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第一章 終わりは始まり
episode1
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『過信』:何かに対して信頼・信用しすぎること。また、自信を持ちすぎること。
高橋リオ
======================
ーーーこの飛行機は、まもなく仁川空港に着陸する予定でございます。
ポーンと音が鳴り、目が覚めた。
周りの乗客が膝の上に広げていた荷物をいそいそとカバンにしまっている。
日本語、英語、韓国語のアナウンスが流れてやっと私も膝にかけていたブランケットとイヤフォンを片付け始め、RIO TAKANASHIと自分の名前が書かれたチケットをなくさないようにポケットにしまった。
時計を見ようとスマホの画面をタップすると、そこにはずっと会いたかった彼と、頬をくっつけて隣で笑う私。
…やっとまさきに会えるんだ。
私、高橋リオは海外赴任で韓国に住む彼氏、まさきにサプライズをしにきた。
付き合い始めて早4年になり、私は今年で24歳。まさきは今年で29歳で5つ年上。
本当は私たちは近いうちに結婚をする予定だった。
しかし、まさきは新卒で入社した商社で順調に出世ルートに乗り、今回昇進を約束されて予定よりも数年早く海外赴任が決まった。
向こう数年は日本での勤務が難しいと言われ、籍を入れて離れ離れもいまいちピンと来なかったため、結婚は見送りになったのだ。
しかし、今回私はビッグニュースを伝えに韓国に来たのだ。
まさきが韓国にいるから結婚ができないなら、私が韓国に行けばいいんじゃない?
思い立ったら即行動。韓国でのワーキングホリデーに申し込み、その抽選が見事当選。
しかも、もともとKPOPが好きということもあり、韓国人の交友も広かったのだが、そのうちの一人が韓国の友人と会社を設立した。
このタイミングでその友人から連絡があり、ゆくゆくはその会社で日本人向けの窓口として働いてみないかと連絡があった。
その連絡を受け取った時、あぁ、神様っているんだなとしみじみ感じた。この瞬間だけは運命と言うほかあるだろうか。
「…ふふっ」
思い返すと思わず笑みが溢れる。
まさき、一体どんな顔をするんだろう?
空港を出ると電波が繋がった。
『やっと休憩』
入ってきたラインには、カフェのテラス席に置かれたカップルの写真。
綺麗なラテアートが施されている。
こんな綺麗なラテアートも、まさきのことだから写真だけ撮って適当に飲み干しているんだろうな。
毎日連絡はとっているものの、毎日夕方頃にランチや休憩の写真が送られてきたり、会議に追われてお昼が食べられなかったという話を聞くと、忙しいみたいだ。
少し心配になったこともあり、顔を見に来たのもそうだが、ワーキングホリデーのアルバイト先で働くまでの数日間はまさきの家に泊まらせてもらうつもり。
その間は少しでもまさきがゆっくりできるよう、家事とか手伝ってあげよう。
「おつかれさまーっと…」
ラインの返信をしながら、帰った家に私がいたらどんな顔をするだろうか考えてニヤけてしまう。
目を丸くして驚くに違いない。
早く会いたい気持ちが先走り、急足でキャリーを引き、タクシーを捕また。
まさきと出会ったのは、私がまだ学生だった時にさかのぼる。
アルバイトをしていた飲食店があり、まさきはそこに来ていた食品メーカーの営業だった。
最初は店長が対応していたが、慣れてきた頃に私もまさきと話すようになり、次第に距離が縮まっていった。
生誕な顔立ちでスラッとしたスタイルに、優しい物腰、話している時の気遣いなど、はなせば話すほど興味を持つようになり、二人で会うようになってからは話は早かった。
それからも順調に関係は続いていて、一度も喧嘩はしたことがない。一緒にいるのが当たり前で、楽しかった。
だからこそ今回の海外赴任はつらい。
毎日連絡はしているものの、一人になった時にふと寂しくなる。先行きの見えない海外赴任と結婚についても、どこかで決着をつけないとズルズル長引きそうな気もする。
ーーー私をみたらなんて言うかな。『なんでいるの?!』って言いながら笑って抱きしめてくれたりして。
ーーー今日の夜は韓国の美味しいお店に連れてってくれるかな。それとも二人でゆっくり過ごすかな。
会いたい気持ちが先走り、いろんな妄想が膨らむ。
まさきの家に向かう道中、タクシーと電車を乗り継いで、滞在中にしたいことなどを考えていると、あっという間に大きなマンションについた。
ー…ここかな?
