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第一章 着任します!男性保護特務警護官
第七話 五月雨五月は警護任務に婚活の夢を見る
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――現在九時十五分。こちらはMapsの居住区側リビングルーム。
五月はソファーに座って優雅に紅茶を飲み、深夜子は正座の体勢からぐったりと床に突っ伏している。
「――で、寝待さん。そろそろ落ち着いて話をしていただけませんこと?」
「無念……」
正直、五月としては有無を言わさず襲撃してきた深夜子に気を使う必要は無い。しかしながら、これから同じ現場で働く同僚であり、よりにもよってコレがチームリーダーである。先を見据えて穏便に話を進めることにする。
「別にもう貴女を責めるつもりもありませんわ。どうしてああなってしまったのか、経緯を教えてくださいませ」
「うう……それが――」
当然ながら。
「はいっ!? なっ、ななな」
深夜子の話が進む度に。
「ゆ、夢の話って……あっ、あああああ」
五月の眉間や額にはピキピキと血管が走り――。
「あっ、貴女っ! バッ、バカですのおおおおおおおおっ!?」
「ひいいっ! すまぬ……すまぬ……」
お怒りでしょうそうでしょう。
言うまでもなく、しばらくの間は五月のお説教タイムとなる。たっぷりと絞られてやっと完全に目を覚ました深夜子であった。その後は警護対象である朝日の話題となり、着任から昨日までの出来事を伝える。
「……貴女? いくら男性側からと言っても、その後の対応が論外ですわね。自制心と言うものがありませんの? 訴えられてもおかしくありませんわよ」
「はぅっ……面目ない」
「それにしても神崎様……でしたわね。私も時間が無い中でしたが、そも特殊案件。内容は把握しておりますが……そんな無防備な殿方がいらっしゃるなんて――」ちょっと信じられないと思案顔の五月。
「んー、会えばわかるけど。朝日君はもう少し寝かせてあげたい」
「そう……ですわね。殿方に無理をさせるわけには行きませんわ。もうニ、三時間はお待ちしましょう」
五月は腕時計の時間を確認して、紅茶をひと口。そしてカバンからタブレットを取り出す。
「それでは。その時間で情報のすり合わせをいたしましょう。三人揃ってからのスケジュール組み立ても必要ですわね」
「おおっ……なんか仕事してる感。やるな五月」
「本来はチームリーダーの貴女の仕事ですわよ! ――って、さっきーてなんですの? さっきーって?」
「五月だから五月。いい感じ」
満足そうに右手でサムズアップする深夜子。
「それから、あたし肉体労働派」
「んなっ!? ……はぁ……私が強引に異動になった理由が理解できましたわ…………まあ……どうぞ、お好きにお呼び下さいませ」
カチャリと眼鏡の位置を整えながら五月がため息をつく。なんせ深夜子がチームリーダーである以上サポートに徹するしかない。まさに先が思いやられると言った表情で天を仰ぐ。
「これは……貧乏くじを引きましたわねぇ……」
「そんなことない! 朝日君の担当。絶対ラッキー!」
急に真面目な顔で反応した深夜子に、五月は怪訝な表情を向ける。
「その、寝待さん――」
「深夜子。あたしのことは深夜子でいい」
「そうですの? ――こほん。では、深夜子さん。貴女よくもそこまで言い切れますわね?」
「んー、だって朝日君だし。ま……はい」
前触れもなく深夜子が五月へと書類を差し出した。
「え?」
「朝日君の写真とか、データにのらないやつ」
男性の個人情報はセキュリティランクが非常に高い。遠方にいた五月を含む二人には制限のかかった一部の情報しか届いていなかった。つまり、五月はここで初めて朝日の写真を見ることになる。
「………………」
「五月顔がハニワみたくなってる」
「――ハッ!?」
朝日の写真に釘付けになっていた五月だが、深夜子の一言で我を取り戻す。
「ちょっ!? こっ、こここんな美少年が存ざ――あっ! ああ……いえ。まっ、まあ、そうですわね。多数の警護任務経験がある私でも少々お目にかかったことのない。見目麗しい殿方だとは思いますわ」
「本物の朝日君はもっとかわいい。ふへっ」
