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「ハル様、ハル様起きてください」
「んがっ!」
「お食事の用意ができました」
「ん?あ!ごめん寝てた!」
「服が乱れていますよ」
めくれていた俺の服をスッスッと整えてから、イアンが「こちらです」と俺を食堂に案内してくれた。食堂には縦長の机にずらりと椅子が並んでいた。イアンに椅子を引かれて座る。
イアンが何を作ってくれていても美味しい!って言うんだぞ俺。たとえ脂っこくて塩っぽい料理が出てきても感謝を忘れてはいけない。いやでも三十路の胃に今さら脂っぽい料理いけるかな。なんて思っていたら目の前に並んだ料理に驚いた。
「温かいうちにどうぞ」
「え、これ……」
肉じゃがだった。城で料理人に何度も作ってもらったやつと全く同じ肉じゃがだ。俺が好んで食べていた白パンもある。
「なんで……」
だってこの一食って給金一月分なのに。
「毎食こちらを用意するのは難しいですが、たまにであれば大丈夫です。私もそれなりの金を持っていますので。突然環境が変わりさらに食まで変わってはハル様も慣れないでしょうから」
「イアン……」
無表情のイアンの気遣いと優しさが沁みる。
いただきます、と言ってから肉じゃがを一口食べた。美味しい。お世辞抜きに美味しい。なんなら料理人が作ってくれたものよりも故郷の味に似ている。この国には醤油がないからここまで近い味を出すのは城の料理人にでも無理だったのに。
「料理人のレシピに私なりのアレンジを加えておりますがお口に合いましたか」
「美味しい!めちゃくちゃ美味しいよ!てかアレンジってどうやったの?」
「蒸したシュレの実と炒ったトトを混ぜ合わせレージトールの葉を加えてそれをラムスに三日間漬け込んで熟成させたものを」
「あ、ウン、分かった」
作り方は全然分からん。でもこの肉じゃががめちゃくちゃ美味しいことだけは分かる。
ほろほろの肉じゃがをもう一口食べる。美味い。
「イアン、本当に美味しいよ。ありがとう。イアンもお腹減っただろ?一緒に食べよう」
「いえ、私は護衛として側に控えておりますので」
「ここはもう城じゃないんだし、今は護衛しなくても大丈夫だって!な、頼むよ」
肉じゃがはとても美味しい。でも誰かと一緒に食べた方がずっと美味しい。
この十年、食事はいつも一人だった。エリックと共に食事をしたのは最初の数年だけで、給仕の人に囲まれながらだだっ広い食堂でずっと一人で食事をしてきたのだ。誰かと食事の美味しさを分かち合いたい。
俺が頼み込めばイアンはしばらく黙ってから、皿に肉じゃがを盛ると俺の向かいに座った。
「イアン……!」
「主人の命令とあらば」
俺は嬉しくって肉じゃがを大きく頬張った。対してイアンはお上品に肉じゃがをフォークとナイフで食べている。あ、でも待てよ。
「イアン、無理して食べてないか?」
この国の人間は俺とは味覚が違う。つまりイアンの舌にも肉じゃがは合わないってことじゃないか。
「イアンはイアンの好きなものを食べていいから」
「私はこの味が舌に合いますので」
「そうなの?」
「はい。この国の料理の方が好きではありません。私の舌にはどうにも脂っぽくて」
「そ、そう!俺もそうなんだよ!」
俺だけじゃなかった。それがなんだか嬉しい。
「ハル様の故郷のお味の方が好きですね」
それが嘘でもお世辞でもないことはイアンの食べる姿から分かる。だってエリックは美味しいって言いながら半分以上残していた。でもイアンは肉じゃがを丁寧に切り分け、綺麗な所作でどんどん口に入れていく。
「ハル様、フォークが止まっていますよ。冷める前にお食べください」
「……うん」