前にまさきから一度、荷物を送って欲しいと住所を送られたことがあった。その住所と、赴任して少しのときに送られてきたマンションの写真を見比べる。
私が拙い韓国語とジェスチャーでストップというと、運転手は車をとめた。
家についたようなものの、鍵もなければオートロックの番号も知らないので、まさきが来るまでラインで動きを探りながら、近くにあるカフェで待つことにした。
「…っさむいなぁ~…」
韓国は11月でも日本よりずっと寒く感じた。
まさきが最近寒いと言っているのをきいてダウンを着てきたが、乾燥した空気と肌にあたる風が刺すように痛い。
タータンチェックのミニスカートにタイツを履いて、足元はロングブーツ。辛うじてカフェの中なので暖かいが、お客さんの出入りがあってドアが開くとそれだけで寒さで顔をかしめていた。
それにしても、あれから数時間。
先程カフェでコーヒーを2杯すすってる間にまさきから「終わった」のラインが来ていた。
そこからまた時間が経ち、もう家に帰っていてもおかしくないはず。
ここのカフェからは、まさきのマンションの入り口まで50メートルもない。
まさきがいつ来てもすぐ出れるよう、見晴らしのいい窓際の席に座っていたがそれらしき人物が一向に来ない。
カフェにコーヒー2杯とクッキー1枚で数時間粘ったせいか、店員もなんとなく痺れを切らしたような顔でこちらを見ている。
客層も私が入店した頃とは全く変わっていた。
…さすがに退店しよう。
申し訳なく、店頭にあったお菓子を3.4つ取り、お金を使ってから店を後にした。
ーーーー寒い。
店を出てマンションの植木に腰掛けるが、外で待つには寒すぎる。
その後もまさきとのラインは続いており、何気ないやりとりは続いている。
もう、サプライズなんてどうでもよくなり、早く暖を取りたい。
私はまさきに、「もう帰った?」のラインを送った。
「わっ。既読はやっ」
送ってまもなく既読がついた。まさきも今ラインをしているし、電話をすれば出るかもしれない。電話しちゃった方が早いかな?
ラインの通話ボタンを押して耳に当てる。
ティンティンティン♪という音が私の耳元で鳴る。
「あれ、電話鳴ってない?」
「え、マジで?」
「なんかブーブーいってるよ」
「本当だ、全然わかんなかったわ」
聞きなじみのある声に、思わず身体が膠着した。
少し低く、優しいこの声は今までずっと聞きたかった声だ。
まさきの声に間違いない。
「あれー、スマホねーや、どこだ?」
「もー…いっつもカバンの中で行方不明じゃん。整理しなよ~」
「はいはい、明日からそうしますっと」
「いっつもそう言ってやらないくせに!」
そこにはもう一人、高い声でまさきと親しげに話しているーーーー
……女性の声?
変な高鳴り方をする心臓。
顔が張り付いたように無表情になる。
…そんなわけない。
まさきに限って、浮気だなんて。
そもそも、ただの仲良い友達かもしれないのに、何をそんなに決めつけてるんだろう?
大丈夫、4年も付き合っていて、結婚を間近に控えた関係なんだし、私達はもう立派な大人だ。
仕事の付き合いで誰かと一緒にいるなんてことはしょっちゅうあるしー…。
ほんの数秒間で色々なことが頭を巡った。押し寄せる不安に、今まで過ごした時間と信頼だけを頼りに大丈夫と背中を押す。
……恐る恐る声のする方を振り返る。とーーーー
「あったー!内ポケットに入ってたわ」
「いっつもそれじゃん!成長しないなー!」
細身で程よく広い肩幅に、整えられた少し伸びた黒髪。
色白で端正な顔立ちにネイビーのチェスターコートを着た男性。
今、私の目にうつっているのは間違いなくまさきだ。
その隣で、腰下くらいで程よく広がる白のコートに白のキルトのショートパンツ、膝丈のロングブーツを履いて、胸までの髪をゆるく巻いた可憐な女性。
二人の手は繋いでいて、どちらの手もまさきのコートのポケットに入っていた。
………これは何か悪い夢だ。
そうだよね?
