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「シュールストレミング」
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「シュールストレミング」
10月4日午前5時、起床ラッパこそないものの、軍隊式に「起床」のコールがかかると夏子も陽菜も飛び起きた。トラックの中を見回すと既に稀世と直の姿はない。稀世は、毎朝のルーティンのランニングと基礎トレを済ませて、皆の朝食の準備に入っていたし、直は散歩を終えたのか、ビールを飲んでくつろいでいる。
倉庫の端の壁に背を預け寝ていたジャリルとセシルが目をこすりながら起きてきた。羽藤と舩阪はエイノ少佐とハンス大尉と共に、作戦テーブルで既に打ち合わせに入っている。
稀世の焼く、パンケーキと引き立てのコーヒーと入れたての紅茶の良い香りが漂ってくる。「ジャリル、おはよう。ごめんな、私らだけお布団で寝させてもろて。コンクリの上でよく寝られた?」と夏子が話しかけると、「あと二日の辛抱ですから。なっちゃんのかっこいいところをしっかりとカメラに納めないといけないから、弱音なんか吐いていられませんよ!」とカラ元気を出すが、明らかに疲労の色が出ている。
(ここはひとつ私がジャリルを元気づけたらんとあかんよな!)と夏子は、ジャリルに抱きつき、「私、頑張るから…。ジャリルにいいところを見せられるように頑張るからね。」とあざとく囁くと、ジャリルはみるみる赤くなり
「なっちゃん、ケガするようなことだけはしないでくださいね。作戦の前半は別行動だけど、ずっとなっちゃんと陽菜ちゃんの無事を祈ってますからね。いざとなったら、「取れ高」なんか気にしないで逃げてくださいね…。ADとしちゃ言ってはいけないことなんでしょうけど、私には、番組の「成否」よりもなっちゃんの方が大切ですから…。」
とジャリルからも抱きしめられた。
「おうおう、朝から見せつけてくれるやん!なっちゃん、ジャリルさん、パンケーキ焼けたで!飲み物は何にする?」
と稀世が声をかけると、「ぱっ」と二人は離れた。直が、稀世の横に行き呟いた。
「もしかして、今回は奇跡が起こるかもしれへんな…。何か、いつもの夏子のパターンとちゃうぞ?」
朝食を済ませると、ハンス大尉から完全防備のつなぎのガスマスク付きスーツが配られた。
「一滴たりとも、缶詰の汁を身体につけないように!「イワン」をやっつける前に、自分たちがやられてしまったら意味がないからな。それと、我々にとっては「朗報」だ。捕虜になったイワンの補給部の将校から、ウクライナには「毒ガス兵器」も「化学兵器」も無いので「ガスマスクの装備は無し!」ミス夏子の案がもしかすると「奇跡」を呼び込むぞ!」
の言葉に、
「敵は、追っ払ってやるから、しっかりと「お宝」を回収して、50万ドルの小切手の準備しといてくれよ!」
「パチン」と夏子がハンスに向け指を鳴らした。
チームは一旦、解散し夏子と陽菜と舩阪は防護スーツを着込むと、風船とポンプと缶切りと大鍋を持つと、倉庫の外に出ていった。ジャリルは大きな洗濯ばさみを一つ手にもち、カメラを担いでついていった。稀世と直は羽藤と一緒に昨日発泡スチロールを詰めたワインボトルにガソリンを詰め、先端にぼろ布を詰め込むと上からコンドームをかぶせてケースに並べていった。
倉庫裏では、洗濯ばさみを高い鼻に挟み、水中眼鏡をかけたジャリルが夏子たちの作業をカメラに収めていた。舩阪が次々と赤と黄色の缶を開けてはその中身を大鍋の中に入れていく。夏子はホイッパーで溶けて崩れかけのイワシを適度な大きさになるまで砕き、陽菜は手動ポンプで風船にその液体を詰めては、風船の口を固く縛っていった。
眉間に皴を寄せ、カメラを回し続けるジャリルの様子を見て気の毒に思った夏子が、「カメラは三脚立てて、ジャリルは200メートル離れた方がええよ。このまま、ここに居ったらジャリルが死んでしまうでなぁ。」と真剣に心配して言うと、「すみません。甘えさせていただきます。」とジャリルは頭を下げると、速足でその場を離れていった。立ち去るジャリルの姿を見て、夏子は思った。(わー、そこまで臭いんか。怖いもん見たさでちょっと匂い嗅いでみたい気もするけど、ちょっと今のジャリルの様子を見てたら勇気でえへんな…。)