「えっ? ほんと――ではなく。深夜子さん! チームリーダーなのですから、しっかりしていただかないと」そう言って、突然何かを振り払うように立ち上がる。
それから五月はビシッと右手を胸の前に当てると、まるで演説でも始めるかのように語りはじめた。
「確かに。このような素敵な殿方に泣きつかれてしまっては、警護任務経験のない深夜子さんには厳しいと思いますわ。ですが、我々は名誉あるMapsの一員ですの。そこは、きっちり、理知的に、かつ淑女的対応をするべきなのですわっ!」
「はぁ……」
いきなりのご高説に生返事の深夜子である。
「聞いたところですと……神崎様はきっと、まだ、不安にかられておられると私思いますわ」
「んー、そうでもないかな」
「いいえ、そんなことありませんわ! な、の、で、私がしっかり。しぃーっかりと神崎様のカウンセリングを致しますわ!!」
「五月鼻息ヤバイ。何か期待してる?」
「んなあっ!?」
深夜子の一言に五月の顔が耳まで赤くなっていく。
「なっ、ななな何をおっしゃいますの? わ、わたっ、私は深夜子さんにMapsの先輩として……こ、ここは神崎様への正しい対応を実践を持って教えて差し上げる。ということですわ!」
「ふーん。そうなんだ」
わりとどうでもいい。
「と、ともかく! まだ時間はありますし、情報のすり合わせを致しましょう。特に神崎様の件を中心に!」
「ん、らじゃ。ま、時間になったら朝日君呼んでくる」
――しばらくしてから深夜子に呼ばれ、昼食を済ませた朝日がリビングに入ってくる。昨晩と違って調子も戻っており愛想全開である。そんな朝日に五月はもちろん翻弄されまくることになる。
まず、五月が深夜子に豪語していた自信は朝日を見た瞬間に砕け散った。あっという間に顔全体が赤みを帯び、まるで酔ってしまったかのような感覚に襲われる。傍目にはあたかも国宝の芸術品を観賞しているかのようなうっとりとした表情だ。ただひたすら朝日を見つめ、ため息を吐き出すので精一杯であった。
なんとか気を取り直し、挨拶をするも――。
「はっ!? あっ!? はわ、はわわ、ははは初めまして。わわわたっ私、さ、五月雨五月と申しますわ」
リアルではわはわ言う人になってしまった。
その後は女性の憧れ、下の名前で呼んでいいよ! からの下の名前で呼ぶね! コンボを食らって即撃沈。深夜子が下の名前で呼びあえると嬉しいと言ったのをしっかり学習していたのであった。
朝日……恐ろしい子!
結局のところ、きっちりでも、理知的でも、淑女的だった訳でもなく。五月の見せ場は全くなくあっさりと終わりを告げた。
そして、とどめは朝日が少し恥ずかしそうに放ったこのセリフである。
「あの……五月さんってすごい美人ですよね。僕が今まで出会った中で一番綺麗な女性だと思いますよ!」
この世界の女性は容姿が二極化している。朝日基準で言う美人タイプ、または厳ついタイプだ。そんな中でも五月は確かにトップクラスの整った容姿である。また五月自身、同性からは褒められ慣れているが男性からは――。
『まあ、見た目は悪くないですね』
『まあ、嫌ではないですけど』
『まあ、いいんじゃないですかね』
――と言ったところが五月が外見を褒められた記憶だ。
絶世の美少年から『貴女が一番綺麗だ』と褒められることなど未曾有の体験である。五月は男性に対しての経験や耐性はMapsの中でも充分上位の部類に入る。しかし、今回は相手が悪かった、悪すぎた。
結果、感極まった五月からの返答は――。
「あ、あああ朝日様! こ、今回の任務ですけれども。わ、わわ私との、け、けけ結婚を前提にお願いできますかしら?」
結婚を前提とした警護任務であった。
「あうとー」
ずごん! と五月の側頭部に深夜子のまわし蹴りが入る。勢いよく、その場でくるくると五月は宙を舞い飛んだ。
「きゅううううう」
「ちょっ! えっ!? み、深夜子さん? さ、五月さん! だ、大丈夫なの?」
「大丈夫、問題ない。ちょっとカウンセリングが必要」
深夜子はダウンしている五月の両足をそれぞれ肩へと担ぎ、ずるずると引きずって部屋から消えていった。
「――はっ! 天使!? 天使を見ましたわ」
「天使でなく朝日君。天使だけど」ジトッとした目を向け「それにしても結婚してとか、あたしよりひどい」と深夜子が続ける。
「ふ、不覚ですわっ……はっ、私朝日様にご不興を!!」嫌われてしまったのでは? と五月が顔を青くする。
