撃ち抜くは分の悪い賭け

坂津眞矢子

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散々悩んだ挙句の選択

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「それは貴女向きでも私向きでもない」
「……なら? どうするのひーちゃん? くすくす」
「ふふふっ。決まってるわよ、なーちゃん」
「うんっ!! じゃ、突撃突破!! ……だーよね?」
「ええ! じゃあ一緒に行くわよ!!」



 そして、二人はその手を握る



――――――――――――――――――

――――――――――――――――――


「……」

 学園長の長い長いお話。偉い人のご紹介。歌。更に長いお話。お話。暖かい暖房。春の日差し……。
 そう、今は入学式。星花女学園の大事な大事な新星が神聖な時間を過ごす時。年に一度きりの、生涯に大抵一回だけの……と、大上段に振りかぶって、現在進行系のその神聖な大事な一回こっきりのイベントの価値観を色々上乗せ上乗せしてみたところで

「ふぁ……」

 この眠気には、どうにも勝てない。睡魔強い。長いお話はどうしたって飽きる。学園長のお話も偉い人のお話も、身になることは確かでもあるんだろうけれど、春眠暁を覚えず、という別の偉い? 人の言葉もあるわけで。まぁつまり、すいませんねむいです。あとで過去の入学式なりデータなり調べますからそのへんで……ともいかないからどうにもならない。これは一定の時間が過ぎるまで頑張らなくてはならないイベントなのだ。新星児達には辛い儀式である。

「あふ……」

 周りの幾人かも、顔見知った友人も、やっぱり眠そうであくび涙目ふにゃむにゃむにゃ。そもそも、新星とは言っても大半がエスカレーターで、新星達自身にあんまり新星の自覚が芽生えにくいとも思う。そこが、もう一つの慣れた空間で飽きる原因で。慣れきってしまってはどんな者でもどんなモノでも、ダレてきてしまうというものだ。それが例え、一回きりだとしても。一回きりだというのに慣れたモノ、と捉えてる私の頭もどうかと思うことはあれ、思考をやめると夢の世界にご案内されてしまうのだ。なので、変な思考になろうとも、私は考える。しかし努力虚しくこんなふうに色々思考をこねこねしていようとも、私もご多分に漏れず木漏れ日の中でまどろんでいるかの如く、眠気にすっぽり身を包まれてしまって久しい。

「も、もう少し……」

 ガクッとふらりと、時折膝から崩れ落ちそうになるのを懸命にこらえる。今すぐ夢の中に逃避したいのが本音であるなら、高等部に上がった初日で失態はしたくないのもまた本音。こんな眠たくなる日当たりのいい場所に当たってしまった順列が憎いが、日差しが嫌なので……なんて、わがままな理由ではどうにもならない。日陰を割り当てられた寒い場所にいる子たちが聞いたらぶん殴られそうだ。さみーんだよこっちは!! かわれよ!! とか、現に視線送ってくる娘いるし。寧ろこっちはかわりたいです。こういうのを青い芝生という。実際入れ替わったらその人とは後日よく解り合える仲になれそうだ。そんな瞬間移動能力は持ち合わせていないので、やっぱりこうして馬鹿なことを考えつつ、眠気に負けないように頑張り続けるのである。

「……」

 ついっと前を見やると、同じように何人かが日当たりの良い場所に。やはり皆眠いのか、ふらつく人や隣の子の肩を借りて……寝てる。寝んのかよ。

(ある意味、強いわね……)

 あの娘は、誰? いっそ寝てしまうのも確かに強い。序に巻き込まれてる肩貸してる娘も。その子達に興味が惹かれて、幸いなことに残りの時間はなんとか無事に乗り切った。膝から崩れ落ちてKO負けしたボクサーの様にならずに済んで、幸い高等部初日は可もなく不可もなく終われそう。


――――――――――――――――――
――――――――――――――――――

 深芳野みよしのひかる、と書かれた場所にトコトコすとん。割り振られた席について、そうして自己紹介タイムを終えて、各自でそれぞれ思い思いの時間を……とは言っても、皆顔見知りが多いので勝手知ったるめいめいの行動に移る。そんな中ころんと転がって来た存在でもある、お引っ越しやら転入やらで他所からの生徒というのは大抵貴重がられるというもので。その娘をみんなで取り囲んだり、あるいは自由に言葉を浴びせ、きゃいきゃい楽しくやっている。

「光源氏はまだ読書っ子?」
「うーん」

 その輪に入らない幾人かの一人が一人に話し掛け、もうひとりは唸り声。

「どうにも、苦手」
「そうかぁ」

 へにゃんと首だけこっちに下げて、前の席で足をブラブラ、首をこっちに向けてくるは、黒髪の少女。

「はっしーも行かないじゃない?」
「囲い込みいじめみたいで、どうにも苦手」

 クスリと笑う、私達二人。いじめてるわけじゃないし、ちゃんと楽しそうに見える。なのに、そうやって数多の出会いを逃してきたというのに、私はまだこんなことを続けてしまっている。

「あたしは一人が好きだからいいけど、さ?」
「……私も好きよ?」
「違うんだよなー光はさー」
「いや嘘なんかつかないって」

 私の言葉に一つ二つ、笑顔をくれた彼女はガコッと椅子を戻し、此方に向いて座りなおす、見知った友人、橋本梢。

「一人も好き、であって、純粋に一人が好き、ってわけじゃないじゃん」
「そんな事……」

 ウインク一つ、指一つ添えて私を見つめる彼女には、それ以上の言葉が出てこず紡げず

「……あるわね」
「うん。そうなのよ、光は」

 その執行猶予あとどれくらい? 高校まで? 大学まで? それともその実、中学までだった? 矢継ぎ早にぽんぽんと、梢が言葉で単語で攻めて来る。そのどれもがぐさりぐさりと刺さっていく。

「このままじゃいけない、と思うんだーあたしはさ」
「うぐ……」
「だからさ、光もそろそろ、進まない?」
「進む……」

 刺してきた剣を今度は自身にぐさりと刺して、笑顔で私を道連れに誘う彼女。別に誰かと死に別れたとか大した事でもないのだけれど、なかなか抜け出せないまま引きこもり気味な生活を送ってきたわけだ。今動かなければ、きっとズルズルなし崩しに行ってしまうのだろう。それを、梢も感じ取って、一人の時間を終わらせたいらしい。孤独が好きな彼女が、変わろうとしている。

 ……

「……ううぅーん」
「くふふっ、まぁ悩むよね」

 ニヤニヤ笑顔でそう語る。二人は二人で今も少し離れてマイペースで過ごしている。変えるべきか変えないべきか、未だに悩みながらもなんとなく、それで乗り切ってしまえた中等部。

「でも、目標があるならそれでいいと思うんだ」
「はっしーはあるの?」
「んむ。ここの学生寮の管理人とかなりたくてな」

 黒い長い髪をゆらゆらさせて、こーんなでっかい場所やりたい放題だもんなー! と、からりと笑う彼女は、確かに輝いて見えた気がした。

「進む、かぁ」

 ポツリと再度、その言葉。私はまだまだ、三年前から進めていない。
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