約二時間の作業で、五十個のシュールストレミングの缶詰は全て大小の水風船に詰め替えられた。風船を水道のシャワーヘッドで流すと氷水を張ったクーラーボックスの中に入れ替えていった。
「まさにまりあさんの店で見た80‘sプロレスで見た、「いちばーん!」って叫ぶ、かつてのスターレスラーの必殺技「悪臭ボンバー」やな!」
と夏子がふざけて言うと、
「それを言うなら「アックスボンバー」やろ!まりあさんにしばかれるで!ケラケラ!」
と陽菜が夏子にアックスボンバーを当てるふりをして三人で笑った。
昼前にエイノの部下たちが、装備品をワンボックスバンに詰め込み運び出した。午前中の撮影で倒れていたジャリルも少し元気を取り戻し
「いやー、鼻に洗濯ばさみをつけててもあの臭いなら、それがあたりに捲き散らかされたら、誰もその場にはいられないですよ!作戦成功の夢を見ながら私の昇天してしまうところでした。」
と冗談の一つも言えるようになっていた。
午後3時、稀世、直、羽藤が参加するエイノが指揮する突入部隊と、夏子、陽菜、舩阪の陽動部隊にセシルが同行することとなり、一度私服に着替えた。ジャリルは、実戦闘の経験がないことから、後方指揮車の中での取材とエイノに指示され渋々従うこととなった。
夏子たち四人は、セシルの運転するピックアップトラックに乗り込んで移動した。メリトポリ空軍基地手前10キロ地点でセシルはトラックを止めると、夏子と陽菜、舩阪は砂漠迷彩のコンバットスーツに着替え、黄金色に輝く麦畑の中をGPSを頼りに歩いていった。夏子と陽菜は、背のうバッグにコントローラーとノートパソコンに水と非常食を入れ、舩阪は万一時の防御武器として旧式のアサルトライフルのAK―47カラシニコフと四つの手りゅう弾と拳銃を装備している。 セシルは、近くの農機具倉庫に車を隠すと午後7時の作戦開始を待つ。
夏子たちには、ロシア軍の偵察機やヘリコプターが上空を通過する都度、無線が入り、「移動OK」が出るまで、麦畑の中で伏せて隠れる必要があったため、8キロを進むのに四時間弱を要した。
夕闇が迫る午後7時、所定の位置に陣取り、来たるべき作戦開始に備え準備を済ませた。舩阪がAK-47の銃口に取り付けたカメラでメリトポリ空港の状況を確認した。今朝のブリーフィングで聞いていた位置に電子作戦車の「クラスハ4」と移動通信指揮車の「M149MA1」を舩阪が確認し、エイノ少佐に無線を入れた。
「作戦開始」の号令がかかり、農機具倉庫からセシルが出したピックアップトラックのシートカバーが外された荷台から「シュールストレミング」の水爆弾をぶら下げた、陽菜と夏子が操縦する二十機のドローンが飛び立った。
作戦は羽藤がたてたシミュレーション通りに進んだ。クラスハ4もメリトポリ空軍基地のレーダーも、おもちゃサイズのドローンはレーダーで捕らえられず、民生用の微弱電波は基地の直前まで逆探知されることなく接近できた。残り1キロで妨害電波を受けた後には自立プログラム飛行で、陽菜の操縦する十機のドローンは、二機が北門守衛所の上、八機が各四機ずつのダイヤモンド編隊になり「クラスハ4」と「M149MA1」の前後左右10メートルの位置でのホバリングに入った。
基地に侵入したドローンに気づいたロシア兵たちの射撃により、次々と十機のドローンは撃墜され、その結果、機体下部にぶら下げられていた水風船の「悪臭兵器」の「シュールストレミング」が次々とぶちまけられた。
その匂いは、スカンクをも凌駕すると言われる動物界の「悪臭王」の「ゾリラ」すら逃げ出す。冷蔵状態でのシュールストレミングが保存方法不良により缶内発酵が進み、ニシンの塩漬けの身が溶けてなくなり「ただの超臭い液体」となった「人類食」で「史上最強臭気」の8070アランバスター(※「臭気」を表す単位)を倍増させていることは安易に推測できる。 史上二番目の「臭い食べ物」とされる韓国のエイ料理で6023アランバスター、三位の世界最高の「臭いチーズ」と言われる「エビキュアチーズ」になると1370アランバスター、日本を代表する「臭い食べ物」の「焼き立てのくさや」で1267アランバスターなのでその臭気は密室で無い屋外においても常人であればその場に一分といられない。
