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⑰「菰野町での昼食~「茶茶」のとろろ飯~」

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⑰「菰野町での昼食~「茶茶」のとろろ飯~」
 翌日朝、かすかな頭痛で目が覚めた。(あぁ、白血病の初期症状の頭痛がひどくなってきたんやろか…。吐き気もある。)隣の布団を見ると健の姿は無い。(あかん、もう吐いてしまう!)と思い、慌ててトイレに駆け込み吐いた。出て来るものは黄色い胃液だけだった。出るものも出尽くした感じがしたので、トイレを流すと、洗面所で歯磨きをした。残る頭痛を我慢しつつ、歯磨きを終え、うがいをして口の中はすっきりとした。
 うがいの時、違和感を感じた。(あれ、しょっぱくない!今日は、歯茎の出血は止まってる?)洗面所の鏡で歯茎を確認したが、出血の後はない。そこに健がコンビニ袋をひじにかけ戻ってきた。

 「おう、おはようさん。良く寝れたか?おいちゃんの「イビキ」と「おなら」がうるさくて寝られへんかったんとちゃうか?朝ごはん買ってきたから、食べたら出発やで。朝シャンとかするんやったら早よしいや。」
と声をかけられた。健に軽い頭痛があることと、歯茎の出血が無いことを伝えた。
「ちょっと聞かせてもらいたいことがあるんやけどええかな?」
と言われ、布団をよけてテーブルを出し、健が買ってきてくれた、サンドイッチとヨーグルトと熱いクラムチャウダーを食しながら健の質問に答えていった。

 「ふーん、なんかバーボンの減りが早いと思ってたらそんなことがあったんや。歯ブラシの件もよう解った。今から、30分、いつもより熱めのお風呂に浸かったら出発や。今日も、いろんな神様にお参りするで。お昼はめっちゃ旨いもん考えてるから期待しとってや。」
と言われ、朝食を終えると、希は部屋のユニットバスをいつもより2度高い41度にセットすると言われた通り30分浸かった。
 とめどなく汗が出て、頭も洗い流した。最後に、水シャワーを浴びると、不思議と頭痛は無くなっていた。

 ホテルを出ると、車は津市白山町にある大観音寺にむかった。バブルの前に創建されたこの寺は、「33メートルの純金大観音像」とよくわからない「がん封じ」の中国の神獣「白澤」がいた。リアルな髭づらのおじさんの顔に牛っぽい身体で奇妙な感じは否めないが、「白血病が治りますように…」と希は丁寧に手を合わせた。さらに境内にある「百観音霊場」という「西国三十三観音」、「坂東三十三観音」、「秩父三十四観音」を一気に参拝できる建物に入った。入り口で500円で5円玉を100枚と交換すると、100柱の観音様に手を合わせて回った。その後、「四国八十八か所霊場」の建屋も参拝した。「百観音霊場」と同様に、各観音様に5円ずつ賽銭箱に入れながら、病気の治癒をお願いした。
「希ちゃん、この2時間で百たす八十八たす、ここの神様合わせて、200柱以上の神様にお願いしたことになるんやで!それだけ居ったら、希ちゃんの白血病を直してくれる気の利いた神様もいてるやろ!カラカラカラ。」
と笑った。









 その後、健は境内から出て駐車場を挟んだ反対側の「ルーブル彫刻美術館」に連れて行ってくれた。1987年にルーブル美術館から公式に許可を得て約1300点の彫刻のレプリカが、「作者別」とか「歴史順」とか関係なしに並べられていた。
「はい、これ神さん。」、「これも手合わせとき。」、「一応これも頭下げとこか?」と健が指示する西洋の神様のレプリカ像に希はお辞儀をして回った。
「健さん、こんなレプリカにお願いして効き目ってあんの?」
と希が尋ねると、
「ん、「信じるものは救われる」っていうやろ。ほんまもんの神様やと思って拝んどき。ここは「賽銭」なしでお願いできるからお得やろ。カラカラカラ。」
と笑った。




(ルーブル彫刻以外に仏像もあります。(。-人-。) )


