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第二章 どうやら美少年との日常は甘くて危険らしい
第十一話 外出準備にオシャレは必要ですか?
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――五月中旬。本日は朝日の身辺警護テストを兼ねた初外出の日である。
この世界は様々な部分が日本とよく似ている。一年の流れ、季節感などもそうだ。日本ほど冬夏での寒暖差は無いが、それでもはっきりと四季は存在している。また年間を通じて行事なども似通ったものが多い。
朝日はアニメやラノベでかじった程度の知識しか持っていないが、この世界はきっと平行世界――パラレルワールドに近い存在なのだろう。と自分なりに理解をしていた。
さて現在。Maps側リビングルームでは、五月と梅が何やら準備をしながら話をしている。
「しっかしコレの許可が男性特区でよく出たもんだな?」
「私を誰だと思っていらっしゃいますの? それに朝日様の為ですもの。当然ですわ!」
そう言って胸をはる五月を横目に、梅が腰のベルトに装着しているのは銃のホルスターだ。男性特区では銃の携帯は厳しく制限されている。こういった権限が強いMapsですら許可されていない。
常時携帯できると言えば、軍関係者か警察の男性専門部署くらいのものだ。また今回の許可は実弾ではない。殺傷を目的としないゴム弾頭限定の条件付き携帯となっている。朝日の行動に予測不能な可能性があることを考慮し、五月が申請して帯銃許可を取ったのである。
「貴女はともかく。私と深夜子さんは射撃が得意分野ですから、持てるに越したことはありませんわ」
「まあな。つっても、出番はねえと思うぜ。それに深夜子は拳銃なんか持たなくても充分強えぞ」
梅は深夜子の腕に覚えあり。と言った感じだ。
「もちろん貴女方がお強いのは存じておりますわ。けれど、万一に備えて損はありませんことよ」
身だしなみと装備を整えつつ、五月が言い切った。
そんな五月の服装は、控えめなピンク色のカッターシャツにダークグレーで薄手のスーツをチョイス。袖にMapsの腕章を通して準備完了である。日頃より化粧に少し気合いを入れ、上品なアクセサリーを数点。動くのに邪魔にならない程度で身に付けて着飾っている。そこはご愛敬。
「ところで大和さん……貴女の服装ですけれど。私服警護担当の時はいつもそんな格好をされてますの?」
「あん? そりゃそうだろ。動きやすいし、何よりカッコいいかんな!」と満足気に可愛い八重歯をのぞかせている。
「格好……いい……ですの?」
眉間にシワを寄せた五月が、その姿を上から下までながめる。
迷彩柄のズボンにミリタリーブーツ。上半身は薄紫の長袖パーカートレーナー、おまけに指無しグローブも装着済みだ。深夜子あたりに言わせれば、格闘ゲームのキャラっぽい格好と評価するであろう。
しかし五月にすれば、なかなか理解に苦しむファッションである。Mapsの腕章を左足に括りつけているあたりも実に疑問に思う。かと言って、見た目がロリ猫娘の梅に似合う服装とは? ――――途中で考えるのを止めた。
「ま、まあ……人それぞれですし。よろしいのでは無くて?」色々と気の毒過ぎて、ツッコミようがなかった。
「ごめん。おまたせ」
そこに自室で着替えを終えた深夜子が入ってくる。
梅と同様、私服警護担当らしく動きやすさを重視したスタイルだ。ブランド物のレディーススニーカーに、腰が少し露出するスリムなダメージジーンズ。上半身は重ね着風のカットソーTシャツの上にカーキのジャケットを羽織っている。腰にかけた銃のホルスターとベルトは少し緩めに巻き、タイトな服装に合わせていた。
五月に負けず劣らず化粧にも気合が入っている。目つきの悪さはともかく、なかなかの見栄えである。
「あ……ら……意外でしたわね? いえ、失礼。深夜子さん、とても素敵ですわ。日頃の部屋着が適当でしたので驚きましたわ」
「ふっ、このくらい当然」
さも当たり前。と言わんばかりの深夜子だが、そこに梅が食いついてきた。
「おいおい深夜子ー。おまえってば服のセンスそんなだったっけか?」
「うぐうっ」
何やら痛いところをつかれたらしい。深夜子が渋い表情をみせる。正反対に梅はニヤニヤしながら、その周りをくるくると回って服装をながめている。
「どれもこれも新品っぽいじゃねえか? ……ははーん! もしかして? あれ? あれあれあれー?」
「うぐぐっ」
梅の追撃に、深夜子は顔を赤くしてうつむく。
そう、深夜子はファッションには全く頓着の無いタイプであった。普段は部屋着がジャージだったりと中々にひどい。しかし、朝日の気を引きたい一心からオシャレの研究をしていたのだ。
それを冷やかしている本人は絶望的センスなのだが、自覚が無いだけに性質が悪い。実にウザい煽りをしつこく続ける。
「あっれー、みやこちゃんはー、もしかしてー、あさひきゅんの――――へっ!?」
その瞬間! まさに電光石火。深夜子がホルスターから凄まじい速度で銃を抜いたと同時に発砲音が梅に向かって響いた!