小銃で撃ち落とされたドローンのカメラが周辺一帯に「悪臭ボンバー」がぶちまけれた「クラスハ4」と「M149MA1」から、ロシア軍兵士が鼻を抑えながら飛び出していくのを映し出している。
続いて夏子が操縦する水風船を投下できるように加工された十機編隊のドローンが突入する。手動操縦で思い通りに飛行することから「クラスハ4」の妨害電波は沈黙していることがわかる。十機のドローンは単縦陣を組み、北門から侵入すると、兵舎や倉庫の入り口に水風船を投下していく。高度10メートルから落とされた水風船は地上でいともたやすく破裂し、「毒ガス以上」の恐怖をまき散らしているのが、迎撃に飛び出してきた兵士が慌てて、兵舎の中に駆け戻り、扉を閉めるシーンが幾度となく繰り返された。北門から2キロにわたって、ありとあらゆる入り口やシャッター前に十機のドローンが積んだ水風船を5つ残し、それ以外は投下し終わった。
北門近くに止まっている二両の「お宝」の周りに動く人影は一切無くなった。夏子は北門外で突入を待つ、エイノ少佐とハンス大尉に状況報告の連絡を入れた。
「GJミス夏子!後は、倉庫内にスホーイ57とT-14アルマータが無いか確認してくれ!」
とエイノからの返信を受けると夏子は倉庫内にドローンを突入させた。
夏子の後ろで、「右に行って!」、「奥に入って!」と舩阪が指示を出すが、モニターに移されるのは、旧式の攻撃機のスホーイ25が二機と攻撃ヘリが二機ある以外は、冷戦期に製造されたT―62、T―54という博物館に飾られるような旧式戦車とトラックだけだった。「追跡されると厄介ですから、今のスホーイ25とヘリには「水爆弾」落としときましょう。」という舩阪の指示に従って夏子はスホーイのコックピットに「どストライク」で一発ずつ命中させた。二機のヘリにはドアから中に突入させ中で自爆させヘリも無力化した。カメラ付きドローンと最後の「悪臭ボンバー」一発を残した八機編隊がガスマスクをして突入するエイノ、ハンス達特殊部隊とそれに追従する稀世、直、羽藤とジャリルの上空援護に回った。ジャリルがカメラを手に走っているのがモニターで確認ができた、
羽藤は「クラスハ4」のコンテナを積んだトラックに乗り込みエンジンをかけようとするが、鍵がない。キーボックスを破壊し、バッテリーの直結作業に入る。エイノとハンスの部下はM149MA1に乗り込み、先行して北門を出ていった。
夏子と陽菜のレシーバーには現場の音声が入らないので「もう、何をもたもたしてんの!早く逃げなあかんやん!」と一向に動かない「クラスハ4」に気が気でない。
基地北部の異常事態に気づいたロシア兵が南の兵舎から飛び出してきた。夏子はドローンを基地の南部に向けて飛ばした。タオルを顔に捲いた十数名の兵士がアサルトライフルを持ち整列しているのが見えた。将校と思われるものが何か指示を出しているのが映し出される。「エイノ少佐、南の建屋からたくさん兵隊が出てきたで!」と夏子が無線で連絡を入れた。
エイノとハンスは「クラスハ4」の前面に出ると。アサルトライフルに付属のグレネードランチャーで南に向け煙幕弾を発射して時間を稼ぐ。一瞬、敵兵はたじろぐが、再び前進体勢に入った。何人かの敵兵が倒れるのがドローンのモニターに映った。
「えっ、エイノさん達の撃った弾って煙幕やろ?なんで敵兵が倒れんの?」
と夏子が叫ぶと「なっちゃん、敵の指令を出してるやつを映して!」と舩阪が指示したので、ドローンを敵陣に向けて飛ばした。
モニターに大型の機関銃座がついた装甲トラックが映った。銃口から発射炎が見える。「舩君、南の敵まで5キロは離れてるやろ?あんな遠くから撃って、稀世姉さんたちまで届くの?」と陽菜が尋ねると、
「督戦隊や!おそらく、兵隊は囚人兵で逃げようとした奴を撃ってるんや!逃げても味方に撃たれるんやったら突っ込むしかないやろ!」
