男性保護特務警護官~あべこべな異世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!

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第三章 男事不介入案件~闘え!男性保護特務警護官

第二十五話 大和梅、大いに怒る!

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 ――朝日をなだめる三十分が経過する間に、春日湊のMaps駐在所へ到着。急ぎ通信の準備を整える。梅にはGPS通信のピアス型インカムを装着させている。会話のみでなく、居場所の検出もバッチリである。

 五月はヘッドセットを装着して、ノートパソコンを操作。深夜子がメインインカムでナビ担当。――梅からの通信を待つこと数分。

「ん! 梅ちゃんから信号入った」
 それを聞いた五月がすぐさま所在検索をかける。
「……場所は武蔵区の倉庫街。建物は……海土路造船倉庫F号倉庫ですわね」
「もしもーし、梅ちゃん。大丈夫?」
『あん? 別にどーってことねえよ。とりあえず落ちた振りをしてやってたからな。今は倉庫の隅に転がされてんぜ』

 心配そうに朝日が見ているので、簡単に状況を伝え安心させる深夜子。五月は代わって状況確認を続ける。

「大和さん。拘束されて問題はありませんの?」
『ん? ああ、脚をビニールロープで縛られて、腕は普通のスチール手錠だな。問題ねえよ。こいつら、これで俺を拘束したつもりとか舐めてやがんな』
「それを問題ないと言えるのが問題ですわよっ!」

 梅を拘束したい場合は、最低でも極太のスチールワイヤーを準備するべきである。

『しっかし肩透かしだぜ。雑魚しかいやしねえ』
「ハズレ?」
 朝日に説明を終えた深夜子が会話に戻る。
『ざっと雑魚が十人位か? 例のデカ蛇女たちは、お前らを呼び出してから来るんだとよ。そっちに脅迫掛けんのに、俺を痛めつけるビデオを先に撮るだのなんだの言って準備してやがるな』
「!? う、梅ちゃん。その時は『やめて! 俺に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!』って言うのが礼儀」
 何故か嬉しそうにテンションがあがる深夜子。
『知るかっ!? 言うかっ!! ……てかよ。黙ってやられんのも腹立つし、もうやっちまっていいか?』
「ええ、もう位置情報は本部へ転送済みですわ。万一の時には応援申請を出しますので……大和さん、御武運を」
「らじゃ。ところで梅ちゃんやる気イマイチっぽい? もしやテンション低い」
『まあな、最初はなからデカ蛇女たちとやる気だったかんよ。雑魚が相手じゃ、ちっとばかしテンション上がんねえな。ま、準備運動くらいにはなんだろ?』
「らじゃ。じゃあこれでテンション上げる」

 すると、深夜子がポケットから個人のスマホを取り出し、インカムに向けて何やら録音したらしき音声を流す。

【うわあああああああっ! う、梅ちゃん? 梅ちゃんが……やだ、やだよ。 や、やめてよっ!! ねえ、五月さん! 深夜子さん! 梅ちゃんを、梅ちゃんを助けてよ。どうして? 車を止めて! 戻して! ねえ、はや――】
【ちょっ、ちょっと朝日様! 大丈夫ですわっ! これは、作戦ですから、大丈夫なので落ち着いてくださいませ】
【そう。朝日君、わざと】
【そんな、やだ。梅ちゃんが……殴られ……連れて……あ、ああっ、ひぐっ……ううっ、誰か……誰か助け――】

 流れる音声を聞いて、血相を変えた朝日が深夜子に飛び付く。

「ちょおおおっとぉっ!? 深夜子さん? なんてもの録音してるのさっ? やっ、ヤメテェーーっ!!」
「ふっ、朝日君マイスターとして当然のたしなみ」
 サムズアップして、キランと歯を輝かせる深夜子。とてもウザい。
「な、何が当然なのさーっ!?」
「で、梅ちゃん。少しはやる気でた? え? ぶっ殺す? ……梅ちゃん? 相手殺しちゃダメだよ? って、あれ? おーい……通信切れた。んー、…………これはる気スイッチ入ちゃったかも?」
「「ええええええっ!?」」


 ――海土路造船倉庫F号倉庫。
 海土路造船所有の鉄筋コンクリート造りの平屋建て倉庫である。倉庫はコンテナトラックなどが通る部分は電動シャッターで閉鎖されており、出入口は作業員が出入ではいりする為に大型の引き戸のみ機能している状態となっている。また、倉庫内にはコンテナがあちこちに積まれて防音の役割も果たしており、拉致監禁には持ってこいの場所と言えよう。

 現在、通信が途切れた梅がいる倉庫内には、タクティクスの中でも腕に覚えのある者達が待機していた。総勢十二名。今は五月たちに向けた脅迫用のビデオ撮影準備の真っ最中である。しかし……。

 突然、倉庫内に太いゴムが切れたかのような音、続けて金属が弾ける音が響く。音の出所は、先ほど彼女たちが捉えてきた獲物を転がしているコンテナの影からだ。

 何事か? と雑談していた者、タバコを吸っていた者、カメラの準備をしていた者。全員が手を止めて、その方向に注目する。

 すると、コンテナの物陰からふらりと小さい影が現れた。パーカートレーナーのポケットに両手を入れ、フードを下ろしているので表情は見えない。だのに、その姿を見た途端、全員が不思議と背中に悪寒を覚えた。そして、小柄な姿相応の可愛らしい声が冷たく静かに倉庫内に響き渡る。