「えっ!? 嘘……い、今……銃を抜く瞬間が見えなかった? ……で……すわ……」
あまりに一瞬の出来事に五月は呆然である。深夜子の右手の動きすら認識できなかった!? ……いや、それより梅が頭を撃たれた!? そう思って焦り目を向ける。しかし、さらに信じられない光景が眼前で繰り広げられた。
「み、深夜子てめえっ!? なんてことしやがんだよ!!」
――ポロリ。開かれた梅の左手からゴム弾が床に落ちた。
理解に苦しむ。なんと梅は銃弾を手で受け止めていた。深夜子の抜き射ち技術も凄まじいが、梅のこれは技術と呼べるシロモノではない。
「おいっ、深夜子!! 俺を殺す気かっ!?」
「ゴム弾だから問題なし」
知らんがな。と言いたげな半目をジトッと梅に向ける。
「至近距離だろうが! 当たり所悪けりゃ死ぬぞっ!」
「ふっ、急所ははずした」
表情そのまま、深夜子がスッっと右手を上げてサムズアップ。
「嘘つけ! 思っいきり急所狙いだったよな?」
そうだね。人中狙いだったね。
「梅ちゃんなら大丈夫。信じてた…………ちっ」
「残念そうに言うんじゃねぇっ!」
まるで軽いお遊び。そんな空気で軽口をかわす二人に、我に帰った五月が全力でツッコミを入れる。
「いっ、いやいやいやいやいや! お二人ともおかしいですわよね!? 特に大和さん! 銃弾を手で受け止めるとかどういうことですの?」
「あん? 別にそうでもねえだろ。コツがあんだよ」
「そうでもありますし、コツで済んではいけませんわよねっ!?」
常人離れという言葉では生ぬるい、まさに異常とも言うべき動体視力。なんと梅は相手の銃を持つ腕から引き金を引く指まで、全ての動きをその目で捕らえている。さらに着弾地点をも予測して弾丸を受け止めているのだ。その腕力、そして握力もとんでもない。
良い子は絶対にマネをしてはいけない。
「さすがにこのグローブが無いとキツいけどよ。32口径くらいまでなら実弾でもいけるぜ」
「ちょっと何を言ってるかわかりませんわ!」
そう豪語する梅が使っているのは、強化繊維ゲルを素材の中心とした特注の防刃グローブだ。最近開発された新製品で、耐久度、防御力、素手による格闘。なんでもこいの万能さに加え、若干ながら防弾能力も有している。
わざわざ指無しの特注をしているのだが、決して中二病装備などではない。ないったらない。
「おおぅ、梅ちゃんそれどこのヤツ?」
「おうこれな。ブレードウォーカーっつうメーカーのでよ。特注で高ぇんだけど――」
「つ、ついていけませんわ……この方たち……」
言動のみでなく、物理的にもおかしい二人に頭を抱える五月。武闘派SランクMapsの肩書は伊達ではないようだ――。
「朝日君。お待たせ」
全員準備完了ということで、リビングルームに集合する。すると、さっそく朝日が目ざとく深夜子の服装に反応した。
「うわぁ、深夜子さん凄く格好いい……スーツや部屋着の時と全然違ってびっくりしました。素敵ですね!」
深夜子。努力の甲斐あって見事に朝日をフィッシュオンである。
「あっ!? ふぇ? そ、そそそそそうかな?」
ここで深夜子は誤算に気づく。惜しむらくは着飾るのに全力投球であったがため、自分がこう言ったことで過去男性から褒められた経験など、皆無であることが頭から抜けていた。
想像の中では――。
『ありがと、朝日君。嬉しいよ、フッ(キラーン!)』
『(ぽっ)はわわ、み、深夜子さん。す、素敵ですぅ』
『もう、照れちゃって! 朝日君は可愛いなあ』
――のはずだった。
しかし現実は、キラキラと目を輝かせている朝日に対して絶賛挙動不審中である。嬉しさと恥ずかしさが変な混ざり方をして、深夜子の平常心は即、危険水域に達する。
「あっ! 深夜子さん。そのピアスもかわいいですね。三日月の形だから名前にもぴったりで……うん! 凄く似合ってますよ」
女性のオシャレを察知して褒める。二人の姉に鍛えられた”敏感男子”神崎朝日とっては息をするかの如き当然の行為! しかし、この世界の女性にとっては未知のモンスター。その言葉は嬉し恥ずかし精神的絨毯爆撃となって深夜子に襲いかかる!