舩阪が悲痛な叫びをあげた。
現場では、エイノたちが手持ちのグレネード弾を撃ち尽くしていた。エイノがかつての戦場を思い出したのか「羽藤隊長、もう退却しましょう。「クラスハ4」は手りゅう弾で内部を破壊します。民間人を巻き込んでの戦闘はできません。」と羽藤に退却を申し出たところ、エンジンがかかった。羽藤は、計器類を確認するとフュエールメーターがほぼ「E」を指している。
「エイノ、「軽油」を入れてくれ。こいつを持ち帰ることが平和への第一歩だ。まだ間に合う!稀世さんも手伝ってあげてください。」
と羽藤が指示すると、エイノの言葉をカメラを持ったジャリルが通訳し、トラックの荷台に積まれた「ジェリ缶」を持ち出し、車体後部の給油口にホースを突っ込んだ。
ハンスは数名の部下と、アサルトライフルを敵に向け、スリーショットバースト(※連射せずに弾の消耗を避けつつ威嚇射撃)を続けている。 先行した敵兵とハンス達の銃撃戦が始まった。多勢に無勢で徐々に敵との距離が詰められているのがわかる。
「舩阪君、どないしたらええの?このままやったら稀世姉さんたち、敵の兵隊にやられてしまうやん!」青い顔をして夏子が叫んだ。
10月4日午前5時、起床ラッパこそないものの、軍隊式に「起床」のコールがかかると夏子も陽菜も飛び起きた。トラックの中を見回すと既に稀世と直の姿はない。稀世は、毎朝のルーティンのランニングと基礎トレを済ませて、皆の朝食の準備に入っていたし、直は散歩を終えたのか、ビールを飲んでくつろいでいる。
倉庫の端の壁に背を預け寝ていたジャリルとセシルが目をこすりながら起きてきた。羽藤と舩阪はエイノ少佐とハンス大尉と共に、作戦テーブルで既に打ち合わせに入っている。
稀世の焼く、パンケーキと引き立てのコーヒーと入れたての紅茶の良い香りが漂ってくる。「ジャリル、おはよう。ごめんな、私らだけお布団で寝させてもろて。コンクリの上でよく寝られた?」と夏子が話しかけると、「あと二日の辛抱ですから。なっちゃんのかっこいいところをしっかりとカメラに納めないといけないから、弱音なんか吐いていられませんよ!」とカラ元気を出すが、明らかに疲労の色が出ている。
(ここはひとつ私がジャリルを元気づけたらんとあかんよな!)と夏子は、ジャリルに抱きつき、「私、頑張るから…。ジャリルにいいところを見せられるように頑張るからね。」とあざとく囁くと、ジャリルはみるみる赤くなり
「なっちゃん、ケガするようなことだけはしないでくださいね。作戦の前半は別行動だけど、ずっとなっちゃんと陽菜ちゃんの無事を祈ってますからね。いざとなったら、「取れ高」なんか気にしないで逃げてくださいね…。ADとしちゃ言ってはいけないことなんでしょうけど、私には、番組の「成否」よりもなっちゃんの方が大切ですから…。」
とジャリルからも抱きしめられた。
「おうおう、朝から見せつけてくれるやん!なっちゃん、ジャリルさん、パンケーキ焼けたで!飲み物は何にする?」
と稀世が声をかけると、「ぱっ」と二人は離れた。直が、稀世の横に行き呟いた。
「もしかして、今回は奇跡が起こるかもしれへんな…。何か、いつもの夏子のパターンとちゃうぞ?」
朝食を済ませると、ハンス大尉から完全防備のつなぎのガスマスク付きスーツが配られた。
「一滴たりとも、缶詰の汁を身体につけないように!「イワン」をやっつける前に、自分たちがやられてしまったら意味がないからな。それと、我々にとっては「朗報」だ。捕虜になったイワンの補給部の将校から、ウクライナには「毒ガス兵器」も「化学兵器」も無いので「ガスマスクの装備は無し!」ミス夏子の案がもしかすると「奇跡」を呼び込むぞ!」
の言葉に、
「敵は、追っ払ってやるから、しっかりと「お宝」を回収して、50万ドルの小切手の準備しといてくれよ!」
「パチン」と夏子がハンスに向け指を鳴らした。
チームは一旦、解散し夏子と陽菜と舩阪は防護スーツを着込むと、風船とポンプと缶切りと大鍋を持つと、倉庫の外に出ていった。ジャリルは大きな洗濯ばさみを一つ手にもち、カメラを担いでついていった。稀世と直は羽藤と一緒に昨日発泡スチロールを詰めたワインボトルにガソリンを詰め、先端にぼろ布を詰め込むと上からコンドームをかぶせてケースに並べていった。
