『新人結婚パートナー紹介アドバイザー薄井幸奮闘記~彼氏歴無しの私が結婚アドバイザーってできるの?~』

あらお☆ひろ

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「AD《アドバイザー》の仕事」

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ADアドバイザーの仕事」

 緑が副島をよいしょする話を聞いていると結婚情報センターのADの仕事が良くわからなくなってきた。個別相談でのアドバイスや、マッチングの手伝いやパーティーの進行やバックアップ役と思っていたが副島の業務はそれにとどまらなかった。初回面談での「申し込み前の偏差値認識」に始まり、「理想の結婚とは」というミニ講義で申し込みの見込み客の3割はその時点でふるい落とし、断るという方針を許す会社の方針は意外だった。
「結婚する気のない奴や、結婚するために自分を認識してへん奴と自分をよう変えへん奴は文句言うだけやから仕事の邪魔やん。」
と平気で言い切る副島に緑は悪びれることなく
「副島さんが見切ってくれた客は結婚までが早いわな。まあ、うちの方針に合えへん客はよそで「運任せ」のパートナー探ししとったらええねん。うちは社長や副島さんが他所では絶対にできへんマッチング方法を取るからな。デートに同行するなんてサービスはよそでは絶対にできへんで。せやから、結婚情報サービスの「最後の砦」って呼ばれるねんな。
 薄井さんもぼちぼち同席してサポートできるようになってくれたら助かるわ。やっぱり女性ADを希望する会員さんも少なからずおるからな。」
と言い切った。

 「ちなみに、ここでの「成婚率」ってどれくらいなんですか?電車のつり革広告や、ネット広告見てると「成約率95%」とか出てるじゃないですか。「最後の砦」というからにはここはそれ以上なんですか?」
幸が尋ねると緑と副島が腹を抱えて大声で笑った。笑う理由を尋ねると、副島がノートを開きメモを書きながら幸にわかりやすいように具体的数字を示しながら説明をし始めた。
 準幸結婚パートナー紹介システムズの公表成婚率は「66.9%」とのことだった。
「じゃあ、大手結婚情報サービスの3分の2しか決まらないってことですか?」
と幸が質問をすると再度大声で笑われた。「まあ、そう思うのが普通やな。いわゆる数字のマジックに騙されるってやつで、大手業者の「思うツボ」ってやつやな。」と副島が言うと、再びノートに書き込んだ。
『大手結婚情報サービスの成婚率の計算方法(例)』
① 成婚時に会員であったものを母数とする。
② 途中退会したものは母数に含まない。
③ 成婚率は創業時からのトータルとする。
④ 成婚までの期間は成婚したものだけの会員登録期間とする。
『準幸式成婚率の計算方法』
① 入会者全員を母数とする。
② 途中退会者も母数に含む。
③ 成婚率は年度ごとの結果も公表中。
④ 成婚期間は、未成立会員も含め1年刻みで含めて計算する。

 「んー、どういうことですか?明らかにうちは不利な数字をベースにしてますよね。よその大手は結局結婚できなくて退会した人や、結婚を諦めて辞めた人は母数に入れて無くて、しかも過去の成婚数も公表してる「成婚率」に含めてるんでしょ?現在登録してる人の95%が成婚するってことじゃないですよね。
 それに対してうちは全員を対象にして、しかも過去の実績を除いた1年ごとの実績を公表してるんですよね。それでの3分の2って凄いことなんじゃないですか!
 でも、私みたいな素人には、大手の言う95%や大きな会員数の会社に目が向いちゃいますよね。」
幸が半分しか理解できない様子で再質問を投げかけた。
 緑が微笑んで幸に言った。
「だから「最後の砦」なんよ。よそで1年、下手すりゃ3年も5年も結婚相手が見つかれへんかった人が来て、うちでパートナーを見つける。これって凄いことやろ。まあ、そこにうち独特のノウハウがあるんやけどな。」

