男性保護特務警護官~あべこべな異世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!

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第四章 やはり美少年との日常は甘くて危険らしい

第三十五話 五月雨五月は映画が見たい?

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 さて、そんな朝日と五月の初デートであるが、さすがに深夜子と梅からの抗議もあって、朝から晩までのフルデートではない。その代わりに朝日(の気遣い)から主導権が渡されており、昼下がりから出発し、まずは朝日が希望した映画館、そして軽いショッピングをして、ディナーを共にする半日デートを五月が計画したのだ。

 そんな五月の本日のファッションだが、髪型は日頃の編み込みサイドアップではなく、ポニーテールにしている。
 服は首から胸元にカット加工してある、セクシーな印象のミディアムスーツワンピース。白を基調としたブルーストライプ柄で、五月の美貌とスタイルをフルに活かしている。装飾品も嫌みでない程度にバランスよく……。

 まあ、一言で表すなら『すごく気合い入ってるよね』である。

 朝日は服装はあまり気にせず、買ってもらったTシャツとデニムジーンズの中から適当に合わせているのみだ。深夜子と梅はいつもの私服で、恒例の距離をとっての身辺警護となる。

 まずは車で市街地まで皆で移動する。そして、五月待望の朝日とデートスタート! 最初の目的地は映画館だ。

「そそそそそそれではああああ朝日様。ままままま参りますですますしょうか」
「五月さん?」

 いざ開始スタートのその時、五月は猛烈な緊張に襲われていた。それもそのはず、二十四歳にして人生初デート。しかも相手が絶世の美少年こと神崎朝日である。

 昨日までのハイテンションはどこへやら、出発までに約十分間の深呼吸と精神集中を必要とした五月であった。

「でも、こうやって……身辺警護おしごとでない形でいっしょにお出かけできるって嬉しいですね」
「まあ……朝日様ったら……そうですわね。今日は五月にお任せくださいませ! しっかり楽しめるようにエスコート致しますわ」
「えへへ、うん。よろしくお願いします!」

 そう言うと五月の左腕にさっと絡みつき、手をとってきゅっと恋人つなぎに持っていく朝日。早くもエンジン全開である。

「おっふ!!」

 危うく膝に矢を受けてしまった衛兵の如く崩れかける五月。だがすでに、デートを成功させるべく断固たる決意・・・・・・はできている。なんとコンマ数秒で立ち直り、軽く手を握り返して足を進め始めた。
 以前とは違うのだよ! 以前とは!

 (くっ!)(ちっ!)

 非番ではあるが、朝日の側にいる以上インカム装備は必須である。地獄の底から舌打ちやらうめき声がちょくちょく聞こえてくるが気にしない。気にしたら負けなのだ。

「あっ、そうだ五月さん。今日観る映画ってどんなのか聞いてなかったけど、教えてもらえますか?」

 この世界の映画は、朝日では内容を図りかねるものが多く。今回は罪滅ぼしのデートでもあることから――五月さんの好みで選んでくださいね。と一任をしていたのだ。

「ええ、朝日様が楽しめそうなものは少なそうでしたが、ちょうど春先から大ヒットしているアニメ映画がありましたわ」
「へえ、アニメ!」
「ふふ。きっと実写よりは、アニメの方が朝日様が楽しめるかと思いましたので、その中から選びましたわ」

 実は深夜子に頼みこんで教えてもらった映画である。

 男性俳優が基本存在しないため、実写映画は朝日には馴染み辛い内容が多い。逆にアニメならば声優でカバーできる分、男性出演者を気にすることなく制作できるのが強みだ。朝日と趣味の近い深夜子の見事なフォローである。

わたくしも観るのは初めてですが『君の名を言ってみろ』というタイトルですわ」
「わぁー。なんかすごいタイトルですね」
「ふふふ。これ今、超ロングヒット中。あたしはすでに三回観た」
「んで、どんな話だったけか?」