倉庫裏では、洗濯ばさみを高い鼻に挟み、水中眼鏡をかけたジャリルが夏子たちの作業をカメラに収めていた。舩阪が次々と赤と黄色の缶を開けてはその中身を大鍋の中に入れていく。夏子はホイッパーで溶けて崩れかけのイワシを適度な大きさになるまで砕き、陽菜は手動ポンプで風船にその液体を詰めては、風船の口を固く縛っていった。
眉間に皴を寄せ、カメラを回し続けるジャリルの様子を見て気の毒に思った夏子が、「カメラは三脚立てて、ジャリルは200メートル離れた方がええよ。このまま、ここに居ったらジャリルが死んでしまうでなぁ。」と真剣に心配して言うと、「すみません。甘えさせていただきます。」とジャリルは頭を下げると、速足でその場を離れていった。立ち去るジャリルの姿を見て、夏子は思った。(わー、そこまで臭いんか。怖いもん見たさでちょっと匂い嗅いでみたい気もするけど、ちょっと今のジャリルの様子を見てたら勇気でえへんな…。)
約二時間の作業で、五十個のシュールストレミングの缶詰は全て大小の水風船に詰め替えられた。風船を水道のシャワーヘッドで流すと氷水を張ったクーラーボックスの中に入れ替えていった。
「まさにまりあさんの店で見た80‘sプロレスで見た、「いちばーん!」って叫ぶ、かつてのスターレスラーの必殺技「悪臭ボンバー」やな!」
と夏子がふざけて言うと、
「それを言うなら「アックスボンバー」やろ!まりあさんにしばかれるで!ケラケラ!」
と陽菜が夏子にアックスボンバーを当てるふりをして三人で笑った。
昼前にエイノの部下たちが、装備品をワンボックスバンに詰め込み運び出した。午前中の撮影で倒れていたジャリルも少し元気を取り戻し
「いやー、鼻に洗濯ばさみをつけててもあの臭いなら、それがあたりに捲き散らかされたら、誰もその場にはいられないですよ!作戦成功の夢を見ながら私の昇天してしまうところでした。」
と冗談の一つも言えるようになっていた。
午後3時、稀世、直、羽藤が参加するエイノが指揮する突入部隊と、夏子、陽菜、舩阪の陽動部隊にセシルが同行することとなり、一度私服に着替えた。ジャリルは、実戦闘の経験がないことから、後方指揮車の中での取材とエイノに指示され渋々従うこととなった。
夏子たち四人は、セシルの運転するピックアップトラックに乗り込んで移動した。メリトポリ空軍基地手前10キロ地点でセシルはトラックを止めると、夏子と陽菜、舩阪は砂漠迷彩のコンバットスーツに着替え、黄金色に輝く麦畑の中をGPSを頼りに歩いていった。夏子と陽菜は、背のうバッグにコントローラーとノートパソコンに水と非常食を入れ、舩阪は万一時の防御武器として旧式のアサルトライフルのAK―47カラシニコフと四つの手りゅう弾と拳銃を装備している。 セシルは、近くの農機具倉庫に車を隠すと午後7時の作戦開始を待つ。
夏子たちには、ロシア軍の偵察機やヘリコプターが上空を通過する都度、無線が入り、「移動OK」が出るまで、麦畑の中で伏せて隠れる必要があったため、8キロを進むのに四時間弱を要した。
夕闇が迫る午後7時、所定の位置に陣取り、来たるべき作戦開始に備え準備を済ませた。舩阪がAK-47の銃口に取り付けたカメラでメリトポリ空港の状況を確認した。今朝のブリーフィングで聞いていた位置に電子作戦車の「クラスハ4」と移動通信指揮車の「M149MA1」を舩阪が確認し、エイノ少佐に無線を入れた。
「作戦開始」の号令がかかり、農機具倉庫からセシルが出したピックアップトラックのシートカバーが外された荷台から「シュールストレミング」の水爆弾をぶら下げた、陽菜と夏子が操縦する二十機のドローンが飛び立った。
作戦は羽藤がたてたシミュレーション通りに進んだ。クラスハ4もメリトポリ空軍基地のレーダーも、おもちゃサイズのドローンはレーダーで捕らえられず、民生用の微弱電波は基地の直前まで逆探知されることなく接近できた。残り1キロで妨害電波を受けた後には自立プログラム飛行で、陽菜の操縦する十機のドローンは、二機が北門守衛所の上、八機が各四機ずつのダイヤモンド編隊になり「クラスハ4」と「M149MA1」の前後左右10メートルの位置でのホバリングに入った。