「ん。朝日君なら大丈夫」
「そ、そうなんですの?」
「で、落ち着いた?」
少し落ち着きを取り戻したように見える五月であったが、何かを思案するようにしばし沈黙する。
「――そう、ですわね……深夜子さん。それでは私は少々朝日様の資料を見直して、頭を冷やしてから戻りますわ。しばらく朝日様のお相手をお任せできますか? 」
「まかされた」
――五月は深夜子から渡された朝日の資料にあったとある記載を思い出し、再確認をする。パラパラと読み進め、目的のページで視線を止めた。その眼鏡の奥には理知的な光が輝いている。
「やはり……一年間で帰化……最悪はなりふり構わない取り込みも想定されてますわ。これは男性保護省……いえ、その上の意向ですわね。朝日様にはお気の毒ですが、元の世界に戻れない前提の設定……。実質Mapsに口説き落とせと言ってるようなもの……」
Mapsの業務規定には『原則として任務期間が継続して一年間以上のMapsが、警護対象男性の同意を得ることができた場合。婚姻ないし婚約することが許可される』とある。
「チャンス……」
書類を持つ手に力が入りフルフルと震える。
「これはチャンスですわ! あの天使のようなお方を五月雨家に迎えいれるチャンス――いや! 今日出会えたこと。そう! これは運命ですわ! ああ、朝日様! 私を世界一美しいと言ってくださった愛しの殿方。例えご自分の世界に帰れなくても、私が必ずや幸せにして差し上げますわ! この五月雨五月が必ずっ!!」
資料を机に置いて、化粧道具を取り出して身だしなみを整える。決意を秘めた目を輝かせつつ立ち上がり「うふふふ……ほほほほ……おーっほほほほ!!」高らかに笑い声を上げ、リビングへと戻っていく。
どうでもいいが世界一は盛りすぎでしょう。
「私としたことが、失態をお見せして大変申し訳ありませんでしたわ」
朝日の前で五月が丁寧に三つ指をつく。
「それでは改めまして。私本日付けで警護任務に着任します、AランクMaps五月雨五月と申しますわ。私のことは五月とお呼びになってくださいませ。あ、さ、ひ、さ、ま」
「は、はい。こちらこそ……よ、よろしくお願いします。五月さん」
五月の静かな迫力に、なんとなく悪寒を感じた朝日だが……まあ気のせいかと思い。すぐに気を取り直した。
五月雨五月の警護任務が今ここに始まる。
五月はソファーに座って優雅に紅茶を飲み、深夜子は正座の体勢からぐったりと床に突っ伏している。
「――で、寝待さん。そろそろ落ち着いて話をしていただけませんこと?」
「無念……」
正直、五月としては有無を言わさず襲撃してきた深夜子に気を使う必要は無い。しかしながら、これから同じ現場で働く同僚であり、よりにもよってコレがチームリーダーである。先を見据えて穏便に話を進めることにする。
「別にもう貴女を責めるつもりもありませんわ。どうしてああなってしまったのか、経緯を教えてくださいませ」
「うう……それが――」
当然ながら。
「はいっ!? なっ、ななな」
深夜子の話が進む度に。
「ゆ、夢の話って……あっ、あああああ」
五月の眉間や額にはピキピキと血管が走り――。
「あっ、貴女っ! バッ、バカですのおおおおおおおおっ!?」
「ひいいっ! すまぬ……すまぬ……」
お怒りでしょうそうでしょう。
言うまでもなく、しばらくの間は五月のお説教タイムとなる。たっぷりと絞られてやっと完全に目を覚ました深夜子であった。その後は警護対象である朝日の話題となり、着任から昨日までの出来事を伝える。
「……貴女? いくら男性側からと言っても、その後の対応が論外ですわね。自制心と言うものがありませんの? 訴えられてもおかしくありませんわよ」
「はぅっ……面目ない」
「それにしても神崎様……でしたわね。私も時間が無い中でしたが、そも特殊案件。内容は把握しておりますが……そんな無防備な殿方がいらっしゃるなんて――」ちょっと信じられないと思案顔の五月。
「んー、会えばわかるけど。朝日君はもう少し寝かせてあげたい」
「そう……ですわね。殿方に無理をさせるわけには行きませんわ。もうニ、三時間はお待ちしましょう」
五月は腕時計の時間を確認して、紅茶をひと口。そしてカバンからタブレットを取り出す。
「それでは。その時間で情報のすり合わせをいたしましょう。三人揃ってからのスケジュール組み立ても必要ですわね」
