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「目指せ!ミリオネラ!」
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「目指せ!ミリオネラ!」
9月24日、若さに任せて現地時間に合わせ睡眠をとった夏子と陽菜は快適な朝を迎えていた。窓の外が白んでくると同時に目が覚めた夏子は、隣のベッドで寝ている陽菜に気を使い音を立てないようにベランダに出た。ホテルの中層階にある部屋からロサンゼルスの街が見える。高層ビルが建つ街並みだが大阪とも東京とも違う感じがするのは、地上を走る鉄道がないからだろう。一年間を通じてロスの平均気温は14度から25度。頬にあたる風はほとんど雨の降らない地中海性気候のせいか、大阪と違いカラッとしている。
夏子はベランダにある折り畳み式のキャンプチェアーに深々と腰掛け、バドワイザーの栓をあけた。乾いた空気に、日本で飲んだときには「ようこんな「薄い」ビールをアメリカ人は飲みよんなぁ。」と思っていた味がマッチする。
スマホを取り出すと、まりあから「アメリカのバトルロイヤルの雰囲気を掴むためにユーチューブで確認しとけよ!」と言われていたのを思い出し、ふと、指を止め「目指せミリオネラ 日本語吹き替え」と入力した。
数十本の動画がお勧めリストに並んでいた。(へー、日本語吹き替えでも軒並み30万ビュー越えてる…。世界的な人気番組っていうのはほんまやったんやな。)と思いながら一番上の動画をタップした。
日本のバラエティーでは考えられない派手なセットに、キラキラのタキシードとドレスを着た男女のコメディアンが仰々しく入場し、客席が湧く。吹き替えの声優のノリが画像についていってない気はするが、それなりの「熱」は伝わってくる。
そこに女性三人ずつのチームがスモークと紙吹雪の中から登場し、各々の席に着く。片方のチームは「100万ドルゲットしたらニューヨークマンハッタンのMSGで二万人の「サクラ」を雇ってライブがしたい」と言う29歳の女子バンドトリオだった。もうひとチームは「売却される予定の出身孤児院を買い取りたい」という地味な男女3人組だった。
「バンド」チームの方が見た目のインパクトが強く、視聴者から支持されているのかと思っているとそうでないことがわかってきた。チャレンジャーが登場すると、センターのモニターにその前5日間のビデオ映像が流されるようだった。どうやらこの動画は4週目という事で3回戦目の映像が流されている。
「バンド」チームは、幻の高山植物を発見するというミッションで、アコンカグアに登り、高山病と戦いながら、時に仲間うちで喧嘩をしつつ、最終的にミッションクリアで30万ドルの報酬がカウントされた。「孤児院チーム」はスーダンの「地雷除去の手伝い・15個ノルマ」というお題で、国連NGOに参加してのまさに「命がけ」のロケになっていた。実際に出演者の一人が、ゲリラに銃撃され誘拐されそうになったシーンは「やらせ」や「仕込み」には見えなかった。報酬は「地雷撤去を積極的に応援しているスポンサー企業」が提供する25万ドルのお題だった。
双方4日間ミッションで成功し、報酬をそのまま得られるのかと思っていると、会場の審査員、観客、ネット投票での得票により、獲得報酬が最低0.5倍から最高2倍になるルールだった。
(まあ、これは29歳と「カド」はたちかけやけど、見た目かわいい「バンド」組の勝ちやろ。)と夏子は思い、バドワイザーをあおった。ここで一度、チャレンジャーの二組は会場を退出した。司会者が、バンドチームを隠し撮りしたであろうビデオを流す指示をした。
その動画では、バンドチームが地元シェルパを50ドルで買収し、お題の草を取ってこさせ、バンドチームが見つけたという芝居を要求していた。シェルパ仲間が不正を記録していたのだった。また、その後には、孤児院チームが2回戦までで得た報酬の一部を地雷で足を亡くした子供たちの義足を作る施設に寄付しているシーンが流された。もちろん、これらの動画にも「やらせ」の雰囲気はない。
それらのビデオが流された後、どちらのチームを支持するのかの投票が行われ、結果は夏子の最初の予想と真逆で孤児院チームが「1.8倍」の報酬を得て、バンドチームは「0.6倍」との結果だった。
番組の締めは次の5日間のお題がデジタルルーレットで決められる。各チーム最後の一回の収録100万ドルに届くよう「希望報酬」に見合ったお題ルーレットを選んで回した。後がないバンドチームは、50万ドルと言う高額報酬を目指してオーストラリアで異常繁殖し街に出入りするクロコダイル10匹以上の捕獲と言う非常にリスキーな「お題」を引き当て悲鳴を上げた。
