『新人結婚パートナー紹介アドバイザー薄井幸奮闘記~彼氏歴無しの私が結婚アドバイザーってできるの?~』

あらお☆ひろ

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「交流アプリと無理難題」

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「交流アプリと無理難題」

 令和4年9月1日、幸が「準幸結婚パートナー紹介システムズ」に入社してひと月が経った。一人かずとと意見を出し合って作成した会員向け「本音トーク」アプリも開発成功を納め、運用が始まっていた。
 副島に教えを受けながら、五行での相性を元にグループトークを行ったり、ニッチな趣味をテーマに試行錯誤を繰り返すうちに、幸がその責任者に指名された。一人も「準幸」の事務所に顔を出す機会が増え、必然的に幸と話す機会も増えた。そんな中、突然、幸は紅音と緑に「社長室」に呼び出された。
「薄井さん、試用期間も終わってもう仕事も慣れたわね。来週から30日間、私と緑さんで世界旅行に行くから、事務所の運営は任せるわね。まあ、権限を持ってもらうって意味で、副島さんに会社登記を変更してもらって、薄井さんを取締役にしておくから頑張ってね。」
「えっ?言ってる意味がわかりませんが?」
 幸は紅音からいきなり何を言われてるのか理解できなかった。
「まあ、いざとなったら副島さんに声をかけたらええからな。無理に新規会員を募集せんでもええけど、今の会員さんのフォローはしっかりと頼むわな。」
と緑からも無茶ぶりをされ、断る機会は与えられなかった。

 「はー、社長も専務も無茶苦茶よねー。普通、入社ひと月の事務員に会社任せて世界旅行行くか…?」
とため息をついていると、「おじゃましまーす」と一人が入ってきた。
 交流アプリの改良を行ったので使って見てほしいとのことだった。既存会員もメールで送ったアドレスからグループトークに参加できるようになったことと「男女」の区別がアイコンでわかるようになった。興味のあるジャンルのトークグループを本部に送信して、承認を受ければその話題でグループトークが行えるようにしたことと、新しいグループができたことを通知する機能がついたとのことだった。
「例えば、「歴史好き集まれ」をさらに絞って「イケメン武将を許せる歴史好き集まれ」としたり、「歴史史跡を一緒に回れる人募集」とかより細かいニーズを反映できるようにしたんですよ。各会員が自分の趣味に合う人を細かく探すにあたって、仮名で情報を発信できるんで副島さんの「裏釣書」が無くても会員間でニッチ趣味を持つ人を探せるようにしました。
 グループの乱立を避けるために、48時間以内にコンタクトが無かった「お題」は自動で削除できるようにもしました。薄井さんは、会社のパソコンで一括して管理できますので一度使ってみて下さい。」
「ふーん、一人君って凄いね。たった一月で、ソフトを組んで更に改良も加えてすごく使い勝手が良くなってきてるもんね。じゃあ、早速、会員さんに通知するわね。」
 幸は一人に説明を受けながら、会員に「新着情報」として「趣味マッチングアプリ」の通知メールを一斉送信した。

 効果は覿面てきめんだった。「一本の映画について語るグループ」や「一曲のJ-POPについて話し合うグループ」が立ち上がり、それなりの賑わいを見せるグループが現れた。最初から、細かい「お題」でスタートすることと話下手でもラインと同じように文字入力で参加できるので「草食系総受け男子」も多く参加した。副島も「おー、これはよくできたシステムやな。わかりやすくて参加しやすい。グループ内で直接連絡先を交換し合うのを禁止したから、「抜き」行為もあれへんわな。」と幸と一人を褒めた。
 初日からマッチング面談希望の申し出が集まり、気をよくした紅音と緑は幸に全てを預け「じゃあ、うまくやってね!」と旅立った。 