電話を耳にかざした手が力無く降りていく。
だって、喧嘩も一度もしたこともないし、浮気だってそんな素振りだって見せたことがなかった。
言葉にしてもしなくても、まさきからの好きは、離れていても私に向けられていたはず。
じゃあ、今目の前に広がる、この光景は何?
寄り添いあって、笑いあって話して、繋いだ手を同じポケットに入れてるって、友達なんてありえない。ビジネスなら尚更ありえない。
………なんだこれ。
息が苦しい。
「だれ?出なくていいの?」
茶髪の緩く巻いた髪を揺らしながら、その女性がまさきの顔を覗き込む。
スマホを手に握り、まさきは画面を見つめる。
そのディスプレイには、今ここで電話をかけている私の名前、『りお』の文字が浮かんでいた。
まさきは、少し足を止めて考えた後に「うん、大丈夫、あとでかけ直すよ」と言ったのだ。
「だれ?友達?」
「ううん、会社の人」
そうまさきが言うと同時に私からの着信が切られた。こちらのスマホの着信音が止まる。
……ねえ、やっぱり悪い夢だよ。
会社の人?今電話かけてたのは私でしょ?
彼女でしょ?
頭の中で色々な疑問が渦巻いて、ぐるぐると気持ち悪くなってくる。
ああ、視界がぼやけてきた。目頭が熱くなり、鼻の奥がぎゅっとつらくなる。
寒いからじゃない、混乱して涙が出てきた。
こんなに寒い韓国でも、頬に流れる涙が少し暖かく感じる。
私、今どんな顔してるんだろう。
まさきとその女性は繋いだ手をそのままに、私が入るはずだったまさきのマンションへ入って行った。
高橋リオ
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ーーーこの飛行機は、まもなく仁川空港に着陸する予定でございます。
ポーンと音が鳴り、目が覚めた。
周りの乗客が膝の上に広げていた荷物をいそいそとカバンにしまっている。
日本語、英語、韓国語のアナウンスが流れてやっと私も膝にかけていたブランケットとイヤフォンを片付け始め、RIO TAKANASHIと自分の名前が書かれたチケットをなくさないようにポケットにしまった。
時計を見ようとスマホの画面をタップすると、そこにはずっと会いたかった彼と、頬をくっつけて隣で笑う私。
…やっとまさきに会えるんだ。
私、高橋リオは海外赴任で韓国に住む彼氏、まさきにサプライズをしにきた。
付き合い始めて早4年になり、私は今年で24歳。まさきは今年で29歳で5つ年上。
本当は私たちは近いうちに結婚をする予定だった。
しかし、まさきは新卒で入社した商社で順調に出世ルートに乗り、今回昇進を約束されて予定よりも数年早く海外赴任が決まった。
向こう数年は日本での勤務が難しいと言われ、籍を入れて離れ離れもいまいちピンと来なかったため、結婚は見送りになったのだ。
しかし、今回私はビッグニュースを伝えに韓国に来たのだ。
まさきが韓国にいるから結婚ができないなら、私が韓国に行けばいいんじゃない?
思い立ったら即行動。韓国でのワーキングホリデーに申し込み、その抽選が見事当選。
しかも、もともとKPOPが好きということもあり、韓国人の交友も広かったのだが、そのうちの一人が韓国の友人と会社を設立した。
このタイミングでその友人から連絡があり、ゆくゆくはその会社で日本人向けの窓口として働いてみないかと連絡があった。
その連絡を受け取った時、あぁ、神様っているんだなとしみじみ感じた。この瞬間だけは運命と言うほかあるだろうか。
「…ふふっ」
思い返すと思わず笑みが溢れる。
まさき、一体どんな顔をするんだろう?