派手な衣装の司会者が「ギターとベースの人は噛まれるんだったら足にしなさいね!」とアメリカンジョークを飛ばして会場の笑いを取ったが、チャレンジャーは真剣に青ざめていた。孤児院チームは残り20万ドルのお題は、まさに「クラウドファンディング」で「20万ドル集める」がお題となり、その為の公募や宣伝活動に5日間あてるという事になるのだろう。ラストは参加チームの反省の弁と次回への期待のコメントで番組は幕を閉じた。
(ゲロゲロ、本気か…?アメリカのバラエティって…)と思っていると「なっちゃんおはよう!えらい早起きやな。朝ご飯は舩君も誘って表に食べに行くでええかな?」と寝ぼけた顔の陽菜がベランダに出てきた。「ああ、それでええよ。」と夏子は答えユーチューブの接続をを切断した。
ホテルの前の通りにあるテイクアウト専門のホットドッグとアイスティーを買い、公園のベンチで軽めの朝食を済ませて、部屋に戻るとまりあから呼び出しの電話がかかってきた。羽藤と直も一緒にいた。夏子と陽菜がベッドに腰掛けると開口一番
「夏子、陽菜、お前らあほなテレビ番組に出たりせえへんやろな。昨日、送ってこられた「契約書」を羽藤さんに見てもらったんやけど、「死んでも文句は言いません。」っていうとんでもない番組やぞ。ニコニコプロレスの代表としては、この番組の出演は認めへんからな。」
ときつめの言葉が出た所に、稀世が顔を出した。
「なっちゃん、陽菜ちゃん、なんかテレビ出演の誘いが来たんやて?前座でテレビ映るんや無くて、「なつ&陽菜」がメインの出演者として全世界に流れるんやろ?私は応援するで!」
まりあは稀世に「もうややこしくせんといて!「出演禁止」って言うたとこやねんからな。」と話をカットした。夏子は
「心配せんでも大丈夫ですよ。ハンコも持ってきてへんし、「目指せ!ミリオネラ!」の吹き替え版見ましたけど、あんなあほな番組に命なんかかけられませんよ。まあ、「マリ・マド」の二人に、リングの上で地獄を見せてやって、まともな形でメジャーを目指しますから!」
と宣言したが羽藤は「アメリカは契約社会ですから、気をつけてくださいね。ハンコなんかなくても、サインでも公の場での宣言でも「契約」となるのが「アメリカ」ですからね。」と夏子に念を押した。
打ち合わせが終わると、半日のフリータイムという事で羽藤を除く八人はユニバーサルスタジオに遊びに行った。
25日のWWEの大会当日、試合会場の上空には多数のドローンが飛び、見事な編隊飛行で「WELLCOME WWE!」、「AM.10:00 OPEN」などと青空にメッセージを刻んでいる。
稀世たちは会場ロビーでアグネスとマチルダからロサンゼルスの地方紙の記者セシル・ハリスを紹介された。「アグ・マチ」コンビとはデビュー時からの知り合いで、別のインディーズ団体でマスクマンをしているという事だった。
「俺はセシル・ハリス。「デイリーLA」の記者だ。アグ・マチもそうだが、ニコニコプロレスのみんなもいろんな事件に首を突っ込んでる正義の味方らしいな。今回も何かやらかすなら独占取材させてくれな。」
と自動翻訳機を使って挨拶されると、稀世が
「そんなん堪忍してくださいよ。日本語の通じへんところじゃなんもできへんしね。」
と返し握手を求めたところ、セシルは稀世の手を取りしげしげと眺めた。
「俺の仲間でユジン・バレンシアっていう東洋医学や東洋占いに詳しい奴がいて教えてもらったんだけど、ミセス稀世の手相は「破天荒」っていうトラブルメーカーの指紋と「転生天」っていう周りを巻き込んでの命がけの場面に何度も出会う手相をしてるな。うーん、なるほどなるほど…。」
と意味深の言葉を残すと「まあ、今の「アグ・マチ」は強いぜ!いいマッチを期待してるよ。」と言い残し次の取材対象に向かっていった。
(うーん、ロサンゼルスまで来て「不安」になるようなこと言わんとってほしいなあ…。)稀世は思ったが、次のメディアインタビューが来たので気持ちを切り替えた。
午前10時に開場し、午前11時からの20分のバトルロイヤルを皮切りに、メインイベントの午後9時までみっちり詰まったスケジュールの最初のマッチである、地元インディーズ団体の女子レスラーによるバトルロイヤル出場の選手が大部屋の控室に集まっていた。その中に、昨晩会ったKCBSのディレクターのジェフとADのジャリルとカメラの姿も見えた。ジャリルは夏子の姿に気づき近寄ってきた。