「おおっ……なんか仕事してる感。やるな五月」
「本来はチームリーダーの貴女の仕事ですわよ! ――って、さっきーてなんですの? さっきーって?」
「五月だから五月。いい感じ」
満足そうに右手でサムズアップする深夜子。
「それから、あたし肉体労働派」
「んなっ!? ……はぁ……私が強引に異動になった理由が理解できましたわ…………まあ……どうぞ、お好きにお呼び下さいませ」
カチャリと眼鏡の位置を整えながら五月がため息をつく。なんせ深夜子がチームリーダーである以上サポートに徹するしかない。まさに先が思いやられると言った表情で天を仰ぐ。
「これは……貧乏くじを引きましたわねぇ……」
「そんなことない! 朝日君の担当。絶対ラッキー!」
急に真面目な顔で反応した深夜子に、五月は怪訝な表情を向ける。
「その、寝待さん――」
「深夜子。あたしのことは深夜子でいい」
「そうですの? ――こほん。では、深夜子さん。貴女よくもそこまで言い切れますわね?」
「んー、だって朝日君だし。ま……はい」
前触れもなく深夜子が五月へと書類を差し出した。
「え?」
「朝日君の写真とか、データにのらないやつ」
男性の個人情報はセキュリティランクが非常に高い。遠方にいた五月を含む二人には制限のかかった一部の情報しか届いていなかった。つまり、五月はここで初めて朝日の写真を見ることになる。
「………………」
「五月顔がハニワみたくなってる」
「――ハッ!?」
朝日の写真に釘付けになっていた五月だが、深夜子の一言で我を取り戻す。
「ちょっ!? こっ、こここんな美少年が存ざ――あっ! ああ……いえ。まっ、まあ、そうですわね。多数の警護任務経験がある私でも少々お目にかかったことのない。見目麗しい殿方だとは思いますわ」
「本物の朝日君はもっとかわいい。ふへっ」
「えっ? ほんと――ではなく。深夜子さん! チームリーダーなのですから、しっかりしていただかないと」そう言って、突然何かを振り払うように立ち上がる。
それから五月はビシッと右手を胸の前に当てると、まるで演説でも始めるかのように語りはじめた。
「確かに。このような素敵な殿方に泣きつかれてしまっては、警護任務経験のない深夜子さんには厳しいと思いますわ。ですが、我々は名誉あるMapsの一員ですの。そこは、きっちり、理知的に、かつ淑女的対応をするべきなのですわっ!」
「はぁ……」
いきなりのご高説に生返事の深夜子である。
「聞いたところですと……神崎様はきっと、まだ、不安にかられておられると私思いますわ」
「んー、そうでもないかな」
「いいえ、そんなことありませんわ! な、の、で、私がしっかり。しぃーっかりと神崎様のカウンセリングを致しますわ!!」
「五月鼻息ヤバイ。何か期待してる?」
「んなあっ!?」
深夜子の一言に五月の顔が耳まで赤くなっていく。
「なっ、ななな何をおっしゃいますの? わ、わたっ、私は深夜子さんにMapsの先輩として……こ、ここは神崎様への正しい対応を実践を持って教えて差し上げる。ということですわ!」
「ふーん。そうなんだ」
わりとどうでもいい。
「と、ともかく! まだ時間はありますし、情報のすり合わせを致しましょう。特に神崎様の件を中心に!」
「ん、らじゃ。ま、時間になったら朝日君呼んでくる」
――しばらくしてから深夜子に呼ばれ、昼食を済ませた朝日がリビングに入ってくる。昨晩と違って調子も戻っており愛想全開である。そんな朝日に五月はもちろん翻弄されまくることになる。
まず、五月が深夜子に豪語していた自信は朝日を見た瞬間に砕け散った。あっという間に顔全体が赤みを帯び、まるで酔ってしまったかのような感覚に襲われる。傍目にはあたかも国宝の芸術品を観賞しているかのようなうっとりとした表情だ。ただひたすら朝日を見つめ、ため息を吐き出すので精一杯であった。
なんとか気を取り直し、挨拶をするも――。
「はっ!? あっ!? はわ、はわわ、ははは初めまして。わわわたっ私、さ、五月雨五月と申しますわ」
リアルではわはわ言う人になってしまった。
その後は女性の憧れ、下の名前で呼んでいいよ! からの下の名前で呼ぶね! コンボを食らって即撃沈。深夜子が下の名前で呼びあえると嬉しいと言ったのをしっかり学習していたのであった。
朝日……恐ろしい子!
