復讐の始まり、または終わり

月食ぱんな

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第十二章 私の選ぶ幸せ(二十歳~)

115 逃げ出した、私1

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 ルーカスと結ばれた次の日の朝、彼のベッドの上。
 私は隣ですやすや眠るルーカスを見つめながら考えていた。

 昨夜は、お互いに夢中で熱を分けあった。

 それは多分、数々の死を間近に見てきた私たちが、今ちゃんと生き残っていること。それを確かめるために、必要な行為だったと思う。だから後悔はしていない。そもそも、私達は成人しているし、私にとって、そういう行為をしてもいいと思うのは、世界中でルーカスだけなのだから、自然なことだ。

(でも……付き合うとか、そういう事ぶっ飛ばしちゃった)

 それは私の憧れ、自由奔放じゆうほんぽうな愛に生きる悪役的には何ら問題はない。しかし、ローミュラー王国の女王的には非常にまずいのではないのだろうか。

(というか、この事が周囲に知られたら、結婚一直線なのでは?)

 子孫を残せと迫る、ミュラーやモリアティーニ侯爵のしてやったりという表情が脳裏をかすめ、強制的に現実に戻される。

(さいあく)

 どうやら、甘い雰囲気にひたっている場合ではなさそうだ。

(こういう時は……)

 私は頼もしい人物の顔を思い出し、逃げるように、ルーカスの家を飛び出したのであった。


 ***


 ルーカスの家を飛び出した私は、魔法の転移装置をたくみに利用し、グリフォンを三匹ほど乗り継ぎ、その日の夜。何とかおとぎの国で一番の大都市だと言われる、メルヘンシティに辿りついた。

 メルヘンシティは、子どもたちの想像力から生まれたような場所と言われる、歴史ある街だ。そして夢や魔法が実在する場所であり、いつでも不思議な奇跡が起こる可能性がある場所だとして有名だ。

 実際、夜になると街中が妖精達の輝く光で照らされ、昼はいつの季節も太陽の光に包まれていた。市内には形の整った石畳が敷かれ、フラワーガーデンや小川、池、果物園が至る所にある。路地裏には、小さなキャンドルの明かりが灯っており、そこにはかわいらしい茶色の家やカフェが立ち並び、カップルたちが手を繋いで歩いていた。

 そもそも私がおとぎの国に逃亡したのは、仕事終わりのナターシャと合流するためだ。というのも、彼女は現在、メルヘンシティに本社を構える、『ポイズンミュージック』で働いているのである。

 今でも、マジグラムで「いいね」を押す仲。そしてリアルでも年に数回ほど、顔を合わせるナターシャが、オシャレな建物から姿を現した。

「ナターシャ!!大変なの!」

 私は待ってましたとばかり、飛びつく勢いで合流する。

「あら、さすが女王陛下。素敵なドレスじゃない。しかも黒なんて、万年喪服的な?でもそのボサボサの髪の毛はどうしたらそうなるのよ。もしかしてルシア、侍女達に意地悪されてるの?なんでやり返さないの?」

 顔を合わせた途端、全身チェックされたのち、イジメを疑われる私。

 因みに髪の毛がボサボサなのは、ルーカスの家で湯浴ゆあみをして、髪を乾かさず、そのまま飛び出してきたからだ。

「いじめじゃないの。色々とまずい事態が起きちゃって」
「まずいこと?」
「それは、ちょっと色々と、その……」

 さすがに街中で口に出来る話ではない。私は「察して」という視線をナターシャに送る。

「なるほど。とにかくお腹すいたし、疲れたし、一杯やろ?」

 私の意図を汲んでくれたのか、ナターシャは移動する事をすぐに提案してくれた。

「それにしてもナターシャ。髪、随分ずいぶんばっさりといったんだね」

 久々顔を合わせたナターシャは、自慢の黒髪を肩のラインでスッパリカットし、ショートボブになっていた。耳には大ぶりの琥珀色の小洒落たピアスが揺れている。彼女がまとう銀色のドレスは、バスト下に切り替えがあるエンパイアラインで、広がりすぎず、とても大人っぽく見える。