「昨日のカジュアルな格好もキュートでよかったですけど、リングコスチュームになるとギリシャ神話の戦いの神「アテナ」のようですね。もちろん陽菜も素敵です。」
とリップサービスなのか女性の扱いがうまいのかわからないが、夏子の気落ちはイケメンの一言に高鳴った。
「へー、門真の女神の私が「正義」と「知恵」の女神の「アテナ」ってか。ええ感じやな!じゃあ、さしずめ「あほのマリリン」は「アフロディーテ」ってとこやな。「アフロディーテ」は「アテナ」の「イージス」の前では無力やし、アテナの一撃でアフロディーテはあの世行きってな!今日は、私と陽菜ちゃんの活躍をしっかりとカメラで映してや!」
と笑顔で答えサムアップして見せた。
午前11時の開会宣言直後のバトルロイヤルで波乱はすぐに起こった。11団体22名によるバトルロイヤルは常日頃の「因縁」が絡んでいるのか、幾組かにバトル場が分かれる中、何のしがらみのない夏子と陽菜は誰一人と組み合うことなくどんどんとリンク上のレスラーは減っていった。
日頃から他団体のレスラーと「オリ」が悪かったのか、序盤でマリリンとマドンナは6対2で一方的にボコられてリング外に叩き落とされた。(なんや、あいつら大したことあれへんやんけ!それにしても、誰もかかってけえへんではなんの「絵」にもなれへんわな。)と夏子が思った試合開始五分後リング上は夏子と陽菜を含めて八人に絞られていた。男子選手かと思えるほどの巨体レスラーも残っている。夏子と陽菜がコーナーから中央に出つつ叫んだ。
「さあ、陽菜ちゃん、適度な人数になったで!そろそろ私らが今日の主役ってところを見せたろか!」
「ええで、「アレ」やな!なっちゃん、「世界に「なつ&陽菜」在りって、いっちょかましたるか!」
リングで仰向けになり膝を上向けに三角に曲げると、周りの選手は(何故、自分からフォールの体勢に?)と思考が固まった。陽菜が夏子の両膝を両わきに抱えジャイアントスウィングの体勢になると、(この日本人って仲間じゃないのか?)と思考が動き出した瞬間、回転スピードを上げた夏子と陽菜の合体技の「アイアンロータス改」が直径3メートルの小型ではあるが強烈なハリケーンとなってリングをまわり始め、次々と敵レスラーを吹っ飛ばしていった。体重50キロ台のレスラーはロープに一発で跳ね飛ばされ戻ってきたところをリング下に飛ばされた。大型レスラーもガードを固めるが回り始めた「アイアンロータス」の前では全くの無駄だった。10秒で五人を吹き飛ばし、残すところ敵レスラーは一人になった
「なっちゃん、あと一人や!まだいけるか?」
「モチのロンや!こいつ吹っ飛ばして私ら二人がチャンピオンや!」
と逃げ回るレスラーをコーナーに追い詰めた。夏子の頭が相手のガードをはじき、次の一回転で相手の背中にヒットすれば「勝つ」と二人が確信したところで、それまで安定していた陽菜の足がもつれた。陽菜はリングに膝をつき、その反動で夏子はリングに自爆する形で叩きつけられた。
それまでの十数回転で失われた三半規管の歪んだ平衡感覚で何とかフラフラと立ち上がった夏子と陽菜の背後から同時にドロップキックを決められ、リングの淵に吹き飛んだ。歪んだ視界の前に最後の一人のレスラーは残っている。(えっ、いったい誰が?)と思ったところ、不敵に笑う既にリングアウトで失格したはずのマリリンとマドンナがとどめのサッカーボールキックを夏子と陽菜に決めると二人はリング下に転げ落ちた。
何が起こったかわからない状況でゴングが鳴り響き、リング上で最後のレスラーがレフリーに右手を高々と上げられているのが見えた。(えっ、私ら負けてしもたん?さっきボケのマリリンの顔が見えたような…)と夏子の意識が揺らいでいると、みぞおちに激しい痛みを感じた。腹に視線を向けるとマリリンの高笑いする顔とムダにでかい偽物の「下乳」と夏子の腹に食い込むマリリンの右足と二人に向けられたカメラが視界に入った。視線を奥に向けると陽菜がマドンナにストンピング攻撃を受けている。
「何すんじゃい!」と叫ぼうと思ったが声にならない。
マリリンが夏子にむかって早口で何かはやし立てる。後ろに大型のテレビカメラが見える。さらに視界外の横から日本語が聞こえた。「やい、猿の夏子!リングの上でつけられなかった決着は「チャレンジ!ミリオネラ!」でつけようじゃないか?それともしっぽを巻いて赤い尻を見せて日本の猿山に帰るか?どひゃひゃひゃひゃー!|と言ってます。」と聞こえた瞬間、夏子が「キレて」、自分の上にいるマリリンにむかって叫んだ!
