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このアホ王子は頭は空っぽのくせに力だけは無駄に強い。
さっきから抵抗を試みているのだけれど、相手にとっては赤子の抵抗程度なのだろう。
押しても押してもまったく隙間が生まれない。
さすが騎士団に所属しているだけのことはある。
細身に見えても、当たる胸板や抱きしめてくる腕からは筋肉の厚さが伺える。
いろんな意味で、一応は鍛えてはいるのだろう。
それはいいのだが、だんだんと息が……。
どれ位の時間が過ぎたのか、く、くるしい。
口づけの経験なんてない。
呼吸の仕方がわからなく、酸欠で意識が朦朧としてきた。
やっと解放された時にはもう息も絶え絶えで、ふらふらとする……。
荒く息を吸い、乱れた呼吸を整えていると、まるで、いたずらが成功した子供のように満面の笑みを浮かべてアホ王子がこちらを見ていた。
手には一枚の葉っぱを握り――。
ブチッ。
頭の中で何かが切れる音がした。
すっと立ち上がりアホ王子の股間を思い切り蹴り上げた。
あまりの衝撃だったのだろう。王子にとってはとても大事な場所を手で押さえ、転げまわっている。
それを冷めた目で見やり、自身の身分を告げ、もう二度と会うことはないとも告げて、この場から去っていった。
あの王子はダブルの衝撃を受け、しばらく立ち上がることはできないだろう――。
それもまた、神からの天罰である。
いい加減懲りたらいいわ。
***
「え、そんなことがあったのですか!?」
「ええ、そうよ。でも大丈夫。返り討ちにしてやったわ。
私、昔から売られた喧嘩はお金を出してでも買う主義なのよね」
「はあ……。それはいいのですが、第二王子さまは大丈夫でしょうか……?」
「そんなの知らないわよ。だいたいなんで今日あの場所にいたのかしら?迷子だとしたらこの神殿が迷惑よね。まあ、もう二度と会うことはないでしょうし、それよりもタルトのお代わりを頂戴」
ベリータルトのお代わりを7つも食べきって、ほっぺを緩ませながらうっとりとしている我が神殿の麗しき聖女。
お父上であらせられる国王陛下の怒りを買い、改心させようとこの神殿に連れてこられた第二王子様は、わが聖女の怒りを見事に買い、きついお仕置きをされましたが、あの王子の事です。
果たしてきれいさっぱりと改心されたのでしょうか……。
***
ああ、ほら、本日もまた懲りずにやって来たようですよ。
ああ、聖女様、ダメですよ、そんなに顔をしかめて舌打ちなんて。
貴方様は一応聖女なんですから。
王子も王子です。
そんなにうれしそうな顔をしてアッパーカットを受け止めるるなんて。
ああ、また鼻血が出ています。
そして、たまたま用事があって聖女の部屋の前を通りかかった教皇の頭のてっぺんが今日も光り輝いています。
今日もまた、王宮にお手紙を書かれることでしょう。
いつも静寂で神聖な場所であるこの神殿は、今日もとっても賑やかです。
***
時が過ぎ、子供たちの間にはある物語が流行っていた。
けんかっ早い聖女と打たれ強い王子の恋物語。
第二王子の直球のアピールに、本当はまんざらでもない聖女様は、はじめのうちはなかなか素直になれないでいたが、強引にものにされて早々に聖女を辞した。
その後は4男3女の子宝に恵まれ、王宮と神殿が手を取り合い、いつまでもこの国は栄え続けたと書かれている物語
書いたのは彼らの子孫である国王陛下と教皇であるが、その内容が真実であるのか、そうではないのか、それは神のみぞしる物語である。
完
さっきから抵抗を試みているのだけれど、相手にとっては赤子の抵抗程度なのだろう。
押しても押してもまったく隙間が生まれない。
さすが騎士団に所属しているだけのことはある。
細身に見えても、当たる胸板や抱きしめてくる腕からは筋肉の厚さが伺える。
いろんな意味で、一応は鍛えてはいるのだろう。
それはいいのだが、だんだんと息が……。
どれ位の時間が過ぎたのか、く、くるしい。
口づけの経験なんてない。
呼吸の仕方がわからなく、酸欠で意識が朦朧としてきた。
やっと解放された時にはもう息も絶え絶えで、ふらふらとする……。
荒く息を吸い、乱れた呼吸を整えていると、まるで、いたずらが成功した子供のように満面の笑みを浮かべてアホ王子がこちらを見ていた。
手には一枚の葉っぱを握り――。
ブチッ。
頭の中で何かが切れる音がした。
すっと立ち上がりアホ王子の股間を思い切り蹴り上げた。
あまりの衝撃だったのだろう。王子にとってはとても大事な場所を手で押さえ、転げまわっている。
それを冷めた目で見やり、自身の身分を告げ、もう二度と会うことはないとも告げて、この場から去っていった。
あの王子はダブルの衝撃を受け、しばらく立ち上がることはできないだろう――。
それもまた、神からの天罰である。
いい加減懲りたらいいわ。
***
「え、そんなことがあったのですか!?」
「ええ、そうよ。でも大丈夫。返り討ちにしてやったわ。
私、昔から売られた喧嘩はお金を出してでも買う主義なのよね」
「はあ……。それはいいのですが、第二王子さまは大丈夫でしょうか……?」
「そんなの知らないわよ。だいたいなんで今日あの場所にいたのかしら?迷子だとしたらこの神殿が迷惑よね。まあ、もう二度と会うことはないでしょうし、それよりもタルトのお代わりを頂戴」
ベリータルトのお代わりを7つも食べきって、ほっぺを緩ませながらうっとりとしている我が神殿の麗しき聖女。
お父上であらせられる国王陛下の怒りを買い、改心させようとこの神殿に連れてこられた第二王子様は、わが聖女の怒りを見事に買い、きついお仕置きをされましたが、あの王子の事です。
果たしてきれいさっぱりと改心されたのでしょうか……。
***
ああ、ほら、本日もまた懲りずにやって来たようですよ。
ああ、聖女様、ダメですよ、そんなに顔をしかめて舌打ちなんて。
貴方様は一応聖女なんですから。
王子も王子です。
そんなにうれしそうな顔をしてアッパーカットを受け止めるるなんて。
ああ、また鼻血が出ています。
そして、たまたま用事があって聖女の部屋の前を通りかかった教皇の頭のてっぺんが今日も光り輝いています。
今日もまた、王宮にお手紙を書かれることでしょう。
いつも静寂で神聖な場所であるこの神殿は、今日もとっても賑やかです。
***
時が過ぎ、子供たちの間にはある物語が流行っていた。
けんかっ早い聖女と打たれ強い王子の恋物語。
第二王子の直球のアピールに、本当はまんざらでもない聖女様は、はじめのうちはなかなか素直になれないでいたが、強引にものにされて早々に聖女を辞した。
その後は4男3女の子宝に恵まれ、王宮と神殿が手を取り合い、いつまでもこの国は栄え続けたと書かれている物語
書いたのは彼らの子孫である国王陛下と教皇であるが、その内容が真実であるのか、そうではないのか、それは神のみぞしる物語である。
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