の取次ぎ、入会者のプロフのデータベース入力、パーティーや企画ものの手配、会員へのメールマガジンの送付手続きと一般的な事務員の職務の最後に「ADのアシスタント」という一文があった。(ん、ADって相談員さんみたいなもんやろ?そのアシスタントって何?聞いといたほうがええんかな?それとも、業務の中で覚えていったらええことなんかな?)と迷っていると「なにか引っかかることある顔やね?後から「聞いてないよー」って言われたくないから、何でも聞いといてよ。」と心の中を読まれたかのように、緑が助け船を出してくれたので
「「アシスタント」って何をするんですか?私、恥ずかしい話ですけど、「年齢」=「彼氏いない歴」で交際暦ゼロで、恋愛経験もないんです。どちらかと言えば、「腐女子」系趣味なんで結婚しようとするカップルさんのお手伝いなんかできるかどうか…。」
と不安を言葉にした。
「専務―、新しい事務員さんが来たんやて?お邪魔させてもらうでー!」
応接室の表から声がかかると、緑の返事を待たずに赤い作業用ブルゾンに作業用ズボンで裸足にサンダル姿の太った男が入ってきた。
「あー、ちょうどよかった。今、副島さんの話をしようとしてたとこやったんですよ。どうぞ、かけてください。」
と緑が副島と呼ばれる男に下手に出た。男は緑の隣のソファーに「どっか」と座ると、幸の履歴書と職務経歴書を見た。
「へー、「薄井幸」さん、27歳!大手居酒屋チェーンで「店長歴有り」か。酔っぱらいのクレームとかやってきてるんやったら、こりゃ心強いな!ええ子見つかってよかったやないですか!」
と男は緑に大きな声をかけると、緑が幸に紹介した。
「うちのADやってもろてる、副島勝さん。うちがお世話になってる司法書士事務所のコンサルタントやねんけど、時間があるときはうちの仕事も手伝ってもろてるねん。まあ、こてこての大阪のおっちゃんってところやな。副島さんが間に入ってくれた案件はめちゃくちゃ成約率が高いんよ。」
幸が話している間、女は水晶玉に目をやり、男は四柱推命と書かれた本を開き、何やら色紙に書き込んでいるのが目に入った。2分の幸の自己紹介は、自分を売り込む「自己PR」と言うより困窮している自分を説明する「自己救済」のようだった。(わちゃー、一応就職面接なんだから、もっと自分を売り込まなきゃいけなかったんとちゃうんかなー?社長さんも専務さんも私の顔を全然見てなかったような気がするし…、こりゃ採用は無いかな…。くすん。)幸は一人で落ち込んだ。
紅音が緑に「どうやった?」と尋ねると「水…。全体的に悪く無かったで。社長のほうは?」と短く返事をした。「今は濁った黄色。二月後には赤とオレンジかな。まあ、採用でええんちゃう?」と紅音と緑が話すのを聞いて驚いた幸は
「えっ、採用してもらえるんですか?職務経歴書も読んでもらってないみたいですけど…。」
と二人に尋ねた。
「えぇ、採用よ。あなたさえよかったら、今日からここで働いてちょうだい。あぁ、もちろんあなたにも仕事を選ぶ権利はあるから、うちの事も説明しなきゃね。緑ちゃん、この子にうちの会社の事を説明しておいて。」
と言い残すと紅音は部屋を出ていった。
「じゃあ、今から小一時間、うちの仕事について説明させてもらうわな。わからへんことがあったら、途中でも質問してくれたらかまへんからな。」
と緑は幸に優しく話し始めた。
「準幸結婚パートナー紹介システムズ」は、いわゆる「結婚情報センター」であり、世間一般で一緒にされやすい「結婚相談所」とは違うと説明があった。「結婚相談所」と「結婚情報センター」の違いは、法的に明確な資格や登録制業務ではないため、結婚情報センターの中にも「結婚相談所」をうたっているところがあるが、根本的な違いは「仲人」の存在と「課金」システムの違いという事だった。
28歳を迎える幸の周りでもいわゆる「婚活」でこれらの「結婚相手を探すシステム」を利用しているという話は聞いたことがあったが明確な違いは理解できていなかった。そんな幸に緑は一台のタブレットを渡した。向かいの席でノートパソコンを操作するとタブレットの画面が変わっていく。最初に出た「結婚情報センターと結婚相談所の違い」とタイトルのついたページに解説が加えられた。
結婚情報センターは、求婚者の情報提供とお見合いパーティーの企画・開催までで、それ以外は関与しないところが多く、入会金と月会費とパーティー等の企画収入で運営されているところが多い。
それに対して、結婚相談所は入会金以外にいわゆる「お見合い」と呼ばれる男女二人での顔合わせの「デート」の斡旋に対して課金され、成婚時に礼金を支払うシステムでそこに仲人が存在するという事だった。
「へー、知りませんでした。仲人さんの有無と課金方法で違いがあるんですね。ちなみにネットでの「お見合いサイト」や「婚活サイト」と「結婚情報センター」は何が違うんですか?」