イアンの作ってくれた肉じゃがが美味しくて、俺の慣れ親しんだ味に似ていて、久しぶりに誰かと食べていることが嬉しくて、ちょっと泣けた。
「んがっ!」
「お食事の用意ができました」
「ん?あ!ごめん寝てた!」
「服が乱れていますよ」
めくれていた俺の服をスッスッと整えてから、イアンが「こちらです」と俺を食堂に案内してくれた。食堂には縦長の机にずらりと椅子が並んでいた。イアンに椅子を引かれて座る。
イアンが何を作ってくれていても美味しい!って言うんだぞ俺。たとえ脂っこくて塩っぽい料理が出てきても感謝を忘れてはいけない。いやでも三十路の胃に今さら脂っぽい料理いけるかな。なんて思っていたら目の前に並んだ料理に驚いた。
「温かいうちにどうぞ」
「え、これ……」
肉じゃがだった。城で料理人に何度も作ってもらったやつと全く同じ肉じゃがだ。俺が好んで食べていた白パンもある。
「なんで……」
だってこの一食って給金一月分なのに。
「毎食こちらを用意するのは難しいですが、たまにであれば大丈夫です。私もそれなりの金を持っていますので。突然環境が変わりさらに食まで変わってはハル様も慣れないでしょうから」
「イアン……」
無表情のイアンの気遣いと優しさが沁みる。
いただきます、と言ってから肉じゃがを一口食べた。美味しい。お世辞抜きに美味しい。なんなら料理人が作ってくれたものよりも故郷の味に似ている。この国には醤油がないからここまで近い味を出すのは城の料理人にでも無理だったのに。
「料理人のレシピに私なりのアレンジを加えておりますがお口に合いましたか」
「美味しい!めちゃくちゃ美味しいよ!てかアレンジってどうやったの?」
「蒸したシュレの実と炒ったトトを混ぜ合わせレージトールの葉を加えてそれをラムスに三日間漬け込んで熟成させたものを」
「あ、ウン、分かった」
作り方は全然分からん。でもこの肉じゃががめちゃくちゃ美味しいことだけは分かる。
ほろほろの肉じゃがをもう一口食べる。美味い。
「イアン、本当に美味しいよ。ありがとう。イアンもお腹減っただろ?一緒に食べよう」
「いえ、私は護衛として側に控えておりますので」
「ここはもう城じゃないんだし、今は護衛しなくても大丈夫だって!な、頼むよ」
肉じゃがはとても美味しい。でも誰かと一緒に食べた方がずっと美味しい。
この十年、食事はいつも一人だった。エリックと共に食事をしたのは最初の数年だけで、給仕の人に囲まれながらだだっ広い食堂でずっと一人で食事をしてきたのだ。誰かと食事の美味しさを分かち合いたい。
俺が頼み込めばイアンはしばらく黙ってから、皿に肉じゃがを盛ると俺の向かいに座った。
「イアン……!」
「主人の命令とあらば」
俺は嬉しくって肉じゃがを大きく頬張った。対してイアンはお上品に肉じゃがをフォークとナイフで食べている。あ、でも待てよ。
「イアン、無理して食べてないか?」
この国の人間は俺とは味覚が違う。つまりイアンの舌にも肉じゃがは合わないってことじゃないか。
「イアンはイアンの好きなものを食べていいから」
「私はこの味が舌に合いますので」
「そうなの?」
「はい。この国の料理の方が好きではありません。私の舌にはどうにも脂っぽくて」
「そ、そう!俺もそうなんだよ!」
俺だけじゃなかった。それがなんだか嬉しい。
「ハル様の故郷のお味の方が好きですね」
それが嘘でもお世辞でもないことはイアンの食べる姿から分かる。だってエリックは美味しいって言いながら半分以上残していた。でもイアンは肉じゃがを丁寧に切り分け、綺麗な所作でどんどん口に入れていく。
「ハル様、フォークが止まっていますよ。冷める前にお食べください」
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