「ひゃぁ、こ、これ? そ、そう? ウェヒヒヒ」
そんな馬鹿な!? 格闘ゲームで超高難度の連続技を決め、朝日に褒められた時には余裕で対応できていたのに!? 服装やアクセサリーを褒められただけじゃないか? なのに何故?
顔が熱くなる! 嬉しくて、恥ずかしくて、動悸が恐ろしく早くなる! もう、まともに朝日の顔を見ることすらできなくなっていた。
いけない! これではまたしても拗らせ処女になってしまう。簡単なのだ。軽く『ありがとう』と言うだけで良いのだ。深夜子さんにおまかせなのだ。心に力を入れ、朝日に目を向ける。
「え、えと、僕。今日の深夜子さんの格好……その、結構好きかも……」
待っていたのは容赦ない追撃であった。そこにあるのは少し頬を紅潮させ、照れながらそう呟いている美少年の穢れ無き眼。
「いやあああああっ! 見ないで! あたしのこと見ないでええええええ!」
悲しいけどこれ処女なのよね。
「えっ……えええええっ!? み、深夜子さん!?」
顔を抑え、耳を真っ赤にして、深夜子は脱兎のごとく部屋から出ていった。
「うぉーーい!? チームリーダーがいきなり離脱してんじゃねえよっ!」
「なんと言いますか……少々お気の毒な気持ちになりましたわ……」
出発前からこれでは先が思いやられる。仕方なく五月が深夜子復活まで代わりに事前説明を始めた。
この世界は様々な部分が日本とよく似ている。一年の流れ、季節感などもそうだ。日本ほど冬夏での寒暖差は無いが、それでもはっきりと四季は存在している。また年間を通じて行事なども似通ったものが多い。
朝日はアニメやラノベでかじった程度の知識しか持っていないが、この世界はきっと平行世界――パラレルワールドに近い存在なのだろう。と自分なりに理解をしていた。
さて現在。Maps側リビングルームでは、五月と梅が何やら準備をしながら話をしている。
「しっかしコレの許可が男性特区でよく出たもんだな?」
「私を誰だと思っていらっしゃいますの? それに朝日様の為ですもの。当然ですわ!」
そう言って胸をはる五月を横目に、梅が腰のベルトに装着しているのは銃のホルスターだ。男性特区では銃の携帯は厳しく制限されている。こういった権限が強いMapsですら許可されていない。
常時携帯できると言えば、軍関係者か警察の男性専門部署くらいのものだ。また今回の許可は実弾ではない。殺傷を目的としないゴム弾頭限定の条件付き携帯となっている。朝日の行動に予測不能な可能性があることを考慮し、五月が申請して帯銃許可を取ったのである。
「貴女はともかく。私と深夜子さんは射撃が得意分野ですから、持てるに越したことはありませんわ」
「まあな。つっても、出番はねえと思うぜ。それに深夜子は拳銃なんか持たなくても充分強えぞ」
梅は深夜子の腕に覚えあり。と言った感じだ。
「もちろん貴女方がお強いのは存じておりますわ。けれど、万一に備えて損はありませんことよ」
身だしなみと装備を整えつつ、五月が言い切った。
そんな五月の服装は、控えめなピンク色のカッターシャツにダークグレーで薄手のスーツをチョイス。袖にMapsの腕章を通して準備完了である。日頃より化粧に少し気合いを入れ、上品なアクセサリーを数点。動くのに邪魔にならない程度で身に付けて着飾っている。そこはご愛敬。
「ところで大和さん……貴女の服装ですけれど。私服警護担当の時はいつもそんな格好をされてますの?」
「あん? そりゃそうだろ。動きやすいし、何よりカッコいいかんな!」と満足気に可愛い八重歯をのぞかせている。
「格好……いい……ですの?」
眉間にシワを寄せた五月が、その姿を上から下までながめる。
迷彩柄のズボンにミリタリーブーツ。上半身は薄紫の長袖パーカートレーナー、おまけに指無しグローブも装着済みだ。深夜子あたりに言わせれば、格闘ゲームのキャラっぽい格好と評価するであろう。
