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駄目、残念、時間切れ

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水辺に移動する、なぜか全員。

「体に触れることができたら、終了。一緒で良いですよ」

俺とエルネスは左右から距離を詰めた、と思ったら俺の横を一瞬で移動し、背中にタッチされた。
エルネスの方によろける。
エルネスが俺を避けて、ハーラートに飛びかかる。
一瞬で躱され、タッチ。
よろけて俺の前に。

回り込んだ俺のその背後に更に回り込まれて、タッチ。
エルネスが俺の前に。
あとは同じようなことの繰り返し。
疲れで速度が鈍ってくる。

それでも、ハーラートの左側にダッシュ、エルネスが右からはさみ込む。

リングが光って、頭の中で声が響いた。「加速を取得しました」。
エルネスのリングも光った。

「はい、終了して」とパネサ。

今日の訓練は終わり。

パネサが、亜空間と野天風呂と岩山をだした。
今日は白濁のお湯の方だ。

「何かスキルを取得したね」とハーラート。
「加速です」
「追尾でした」とエルネス。 
「あの動きはスキルですか?」
「あれは普通に移動しただけ」
確かに、目で追えなかったわけではないから。

単純に、相手の攻撃をまず躱す。
これが基本だけど、一番重要とのこと。
相手の攻撃が何か判らない以上、受けるのはそれだけでリスクになる。
正確に早く、躱して死角に入る。
ある程度これができないと話にならない。

俺とエルネスはかなり早く動けると思う。
それでも余裕で躱すか。

「速さは大事だけど、どの位置に移るかが重要だね。要するに慣れだけど」
位置取りが大切だということか、狩りと同じだ。
「君たちはかなり速いよ。それにスキルを取得したから、今回は十分だね」

***

メリシテがさかんにお湯を肌になじませている。

「体が包まれる感じで、トロトロ」
「このお湯は、肌の張りにいいの」とパネサ。

昨日はしっとりして、今日は張り。
パネサはどうみても若いし、肌がツヤツヤ。
「日頃の手入れが大切、覚えておきなさい」とパネサが笑った。

「ダネルは多重空間を取得したから、同じことができるの?」とジーヌ。
「もっとスキルレベルが上がればね」とパネサ。

旅先で温泉につかることができる?
いい感じじゃない。

「キレイ」とメリシテ。

ジーヌが振り返ってメリシテが指した方向を見る。
星の光を反射する水面に霧が風で流されてところどころに渦を作り始めた。
濃淡で光の強さが異なり、まるで光のカーテンが揺れているようだ。

翌朝。

リングが光って目が覚めた。
テントの外にでると、いきなり朝日が眩しい。
皆もテントから這い出して来る。
朝食のため、小屋へは向かえない!

「おはよう」とパネサ。

パネサは、顔の傍で指を立てて亜空間と言った。
水回りの小屋が建っている。
更に、小屋と俺たちの間にはあの上半身を乗せていたテーブルが。

そして、料理がセットしてある。
もうなんでもありなの?

「じゃあ適当に朝食をとってね」と言って、パネサは小屋に向かった。

「パネサ、言わないで」とジーヌ。
どうすればこの状態になるのか、朝食を取りながら皆で検討するものの結論がでない。

「駄目、残念、時間切れ」とパネサ。

まとめると。
小屋を多重空間で配置。
テーブルは実は2つあって、中の人がその上に料理を用意してくれたものを、多重空間で配置。
食料庫は、それ自体が別空間とつながっているので配置できないらしい。

亜空間を解除して、テントや焚火台などを撤収。
水辺ぞいを歩いてから、森の中に入る。

森ウサギを取るための罠を作る。
講師は、エルネス。
簡単な枝の弾力を利用した跳上げ式の罠の説明。
エルネスが木の根元あたりの地面を手で撫でた。
少し離れた枝が跳ね上がり、ツル紐がエルネスの左腕を宙づりにする。

今回は、本当に捕えたいわけではないので、作り易そうな場所にどんどん仕掛けた。

前方の岩の陰で、何かが動いた。
森ウサギだな。
声がするので潜んでいたがちょっと様子見か?
そこから離れた藪が怪しい、巣がありそうだ。

エルネスを口笛で呼び、指サインで位置を知らせる。
ハーラートがこちらを見てニコっとする。
ハーラートは、探知スキルを使っていたようだ。

ハーラートが指サインで、岩の向こう側からこちらに追うと言った。
瞬間、ハーラートが消えた。
間があって、岩の向こう側から口笛が聞こえたが、姿は見えない。

岩の陰は安全だと思っているから森ウサギは動かない。
突然その岩が衝撃で揺れた。
驚いてジャンプ、そのまま藪に向かった。
エルネスが既に回り込んでいて追い返す。
エルネスが追尾する。

岩の場所を警戒して、左に逸れる。
その先には俺が待っている、捉えた姿に向けて石を投げた。
石を避け、岩を飛び越えようとジャンプ。

加速スキルが発動した。
森ウサギがゆっくりと目の前の宙を横切っていく、その足を掴んだ。

手早く足をまとめ、首の皮をつまんで持ち上げる。
「カワイイけど」とメリシテ。
確かに森ウサギの顔はカワイイけど、身体はマッチョ。

森ウサギをリリースして、帰路についた。
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