「ふん……ひいふうみい……ここの雑魚・・はお前ら十二人で全部か?」
「「「「「雑魚ぉ!?」」」」」

 雑魚の二文字。武闘派警護官として歴戦の猛者も少なくないタクティクスメンバーに看過できない言葉である。数名はすでに額や眉間に血管を浮かべ、世紀末の無法者もかくやの表情で梅を睨みつけている。

「まあまあ、皆さん落ち着いて」

 メンバーの後方から野太い声が響いた。彼女らをかき分けるように、一際大きな体格の女性が姿をあらわし、ゆっくりと梅の前に進みでる。『丸大まるだい公子きみこ』、タクティクス古参メンバーの一人で身長は203センチ、体重に至っては梅の四倍以上はあろうかと言う女傑だ。

「ふおっほっほっほ。どうやって縄と手錠をはずして来たかは知りませんが、逃げずに堂々と出てくるとは面白い冗談です。それに、少しばかりお行儀の悪いオチビちゃんですね~。言葉遣いは大切ですよ?」

 丸々としたお腹をポンポンと軽く叩きつつ、スキンヘッドながら、人のよさそうな笑顔で余裕たっぷりに梅に話しかける。

「ああん? チャーシューはチャーシューらしく、ラーメンの上にでも乗ってろ」
「ちゃっ!? ちゃっ、ちゃちゃ、チャーシュー!?」

 ピキピキっと、顔は一気に赤くなり、丸大公子のこめかみに数本の血管が浮かび上がる。人のよさそうなえびす顔も般若の如く、怒りの表情へと変わって行く。

「おいおい、あのチビ死んだわ。丸大さんを挑発するとか馬鹿なの?」
「いや、そもそもどうして逃げないの?」
「冗談抜きで殺されるわよ……いったい何考えてんのよ?」

 この状況に全く理解が追い付かない面々が戸惑いの言葉を口にする。そして、怒り浸透と言った感じの丸大公子だったが、無理矢理にひきつった笑顔を作り梅の真正面に立つ。そして、ゆっくりと右拳を振り上げた。

「ふ……ふっ、ふおっほっほっ……どうやら、礼儀知らずのオチビちゃんにはしつけが必要な様ですねっ! ふうんっ!!」

 打ち下ろしの右チョッピングライト
 218キロの全体重を乗せた、丸大公子必殺の拳が梅の頭上から襲い掛かる!

「へっ!」

 ニヤリと口元を歪め、鼻で笑う。その一瞬に梅の取った行動はわずか二つ・・・・・
 左足を数センチ後ろにずらしてかかとを上げ、脅威の動体視力でもって丸大公子の拳が自分の額に当たるように合わせる。それだけ――――しかし。

 肉と骨がぶつかり合う嫌な音が周囲に響き、誰もが梅が潰されたと確信した瞬間。
「ぎゃあああっ! いっ、いてぇよぉ~~~っ!!!」
 丸大公子が激痛にのた打ち回る姿がそこにあった。

 数本の指から所々折れた骨が飛び出し、あり得ない方向に曲がった右手首を左手で押さえ、涙とよだれを撒き散らしながら悶絶している。

「「「「「えっ?」」」」」

 その異様な光景に呆然と立ちすくむ者達。梅は丸大公子に目もくれない。つかつかと、この倉庫にあるたった一つの出入口へと向かう。

 拳を受けた衝撃もあって、途中ぱさりとフードが取れて梅の顔が現れた。だが、いつもよりも赤みを増して見える髪は、まるで燃えるように揺らめいて見える。猫科を思わす可愛らしい瞳は瞳孔が収縮し、獲物を狙う獰猛な獣のそれを思わせる。日頃はチャームポイントの八重歯も正に肉食獣の牙になったかのようだ。

 ただならぬ雰囲気にごくりと唾を飲み込み、声の出ないタクティクスメンバーたち。そして、梅はスチール製のかんぬきになっている大型引き戸の前に立つ。扉のかんぬきを留め金に通すと、その小さな手で留め金部分をかんぬきごと握る。

「朝日はよ……いっつもニコニコ笑ってんだ……優しくってよう、お人好しでよう……。それを……それをてめえらっ……よくも……よくも朝日を泣かせやがったな・・・・・・・・!!」
 スチール製のかんぬきと留め金が嫌な音を立てぐにゃりと曲がる! 内側から扉は封印された。

「…………だ」
「な、何言ってんだ、アイツ」
「鉄の留め金を素手で曲げた……う、嘘でしょ?」

 動揺が走る面々に何かを呟いた梅の声は届かない。しかし、次は呟きではなかった。
 
き肉だ!!」
「「「「「はあっ!?」」」」」
「てめえら全員っ、挽き肉・・・にしてやるっつってんだああああああああああっ!!」

 SランクMaps大和やまとうめ――猫では無い。血に飢えた虎の咆哮が倉庫内に響き渡った。
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