 「それが、門前払いに繋がってるんですか?でも、入会金取れなかったら利益あがらないじゃないですか?」
幸は首をひねって尋ね直した。
「せやな。だから、うちは結婚相談所と結婚情報サービスの「ハイブリッド」でやってんねん。そして、サクラは一切使わへん。誰でも登録会員とコンタクトはとれるし、成約レビューもほんまに結婚した人だけで、条件を受け入れてくれたカップルには、新規顧客への電話でのアドバイスや面談までしてくれる。もちろん、そのフィーはうちが払う。そして、それらは、会員が選ぶ任意のサービスやから、結婚できへん奴や、すぐに離婚するような奴は会員に入れへんって訳や。
 薄井さんは履歴書見たらええ学校の文学部心理学科を出てるんやな?そしたら、「ウインザー効果」や「バンドワゴン効果」って習ったやろ。」
「はい、副島さんが言った二つは企業マーケティング心理学で勉強しました。ウインザー効果は第三者を介した情報の方が影響が大きくなって信ぴょう性を増すってやつで、いわゆる「広告」より「口コミ」の方が消費者には影響を与えるってやつですよね。「バンドワゴン効果」は「勝馬に乗る」ってやつですよね。皆が持ってるものを人は望むってやつで、行列のできる店に並ぶ方が満足度が高いって学びました。」
と学生の頃を思い出しながら答えた。

 「ほー、よう勉強してたんやな?それとも居酒屋におったときに実感したか?」
と副島は感心して言った。それからその二つの理論を結婚情報センターに当てはめて解説を始めた。
 準幸結婚パートナー紹介システムズOBに生の話として、他社での結果やここのシステムに上手に乗ることが「早道」であることを会員に聞いてもらうことや、子供を持ったOBは「結婚しない幸せ」は「負け惜しみ」であることと「子供を持つ幸せ」を生で聞き、「多少貧乏でも、遊ぶ時間は無くなっても結婚したものにしかわからない「幸せ」を語ってもらうことで婚活に前向きになる」という事だった。
 さらに準幸結婚パートナー紹介システムズで、入会前に面談をする理由に「釣書の書き方」についてのアドバイスがあり、大半はその場で書き直しをさせるという話と、「表釣書」と「裏釣書」を作ると副島は言った。

 「えっ、「裏釣書」って何ですか?「釣書」に裏の表も無いでしょ?」
と尋ねると、2枚の釣書を幸の前に置いた。写真と住所氏名を塗りつぶされた男女の釣書だった。27歳、プログラマーの男性の釣書の趣味欄には「スポーツ観戦」、「映画鑑賞」、「食べ歩き」、「読書」とあり、自己紹介欄には「ここ数年、忙しく特定の彼女は居ませんでした。少し人見知りな性格です。」と書かれていた。29歳の上場会社勤務の女性の釣書には趣味欄には「旅行」、「ゲーム」、「野球観戦」、「マンガ」と書き込まれ、自己紹介欄には「周りからは若く見られると言われますが、もうすぐ30なので落ち着きたいと思い、真剣な交際していただける方を探しています。」とあった。2枚の釣書を一通り読んで幸は副島に返事をした。
「2人とも普通じゃないですか?まあ、男性は正直に「人見知り」って書いてるし、趣味は女性受けしそうですよね。女性の方も「もうすぐ30なので真剣な交際をしたいって本音で書いてるでしょうし、「ゲーム」や「マンガ」ってかっこつけずに書いてるところが好感持てますけど…。」

 「ふーん、この二人うまくいったと思うか?もし決まったとするならば、何がポイントやと思う?」と尋ねる副島の横で緑が笑いをこらえている。
「うーん、今一つマッチ感は無いですけど、「人見知り」をうたう男性に「30を前に焦る」女性がマッチするかどうかですよね。趣味はざっくり過ぎてこれでは何とも言えないですね。」
と答えた。

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