「おう、売られた喧嘩は買ったるわい!「目指せ!ミリオネラ!」でお前らと私と陽菜ちゃんの格の違いを見せつけたるわい!」
「オーッ!ナイス アン アナウンスメント!」とジェフの声が聞こえたような気がした。
「あー、夏子さんカメラの前で言っちゃいましたね。これ、生中継でしたよね。どうしますか?」
と控室で羽藤が呟いた。その横でため息を落とすまりあと直の横で稀世だけが
「おーっ!さすがなっちゃんや!相手が何を言うてたんか知らんけどよう言うた!それでこそ私の弟子や!とことんやったれやー!どこまでも味方したんぞ―!」
と鼻息が荒かった。
9月24日、若さに任せて現地時間に合わせ睡眠をとった夏子と陽菜は快適な朝を迎えていた。窓の外が白んでくると同時に目が覚めた夏子は、隣のベッドで寝ている陽菜に気を使い音を立てないようにベランダに出た。ホテルの中層階にある部屋からロサンゼルスの街が見える。高層ビルが建つ街並みだが大阪とも東京とも違う感じがするのは、地上を走る鉄道がないからだろう。一年間を通じてロスの平均気温は14度から25度。頬にあたる風はほとんど雨の降らない地中海性気候のせいか、大阪と違いカラッとしている。
夏子はベランダにある折り畳み式のキャンプチェアーに深々と腰掛け、バドワイザーの栓をあけた。乾いた空気に、日本で飲んだときには「ようこんな「薄い」ビールをアメリカ人は飲みよんなぁ。」と思っていた味がマッチする。
スマホを取り出すと、まりあから「アメリカのバトルロイヤルの雰囲気を掴むためにユーチューブで確認しとけよ!」と言われていたのを思い出し、ふと、指を止め「目指せミリオネラ 日本語吹き替え」と入力した。
数十本の動画がお勧めリストに並んでいた。(へー、日本語吹き替えでも軒並み30万ビュー越えてる…。世界的な人気番組っていうのはほんまやったんやな。)と思いながら一番上の動画をタップした。
日本のバラエティーでは考えられない派手なセットに、キラキラのタキシードとドレスを着た男女のコメディアンが仰々しく入場し、客席が湧く。吹き替えの声優のノリが画像についていってない気はするが、それなりの「熱」は伝わってくる。
そこに女性三人ずつのチームがスモークと紙吹雪の中から登場し、各々の席に着く。片方のチームは「100万ドルゲットしたらニューヨークマンハッタンのMSGで二万人の「サクラ」を雇ってライブがしたい」と言う29歳の女子バンドトリオだった。もうひとチームは「売却される予定の出身孤児院を買い取りたい」という地味な男女3人組だった。
「バンド」チームの方が見た目のインパクトが強く、視聴者から支持されているのかと思っているとそうでないことがわかってきた。チャレンジャーが登場すると、センターのモニターにその前5日間のビデオ映像が流されるようだった。どうやらこの動画は4週目という事で3回戦目の映像が流されている。
「バンド」チームは、幻の高山植物を発見するというミッションで、アコンカグアに登り、高山病と戦いながら、時に仲間うちで喧嘩をしつつ、最終的にミッションクリアで30万ドルの報酬がカウントされた。「孤児院チーム」はスーダンの「地雷除去の手伝い・15個ノルマ」というお題で、国連NGOに参加してのまさに「命がけ」のロケになっていた。実際に出演者の一人が、ゲリラに銃撃され誘拐されそうになったシーンは「やらせ」や「仕込み」には見えなかった。報酬は「地雷撤去を積極的に応援しているスポンサー企業」が提供する25万ドルのお題だった。
双方4日間ミッションで成功し、報酬をそのまま得られるのかと思っていると、会場の審査員、観客、ネット投票での得票により、獲得報酬が最低0.5倍から最高2倍になるルールだった。
(まあ、これは29歳と「カド」はたちかけやけど、見た目かわいい「バンド」組の勝ちやろ。)と夏子は思い、バドワイザーをあおった。ここで一度、チャレンジャーの二組は会場を退出した。司会者が、バンドチームを隠し撮りしたであろうビデオを流す指示をした。
その動画では、バンドチームが地元シェルパを50ドルで買収し、お題の草を取ってこさせ、バンドチームが見つけたという芝居を要求していた。シェルパ仲間が不正を記録していたのだった。また、その後には、孤児院チームが2回戦までで得た報酬の一部を地雷で足を亡くした子供たちの義足を作る施設に寄付しているシーンが流された。もちろん、これらの動画にも「やらせ」の雰囲気はない。
