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⑭「神明神社(通称「石神さん」)参り~売店の牡蠣と栄螺《さざえ》~」

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⑭「神明神社(通称「石神さん」)参り~売店の牡蠣と栄螺さざえ~」
 天の岩戸を出ると、志摩市大王町の通称「あじさい寺」と呼ばれる「大慈寺」にむかった。「6月の第2土曜、日曜には1500株のあじさいが咲き乱れる「あじさい祭」が開催されることと、「がん封じ」で有名な寺であることが健から伝えられた。
 ふたりで境内を歩き、「願い千手観音」に手を合わせた。
「どうか、病気が治りますように。「願い千手観音」様、お願いします。」
「希ちゃんの「白血病」が嘘でありますように。」
と願い事をして、健は奉納絵馬を買ってきた。(ん?伊勢神宮では絵馬書かへんかったのに…。なんで?)と思ったが、「白血病が治りますように。希。」と書き込み、絵馬の奉納板を見て、「お礼参り」の絵馬がすごく多いことに気がついた。

 「おかげさまで手術後10年を迎えました。」、「抗ガン治療の効果がでました。ありがとうございました。」、「再発することも無く、家族と健やかに過ごせています。感謝。」といった札が全国各地の住所でいくつもかかっている。(あぁ、お伊勢さんと違って、「がん封じ」の割合が多いんや。それも、お礼参りが多いってことは、効き目が高いってことやねんな!)と希は思い、「健さん、ありがとうね!」とお礼を言った。

 次に向かったのは、鳥羽市相差おうさつの「石神さん」の愛称で有名な「神明神社」だった。元々の健の取材対象ではなかったのだが、「女の人のお願い事をひとつだけ叶えてくれる」という海女あまの街にある女性参拝者が多く集まる人気のパワースポットだった。
「ここはなぁ、日本の初代天皇の神武天皇のお母さんの「玉依姫命たまよりひめのみこと」が主祭神で、アマテラスさんもついててくれるんやで!お伊勢さんでお願い事しても「数万分の一」やけどここやったら「数百分の一」やもんな!まあ、さっき、天岩戸で笑わせたったし、きっと願い事を聞いてくれるんとちゃうか?
 ましてや、希ちゃんはここ来るの初めてやろ。だから、しっかりとお願い事しいや!「百歳まで美味しくビールが飲めますように!」ってな。カラカラカラ。」
と笑う健と一緒に石の鳥居をくぐった。分岐の赤い鳥居がたくさん並ぶ隣にある石神さんに手を合わせた希は、健が言うように「これから100年、美味しいものいっぱい食べて、美味しいお酒がいっぱい飲めますように。希。」と書いた願い札を鈴を鳴らし「願い箱」に入れ、ニ拝二拍手一拝した。健が「1万円札」をお賽銭箱に入れるのが見えた。(えっ、健さん、「一万円」も!)と思ったが、神様の前で言うことでもないので(ごめんね、健さん。後でしっかりと仕事で返すからね。)と思った。





 さらに参道を奥に進み「本堂」をお参りし、その脇にある「長寿の館」にお参りした。ここでは「千円札」を健が入れてくれていた。
「健さん、すごい払わせてしもてごめんな。私の為に…。」
と申し訳なさそうに言うと、健は笑顔で返してきた。
「その分は、仕事で返してもらうから気にせんでええよ!この神社は、希ちゃんのために来たんやから、ええことがあったら安いもんや!」
「ん、仕事って、今晩、お布団でてこと?」
とふざけて返すと、
「あほっ、そんなん言うんやったら、ここにおいていくで!この後、もう一件お参りしたら、「超旨い」ごちそうが待ってんのに、あー、もったいない、もったいない!まあ、おいちゃんは2人前食べられるからそれでもええねんけどな。カラカラカラ。」
と笑い、鳥居の外にある売店に寄った。
「おばちゃん、牡蠣かき6枚に栄螺さざえふたつ焼いてんか。栄螺はお酒ちょっと落としてもろて、お醤油はこれ使ってんか。牡蠣はなんもかけんでええよ。」
と注文し、お魚の入れ物に入った醤油をひとつ渡した。
 「焼き牡蠣」と「焼き栄螺」が焼きあがると「ビール」も一本買った。(えっ、車の運転はどうすんの?)と思ったが、席に着くと栓を開けてビールを希に手渡した。
「さあ、お願い事した最初の「美味しいもん」と「ビール」やで!これから100年楽しむ最初の一食目や!しっかりと味わったってや。」

 「ごめんな。私だけ…。」
と恐縮してビールを受け取った希に、
「気にせんでええよ。おいちゃんが飲酒運転で事故起こして死ぬようなことあったら、「がん封じ」も「健康祈願」も無駄になってしまうからな。
 さあ、牡蠣は、これで食べるんやで。旨いぞー!」
と言って、バッグからレモン汁とお魚の入れ物の醤油とタバスコと瓶山椒を取り出してテーブルに並べた。
 醤油は、昨日の押し寿司についていた本醤油でレモン汁と合わせた焼き牡蠣はベストマッチングだと思ったが、それの上を行ったのがタバスコだった。今まで食べた「牡蠣」が何だったんだろうと思う味覚でビールがあっという間に空いてしまった。健はすぐさまお代わりで温かいワンカップを買ってくれた。
 栄螺は、身を取り出したのち、山椒をふった。これも、今までにない香りが鼻をくすぐり、熱燗とよく合った。

 希はあっという間に3枚の牡蛎とひとつの栄螺を平らげた。健は、牡蛎を二枚食べると牡蠣と栄螺を希に差し出すと
「あっ、一個、忘れもんしたわ!希ちゃん、あったかいうちに食べや。10分で戻るわ!」
 健は参道への坂を走って消えていった。

 10分後、戻ってきた健の右手には、小さな紙袋が握られていた。
「はい、希ちゃん、「セーマン・ドーマンのお守り」や。「セーマン」は「五芒星」。一筆書きで最初の点に戻って来るやろ。また、この場に戻れるっていうお守りや。病気が治ったら、「お礼参り」に来なあかんからな。「ドーマン」は魔除けの「格子」や。どちらも陰陽師の「印」やし、ここのお守りは完全手作りやから、効き目バッコシやで!肌身離さず持っておくようにな!」
と手渡された。白いお守りを見て、涙が溢れた。
「ありがとう、健さん。大事に身につけさせてもらうわな。」
 健は少し困った顔をして、小さな声で言った。
「もー、泣きなや。知らん人が見たら、おいちゃんが希ちゃんを泣かせてるみたいに思われてしまうやないか!さあ、牡蠣と栄螺食べたら出発や! 次は一気に「松坂神社」や。それが済んだら、今日のメインイベントやで!さあ、はよはよ!」



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