基地に侵入したドローンに気づいたロシア兵たちの射撃により、次々と十機のドローンは撃墜され、その結果、機体下部にぶら下げられていた水風船の「悪臭兵器」の「シュールストレミング」が次々とぶちまけられた。
その匂いは、スカンクをも凌駕すると言われる動物界の「悪臭王」の「ゾリラ」すら逃げ出す。冷蔵状態でのシュールストレミングが保存方法不良により缶内発酵が進み、ニシンの塩漬けの身が溶けてなくなり「ただの超臭い液体」となった「人類食」で「史上最強臭気」の8070アランバスター(※「臭気」を表す単位)を倍増させていることは安易に推測できる。 史上二番目の「臭い食べ物」とされる韓国のエイ料理で6023アランバスター、三位の世界最高の「臭いチーズ」と言われる「エビキュアチーズ」になると1370アランバスター、日本を代表する「臭い食べ物」の「焼き立てのくさや」で1267アランバスターなのでその臭気は密室で無い屋外においても常人であればその場に一分といられない。
小銃で撃ち落とされたドローンのカメラが周辺一帯に「悪臭ボンバー」がぶちまけれた「クラスハ4」と「M149MA1」から、ロシア軍兵士が鼻を抑えながら飛び出していくのを映し出している。
続いて夏子が操縦する水風船を投下できるように加工された十機編隊のドローンが突入する。手動操縦で思い通りに飛行することから「クラスハ4」の妨害電波は沈黙していることがわかる。十機のドローンは単縦陣を組み、北門から侵入すると、兵舎や倉庫の入り口に水風船を投下していく。高度10メートルから落とされた水風船は地上でいともたやすく破裂し、「毒ガス以上」の恐怖をまき散らしているのが、迎撃に飛び出してきた兵士が慌てて、兵舎の中に駆け戻り、扉を閉めるシーンが幾度となく繰り返された。北門から2キロにわたって、ありとあらゆる入り口やシャッター前に十機のドローンが積んだ水風船を5つ残し、それ以外は投下し終わった。
北門近くに止まっている二両の「お宝」の周りに動く人影は一切無くなった。夏子は北門外で突入を待つ、エイノ少佐とハンス大尉に状況報告の連絡を入れた。
「GJミス夏子!後は、倉庫内にスホーイ57とT-14アルマータが無いか確認してくれ!」
とエイノからの返信を受けると夏子は倉庫内にドローンを突入させた。
夏子の後ろで、「右に行って!」、「奥に入って!」と舩阪が指示を出すが、モニターに移されるのは、旧式の攻撃機のスホーイ25が二機と攻撃ヘリが二機ある以外は、冷戦期に製造されたT―62、T―54という博物館に飾られるような旧式戦車とトラックだけだった。「追跡されると厄介ですから、今のスホーイ25とヘリには「水爆弾」落としときましょう。」という舩阪の指示に従って夏子はスホーイのコックピットに「どストライク」で一発ずつ命中させた。二機のヘリにはドアから中に突入させ中で自爆させヘリも無力化した。カメラ付きドローンと最後の「悪臭ボンバー」一発を残した八機編隊がガスマスクをして突入するエイノ、ハンス達特殊部隊とそれに追従する稀世、直、羽藤とジャリルの上空援護に回った。ジャリルがカメラを手に走っているのがモニターで確認ができた、
羽藤は「クラスハ4」のコンテナを積んだトラックに乗り込みエンジンをかけようとするが、鍵がない。キーボックスを破壊し、バッテリーの直結作業に入る。エイノとハンスの部下はM149MA1に乗り込み、先行して北門を出ていった。
夏子と陽菜のレシーバーには現場の音声が入らないので「もう、何をもたもたしてんの!早く逃げなあかんやん!」と一向に動かない「クラスハ4」に気が気でない。
基地北部の異常事態に気づいたロシア兵が南の兵舎から飛び出してきた。夏子はドローンを基地の南部に向けて飛ばした。タオルを顔に捲いた十数名の兵士がアサルトライフルを持ち整列しているのが見えた。将校と思われるものが何か指示を出しているのが映し出される。「エイノ少佐、南の建屋からたくさん兵隊が出てきたで!」と夏子が無線で連絡を入れた。