空港を出ると電波が繋がった。
『やっと休憩』
入ってきたラインには、カフェのテラス席に置かれたカップルの写真。
綺麗なラテアートが施されている。
こんな綺麗なラテアートも、まさきのことだから写真だけ撮って適当に飲み干しているんだろうな。
毎日連絡はとっているものの、毎日夕方頃にランチや休憩の写真が送られてきたり、会議に追われてお昼が食べられなかったという話を聞くと、忙しいみたいだ。
少し心配になったこともあり、顔を見に来たのもそうだが、ワーキングホリデーのアルバイト先で働くまでの数日間はまさきの家に泊まらせてもらうつもり。
その間は少しでもまさきがゆっくりできるよう、家事とか手伝ってあげよう。
「おつかれさまーっと…」
ラインの返信をしながら、帰った家に私がいたらどんな顔をするだろうか考えてニヤけてしまう。
目を丸くして驚くに違いない。
早く会いたい気持ちが先走り、急足でキャリーを引き、タクシーを捕また。
まさきと出会ったのは、私がまだ学生だった時にさかのぼる。
アルバイトをしていた飲食店があり、まさきはそこに来ていた食品メーカーの営業だった。
最初は店長が対応していたが、慣れてきた頃に私もまさきと話すようになり、次第に距離が縮まっていった。
生誕な顔立ちでスラッとしたスタイルに、優しい物腰、話している時の気遣いなど、はなせば話すほど興味を持つようになり、二人で会うようになってからは話は早かった。
それからも順調に関係は続いていて、一度も喧嘩はしたことがない。一緒にいるのが当たり前で、楽しかった。
だからこそ今回の海外赴任はつらい。
毎日連絡はしているものの、一人になった時にふと寂しくなる。先行きの見えない海外赴任と結婚についても、どこかで決着をつけないとズルズル長引きそうな気もする。
ーーー私をみたらなんて言うかな。『なんでいるの?!』って言いながら笑って抱きしめてくれたりして。
ーーー今日の夜は韓国の美味しいお店に連れてってくれるかな。それとも二人でゆっくり過ごすかな。
会いたい気持ちが先走り、いろんな妄想が膨らむ。
まさきの家に向かう道中、タクシーと電車を乗り継いで、滞在中にしたいことなどを考えていると、あっという間に大きなマンションについた。
ー…ここかな?
前にまさきから一度、荷物を送って欲しいと住所を送られたことがあった。その住所と、赴任して少しのときに送られてきたマンションの写真を見比べる。
私が拙い韓国語とジェスチャーでストップというと、運転手は車をとめた。
家についたようなものの、鍵もなければオートロックの番号も知らないので、まさきが来るまでラインで動きを探りながら、近くにあるカフェで待つことにした。
「…っさむいなぁ~…」
韓国は11月でも日本よりずっと寒く感じた。
まさきが最近寒いと言っているのをきいてダウンを着てきたが、乾燥した空気と肌にあたる風が刺すように痛い。
タータンチェックのミニスカートにタイツを履いて、足元はロングブーツ。辛うじてカフェの中なので暖かいが、お客さんの出入りがあってドアが開くとそれだけで寒さで顔をかしめていた。
それにしても、あれから数時間。
先程カフェでコーヒーを2杯すすってる間にまさきから「終わった」のラインが来ていた。
そこからまた時間が経ち、もう家に帰っていてもおかしくないはず。
ここのカフェからは、まさきのマンションの入り口まで50メートルもない。
まさきがいつ来てもすぐ出れるよう、見晴らしのいい窓際の席に座っていたがそれらしき人物が一向に来ない。
カフェにコーヒー2杯とクッキー1枚で数時間粘ったせいか、店員もなんとなく痺れを切らしたような顔でこちらを見ている。
客層も私が入店した頃とは全く変わっていた。
…さすがに退店しよう。
申し訳なく、店頭にあったお菓子を3.4つ取り、お金を使ってから店を後にした。
ーーーー寒い。
店を出てマンションの植木に腰掛けるが、外で待つには寒すぎる。
その後もまさきとのラインは続いており、何気ないやりとりは続いている。
もう、サプライズなんてどうでもよくなり、早く暖を取りたい。
私はまさきに、「もう帰った?」のラインを送った。
「わっ。既読はやっ」
送ってまもなく既読がついた。まさきも今ラインをしているし、電話をすれば出るかもしれない。電話しちゃった方が早いかな?
