『私の神様は〇〇〇〇さん~不思議な太ったおじさんと難病宣告を受けた女の子の1週間の物語~』

あらお☆ひろ

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⑱「敢国神社~今は無き名阪国道「忍者ドライブイン」のホルモン丼~」

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⑱「敢国神社~今は無き名阪国道「忍者ドライブイン」のホルモン丼~」
 茶茶での豪勢な昼食に、120%の満腹感を得た希はご機嫌で店を出た。午後2時を過ぎているにもかかわらず、待ち席には多数のお客さんが席が空くのを待っていた。(あー、ホンマに人気店やねんな!まあ、健さんがお勧めするだけあって、全品、美味しかったもんな…。あー、極楽極楽!)とランチのひとつひとつを思い出していると、健が背中をもじもじしてる。
「健さん、背中かゆいん?めちゃくちゃごちそうになったし、お礼に掻いてあげよっか?」
と声をかけると
「そりゃ助かるわ。お願いしてええかな?」
と希に背を向けた。希は悪乗りして、健のポロシャツの裾から直接手を下に入れ、ダイレクトに背中を掻いた。健の背中はモチモチしていてすごく暖かかった。
「あー、気持ちええわ…。」
と笑みを浮かべていた健が突然、激しくもぞもぞし始めた。(えっ?現役女子大学生の「生背中掻き」に感じてしもたとか?)と思った瞬間、
「かゆい、かゆい!希ちゃんもしかしてご飯の後、手洗いしてへんのとちゃうか?自然薯を擦るときに指先についたりしてへんか?」
と健がわめきだした。

 「あー、そういえば、自然薯飯食べるときに唇から垂れた自然薯を指ですくって舐めたかな…?」
「ぎゃー、それや!自然薯はとろろと一緒で直接皮膚の弱いとこについたらめっちゃかゆくなんねんぞ―!このあほー!おいちゃんを殺す気かー!速攻、手洗ってきて、濡らしたハンカチで背中拭いてくれー!このままじゃ車の運転もできへんぞ!」
と怒りながら、もんどりうつ健に「ごめんなさい」を言うと、洗面所に急いだ。
 しっかりと石鹸で手を洗い、濡らしたハンカチに石?を染み込ませ駐車場に走った。車の前で、女子大生が太ったおじさんのシャツの背中に手を差し入れてもぞもぞする情景に観光バスの外国人たちに好奇の目を向けられたのが痛かった。

 健の背中のかゆみも収まり、ようやく次の目的地に向け再スタートした。希は車内で何度も謝るので、健はそれ以上は何も言わなかった。車は鈴鹿から亀山に出て名阪国道に入った。きつい坂を大型トラックに交じって健の軽自動車はエンジンをふかして走っていく。
 希が元気なくうつむいているので、健が次に行く敢国神社あえくにじんじゃについて説明をしだした。昨日行った松阪神社内の少彦名命社すくなひこのみことしゃで祀られている「病気平癒」の神である少彦名大神が配神で、「御神水井戸」が境内にあるが今は塞がれてしまっているとの事だった。
「じゃあ、次の神社では「神水」は飲まれへんの?」
と尋ねる希に優しい笑顔で返事をした。
「心配せんでええよ。手水舎が井戸と同じ水脈やからそこで100リットル飲んだらええよ。超軟水で飲みやすいし、希ちゃんやったらそれくらいはいけるやろ。カラカラカラ。」

 境内に入ると、この神社の主祭神は大彦命おおひこのみことで第8代天皇「孝元天皇」の第一皇子なのだが、初代の神武天皇の後の2代から9代までの天皇は「欠史八代」といって「古事記」、「日本書紀」で帳尻を合わすために創作された可能性があるということだった。
「そんなインチキな天皇の息子なんかお参りしてご利益なんかあんの?なんだかなー…。」
と希が文句を言うと、
「まあ、そういいなや。仮にも「古事記」に書かれている「天皇」やで。お父さんの孝元天皇は116歳。兄弟の第9代開化天皇は115歳や。「桃太郎」のモデルになったと言われる岡山吉備津彦神社の祭神の「吉備津彦命」のお父さんの第7代孝安霊天皇は128歳、その先代の孝安天皇はなんと137歳やねん。
 まあそんな天皇家の血筋やからお参りしといたら、希ちゃんも130歳くらいまで長生きできるかもしれへんやろ。「嘘も信じりゃ誠なり」や。」
とうんちくを垂れて笑わせてくれた。

 井戸は前で手を合わすだけにして、手水舎で思いっきり「御神水」をたっぷりと飲んだ。
「紅茶やコーヒーいれるのにも向いてるから、何本か入れて持って帰りや。」
と言われたので、3本持って帰ることにした。

 「さあ、お参りはこれでおしまい。さて、最後に美味しいもの食べて帰ろか?水やなくてそろそろお酒飲みたいやろ。」
と車に戻ると、名阪国道を大阪方面に走り大内インターにある通称「忍者ドライブイン」と呼ばれる「伊賀上野ドライブイン」に行った。大型ドライブインの屋根に大きな忍者の人形が隠れていたり、ゆるキャラの女の子の猫忍者の人形が迎えてくれた。
 その一番端にある、お世辞にも「きれい」とは言えない「めし・ホルモン「おすみ」」に連れて行かれた。一昨日行った、京橋の「まつい」と同等のねちゃねちゃ感に、茶色くなった壁紙に染み込んだ油の臭いで、直感的に(この店は絶対に美味しいはず!)と思った。


(在りし日の大内ドライブイン。今はさら地。)

 健がいつも通りメニューも見ずホルモン丼2つと瓶ビールを頼んでくれた。出てきたビールを健が注いでくれたので、希は「7」まで数えながら飲んだ。
「あー、御神水もええけど、やっぱりビールやなー!健さん、私だけごめんねー!」
出てきたホルモン丼は、希お気に入りの「シマチョウ」がたっぷり入った濃い目の甘辛ダレでアツアツの白飯ともビールとも合った。
 淵が欠けたお椀も、粘りつく床も全然気にならず、バクバク、ゴクゴクと食事が進んだ。(あー、この味は「不定形文化財」として100年は残したい味やな…。)と思ったのを覚えているが、残念ながら、建物の老朽化と外出自粛の「はやり病」による旅行客の減少でドライブイン自体が2022年3月に閉鎖となったらしい。
 「おすみ」は伊賀市上之荘の名張街道沿いに移転したらしいのだが、こぎれいになった新店舗は今の希の食指は刺激しなくなっていた。今でも(あー、健さんが連れて行ってくれた汚い店(※失礼!)は、どっこも美味しかったよなー!今度、後輩連れて食べに行くのもええかなー!)と思うことはある。

 ものの20分で完食し、つま楊枝をくわえて「しーしー」言いながら店を出る希はすっかり「京橋」や「十三」の親父そのものだった。ホルモンとビールに満足した希は、ビールも飲まずに運転してくれている健の背中を掻いてあげた。



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