エイノとハンスは「クラスハ4」の前面に出ると。アサルトライフルに付属のグレネードランチャーで南に向け煙幕弾を発射して時間を稼ぐ。一瞬、敵兵はたじろぐが、再び前進体勢に入った。何人かの敵兵が倒れるのがドローンのモニターに映った。
「えっ、エイノさん達の撃った弾って煙幕やろ?なんで敵兵が倒れんの?」
と夏子が叫ぶと「なっちゃん、敵の指令を出してるやつを映して!」と舩阪が指示したので、ドローンを敵陣に向けて飛ばした。
モニターに大型の機関銃座がついた装甲トラックが映った。銃口から発射炎が見える。「舩君、南の敵まで5キロは離れてるやろ?あんな遠くから撃って、稀世姉さんたちまで届くの?」と陽菜が尋ねると、
「督戦隊や!おそらく、兵隊は囚人兵で逃げようとした奴を撃ってるんや!逃げても味方に撃たれるんやったら突っ込むしかないやろ!」
舩阪が悲痛な叫びをあげた。
現場では、エイノたちが手持ちのグレネード弾を撃ち尽くしていた。エイノがかつての戦場を思い出したのか「羽藤隊長、もう退却しましょう。「クラスハ4」は手りゅう弾で内部を破壊します。民間人を巻き込んでの戦闘はできません。」と羽藤に退却を申し出たところ、エンジンがかかった。羽藤は、計器類を確認するとフュエールメーターがほぼ「E」を指している。
「エイノ、「軽油」を入れてくれ。こいつを持ち帰ることが平和への第一歩だ。まだ間に合う!稀世さんも手伝ってあげてください。」
と羽藤が指示すると、エイノの言葉をカメラを持ったジャリルが通訳し、トラックの荷台に積まれた「ジェリ缶」を持ち出し、車体後部の給油口にホースを突っ込んだ。
ハンスは数名の部下と、アサルトライフルを敵に向け、スリーショットバースト(※連射せずに弾の消耗を避けつつ威嚇射撃)を続けている。 先行した敵兵とハンス達の銃撃戦が始まった。多勢に無勢で徐々に敵との距離が詰められているのがわかる。
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聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
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・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』
M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。
舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。
80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。
「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。
「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。
日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。
過去、一番真面目に書いた作品となりました。
ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。
全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
それでは「よろひこー」!
(⋈◍>◡<◍)。✧💖
追伸
まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。
(。-人-。)
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
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