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第二章 一部を除けば、楽しい学校生活(十四歳)

012 高貴なるヒゲ1

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 私が復讐を果たす前に死なれても困る。
 となれば、善は急げというわけで。

 現在私は学校内にある、植物室に向かおうとしていたルーカスを捕獲したところだ。

「私とグリムヒルにいくのよ」

 ルーカスの進路を塞ぎ、仁王立ちしながら告げる。

「え、嬉しいんだけど。だけど、どういう風の吹き回し?」
「とにかく、そのマンドラゴラを置いてついてきて」

 私はピシリとルーカスが小脇に抱えた鉢植えを指差す。

 一見すると、ただの薬草にしか見えないそれは超危険植物のマンドラゴラ。万が一グリムヒルで引っこ抜かれた日には出禁になってしまうかもしれない。

 娯楽が詰まるあそこの出禁だけは勘弁だ。
 それだけは阻止してやると、マンドラゴラの鉢植えを睨みつける。

「じゃ、一回部屋に戻らないと」
「は?その辺に」
「流石にルシアの頼みでも、それは無理。じゃ北の門で。すぐ行くから」

 笑顔満開で呑気にこちらに手を振るルーカス。

「何よあれ、主人に懐く犬みたいで、ちょっと可愛く思えちゃったじゃない……って馬鹿じゃないの!」

 私はギリギリとひとり歯軋りをしてみた。

「うっ、寒気がする」

 私は即座に歯軋りをやめる。

「恐るべしルーカス・アディントン。全ての調子を狂わす厄介な男」

 私は一人呟き、待ち合わせである北門へ足を進めたのであった。


 ***


 北門でルーカスと合流した私は、広がる平原を横目に見ながらグリムヒルを目指す。

「そういえば、医務室のダゴダ先生が言ってたんだけど、君が僕を助けてくれたんだってね」
「闇落ちエルフめ、余計なことを」

 チッと悪人全開で舌打ちをしておく。

「ありがとう。助かったよ。それに心配してくれていたみたいで、嬉しかった」

 隣を歩くルーカスがわざとらしく私の顔を覗き込み、「ありがとう」と笑顔で口にする。

「同郷のよしみなだけ。深い意味はないから」

 私はきっぱりと言い切る。

「ま、それでもいいや。で、今日のデートはどういうプランなの?」

 言いながらルーカスが私の手を握ろうとしてきたので、私はペシリとその手をはたき落とした。

 一年生の時はともかく、三年生になった私は、安易にルーカスに手を握らせたりなんてしない。

(そもそも彼氏でもなんでもないし)

 握ろうとするほうがおかしいのだ。

「勘違いしないで。これはデートじゃないから」
「そうかな?僕はデートだと思って歩いているんだけど」
「とにかく今日はグリムヒルに行く。そして用事をちゃちゃっと済ませて帰宅する。わかったらさっさと歩く!」

 ルーカスの言葉を振り払うように叫ぶ。

「はいはい。仰せのままにお嬢様」
「誰がお嬢様よ。気持ち悪いこと言わないで。黙ってついてきて」

 お口にチャックを示すべく、私は自分の口に手を当てて横に引く。

「えー、せっかくのデートなのにお喋り禁止はつまらないよ」
「だから違うってば」
「可愛いルシアと制服デート」

 可愛いの安売りをしまくるルーカスが私の頭を撫でようとする。もちろん私はその手も乱暴に振り払う。

(全く油断も隙もないわ)

 呆れつつも何だかんだルーカスと騒いでいるうちに、グリムヒルの入り口に到着した。

 石畳が敷かれた道に、色彩豊かに連なる店をなぞるように曲がりくねった歩道は、今日も今日とて、多くの人で賑わっていた。

「ええと確か……」

 道端に退避した私はポケットから、目当ての場所に印をつけたグリムヒルのマップを取り出した。そしてその場で広げ、目的地を確認する。

「どこにいくの?」

 ルーカスが広げた地図を横から覗き込む。

「高貴なるヒゲって鍛冶屋さんなんだけど」
「あ、知ってる」
「なんでルーカスが知ってるのよ」

 私はマップから顔をあげる。するとルーカスが何故か私の顔を見て微笑んでいた。

「だってここ、僕の行きつけのお店だし」
「え、そうなの?」

 素で驚いた私は、ルーカスに向ける邪気を取り払い目を丸くする。

(もしかして、指輪を既に持っているとか?)

 人から奪ったものであったとしても、ルーカスは一応王子だ。
 やはり大事に扱われているのかも知れない。

(だとするとなぜ指輪をはめていないのだろうか)

 私はジッとルーカスの両手を確認する。意外にも節々がしっかりとしている大きな手。しかしその指先には指輪など一つもつけられていなかった。

「というか、男子は剣術の授業があるし」
「なるほど?」
「安心安全な模擬剣を作ってもらうため、フェアリーテイルの男子学生はグリムヒルに行きつけの鍛冶屋があるんだ」
「そういうこと」

 ルシアの説明を受け、納得する。

「ちなみにルシアは何を作るつもり?」

 ゆっくりと歩き出しながら、ルーカスに問われる。

「ええと、装飾品的な?」
「なるほど。君たちブラック科はお洒落だもんな」

 微塵も疑うことなく、ルーカスが納得した声をあげる。

(ふむ。ここまで来たのはいいけど)

 今更ながら、一言もルーカスに指輪の件について説明していない事に気付く。

(でもまぁルーカスだし)

 言いくるめるのは簡単だろう。そんな風に楽観的思考を巡らせ、私は一人、ほくそ笑んだのであった。
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