結局のところ、きっちりでも、理知的でも、淑女的だった訳でもなく。五月の見せ場は全くなくあっさりと終わりを告げた。
そして、とどめは朝日が少し恥ずかしそうに放ったこのセリフである。
「あの……五月さんってすごい美人ですよね。僕が今まで出会った中で一番綺麗な女性だと思いますよ!」
この世界の女性は容姿が二極化している。朝日基準で言う美人タイプ、または厳ついタイプだ。そんな中でも五月は確かにトップクラスの整った容姿である。また五月自身、同性からは褒められ慣れているが男性からは――。
『まあ、見た目は悪くないですね』
『まあ、嫌ではないですけど』
『まあ、いいんじゃないですかね』
――と言ったところが五月が外見を褒められた記憶だ。
絶世の美少年から『貴女が一番綺麗だ』と褒められることなど未曾有の体験である。五月は男性に対しての経験や耐性はMapsの中でも充分上位の部類に入る。しかし、今回は相手が悪かった、悪すぎた。
結果、感極まった五月からの返答は――。
「あ、あああ朝日様! こ、今回の任務ですけれども。わ、わわ私との、け、けけ結婚を前提にお願いできますかしら?」
結婚を前提とした警護任務であった。
「あうとー」
ずごん! と五月の側頭部に深夜子のまわし蹴りが入る。勢いよく、その場でくるくると五月は宙を舞い飛んだ。
「きゅううううう」
「ちょっ! えっ!? み、深夜子さん? さ、五月さん! だ、大丈夫なの?」
「大丈夫、問題ない。ちょっとカウンセリングが必要」
深夜子はダウンしている五月の両足をそれぞれ肩へと担ぎ、ずるずると引きずって部屋から消えていった。
「――はっ! 天使!? 天使を見ましたわ」
「天使でなく朝日君。天使だけど」ジトッとした目を向け「それにしても結婚してとか、あたしよりひどい」と深夜子が続ける。
「ふ、不覚ですわっ……はっ、私朝日様にご不興を!!」嫌われてしまったのでは? と五月が顔を青くする。
「ん。朝日君なら大丈夫」
「そ、そうなんですの?」
「で、落ち着いた?」
少し落ち着きを取り戻したように見える五月であったが、何かを思案するようにしばし沈黙する。
「――そう、ですわね……深夜子さん。それでは私は少々朝日様の資料を見直して、頭を冷やしてから戻りますわ。しばらく朝日様のお相手をお任せできますか? 」
「まかされた」
――五月は深夜子から渡された朝日の資料にあったとある記載を思い出し、再確認をする。パラパラと読み進め、目的のページで視線を止めた。その眼鏡の奥には理知的な光が輝いている。
「やはり……一年間で帰化……最悪はなりふり構わない取り込みも想定されてますわ。これは男性保護省……いえ、その上の意向ですわね。朝日様にはお気の毒ですが、元の世界に戻れない前提の設定……。実質Mapsに口説き落とせと言ってるようなもの……」
Mapsの業務規定には『原則として任務期間が継続して一年間以上のMapsが、警護対象男性の同意を得ることができた場合。婚姻ないし婚約することが許可される』とある。
「チャンス……」
書類を持つ手に力が入りフルフルと震える。
「これはチャンスですわ! あの天使のようなお方を五月雨家に迎えいれるチャンス――いや! 今日出会えたこと。そう! これは運命ですわ! ああ、朝日様! 私を世界一美しいと言ってくださった愛しの殿方。例えご自分の世界に帰れなくても、私が必ずや幸せにして差し上げますわ! この五月雨五月が必ずっ!!」
資料を机に置いて、化粧道具を取り出して身だしなみを整える。決意を秘めた目を輝かせつつ立ち上がり「うふふふ……ほほほほ……おーっほほほほ!!」高らかに笑い声を上げ、リビングへと戻っていく。
どうでもいいが世界一は盛りすぎでしょう。
「私としたことが、失態をお見せして大変申し訳ありませんでしたわ」
朝日の前で五月が丁寧に三つ指をつく。
「それでは改めまして。私本日付けで警護任務に着任します、AランクMaps五月雨五月と申しますわ。私のことは五月とお呼びになってくださいませ。あ、さ、ひ、さ、ま」
「は、はい。こちらこそ……よ、よろしくお願いします。五月さん」
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