「ああこれ?実は失恋したのよ」
「え!?ほんと?」

 まさかの爆弾発言に、私は思わず大きな声を出してしまう。

「あはは、わりと真面目に付き合ってるつもりだったんだけど、私はどうやら都合のいい女だったみたい。ピンク髪の庇護欲ひごよくそそる、いかにも可愛らしい女に寝取られちゃった」

 あっけらかんと口にするナターシャ。

「そうなんだ……。なんかピンクな髪でごめん」

 私はかける言葉がみつからず、何となく諸悪の根源っぽい、自分の髪色について謝罪しておく。

「ほんと、ピンク色をした髪の女にロクな女がいないのはなんで?」
「それは、まぁ、うん……」

 私はその問いに答えられず、苦笑いを浮かべるしかなかった。

(確かに、私もロクでなしではあるし)

 私は、ミュラーに「性格に難がある」と言われ続けている事を思い出し、素直に「ピンク髪=性格難」という図式を認める。

「でもいいの。今は気分転換に、この髪型にしてみたけど、結構気に入ってるし。それより早く行こう」

 そう言って、私の手を引くナターシャの左手には、銀色に輝く指輪がはめられていた。

「彼氏、もうできたの?」
「あ、気付いちゃった?」

 ナターシャは悪戯いたずらっ子のような笑みを浮かべた。

「これはね、男よけ。失恋して、今は仕事を頑張るつもりなんだ。それで、私って意外にモテるじゃない?」
「うん」

 フェアリーテイル魔法学校時代、ナターシャがブラック・ローズ科の男子生徒から告白されている現場を何回か目撃した事がある私は頷く。

「だから、変なのが寄ってこないように、わざと目立つような指輪をしてるの。次にこの指にはめる指輪はどうせなら、本当に好きな人であって欲しいから」
「ナターシャ……」

 私は彼女のキラキラとした自信あふれる雰囲気と、前向きさに感心しながら、少しだけ羨ましく思った。

 魔法学校にいる時は、ナターシャと肩を並べ歩くこと。その事に引け目を感じなかった。

(けど、今の私はじめじめ、いじいじしてばっか)

 もちろん私だって、一生懸命女王業務をこなしているつもりだ。そしてローミュラー王国内にいれば、それなりにキラキラしている女王に見えるだろう。しかし、全てが輝く大都会メルヘンシティでは、私はただの田舎者だと、気後れしてしまう。その上、今はメンタルがズタボロだ。

「……で、ルシアの話は何?」

 一人落ち込んでいると、突然話を振られる。

「え?」
「植物マニア君と何かあったんでしょ?でなきゃ、女王であるルシアがこんな場所に来るわけないもんね」

 ナターシャは確信を持った口調で言い切った。

「……ナターシャにはかなわないね。まさに彼と問題発生中なんだよ」
「ふふん。ルシアとは長い付き合いだしね」

 得意げな表情をするナターシャ。
 私は降参するように両手をあげた。

「あ、とりあえず、再会を祝して魔法写真撮ろうよ」

 ナターシャがマジカルデバイスの画面をこちらに向けた。

「えっ、ちょっと、私の髪、ボロボロだし」
「じゃ、いくよ。はい、こんやくはきぃーー」
「え!?」

 私が動揺する間に、パシャリと無慈悲むじひな音がナターシャのマジカルデバイスから響く。

「ちょっと、こんやくはきぃーって、なに?普通はさ、はい、ポーズとか、はい、チーズとか、撮りまーすとか、むしろ無言で連写れんしゃじゃないの?」

 私は撮影時にかける言葉として、全国共通、代表格を例に出しながら指摘する。

「やだ、メルヘンシティでは、もっぱらこんやくはきぃーよ。ほらきぃーの所で笑顔になるでしょう?」
「きぃー……確かに」

 私は声に出して納得した。しかし、何となく自分の人生に深く関わる言葉でもあるので、モゾモゾする気持ちはぬぐえない。

「さ、とりあえず、婚約破棄はいいからさ、店に行こう!」

 私は元気ハツラツなナターシャに背中を押され、歩き出したのであった。
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