復讐の始まり、または終わり

月食ぱんな

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第五章 事件がいっぱい、学校生活(十五歳)

046 キラキラキラリンと勉強会

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 普段は柔らかな光と温かさに満ち溢れ、ガラスに反射した太陽から射し込む光の輝きに、やんわりと包まれているルーカスの温室。

 しかし現在の時刻は夜の十時を回ったところ。その時間に訪れた温室は、昼間とはうって変わり、ガラスの壁に星空が映し出され、植物たちの輪郭りんかくが美しく浮かび上がっている。そんな幻想的な空間の中、私の目の前には一人の青年の姿があった。

 視界を埋めるように置かれた植物と同じような緑色の髪と、はちみつ色の瞳を持つキラキラしい青年――キリル・フロッキーである。

 彼とルーカスは王子として認識ある仲らしく、お互い別の道を歩み始めた今なお、それなりに交友関係が続いている、いわゆる腐れ縁らしい。

「はい、お近づきの印にどうぞ。ラブプリグッズ。完売したのも入れといたよ」

 自称、夢の国から飛び出した、愛を届ける緑のラブリープリンス、キリルンは園芸テーブルの上にドサリと音を立て、大きな麻袋をのせた。

「魔法のCDにはサインも入れといたから、ルシアちゃんの部屋に飾ってくれると嬉しいな。あ、転売はやめてね」

 キリルはウィンクを私に一つよこしたのち、私の向かい側となる、園芸用テーブルに合わせて置かれた椅子に腰を下ろした。

「いらないってさ」

 温室での定位置。私の隣に座るルーカスが、ツツツと麻袋をキリルに押し返す。

「お前にやったわけじゃない。こちらの可憐なルシア嬢にあげたんだ」

 キリルが私に笑顔を向ける。すると隣に座っていたルーカスがあからさまに不機嫌な表情になった。

(私が誰より可憐なのは認めるけど)

 タダより高いものはないと思う派なので、ルーカスの「いらない」という言葉には同意だ。

 しかし、愛を届ける緑のラブリープリンスとして、日々忙しいキリルンをわざわざ温室に招いたのは他でもない私だ。よって無下むげに「いらない、こんなゴミ」などと、ついつい浮かんでしまう気持ちを口にするわけにはいかない。

「ありがとうございます」

 私は笑顔を作り、礼を述べた。

「まぁ、ブラック・ローズ科の君には、正直刺激が強すぎるかも知れない。けれど、俺の愛のこもったプレゼントを受け取れば、きっと君も、その良さに少しは気付くかも知れないしね」

 キリルが満足げに笑みを浮かべる。

「それで、ロマンチック詐欺の事を知りたいんだっけ?」

 キリルは園芸テーブルの上にひじを突き、両手を組むように合わせた。そしてその上に顎を乗せると、視線を私に向ける。

「はい。なりすまし詐欺とか、そういう詐欺について、その手口を具体的に知りたいです」

 私は素直に目的を告げる。

「これは確認だから、気分を害したらごめんなんだけど。君がそういう事を、つまり詐欺行為をしようとしている。だから参考に俺の意見を聞きたい。そういう訳じゃないよね?」

 キリルは自分の口元に人差し指を当て、疑いの眼差しを私に向けた。

 いちいち挙動がキラキラアピールをしてくる所にイラッとするが、プロ根性を感じなくもないので、ここは気にしない事にする。

「失礼な事を言うな。ルシアはそんなしょぼい犯罪はしない。するとしたらもっとでかい案件だ」

 ルーカスが実に微妙な感じで私をかばってくれた。

 私としては、ブラック・ローズ科の生徒である事を明かしている以上、疑われるのは仕方がないと理解出来る部分はある。なのでキリルの言葉に気分を害したりはしない。

「実は、身近な人が詐欺に遭っているんじゃないかと。そう疑われるような事案を抱えているんです」

 私はナターシャが、マジカルモバイルにとろける笑みを向けている姿を思い出しながら答える。

 恋するナターシャはマジグラムで連絡が来たブルーノにまつわる、様々な不審な点を自分に都合よく解釈しているようだ。

 それに対し、私はどうもに落ちない事ばかりだと感じているというのが現状だ。

 正直なところデートをするのに、ボディガード代を払わせるという件に関し、私は納得がいっていない。確かに有名人だからこそ、ストーカー被害に遭っているという理由はそれっぽいと納得もできる。しかしボディガード代を彼女に払わせる。

(それって、何だか逢いたい人にする行為じゃない気がするんだけど)

 そう感じてしまい、どうにも嫌な予感がしてたまらない。

 私は自分の左手の薬指にはまる、ルーカスから貰った指輪を見つめる。これはルーカスが押し付ける形で私にくれたものだ。けれどルーカスは私に一銭も払えと言ってこない。それがうざいくらい重い愛のせいなのかはわからない。

 けれどもし、はめるつもりもなかったこの指輪の代金を、ルーカスが「僕を愛しているというなら払え」と言ってきた場合、その後ルーカスがいくら私を愛していると口にした所で、その気持はウソっぽいなと感じてしまうような気がする。

 ただ、私が感じるそういう違和感を、上手くナターシャに伝える事が出来ていない。

(私自身、具体的に説明できない気持ちだから)