 映画館も近くなり合流が可能になったため、ここぞとばかりに近寄ってきた二人である。そして、ふふんと鼻をならして深夜子が説明を続ける。

「んと。最初はキャッチコピーの『姉より優れた弟など存在しない!』が大炎上した。けど、実際の中身は落ちこぼれの姉に対して、優秀で健気な弟の無償の愛が描かれた名作。はっきり言って泣ける」
「な……なんか色々と凄そうだね……」

 しばし四人で話しながら映画館前へ到着する。春日湊、いや国内でもスクリーン数、客席数ともに最大級の映画館『曙シネマズMAXシアターナイン』である。超大型商業ビルの一階層丸ごとが映画館であり、ビルに入ってエレベーターを使って、その階へと移動する。

 エレベーターを降りてから、映画館入り口までのロビーの途中、梅が深夜子に小声で話しかける。

「おい深夜子。そういや五月の奴どういうつもりだよ。映画館っつたら普通――」
「男性は専用観賞室で別」

 当然、暗がりで不得意多数の女性の中に、男性が混じるなど男性特区であっても(性的)自殺行為に等しい。男性は専用の場所で、女性とは別に映画を観賞するのが常識である。

 確かに世間知らずのお嬢様ならば、それを知らないであろうが、果たして五月は……。

「だよなぁ……朝日の希望らしいけど、あいつわかってんのか?」
「んー。五月さっきー何も言ってなかったけど」

 そんな話をこそこそとしつつ、映画館入り口のホールへと到着する。

 フロアは少しふかっとした絨毯タイプの床になり、照明は少し暗めながら、ネオンやカラー照明などを駆使して、非日常的雰囲気が演出されている。
 チケットの受付のほかにはグッズや飲食物売り場がずらりと並び、ホールの天井近くには20面以上の大型モニターがところせましと設置され、上映中作品のプロモーション映像を大音響で流している。

 その驚きの広さと豪華さに、朝日が歓喜の声をあげた。

「うわー、すごく大きい映画館! 日本でもここまで大きいのはなかったかも?」
「ふふ、喜んでいただけると嬉しいですわ。上映に使うホール・・・・・・・・は、朝日様がご自由に選んで・・・・・・・くださいませ」
「あん? あいつ何いってんだ……ん? そういや……なんで店員以外、誰もいねぇんだ? 平日っても客ゼロはねえだろ?」
「うん、ありえない。あたしここ何回か来たことあるけど……これは異常……なんで?」
「何をおっしゃってますの? もちろん今日は『貸し切り』でしてよ」

「えっ!?」「はあっ!?」「なにぃ!?」

「ちょ、ちょっと五月さん……この映画館を貸し切ってるって、いったいいくら――」
 驚く朝日の唇の前に、スッと五月の人差し指が差し出される。
「朝日様! それは言わないお約束ですわ。今日はわたくしにお任せでしたわよね? それに、こちらの経営は五月雨うちのグループ会社ですから、ご心配なく」

 どう心配いらないのだろうか? ……収用人数2000人は下らないであろう映画館を貸し切るコストを想像し、青くなる朝日であった。

 そんな二人のうしろで、梅と深夜子がぼそぼそと小声でやりとりをしている。
(本気かよ……馬鹿だろ五月あいつ)
(これはアホの所業と言わざるを得な――)
「それからもちろん、この映画館の施設はすべて無料・・・・・でお使いいただいて結構ですのよ」
「「!?」」
 なんとも資本主義な追加情報に唖然あぜんとする朝日とは対照的に、梅と深夜子に衝撃が走る!
「なんだとぉ!? メシもタダってか? おいっ、いくぞ深夜子!!」
「らじゃ! 一度、映画館で食べ放題やってみたかった」
「はぁっ!? どうして貴女たちがはきりって――」
「「うおおおおおーーーっ!!」」

 五月がいうが早いか、すでにフードコーナーへ猛ダッシュのばか深夜子アホである。

「あはは。すごいな深夜子さんたち……じゃあ五月さん。僕は上映ホールを選んで来ますね」

 それではとチケット売場に移動した朝日は、ホール設備の内容をあれこれと確認する。どこで上映するかを決めると、そのままフードコーナーに移動して五月を呼び寄せてから、いっしょにソフトドリンクとおやつを選ぶ。

