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④「初ビール」
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④「初ビール」
美味しそうに喉を鳴らす健に不思議そうな顔をして希が尋ねた。
「健さん、今、数を数えてたんは何で?なんか意味あんの?」
「あぁ、飲み物が口から入って胃袋までかかる時間が7秒なんや。ビールは味だけじゃなくてのどごしも楽しむもんやからな。希ちゃんは、ビール飲んだことあれへんのか?世界で一番旨い飲みもんやで!おいちゃんは、無人島に「ひとつだけ」食べもん持って行ってええって言われたら、間違いなく「ビール」にするな。カラカラカラ。」
健がどや顔で希に説明をした。
「うん、私、今日二十歳になったところやから、お酒は飲んだことあれへんねん。それにしても、健さん、ビールが「主食」って言ったり、無人島に持って行く食べ物に「ビール」って…。ビールは「食べもん」やなくて「飲みもん」やろ。ケラケラケラ。」
と希も笑った。
「ふーん、希ちゃんは「ビール処女」、いや失礼。おっさんくさいジョークでごめん。女の子に使うネタと違ったな。もとい「ビール未経験者」なんや。そりゃ、人生の楽しみの半分を捨ててるんも一緒やな。二十歳になったんやったら、まだ3缶あるから、いっちょデビューするか?「大人の階段」の第一歩やで。」
とビールを一本取り出した。
キンキンに冷えたビールの缶の感触が、希の手のひらに伝わった。
「うちのお父さんもビール大好きでよく飲むねんけど、そんなに美味しいもんなん?大学の友達なんかは、「ビールは苦いから、チューハイの方が好き」っていう子が多いねんけど…。」
ステイオンタブを開けるのを戸惑っていると、健が開けてくれた。
「さあ、これを旨いと思えたら、「大人」の仲間入りや。希ちゃん、二十歳の誕生日おめでとう!さあ、ちょっと口付けてごらん。」
と勧められるがままに、口に含んだ。
口の中にかすかに広がる苦みは感じたが、嫌な味ではなかった。口の中に残るウスターソースとカツの衣のパン粉の味を喉に一気に流し込んだ。(1、2、3、4、5、6、7!)心の中で数えると、胃袋に冷たいものが流れ込む感触を感じた。
「わー、美味しい!コーラやジュースとは違う爽快感があるわ!きゃー、私もこれで大人の仲間入りやねんね!」
と健に微笑みかけ、二口目をあおった。
「旨いやろ。おいちゃんは30年以上、ビールとお友達や。まあ、日本酒も焼酎もウイスキーもみんな友達やけどな!希ちゃんもこれから何十年とビールとお友達になるんやから、しっかり挨拶しときや。「これから先、長いお付き合いお願いします。」ってな。」
健が笑いながら、希の顔を覗き込むと、さっきまでの笑顔はすっかり消え、一瞬のうちに真っ青な顔色になり、ビールの缶を足元に落とした。タイルの上に落ちた希のビールは泡を吹き、健のバッグの底を濡らした。
「あっ、健さんのカバンが汚れちゃう。ごめんなさい。」
慌てて、希が言い、健のカバンを持ち上げようとしたが、健は気にせずに
「希ちゃん、一瞬でオーラの色が変わった…。いったい、何があったんや…?」
と呟いた。
「えっ、オーラの色って…?」
希は一瞬、不思議な表情をして健の顔を覗き込んだが、すぐに下を向き黙りこくってしまった。
健は膝の上で震える希の右手に左手を重ねた。健の手の温もりが希に伝わり、震えが少し収まった。再び、涙をこぼした希が、声をしゃくりあげて健に呟き、泣き出した。
「健さん、せっかく美味しいもの教えてもらったけど、私、早かったら、あと1年で死ぬんやって…。まだ、二十歳でなにもしてないのに…。ううう…。」
健は黙って希の手にやさしく手を重ね黙って次の言葉を待った。
5分程、経っただろうか、希が蚊の鳴くような声で囁いた。
「健さん、私、白血病なんやって…。それも、急性骨髄性白血病っていう質の悪いやつみたい…。
私、先週、貧血で倒れて、近所の病院に行ったのね…。最近、熱っぽかったし、念のために行っただけやったんよ…。そしたら、血液検査されてん。「最近の血液検査の結果ってお持ちですか?」って聞かれて、「2週間前の献血の後に送られてきた検査結果ならあります。」って答えたら「次回、それ、お持ちください」って言われて、その3日後にもう一回病院に行ったんよ。
そしたら、お医者さんから、難しい顔して「最近疲れやすいことないですか?」、「歯磨きしてて血が出ることや血が止まりにくいことないですか?」、「発熱はいつごろからですか?」、「貧血はいつごろからですか?」って聞かれるから、熱でぼーっとしてるし、貧血でふらふらしてる状態やったから、なんとなく思いつくことがあったんで答えたんですよ。
そしたら、「前回の献血の時の検査データから比較しますと、白血球数と血小板の数値に異常が見られます。紹介状を書きますから、大きな病院で再検査してみてください。」って言われて…。その紹介もらった病院っていうのが、「なにわ国際がんセンター」やったから、凄く不安になったんやけど、結果が出るまで、お母さんやお父さんに心配かけたらあかんって思ってね…。ただの風邪かもしれへんし、ただの貧血かもしれへんやん…。そうであって欲しい…。ってひとりでこの1週間ずっと悩んでてん…。」