しかし五月にすれば、なかなか理解に苦しむファッションである。Mapsの腕章を左足に括りつけているあたりも実に疑問に思う。かと言って、見た目がロリ猫娘の梅に似合う服装とは? ――――途中で考えるのを止めた。
「ま、まあ……人それぞれですし。よろしいのでは無くて?」色々と気の毒過ぎて、ツッコミようがなかった。
「ごめん。おまたせ」
そこに自室で着替えを終えた深夜子が入ってくる。
梅と同様、私服警護担当らしく動きやすさを重視したスタイルだ。ブランド物のレディーススニーカーに、腰が少し露出するスリムなダメージジーンズ。上半身は重ね着風のカットソーTシャツの上にカーキのジャケットを羽織っている。腰にかけた銃のホルスターとベルトは少し緩めに巻き、タイトな服装に合わせていた。
五月に負けず劣らず化粧にも気合が入っている。目つきの悪さはともかく、なかなかの見栄えである。
「あ……ら……意外でしたわね? いえ、失礼。深夜子さん、とても素敵ですわ。日頃の部屋着が適当でしたので驚きましたわ」
「ふっ、このくらい当然」
さも当たり前。と言わんばかりの深夜子だが、そこに梅が食いついてきた。
「おいおい深夜子ー。おまえってば服のセンスそんなだったっけか?」
「うぐうっ」
何やら痛いところをつかれたらしい。深夜子が渋い表情をみせる。正反対に梅はニヤニヤしながら、その周りをくるくると回って服装をながめている。
「どれもこれも新品っぽいじゃねえか? ……ははーん! もしかして? あれ? あれあれあれー?」
「うぐぐっ」
梅の追撃に、深夜子は顔を赤くしてうつむく。
そう、深夜子はファッションには全く頓着の無いタイプであった。普段は部屋着がジャージだったりと中々にひどい。しかし、朝日の気を引きたい一心からオシャレの研究をしていたのだ。
それを冷やかしている本人は絶望的センスなのだが、自覚が無いだけに性質が悪い。実にウザい煽りをしつこく続ける。
「あっれー、みやこちゃんはー、もしかしてー、あさひきゅんの――――へっ!?」
その瞬間! まさに電光石火。深夜子がホルスターから凄まじい速度で銃を抜いたと同時に発砲音が梅に向かって響いた!
「えっ!? 嘘……い、今……銃を抜く瞬間が見えなかった? ……で……すわ……」
あまりに一瞬の出来事に五月は呆然である。深夜子の右手の動きすら認識できなかった!? ……いや、それより梅が頭を撃たれた!? そう思って焦り目を向ける。しかし、さらに信じられない光景が眼前で繰り広げられた。
「み、深夜子てめえっ!? なんてことしやがんだよ!!」
――ポロリ。開かれた梅の左手からゴム弾が床に落ちた。
理解に苦しむ。なんと梅は銃弾を手で受け止めていた。深夜子の抜き射ち技術も凄まじいが、梅のこれは技術と呼べるシロモノではない。
「おいっ、深夜子!! 俺を殺す気かっ!?」
「ゴム弾だから問題なし」
知らんがな。と言いたげな半目をジトッと梅に向ける。
「至近距離だろうが! 当たり所悪けりゃ死ぬぞっ!」
「ふっ、急所ははずした」
表情そのまま、深夜子がスッっと右手を上げてサムズアップ。
「嘘つけ! 思っいきり急所狙いだったよな?」
そうだね。人中狙いだったね。
「梅ちゃんなら大丈夫。信じてた…………ちっ」
「残念そうに言うんじゃねぇっ!」
まるで軽いお遊び。そんな空気で軽口をかわす二人に、我に帰った五月が全力でツッコミを入れる。
「いっ、いやいやいやいやいや! お二人ともおかしいですわよね!? 特に大和さん! 銃弾を手で受け止めるとかどういうことですの?」
「あん? 別にそうでもねえだろ。コツがあんだよ」
「そうでもありますし、コツで済んではいけませんわよねっ!?」
