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⑬「天岩戸と奇跡の水」 

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⑬「天岩戸と奇跡の水」 
 健は、古事記に記された数々の神話と奇跡について希にわかりやすく解説をつづけた。「イザナギ・イザナミの国生み伝説」や「天照大神の天岩戸隠れ」くらいしか知らないと希が言うと、「希ちゃんが知ってる話はどんなんや?」と尋ね、希が知っている限りを話すと、いろいろな解釈や裏話を聞かせてくれた。
 軽快な関西弁で話される「古事記」は、堅苦しさはひとつも無く、まるで落語を聞いているような雰囲気だった。
「せっかくやから三重で「天岩戸」って言われてるとこ寄っていこか?」
「えっ、近くにあんの?と言うか、ホンマにあるん?あるんやったら行きたいー!」
と寄り道が決まった。

 健の話だと、三重県だと今は入山禁止になっている伊勢神宮外宮の高倉山古墳と今から行く1985年に環境省の「名水百選」の選ばれた志摩市の「恵利原の水穴」が「天岩戸」の伝承地候補と呼ばれているとの事だった。ほかにも、京都では福知山市大江町の元伊勢内宮の「岩戸神社」、奈良では天の香具山の南麓にある「天岩戸神社」。兵庫では淡路島で洲本市先山の「岩戸神社」が天岩戸のあった場所とされている。
 さらに西に行くと、徳島のつるぎ町の「天の岩戸神社」や宮崎の高千穂の「天岩戸神社」、そして天岩戸伝説の最南端として沖縄の伊平村の「クマヤ洞窟」まで多数の場所が「この場こそが本物の天の岩戸である。」と名乗りを上げている場所があるとの事だった。
 そのほとんどを参ったことがあるという健の、ベスト3に入っているのが今から行く「恵利原の水穴」と聞き、期待が高まったが、雨がぱらつき始めた。

 30分ほどで到着し、車を止め、ふたりは傘を差し歩き出した。「名水百選」と「天岩戸伝説」に関する案内板があることを除けば、観光地化されていないこの場所は、神聖な雰囲気も感じられた。
 水取場を越えると、「天の岩戸」とされる場所に着いた。
「数百人の神様が集まるにしたら、ちょっと狭いのが「玉にキズ」やねんけど、まあ、このあたりで「ウズメ」ちゃんが踊って、みんなで盛り上がったんやろな。例えばこんなふうに…。」
と健が「懐かしのヒット曲」と言うような番組で必ず出て来る「昭和のふたり組の女性アイドル」の歌を振り付きで歌って見せた。甲高い声で歌い、飛び出たお腹と短い手足で不細工に踊る健を見て希はお腹を抱えて笑った。
「そうそう!そうやって、ここで踊る「ウズメ」ちゃんに起こる拍手喝さいが気になって、この奥の岩戸から「アマテラス」さんがひょこっと出てきて、お日さんがまたさすようになったってな話やな。カラカラカラ。」
と健も笑った。その瞬間、雨がやみ、空一面に低く立ち込めていた雲が切れ、岩戸の前に日が差した。(えっ、健さんの「力」なん…?まさかね?)




 健と一緒に岩戸に手を合わせ、湧き水を空いたペットボトルに注いでいると健が
「その場で飲むのがええねんで。もしかしたら、希ちゃんの病気を消してくれる「奇跡の水」かもしれへんからな。お願い事しながら飲んどきや。」
と言うので、冷たい湧水を口にした。いつものビールと同じようにのどを潤し、7秒で胃袋に届いた。(どうか白血病がなおりますように…。)と心で念じながら、3口ほど飲んだ。



 車に戻ると、健の「奇跡の水」の講釈が始まった。「ルルドの泉」が代表するように、世界各地に「奇跡の水」の伝説、伝承があり、日本にもたくさんの「奇跡の水」が存在するとの事だった。健の話によると、いわゆる「御神水」や「聖水」の多くは「湧き水」か「深層水」であるということだった。
「希ちゃん、世の中、「体にいい水」っていっぱい売られてるけど、効果ってあると思うか?水飲んだだけで、「がんが治った」とか、「医者がさじを投げた病気が治った」とか、胡散臭い広告ってよくあるやろ。どない思う?」
と聞かれたので、
「水で病気が治るんやったら、お医者さんいらんやん。大概、嘘やと思うわ…。」
とうつむいた。

 しかし、健は真面目な顔をして希に言った。
「人間、体の半分が水や。成人女性や老人で50%、成人男性で60%。新生児なんかは75%が水やねんで。だから、水ってすごく大事やとおいちゃんは思うねん。実際に、おいちゃんの周りでも「水」で弱った体が治ったっていう人は結構居る。
 昔は、「そんなことあるかいな!」って思って、いろいろ調べたんよ。そしたら、「奇跡の水」と呼ばれるものに共通点があることが分かったんやな。」
 健があまりにも自信を持って話し出すので、希は興味をそそられ、前のめりになって聞き始めた。健の説では、石清水のような「湧き水」や深い地盤から汲み上げられた「深層水」は、岩盤により水に一定の圧力が加えられると「水の固有振動数」が変わるらしい。旧約聖書の時代、人間の寿命は200歳以上あったといわれている。記録として残る短いものでは「十戒」のモーゼの120歳。(※諸説あり)「箱舟」で有名なノアは500歳以上、アダムは930歳、メトセラに至っては969歳と聖書に残されている。

 「ノアの箱舟」で有名な「大洪水」以前の地球は、今と違い海は小さく、水資源に乏しい星で、気圧も今の地球より相当高かったそうだ。気圧が高いため、今では「科学的に飛べない」とされる恐竜の「プテラノドン」は飛べたし、その環境に見合った「巨人族」が存在していたと説明を受けた。
 その時代の人類や生物が飲んでいたのが、基本的には湧き水であっただろうし、気圧も高かったことから、今でいう「御神水」、「奇跡の水」に近い圧力水を日常から口にしていたのだろうとの説だった。
 旧約聖書の「創世記」の第6章で「ノアの箱舟の大洪水」の少し前に神々が「人のよわいは120年にしよう。」と決めたとの記載もあるという。ノアの箱舟が完成した7日後から降り始め40日間降り続いた大雨で、150日間地表は水に覆われようやく水が引き、世界が今の世界地図の形になった際、地球の70%が海となり、その結果、大量の水が大気中の水素と酸素を取り込み、地表の気圧が下がり、湖や川で水の確保に困らなくなったという話は、妙にリアルだった。

 「だから、古代の水に近い状態の水っていうのは、200歳以上人間が生きていた時の水の成分に近くて、DNAの記憶の奥に隠された免疫力や抵抗力を呼び起こすんやとおいちゃんは信じてる。せやから、これから何か所か「御神水」を飲めるとこ行くから希ちゃんは、その場で「ガボガボ」飲むんやで!どれかが「奇跡の水」と同じ成分かもしれへんからな。
 その場で飲みやっていうのは、「ルルドの泉」でも、「養老の滝」でもその村に居着いて、そこで数か月飲み続けた人に奇跡は起きて、汲んで帰った人に効果が薄いところを見ると、大気中に出たとたんに「圧力水」じゃなくなってしまうからやろなとおいちゃんは思ってるんや。」
と説明してくれたが、最後に
「おいちゃんにとっての「奇跡の水」は、「ビール」や「お酒」やけどな。カラカラカラ。」
と茶化されて、一気に信憑性は下がったような気がした。 



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