クズな王子と麗しの聖女

もちごめ

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 目の前で赤い髪を靡かせ、輝く金の目でじっとこちらを見ているこのアレクシスという男。
 別名下半身の緩い歩く卑猥物。女性の敵よね。

 この王国の第二王子。

 一度だけ参加した夜会のパーティーで見かけたことがある。

 周りにはたくさん煌びやかなご令嬢方を侍らせ、締まりのない顔をしている男に興味もなく一瞬で視界から排除したから、あまりよくは知らないけれど。
 それでも多々ある噂は知っている。

 令嬢キラーなんて馬鹿みたい。

 思わず、意地悪な言葉が口から出てしまう。
 
 女性からぞんざいな扱いなんてされたことがないのだろう。
 
 目の前で口をぽかんと開けたまま締まりのない顔をしている男に内心「いい気味ね」 と思う。
 私はあなたの数多の取り巻きのように媚びへつらうようなことはしないわ。
 

 もうこれで本当に二度と会うことはないだろう。さっさと踵を返そうと思っていたら、急に手首を取られ、距離が一気に縮まり驚く。
 
 思わずはしたない悲鳴が出なかっただけでも褒めてもらいたい。

 なに、なに、なに、なに!?

 離してよ!!

 抗議の意味を込めて力いっぱいに睨みつけたのだが、
 逆に嬉しそうに笑みを返される。

 意味が分からない。

 おまけに、自分の身分を笠に脅しをかけてくる。

 こいつ、身分でいえば私だってあなたと対等なのよ。

 こんなやつに、付き合いきれない。

 自分の身分をこんなやつに明かすのなんてもったいない。

 至極まっとうなことを述べて逃れようと体を捩じるが、
 あほ王子(もうこれでいい)がゆっくりと目を閉じて顔を近づけてきた。

 ふざけんな!
 
 ご自慢の顔に渾身の頭突きをお見舞いした。

 さすが歩く卑猥物。
 こんな不埒な野郎には頭突きの刑がお似合いだわ。

 ああ、神よ、あなたに成り代わり、私めが天罰を与えておきましたわ!

 ちなみに、私の石頭は昔から定評です。
 アホ王子はみっともなく鼻血をたらしておりますが、わたしは全く痛くなどありません。


 さあ、おふざけも終わりです。
 こんなアホに付き合ってる時間なんてないの。

 そろそろ護衛騎士を呼ぼうかしら?

 おもわず無意識に目の前の男を蔑んで見下ろしていたら、

 目の前の男がニヤリと笑っていることに気づいた。

 なんで笑っているのかしら? と小首を傾げたら、なんと! 首のところに蜘蛛がいるというではないですか!!

 私、蜘蛛は大の苦手なんです!!
 だってあの足が気持ち悪い!!!


 早くとって! と涙目で慌てていたら、またもやアホ王子に捕まってしまった……。

 しかも、今度はぴったりと唇をあわせて。

 くそう、だましたな。

 もう、許さない!

 神よりも恐ろしい天罰をくらわせてやる!! 
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