常人離れという言葉では生ぬるい、まさに異常とも言うべき動体視力。なんと梅は相手の銃を持つ腕から引き金を引く指まで、全ての動きをその目で捕らえている。さらに着弾地点をも予測して弾丸を受け止めているのだ。その腕力、そして握力もとんでもない。
良い子は絶対にマネをしてはいけない。
「さすがにこのグローブが無いとキツいけどよ。32口径くらいまでなら実弾でもいけるぜ」
「ちょっと何を言ってるかわかりませんわ!」
そう豪語する梅が使っているのは、強化繊維ゲルを素材の中心とした特注の防刃グローブだ。最近開発された新製品で、耐久度、防御力、素手による格闘。なんでもこいの万能さに加え、若干ながら防弾能力も有している。
わざわざ指無しの特注をしているのだが、決して中二病装備などではない。ないったらない。
「おおぅ、梅ちゃんそれどこのヤツ?」
「おうこれな。ブレードウォーカーっつうメーカーのでよ。特注で高ぇんだけど――」
「つ、ついていけませんわ……この方たち……」
言動のみでなく、物理的にもおかしい二人に頭を抱える五月。武闘派SランクMapsの肩書は伊達ではないようだ――。
「朝日君。お待たせ」
全員準備完了ということで、リビングルームに集合する。すると、さっそく朝日が目ざとく深夜子の服装に反応した。
「うわぁ、深夜子さん凄く格好いい……スーツや部屋着の時と全然違ってびっくりしました。素敵ですね!」
深夜子。努力の甲斐あって見事に朝日をフィッシュオンである。
「あっ!? ふぇ? そ、そそそそそうかな?」
ここで深夜子は誤算に気づく。惜しむらくは着飾るのに全力投球であったがため、自分がこう言ったことで過去男性から褒められた経験など、皆無であることが頭から抜けていた。
想像の中では――。
『ありがと、朝日君。嬉しいよ、フッ(キラーン!)』
『(ぽっ)はわわ、み、深夜子さん。す、素敵ですぅ』
『もう、照れちゃって! 朝日君は可愛いなあ』
――のはずだった。
しかし現実は、キラキラと目を輝かせている朝日に対して絶賛挙動不審中である。嬉しさと恥ずかしさが変な混ざり方をして、深夜子の平常心は即、危険水域に達する。
「あっ! 深夜子さん。そのピアスもかわいいですね。三日月の形だから名前にもぴったりで……うん! 凄く似合ってますよ」
女性のオシャレを察知して褒める。二人の姉に鍛えられた”敏感男子”神崎朝日とっては息をするかの如き当然の行為! しかし、この世界の女性にとっては未知のモンスター。その言葉は嬉し恥ずかし精神的絨毯爆撃となって深夜子に襲いかかる!
「ひゃぁ、こ、これ? そ、そう? ウェヒヒヒ」
そんな馬鹿な!? 格闘ゲームで超高難度の連続技を決め、朝日に褒められた時には余裕で対応できていたのに!? 服装やアクセサリーを褒められただけじゃないか? なのに何故?
顔が熱くなる! 嬉しくて、恥ずかしくて、動悸が恐ろしく早くなる! もう、まともに朝日の顔を見ることすらできなくなっていた。
いけない! これではまたしても拗らせ処女になってしまう。簡単なのだ。軽く『ありがとう』と言うだけで良いのだ。深夜子さんにおまかせなのだ。心に力を入れ、朝日に目を向ける。
「え、えと、僕。今日の深夜子さんの格好……その、結構好きかも……」
待っていたのは容赦ない追撃であった。そこにあるのは少し頬を紅潮させ、照れながらそう呟いている美少年の穢れ無き眼。
「いやあああああっ! 見ないで! あたしのこと見ないでええええええ!」
悲しいけどこれ処女なのよね。
「えっ……えええええっ!? み、深夜子さん!?」
顔を抑え、耳を真っ赤にして、深夜子は脱兎のごとく部屋から出ていった。
「うぉーーい!? チームリーダーがいきなり離脱してんじゃねえよっ!」
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