 交流アプリきっかけのカップルが発生するのに時間はかからなかった。そんな中、「34歳結婚歴無しの女性です。4週間以内に結婚できる人いますか?」といった「お題」が立ち上がった。つい2週間前に会員登録した女性で、申込時に幸も立ち会った「五十木益代いそぎ・ますよ」という会員だった。
 一時、「何か理由があるんですか?」とか「病気で余命が短いとかですか?」といった質問も上がった。
「4週間以内に結婚相手を見つけないと、親が勧める「嫌な相手」と結婚させられるんです。とにかく、興味のある人は連絡ください。」との回答が「お題提供」した女性からアップされると、そのグループのアクセスは一気に引いた。
「うーん、さすがにこれは難しいよな。4週間以内に交際相手を見つけるやなくて、結婚やもんな…。」
と幸がため息をついていると、デート同行の予定だった副島が事務所に来た。
「なんや、薄井さん、ため息ついてると「幸せ」が逃げて、鬼が来てまうで。何か悩みでもあるんか?」

 幸は「さすがに敏腕ADのおっちゃんでもこれは無理やろ?」とあきらめ顔で五十木の話をした。
「ふーん、この子の希望はなんや?ちょっと釣書の希望欄と連絡先を打ち出してや。」
と言われ、幸はプリンターを動かした。
「へー、ほんまに「早く結婚できる人」だけが条件やねんな。偏差値50以上の顔してるし、相手の年齢や顔や職業も年収もそんなに気にせえへんって、わかりやすくてええやないか!深い紺から近日ピンクか…。いっちょ、骨折ったろか。ちょっと直接聞きたいこともあるから、この子に電話してみてんか?」
「えっ、アテがあんの?4週間やで?」
幸は驚いて聞き返したが、副島に催促されて五十木益代に電話をかけた。
 副島は応接に移動し20分程、五十木と話をすると出て来て
「薄井さん、今週の休み空いてるか?五十木さんとおいちゃんと一緒に北海道行くか?LCCで3人分、釧路行きの飛行機とレンタカーの予約入れとってくれるか?」
と真顔で幸に言った。

 詳しく説明を受けることなく、次の休みに幸は副島と五十木と一緒に機上の人となった。釧路空港でレンタカーを借りると、五十木を助手席に、後部座席に幸を乗せると車を北へと走らせた。車内は気さくな副島のおしゃべりが続いている
 牧草と牛の糞の臭いの中、車は放牧地を抜け、神標津町かむいしべつちょうに着いた。集会所のような建物の前に車を停めると、中から15人の男性がぞろぞろと出てきた。
「さて、五十木さん、下は25歳から上は48歳。初婚もバツイチもおるし、子持ちもおる。総勢15名の「嫁募集中」の神標津酪農組合のみなさんや。みんなええ人ばっかりやから、ちょっとした「ハーレム」やで。ここに居る人は、いつでも結婚ウエルカムな人やからな。おいちゃんの顧問先で、酪農で牛飼ってるだけやなくて、「6次産品」っていって、村のみんなで「チーズ」や「ローストビーフ」なんかの加工品を製造販売したり、水耕栽で付加価値の高い無農薬野菜なんか作ってるねん。
 今、ここには独身男性しかいてないけど、村全体ではこの3年で大阪からも十人以上の女の子が嫁いできてるから、寂しい思いはせえへんと思うで。まずは、歓迎会で皆の自己紹介からやな。」
 副島は、五十木を前にして集会所に入っていった。

 副島がコンサルタント契約を結ぶまでは、過疎化が進んでいた神標津酪農組合だったが、商品開発だけでなく販路開拓も行い、結婚してここに住む女性スタッフが東京や大阪にも営業に出かけることも多く、単なる田舎暮らしではないことが説明された。その後、組合の作業場に案内され多くの女性が「関西弁」を使い、生き生きと働いていることも確認できた。副島は笑いながら五十木にここでの暮らしを説明した。
「まあ、五十木さんが望むんやったら、気に入った人が見つかるか、誰も結婚対象になれへんわって思うまではここで過ごしたらええよ。作業場での仕事はなんぼでもあるし、もちろん牛の世話をしたけりゃそれもええ。
 寒いのが苦手やなかったら、北海道の冬もええもんやで。実際に、ここで縁を結んだ人で離婚した人は誰もおれへんからな。ここは、完全に女の人の「売り手市場」やから、仮に離婚してもすぐに再婚相手は見つかるわ。ただ、「不倫」だけはやめてな。」

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