幸が質問をすると、緑は数ページ飛ばして、「お見合いサイトのメリット・デメリット」と書かれたページに移った。解説を聞くと、真面目な「お見合いサイト」も存在するのだが、多くのお見合いサイトは情報入力が登録会員に一任されているため、「所得」、「プロフィール」等の結婚相手を見つけるに際しての「情報ファクター」の信頼度が、結婚情報センターや結婚相談所と比べると低いと言って笑った。
「極端な話やけど、プロフの写真ですら本人が選んで張り付けるんやから「他人」の写真が貼ってあってもわからへんのが「お見合いサイト」やな。基本的には「出会い系サイト」と同じで、女性会員は「無料スタート」ができるなんてところがメリットやけど、「結婚」を餌にした「やり目(※身体目当ての男の意)」や「詐欺」が多いのも特徴やな。まあ、全て「自己責任」って納得できる人は、会員登録してプロフさえ乗せれば、後はメールが来るのを待つだけやからええけどな。カラカラカラ。」
「ふーん、そういう違いがあるんですね。確かに私の友達も登録したら凄い数のメールが来て、ようやくあったらその「やり目」の人ばっかりやったって文句言ってました。あと、会って見たらプロフも登録情報もみんなウソって人もいたって聞いてます。ここはそういうリスクはないんですね?」
幸が尋ねると、緑は、基本的に結構情報センターや結婚相談所は「独身証明」、「所得証明」の原本の提出はルールやし、違反通報があれば即時退会ってルールがあるから、入会時の「釣書」は正確だと説明した。
さらに結婚情報センター間の情報共有や相互の交流パーティーなどが企画されることもあって、会員数が多く選択肢が広いのがメリットであり、複数人との仮交際が認められていない点が結婚相談所との違いだと解説した。また、基本的に「放置プレイ」と言いつつも、最近はADがつく結婚情報センターも多く、「準幸結婚パートナー紹介システムズ」もAD制を採用していると加えられた。あと結婚相談所は、お見合い(デート)後の「断り」があった際の理由を伝えるのが基本だが、結婚情報センターでは基本的にそれはしないという。
「そりゃそうよね。断られたってことは、「ダメ出し」されるってことだもんね。わざわざ落ち込みたくはないよね。はぁーっ。」と幸がため息をつくと
「でも、うちは状況によっては話すで。おそらく、日本一おせっかいな「結婚情報センター」やからね。うちのADは変わった人やからじゃんじゃんそこは介入していくねん。まあ、自分を変えられへん人は結婚率も低いからそこはあえてうちは「傷に塩を塗り込む」こともするねん。まあ、後でうちのADにも会ってもらうけど、他は女性のADが基本やねんけど、うちは「太った中年のおっさん」やねん。まあ、無茶苦茶言うけど、凄い人やから驚かんように先に言うとくわな。カラカラカラ。」
緑は笑いながら幸に言うと、タブレットのページをめくった。
「薄井さんにやってもらうのはなぁ…。」と事務員の業務の説明に入った。基本的な事務所への電話の取次ぎ、入会者のプロフのデータベース入力、パーティーや企画ものの手配、会員へのメールマガジンの送付手続きと一般的な事務員の職務の最後に「ADのアシスタント」という一文があった。(ん、ADって相談員さんみたいなもんやろ?そのアシスタントって何?聞いといたほうがええんかな?それとも、業務の中で覚えていったらええことなんかな?)と迷っていると「なにか引っかかることある顔やね?後から「聞いてないよー」って言われたくないから、何でも聞いといてよ。」と心の中を読まれたかのように、緑が助け船を出してくれたので
「「アシスタント」って何をするんですか?私、恥ずかしい話ですけど、「年齢」=「彼氏いない歴」で交際暦ゼロで、恋愛経験もないんです。どちらかと言えば、「腐女子」系趣味なんで結婚しようとするカップルさんのお手伝いなんかできるかどうか…。」
と不安を言葉にした。
「専務―、新しい事務員さんが来たんやて?お邪魔させてもらうでー!」
応接室の表から声がかかると、緑の返事を待たずに赤い作業用ブルゾンに作業用ズボンで裸足にサンダル姿の太った男が入ってきた。
「あー、ちょうどよかった。今、副島さんの話をしようとしてたとこやったんですよ。どうぞ、かけてください。」
と緑が副島と呼ばれる男に下手に出た。男は緑の隣のソファーに「どっか」と座ると、幸の履歴書と職務経歴書を見た。
「へー、「薄井幸」さん、27歳!大手居酒屋チェーンで「店長歴有り」か。酔っぱらいのクレームとかやってきてるんやったら、こりゃ心強いな!ええ子見つかってよかったやないですか!」
と男は緑に大きな声をかけると、緑が幸に紹介した。
「うちのADやってもろてる、副島勝さん。うちがお世話になってる司法書士事務所のコンサルタントやねんけど、時間があるときはうちの仕事も手伝ってもろてるねん。まあ、こてこての大阪のおっちゃんってところやな。副島さんが間に入ってくれた案件はめちゃくちゃ成約率が高いんよ。」
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