と話し続けた。
美味しそうに喉を鳴らす健に不思議そうな顔をして希が尋ねた。
「健さん、今、数を数えてたんは何で?なんか意味あんの?」
「あぁ、飲み物が口から入って胃袋までかかる時間が7秒なんや。ビールは味だけじゃなくてのどごしも楽しむもんやからな。希ちゃんは、ビール飲んだことあれへんのか?世界で一番旨い飲みもんやで!おいちゃんは、無人島に「ひとつだけ」食べもん持って行ってええって言われたら、間違いなく「ビール」にするな。カラカラカラ。」
健がどや顔で希に説明をした。
「うん、私、今日二十歳になったところやから、お酒は飲んだことあれへんねん。それにしても、健さん、ビールが「主食」って言ったり、無人島に持って行く食べ物に「ビール」って…。ビールは「食べもん」やなくて「飲みもん」やろ。ケラケラケラ。」
と希も笑った。
「ふーん、希ちゃんは「ビール処女」、いや失礼。おっさんくさいジョークでごめん。女の子に使うネタと違ったな。もとい「ビール未経験者」なんや。そりゃ、人生の楽しみの半分を捨ててるんも一緒やな。二十歳になったんやったら、まだ3缶あるから、いっちょデビューするか?「大人の階段」の第一歩やで。」
とビールを一本取り出した。
キンキンに冷えたビールの缶の感触が、希の手のひらに伝わった。
「うちのお父さんもビール大好きでよく飲むねんけど、そんなに美味しいもんなん?大学の友達なんかは、「ビールは苦いから、チューハイの方が好き」っていう子が多いねんけど…。」
ステイオンタブを開けるのを戸惑っていると、健が開けてくれた。
「さあ、これを旨いと思えたら、「大人」の仲間入りや。希ちゃん、二十歳の誕生日おめでとう!さあ、ちょっと口付けてごらん。」
と勧められるがままに、口に含んだ。
口の中にかすかに広がる苦みは感じたが、嫌な味ではなかった。口の中に残るウスターソースとカツの衣のパン粉の味を喉に一気に流し込んだ。(1、2、3、4、5、6、7!)心の中で数えると、胃袋に冷たいものが流れ込む感触を感じた。
「わー、美味しい!コーラやジュースとは違う爽快感があるわ!きゃー、私もこれで大人の仲間入りやねんね!」
と健に微笑みかけ、二口目をあおった。
「旨いやろ。おいちゃんは30年以上、ビールとお友達や。まあ、日本酒も焼酎もウイスキーもみんな友達やけどな!希ちゃんもこれから何十年とビールとお友達になるんやから、しっかり挨拶しときや。「これから先、長いお付き合いお願いします。」ってな。」
健が笑いながら、希の顔を覗き込むと、さっきまでの笑顔はすっかり消え、一瞬のうちに真っ青な顔色になり、ビールの缶を足元に落とした。タイルの上に落ちた希のビールは泡を吹き、健のバッグの底を濡らした。
「あっ、健さんのカバンが汚れちゃう。ごめんなさい。」
慌てて、希が言い、健のカバンを持ち上げようとしたが、健は気にせずに
「希ちゃん、一瞬でオーラの色が変わった…。いったい、何があったんや…?」
と呟いた。
「えっ、オーラの色って…?」
希は一瞬、不思議な表情をして健の顔を覗き込んだが、すぐに下を向き黙りこくってしまった。
健は膝の上で震える希の右手に左手を重ねた。健の手の温もりが希に伝わり、震えが少し収まった。再び、涙をこぼした希が、声をしゃくりあげて健に呟き、泣き出した。
「健さん、せっかく美味しいもの教えてもらったけど、私、早かったら、あと1年で死ぬんやって…。まだ、二十歳でなにもしてないのに…。ううう…。」
健は黙って希の手にやさしく手を重ね黙って次の言葉を待った。
5分程、経っただろうか、希が蚊の鳴くような声で囁いた。
「健さん、私、白血病なんやって…。それも、急性骨髄性白血病っていう質の悪いやつみたい…。
私、先週、貧血で倒れて、近所の病院に行ったのね…。最近、熱っぽかったし、念のために行っただけやったんよ…。そしたら、血液検査されてん。「最近の血液検査の結果ってお持ちですか?」って聞かれて、「2週間前の献血の後に送られてきた検査結果ならあります。」って答えたら「次回、それ、お持ちください」って言われて、その3日後にもう一回病院に行ったんよ。
そしたら、お医者さんから、難しい顔して「最近疲れやすいことないですか?」、「歯磨きしてて血が出ることや血が止まりにくいことないですか?」、「発熱はいつごろからですか?」、「貧血はいつごろからですか?」って聞かれるから、熱でぼーっとしてるし、貧血でふらふらしてる状態やったから、なんとなく思いつくことがあったんで答えたんですよ。
そしたら、「前回の献血の時の検査データから比較しますと、白血球数と血小板の数値に異常が見られます。紹介状を書きますから、大きな病院で再検査してみてください。」って言われて…。その紹介もらった病院っていうのが、「なにわ国際がんセンター」やったから、凄く不安になったんやけど、結果が出るまで、お母さんやお父さんに心配かけたらあかんって思ってね…。ただの風邪かもしれへんし、ただの貧血かもしれへんやん…。そうであって欲しい…。ってひとりでこの1週間ずっと悩んでてん…。」
と話し続けた。
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