 続いて、伊勢自動車道から東名阪に入り鈴鹿市山本町にある「椿大神社」にむかった。この神社は「猿田彦大本宮」であり、伊勢神宮と同時期に創立した日本最古の神社群のひとつになる。ちなみに北アメリカに1986年に分社が建立され、アメリカで最初の「神道神社」でもあると説明を受けた。そんな話をしながら、健は希に冗談ぽく言った。
「頑張る人の味方で、「道開き」の神社って言われてんねん。奥宮に「万病を治し、不老長寿の神水」が湧く「かなえ滝」があんねん。滝の写真を待ち受けにしたら願い事が叶うっていう近畿では有名なパワースポットやねんで。もちろん、「御神水」は「飲み放題」やから、「たらふく飲む」が基本やな!ノルマは10リットルやで!カラカラカラ!」
 笑いながら説明する健の後ろについて広い境内を歩き、奥宮に着くと「長寿金龍の神水」が流れ出る「かなえ滝」に着いた。
 (どうか白血病が治って、美味しいものがたくさん食べられて飲み続けられますように!)と希は祈りながら「神水」を口にした。冷たくまろやかな「かなえ滝」の水をお腹が「ちゃぽちゃぽ」いうまで飲み続けた。



 その後、3度撫でて願い事をお願いする招福の玉石をお参りし、丁寧に本殿で手を合わし椿大神社を後にした。お昼近くになっていたこともあり、健が次に車を走らせた先は、大きな観光バスが何台も止まっている「茶茶」という菰野町の道路沿いのレストランだった。
 昼前にもかかわらず超満員で「1時間ほどお待ちすることになりますが…。」と言われたが、健は迷わず「お願いします。」と言った。(えー、1時間待っても健さんが食べるってどんなに美味しいもんが出るんやろ?店の看板には「自然なんとか」って書いてあったけど何のことなんかな?)と思い、健に尋ねた。

 「あー、あの字は「自然薯じねんじょって読むんや。まあ、簡単に言ったら「とろろ芋の王様」みたいなもんやな。凄い粘って味も濃いから旨いぞー!おいちゃんは、「とろろ飯」食べるんやけど、希ちゃんはせっかくやから「自然薯豆腐」と「お造り」と「蕎麦」のついたセット定食食べたらええで。「松」、「竹」、「梅」好きなん選びや!」
と言われメニューも確認せずに迷わず「「松」頼んでええ?」と聞いた。
「カラカラカラ、何も見んと決めてよかったんか?「松」コース大いに結構!ちなみに大阪では普通「松」が一番良くて、そんで「竹」、「梅」ってランクが落ちていくんやけど、「茶茶」では、その順番が逆やねん。
 まあ、さっきの椿大神社が春に「梅まつり」とかもあるし、ここでは、「梅」が一番なんかな。大阪では大きな寿司ネタで有名な、阪急東通り商店街の「元祖ぶっち切り寿司」の「魚神」さんも「梅」が一番上やな。知らんと「梅」頼んで財布泣かせてしもたことがあるわ。まあ、人によって、何が一番かは変わってもおかしくないってことやな。」
と「松竹梅」のうんちくも教えてもらった。
 余談だが、その時に「焼酎」の格付けも「甲」より「乙」が良いと教えてもらった。「乙」が「本格焼酎」と呼ばれ、混ぜ物がなく悪酔いしにくい「良い焼酎」だと教えられた。その時に、今朝の頭痛は「二日酔い」であることが伝えられ、少し「ほっ」としたのを覚えている。

 1時間待って、席に通された。
「少なめのご飯にたっぷりと自然薯をかけて、好みで薬味を乗せて、ご飯を泳がすように食べるんやで。?まんと味わうのもええからやってごらん。」
と健がするのを見よう見まねで、大きなすり鉢に入った自然薯を入れようとしたときにうっかりすり鉢を倒してしまった。(きゃっ、やっちゃった!)と思ったが、自然薯は、こぼれることなくすり鉢の底に張りついていて、こぼれることは無く、自然薯の粘りのすごさを実感した。
「希ちゃんもこの自然薯みたいに「粘り強く」生きていかなな。」
との健の言葉が胸に強く残った。
 自然薯豆腐は、もっちりとした食感、蕎麦はしっかりとした歯ごたえと風味を楽しみお腹も十分に膨れたが、隣の人が食べているのを見てどうしても食べたくなったものがあった。
「健さん、「自然薯アイス」食べてもいい?」
と聞くと
「あぁ、是非とも食べていき。これは、ここでしか食べられへんからな。なんやったら「とろりんプリン」も注文しいや!「茶茶」のデザートは唯一無二やからな。ここで食べておかんと後悔して、死んでも死にきれへんからな!ん、それやったら「食べへん」方が長生きできるっちゅうことかな?じゃあ、やめとくか?」
と冗談を交えながら、しっかりとふた品とも頼んでくれた。



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