 それに、ルーカスが私に向ける気持ちが、嘘ではないと証明する事も出来ないわけで。

 よって、ナターシャが絶対にだまされているという確証もない。あるのは、私が感じる「何かおかしい」という第六感に近い違和感だけだ。

 そもそも被害に遭っているのがナターシャでなければ、「自業自得」だとか、「脇が甘い」などと思い、こんな見るからに面倒そうな人に話を聞こうだなんて思わない。

 ナターシャ以外だったら、迷わず見てみぬフリをする。ただ、今回ばかりは親友であるナターシャにまつわる事なので、どうしても放置しておけないのである。

「君の身近で被害に遭ってる人って、もしかして」

 キリルの視線が私からルーカスに移る。

「僕じゃない」

 ルーカスはぶすっとした顔で否定した。

「なるほど。まぁ、いいよ。俺の知ってる事を話そう。被害に遭う子を一人でも減らしたいから」

 そう前置きして、キリルは話し始めた。

「半年前くらいかな。マジグラム上にある、ラブプリのアカウントをフォローしている子宛に、僕たちを名乗る人物からDMが届くようになったらしいんだ。勿論最初はみんな疑っていたようだけれど、やり取りをしている内に段々本人だと思い始める子が出て来て、最終的にその子達はお金を振り込んでしまったみたいだ」

 キリルはひどく傷ついた表情を浮かべて俯く。

「どうしてその子達は信じてしまったのですか?」

 私は素朴な疑問を投げかける。

「相手は詐欺師だ。彼女達の興味を引くメッセージを送り、趣味や好みに合わせて会話を進める。そして彼女達を特別な気分にさせる事に長けているんだ。やがて愛を語り始め、彼女達も自分だけは特別だと勘違いし、偽物にどんどん惹かれ、困っているならば、助けなければ。そう思ってしまったらしい」

 キリルの言葉に、やはり私はナターシャを思い浮かべ、思い当たるフシがありすぎるなと再確認する。

「つまり騙された人達は、実際に本人に会ってお金を渡した訳じゃないんですよね?」
「そうだね。そもそも本人じゃないから、会えないだろうし。とは言え、最近では会う約束をして、約束場所に来た所を、集団で取り囲み金を奪うって手口もあるようだ」
「もはや盗賊ですね」
「確かに」

 キリルが私にキュッと広角をあげて微笑む。
 完璧なる王子スマイルにあてられ、頭痛がしてきた。

「というか、みんなは何故お金を渡してしまうのでしょうか」

 私は負けてはなるものかと、質問を重ねる。

 恋愛感情が爆発して、浮かれた気持ちになるのはナターシャを見ているとわかる。しかし、傍から見たら、一度も会った事のない人にお金を渡す。その行動が私には理解出来なかった。

「恋に落ちると、感情的なバランスが崩れてしまい、自分自身が持っている本来の判断力や洞察力を欠いてしまうことがあると言われている」

 ルーカスが息継ぎをしたのち、話を続ける。

「脳からドーパミンが分泌され、それによりポジティブ思考になり、多少の不都合には目をつぶり、相手のことばかり考えるようになる。まぁ、つまり僕がルシアを想う気持ちってこと」

 いつも通り、私に屈託ない笑みを向けてくるルーカス。

「その理論だと、ルーカスは判断力や洞察力を欠いてるとも言えるけど?」
「あーそっちは大丈夫。僕は至って平常心で君が好き。ありがとう、心配してくれて」
「…………」

 どうやらルーカスは現在進行系でドーパミンを垂れ流しているようだ。彼もまた、私を名乗る人物にお金をせびられたらホイホイ渡してしまいそうではある。

「もちろん、僕たちメンバーは個人的にプリスナーと繋がる事はない。ただ、自分達を応援してくれている子を騙す奴は許せない。だから、彼女達が騙されないよう、公式で注意喚起をしているってわけさ」
「プリスナー?」
「プリズナー、つまり囚人と視聴者を表すリスナーをもじって出来た言葉がプリスナーだ。僕たちに囚われている視聴者だから、ファン達が自らをそう呼びだしたんだよね、可愛いだろ?」

 キリルは嬉しそうに頬を緩ませた。

「なるほど」

 確かにナターシャが血みどろを追いかけている姿は、心を鷲掴みにされ、囚われまくっている感じがする。

 キリルの説明に納得した私は、新たな質問をぶつける。

「お金は戻って来ないのですか?」
「向こうは国を跨いで詐欺をするプロ集団だ。尻尾を巻いて逃げるのも一級品。だから失ったお金を取り戻す事はなかなか難しいらしい」
「そうなんですか」

 となると、ナターシャが騙されていた場合。
 偽物のブルーノにお金を渡す前に、何とか目を覚まさせる必要がありそうだ。

 ただ、ドーパミンを放出しまくり。熱にうなされたような状態であるナターシャに「それはブルーノではない」と主張したところで、安易に信じてくれるとは思えない。それどころか彼女からすれば余計なお世話に映る可能性が高い。

(どうやって目を覚まさせるか)

 実に悩ましい問題だ。

 私は腕組みをし、眉間に深い溝を作ったのであった。
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