ラインの通話ボタンを押して耳に当てる。
ティンティンティン♪という音が私の耳元で鳴る。
「あれ、電話鳴ってない?」
「え、マジで?」
「なんかブーブーいってるよ」
「本当だ、全然わかんなかったわ」
聞きなじみのある声に、思わず身体が膠着した。
少し低く、優しいこの声は今までずっと聞きたかった声だ。
まさきの声に間違いない。
「あれー、スマホねーや、どこだ?」
「もー…いっつもカバンの中で行方不明じゃん。整理しなよ~」
「はいはい、明日からそうしますっと」
「いっつもそう言ってやらないくせに!」
そこにはもう一人、高い声でまさきと親しげに話しているーーーー
……女性の声?
変な高鳴り方をする心臓。
顔が張り付いたように無表情になる。
…そんなわけない。
まさきに限って、浮気だなんて。
そもそも、ただの仲良い友達かもしれないのに、何をそんなに決めつけてるんだろう?
大丈夫、4年も付き合っていて、結婚を間近に控えた関係なんだし、私達はもう立派な大人だ。
仕事の付き合いで誰かと一緒にいるなんてことはしょっちゅうあるしー…。
ほんの数秒間で色々なことが頭を巡った。押し寄せる不安に、今まで過ごした時間と信頼だけを頼りに大丈夫と背中を押す。
……恐る恐る声のする方を振り返る。とーーーー
「あったー!内ポケットに入ってたわ」
「いっつもそれじゃん!成長しないなー!」
細身で程よく広い肩幅に、整えられた少し伸びた黒髪。
色白で端正な顔立ちにネイビーのチェスターコートを着た男性。
今、私の目にうつっているのは間違いなくまさきだ。
その隣で、腰下くらいで程よく広がる白のコートに白のキルトのショートパンツ、膝丈のロングブーツを履いて、胸までの髪をゆるく巻いた可憐な女性。
二人の手は繋いでいて、どちらの手もまさきのコートのポケットに入っていた。
………これは何か悪い夢だ。
そうだよね?
電話を耳にかざした手が力無く降りていく。
だって、喧嘩も一度もしたこともないし、浮気だってそんな素振りだって見せたことがなかった。
言葉にしてもしなくても、まさきからの好きは、離れていても私に向けられていたはず。
じゃあ、今目の前に広がる、この光景は何?
寄り添いあって、笑いあって話して、繋いだ手を同じポケットに入れてるって、友達なんてありえない。ビジネスなら尚更ありえない。
………なんだこれ。
息が苦しい。
「だれ?出なくていいの?」
茶髪の緩く巻いた髪を揺らしながら、その女性がまさきの顔を覗き込む。
スマホを手に握り、まさきは画面を見つめる。
そのディスプレイには、今ここで電話をかけている私の名前、『りお』の文字が浮かんでいた。
まさきは、少し足を止めて考えた後に「うん、大丈夫、あとでかけ直すよ」と言ったのだ。
「だれ?友達?」
「ううん、会社の人」
そうまさきが言うと同時に私からの着信が切られた。こちらのスマホの着信音が止まる。
……ねえ、やっぱり悪い夢だよ。
会社の人?今電話かけてたのは私でしょ?
彼女でしょ?
頭の中で色々な疑問が渦巻いて、ぐるぐると気持ち悪くなってくる。
ああ、視界がぼやけてきた。目頭が熱くなり、鼻の奥がぎゅっとつらくなる。
寒いからじゃない、混乱して涙が出てきた。
こんなに寒い韓国でも、頬に流れる涙が少し暖かく感じる。
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