「君を一生愛すから」って言ってたのに捨てられた

豆子

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 この国流の肉じゃがやオムライス、ハンバーグの作り方は、料理人のレシピがあるから問題ない。このレシピがあれば俺だって作ることは可能なはずだ。まずは屋敷の厨房で料理の練習をして、安定して作れるようになったら立地の良い場所を借りて店を開いて。メニューが少ないから他にも考えないとな。俺の頭には現代日本の美味しい食事の記憶がある。それを駆使すればこの街一の人気店を作るのなんて訳ないはずだ。
 洋食メインのレストランの方が受けが良さそうだよな。でもパスタを用意できたらそれも人気が出そうだし。イタリアンレストランとか?肉じゃがメインにするなら和食か。

「ハル様」

 レストランの構想を考えていたらイアンに呼ばれた。

「ん?どうした?あ!イアンもレストランのメニューを一緒に考えてくれるの?良いね良いね。どんどん案出して!」
「差し出がましいかとは思いますが、レストラン開店はお勧め致しません」
「なんで!?」

 めちゃくちゃ良い案だと思ったのに!
 イアンが無表情のまま続ける。

「ハル様がレストランで出そうとしている食事は、城で食べていたものと同じ食事という認識でよろしいですか」
「うん」
「それですと一食が町民の一月分の給金と同等になりますので、町民が気軽に食べることは無理かと」
「一ヶ月分の給与!?」

 俺ってそんなに高級なモン食ってたの!?

「異世界から来られたハル様の味覚に合わせて素材から調味料に至るまで厳然していたものを使用しておりましたので、同じ食事を用意するとなるとそれくらいの費用がかかります」
「マジか」

 つまりこの二十年間、俺は毎食町民の一ヶ月分の給与と同等のご飯を食べていたってことか。……食事のたびに給仕の人が微妙な顔してた理由が十年越しに分かった。最初この国に来た時は、故郷の料理を作って欲しいという俺の無茶振りに料理人も積極的に応えてくれていたが、ここ十年は頼むと嫌そうな顔されていたし。
 そりゃ食っちゃ寝食っちゃ寝してるだけのおっさん神子が毎食高級料理食ってたら微妙な気持ちにもなるわな。なんかスミマセン…….あ、でも高級料理ということは。

「逆に高級レストランって路線で行くのはどう?」
「それもお勧めいたしません」
「なんで!?」
「ハル様の味覚とこの国の者の味覚は違いますので、ハル様の好む食事が受け入れられるとは限りません」
「そんなに味覚が違うの!?」

 俺の故郷の料理を食べてエリックは美味しいって言ってたのに!
 いやでも待てよ。そう言って食べてくれたのは最初の数回だけで、後半になるにつれ俺と食べてるもの違ったっけ。肉じゃが一口いる?ってアーンしようとしたら断られたな。食卓を共にしている間も同じ食事は食べていなかった。
 そうか、味覚が違ったのか……俺が美味しいと思う料理は、エリックたちには味が薄すぎるんだろう。
 恋人と食の好みが合わないのって辛い。
 いやでももう別れたからいいんだけど!
 もし仮に次にお付き合いする人が現れたら、肉じゃがを好きになってくれる人だといいなあ。なんて次の恋人などできそうもないが。
 そもそも今は次の恋のことなんて考えている場合じゃない。仕事だ仕事。イアンの助言に従ってレストラン開店は諦めよう。多額の金を使ってレストランを開いても大コケするのが目に見えている。

「レストラン開店はやめて他の仕事を考えよう」
「それがよろしいかと」
「レストランの他に何か良い店、良い店」

 ぶつぶつと考え込んでいたら、腹の虫がキュウと鳴った。そういやそろそろ昼時だ。荷物まとめてすぐに城を出てきたから、朝食もまだだった。お腹減ったな。なんかメシ。っていやいやここはもう城じゃないんだ。自分で用意しないと食べるものは何もない。……当たり前にメシが出てくると思い込んでる三十路のおっさんってちょっとイタイな……

「ハル様。少し休憩を取ってからお食事にいたしましょう」
「あ、ウン。料理人からもらったレシピあるから、えっーと俺が何か作るよ」

 これまでまともに料理したことないから食べられるものが出来上がるかは不明だが。

「私が作りますのでハル様は休んでいてください」
「いやいや流石にイアンでも料理は無理だろ!」

 イアンは護衛兼従者であって世話係ではないのだ。

「これでも炊事洗濯などのことは一通りできますので、ハル様はお休みください。急ぎ城から出たのでお疲れでしょう」

 それでは、と端的に告げるとイアンは部屋を出て行った。
 マジで?イアンがご飯作ってくれるの?
 俺についてきてくれただけでもありがたいのにそこまでしてもらうのは申し訳なくて、でもどうやらイアンの言う通り俺は疲れていたようだ。一人になった途端、どっと気が抜けた。二十年間住んだ場所を追い払われるように出て、知らない場所に来たことに緊張してたみたいだ。あと馬車での移動が地味に腰にきた。十六の時は長時間の馬車移動なんて屁でもなかったのに年取ったな。
 イアンには申し訳ないと思いながらも、俺はソファに横になった。服がめくれて少しポニョっている腹が出る。
 昔もこうやってソファで腹を出しながら寝転がってたら「ハル、誘ってるのか……?」ってエロさ全開のエリックに覆い被されてイチャコラしたこともあったなあ。ここ十年以上どんだけ寝転がってても見向きもされなかったけど。はは。相手が腹のポニョったおっさんじゃ仕方ないか。
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