それらのビデオが流された後、どちらのチームを支持するのかの投票が行われ、結果は夏子の最初の予想と真逆で孤児院チームが「1.8倍」の報酬を得て、バンドチームは「0.6倍」との結果だった。
番組の締めは次の5日間のお題がデジタルルーレットで決められる。各チーム最後の一回の収録100万ドルに届くよう「希望報酬」に見合ったお題ルーレットを選んで回した。後がないバンドチームは、50万ドルと言う高額報酬を目指してオーストラリアで異常繁殖し街に出入りするクロコダイル10匹以上の捕獲と言う非常にリスキーな「お題」を引き当て悲鳴を上げた。
派手な衣装の司会者が「ギターとベースの人は噛まれるんだったら足にしなさいね!」とアメリカンジョークを飛ばして会場の笑いを取ったが、チャレンジャーは真剣に青ざめていた。孤児院チームは残り20万ドルのお題は、まさに「クラウドファンディング」で「20万ドル集める」がお題となり、その為の公募や宣伝活動に5日間あてるという事になるのだろう。ラストは参加チームの反省の弁と次回への期待のコメントで番組は幕を閉じた。
(ゲロゲロ、本気か…?アメリカのバラエティって…)と思っていると「なっちゃんおはよう!えらい早起きやな。朝ご飯は舩君も誘って表に食べに行くでええかな?」と寝ぼけた顔の陽菜がベランダに出てきた。「ああ、それでええよ。」と夏子は答えユーチューブの接続をを切断した。
ホテルの前の通りにあるテイクアウト専門のホットドッグとアイスティーを買い、公園のベンチで軽めの朝食を済ませて、部屋に戻るとまりあから呼び出しの電話がかかってきた。羽藤と直も一緒にいた。夏子と陽菜がベッドに腰掛けると開口一番
「夏子、陽菜、お前らあほなテレビ番組に出たりせえへんやろな。昨日、送ってこられた「契約書」を羽藤さんに見てもらったんやけど、「死んでも文句は言いません。」っていうとんでもない番組やぞ。ニコニコプロレスの代表としては、この番組の出演は認めへんからな。」
ときつめの言葉が出た所に、稀世が顔を出した。
「なっちゃん、陽菜ちゃん、なんかテレビ出演の誘いが来たんやて?前座でテレビ映るんや無くて、「なつ&陽菜」がメインの出演者として全世界に流れるんやろ?私は応援するで!」
まりあは稀世に「もうややこしくせんといて!「出演禁止」って言うたとこやねんからな。」と話をカットした。夏子は
「心配せんでも大丈夫ですよ。ハンコも持ってきてへんし、「目指せ!ミリオネラ!」の吹き替え版見ましたけど、あんなあほな番組に命なんかかけられませんよ。まあ、「マリ・マド」の二人に、リングの上で地獄を見せてやって、まともな形でメジャーを目指しますから!」
と宣言したが羽藤は「アメリカは契約社会ですから、気をつけてくださいね。ハンコなんかなくても、サインでも公の場での宣言でも「契約」となるのが「アメリカ」ですからね。」と夏子に念を押した。
打ち合わせが終わると、半日のフリータイムという事で羽藤を除く八人はユニバーサルスタジオに遊びに行った。
25日のWWEの大会当日、試合会場の上空には多数のドローンが飛び、見事な編隊飛行で「WELLCOME WWE!」、「AM.10:00 OPEN」などと青空にメッセージを刻んでいる。
稀世たちは会場ロビーでアグネスとマチルダからロサンゼルスの地方紙の記者セシル・ハリスを紹介された。「アグ・マチ」コンビとはデビュー時からの知り合いで、別のインディーズ団体でマスクマンをしているという事だった。
「俺はセシル・ハリス。「デイリーLA」の記者だ。アグ・マチもそうだが、ニコニコプロレスのみんなもいろんな事件に首を突っ込んでる正義の味方らしいな。今回も何かやらかすなら独占取材させてくれな。」
と自動翻訳機を使って挨拶されると、稀世が
「そんなん堪忍してくださいよ。日本語の通じへんところじゃなんもできへんしね。」
と返し握手を求めたところ、セシルは稀世の手を取りしげしげと眺めた。
「俺の仲間でユジン・バレンシアっていう東洋医学や東洋占いに詳しい奴がいて教えてもらったんだけど、ミセス稀世の手相は「破天荒」っていうトラブルメーカーの指紋と「転生天」っていう周りを巻き込んでの命がけの場面に何度も出会う手相をしてるな。うーん、なるほどなるほど…。」