 そんな二人の横では、深夜子と梅がフードコーナーのメニューを片っ端からプレートにのせ、ファミリー用カートに積みまくるのであった――。


「あの……朝日様、本当にこのホールでよろしいですの?」
 使用するホールを前に再確認をする五月。

 朝日が選んだのは、映像や音響設備にこだわった人気のホールではなく。色々なサイズのソファーが設置されている――ゆったりと鑑賞したい客向けのそれである。

「聞いたところですと、IMAXシアターやMX4Dシステムなど臨場感ある上映ができるホールが人気あるみたいですわ……ここはソファー型チェアなだけで――」

 人気設備があることを説明する五月だが、朝日は気にもとめずにソファーサイズを確認してまわる。すると納得できるものがあったらしく、ふと五月の手を取った。

「五月さん、ここがいいですよ。スクリーンも見やすいし、ソファーサイズが二人で座るのに・・・・・・・ちょうどいいでしょ、ほら!」
「ふえ?」

 朝日はソファー横にフードプレートを設置し左半分に腰をおろすと、五月にもいっしょに座るように促す。

 一見、大きめの一人掛け用と思われたが、朝日と五月が隣あって座ると、ちょうどよい感じで二人掛けができる。背もたれが緩やかなタイプで、軽く寝転がる姿勢になり、横を向けばベッドで顔を見合わせているかのごとき密着感だ。

 爆発不可避超ラヴラヴカップル専用映画鑑賞席の爆誕である。

「ね、五月さん! これならちゃんと映画デートって感じでしょ?」
「あへ? ……はへえええええっ!?」

 朝日の遠慮ない不意討ちに混乱する五月。

 わずかに身体を動かせば、体温と呼吸すら感じられる距離に朝日がいる。しかも上映前で、何やら無駄にいいムードの明るさになっている。五月の理性が恐ろしい勢いでガリガリと削られる。

 そんな二人から、数列後方に陣取る深夜子と梅は、この世界では初ともいえるカップルシート――女の夢を凝縮したかのような朝日のセッティングに目を見張っていた。

「おい……朝日のヤツ……どうやったらあの発想が出てくんだよ?」
「あれは完全に女を殺しに来てる。そしてうらやま! 超うらやま!」
「それより、五月のやつヤバそうだぜ」

 梅の指摘どおり、すでに五月は暴走寸前にまで追い詰められていた。頬は紅潮し、眼鏡の奥の瞳にはうっすらと涙がたまり、その美貌もあって、顔を向けられた朝日もドキッとしてしまう色っぽさである。

「あ、朝日様……五月は、五月は、きっと朝日様を幸せにしてみせますわっ!!」
「はい。ありが――って、五月さん!?」

 暴走開始。
 朝日の手を握り、求婚の言葉を呟きはじめた五月はそのままヒートアップしていく。

「そうですわね。子供は三人は欲しいですわ……朝日様には少し頑張っていただかないと、ですわね。うふふ、もちろん二人で楽しむ方の夜もうへへ――」
「ちょっと五月さん? どうしたの? な、なんの話を……」
 バチンッと後方で弾けるような音がする。
「――ぎゃふうっ!?」
 突然、五月の後頭部に何かが勢いよくぶつかり弾け飛んだ!
「いっ、痛い! なっ、なんですのっ!? あれっ? あ、朝日様……?」

 その衝撃で自分りせいを取りもどし、キョロキョロと周りを見渡している。五月は気づいていないが、後方では深夜子が右手首を左手で握り、何かを指で弾いたような格好をしていた。

「寝待流指弾術――『飛椚とびくぬぎ』」
「すげ、ポップコーンでこの威力かよ? 相変わらず器用だな」

 余談だが、深夜子の実家は古武術道場である。梅と同様、武闘派SランクMapsの名は伊達ではない。

「ま、これで都度対応」

 映画上映中、暴走しかける度に深夜子から発射されるポップコーンで頭を弾かれ続ける五月であった。
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