と意味深の言葉を残すと「まあ、今の「アグ・マチ」は強いぜ!いいマッチを期待してるよ。」と言い残し次の取材対象に向かっていった。
(うーん、ロサンゼルスまで来て「不安」になるようなこと言わんとってほしいなあ…。)稀世は思ったが、次のメディアインタビューが来たので気持ちを切り替えた。
午前10時に開場し、午前11時からの20分のバトルロイヤルを皮切りに、メインイベントの午後9時までみっちり詰まったスケジュールの最初のマッチである、地元インディーズ団体の女子レスラーによるバトルロイヤル出場の選手が大部屋の控室に集まっていた。その中に、昨晩会ったKCBSのディレクターのジェフとADのジャリルとカメラの姿も見えた。ジャリルは夏子の姿に気づき近寄ってきた。
「昨日のカジュアルな格好もキュートでよかったですけど、リングコスチュームになるとギリシャ神話の戦いの神「アテナ」のようですね。もちろん陽菜も素敵です。」
とリップサービスなのか女性の扱いがうまいのかわからないが、夏子の気落ちはイケメンの一言に高鳴った。
「へー、門真の女神の私が「正義」と「知恵」の女神の「アテナ」ってか。ええ感じやな!じゃあ、さしずめ「あほのマリリン」は「アフロディーテ」ってとこやな。「アフロディーテ」は「アテナ」の「イージス」の前では無力やし、アテナの一撃でアフロディーテはあの世行きってな!今日は、私と陽菜ちゃんの活躍をしっかりとカメラで映してや!」
と笑顔で答えサムアップして見せた。
午前11時の開会宣言直後のバトルロイヤルで波乱はすぐに起こった。11団体22名によるバトルロイヤルは常日頃の「因縁」が絡んでいるのか、幾組かにバトル場が分かれる中、何のしがらみのない夏子と陽菜は誰一人と組み合うことなくどんどんとリンク上のレスラーは減っていった。
日頃から他団体のレスラーと「オリ」が悪かったのか、序盤でマリリンとマドンナは6対2で一方的にボコられてリング外に叩き落とされた。(なんや、あいつら大したことあれへんやんけ!それにしても、誰もかかってけえへんではなんの「絵」にもなれへんわな。)と夏子が思った試合開始五分後リング上は夏子と陽菜を含めて八人に絞られていた。男子選手かと思えるほどの巨体レスラーも残っている。夏子と陽菜がコーナーから中央に出つつ叫んだ。
「さあ、陽菜ちゃん、適度な人数になったで!そろそろ私らが今日の主役ってところを見せたろか!」
「ええで、「アレ」やな!なっちゃん、「世界に「なつ&陽菜」在りって、いっちょかましたるか!」
リングで仰向けになり膝を上向けに三角に曲げると、周りの選手は(何故、自分からフォールの体勢に?)と思考が固まった。陽菜が夏子の両膝を両わきに抱えジャイアントスウィングの体勢になると、(この日本人って仲間じゃないのか?)と思考が動き出した瞬間、回転スピードを上げた夏子と陽菜の合体技の「アイアンロータス改」が直径3メートルの小型ではあるが強烈なハリケーンとなってリングをまわり始め、次々と敵レスラーを吹っ飛ばしていった。体重50キロ台のレスラーはロープに一発で跳ね飛ばされ戻ってきたところをリング下に飛ばされた。大型レスラーもガードを固めるが回り始めた「アイアンロータス」の前では全くの無駄だった。10秒で五人を吹き飛ばし、残すところ敵レスラーは一人になった
「なっちゃん、あと一人や!まだいけるか?」
「モチのロンや!こいつ吹っ飛ばして私ら二人がチャンピオンや!」
と逃げ回るレスラーをコーナーに追い詰めた。夏子の頭が相手のガードをはじき、次の一回転で相手の背中にヒットすれば「勝つ」と二人が確信したところで、それまで安定していた陽菜の足がもつれた。陽菜はリングに膝をつき、その反動で夏子はリングに自爆する形で叩きつけられた。
それまでの十数回転で失われた三半規管の歪んだ平衡感覚で何とかフラフラと立ち上がった夏子と陽菜の背後から同時にドロップキックを決められ、リングの淵に吹き飛んだ。歪んだ視界の前に最後の一人のレスラーは残っている。(えっ、いったい誰が?)と思ったところ、不敵に笑う既にリングアウトで失格したはずのマリリンとマドンナがとどめのサッカーボールキックを夏子と陽菜に決めると二人はリング下に転げ落ちた。
何が起こったかわからない状況でゴングが鳴り響き、リング上で最後のレスラーがレフリーに右手を高々と上げられているのが見えた。(えっ、私ら負けてしもたん?さっきボケのマリリンの顔が見えたような…)と夏子の意識が揺らいでいると、みぞおちに激しい痛みを感じた。腹に視線を向けるとマリリンの高笑いする顔とムダにでかい偽物の「下乳」と夏子の腹に食い込むマリリンの右足と二人に向けられたカメラが視界に入った。視線を奥に向けると陽菜がマドンナにストンピング攻撃を受けている。
「何すんじゃい!」と叫ぼうと思ったが声にならない。
マリリンが夏子にむかって早口で何かはやし立てる。後ろに大型のテレビカメラが見える。さらに視界外の横から日本語が聞こえた。「やい、猿の夏子!リングの上でつけられなかった決着は「チャレンジ!ミリオネラ!」でつけようじゃないか?それともしっぽを巻いて赤い尻を見せて日本の猿山に帰るか?どひゃひゃひゃひゃー!|と言ってます。」と聞こえた瞬間、夏子が「キレて」、自分の上にいるマリリンにむかって叫んだ!
「おう、売られた喧嘩は買ったるわい!「目指せ!ミリオネラ!」でお前らと私と陽菜ちゃんの格の違いを見せつけたるわい!」
「オーッ!ナイス アン アナウンスメント!」とジェフの声が聞こえたような気がした。
「あー、夏子さんカメラの前で言っちゃいましたね。これ、生中継でしたよね。どうしますか?」
と控室で羽藤が呟いた。その横でため息を落とすまりあと直の横で稀世だけが
「おーっ!さすがなっちゃんや!相手が何を言うてたんか知らんけどよう言うた!それでこそ私の弟子や!とことんやったれやー!どこまでも味方したんぞ―!」
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幼なじみの圭太に告白された直後にフラれるという奇異な体験をした芽以(めい)。
「家の都合で、お前とは結婚できなくなった。
だから、お前、俺の弟と結婚しろ」
え?
すみません。
もう一度言ってください。
圭太は今まで待たせた詫びに、自分の弟、逸人(はやと)と結婚しろと言う。
いや、全然待ってなかったんですけど……。
しかも、圭太以上にMr.パーフェクトな逸人は、突然、会社を辞め、パクチー専門店を開いているという。
ま、待ってくださいっ。
私、パクチーも貴方の弟さんも苦手なんですけどーっ。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
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つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
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・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』
M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。
舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。
80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。
「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。
「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。
日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。
過去、一番真面目に書いた作品となりました。
ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。
全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
それでは「よろひこー」!
(⋈◍>◡<◍)。✧💖
追伸
まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。
(。-人-。)
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