男性保護特務警護官~あべこべな異世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!

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第四章 やはり美少年との日常は甘くて危険らしい

第三十六話 五月と朝日

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 映画館の次は買い物の予定である。しかし、やってきたのは久しぶりの黒川が経営する高級男性服飾専門店だ。これはどういう事か? と深夜子たちがたずねると……。

「なにい!? ドレスコードがあるだと?」
五月さっきー。会員制のレストランとか意味わかんないけど」
 どうやら買い物、というよりディナーの準備とのことであった。
「別に珍しいものではありませんわ。それにドレスコードといってもセミフォーマル――まあ、貴女方にはちゃんと貸衣装を依頼してますから、ご心配なく」
「はぁ……ま、飯食えりゃなんでもいいか」
「うん。あたしもご飯食べれれば別にいい」
「……こ、この後に及んでの判断基準が食べ物ですの?」

 直前までジャンクフードの食べ放題をされてましたわよね……!? と眼鏡のブリッジに震える中指をそえ、顔を引きつらせる五月。そこに朝日が申し訳なさそうに質問を投げかけた。

「あ、あのー五月さん……じゃ、お買物って」
「ええ! 朝日様のディナー用のお洋服などをわたくしがコーディネートいたしますわっ! それと――」
 もうウルフヘアーとも呼べない、伸び放題になっている朝日の髪に五月の視線がむかう。
「うっ……もしかして、散髪……かな?」
「もちろんですわ。おほほほほ」
 五月は嬉しくてしょうがないといった感じだ。

 なにせ今日のデートプランで最も楽しみにしていたのが、この『朝日にオシャレをさせる』ことである。

 規格外の美少年にヘアカットとメイクアップを施す。そして自分好みに着飾らせる――自分の手で究極と呼べる宝石の原石を磨き、美しく輝くようにカットする行為。
 こんな女冥利に尽きるイベントがこの世にあっただろうか? 想像するだけでゾクゾクする。なんたる愉悦! 五月は身が焦がされるような高揚感に襲われていた。

 少し怪しい妄想に五月が捕らわれていると、黒川がやってくる。もちろん真っ先に声をかけられるのは朝日だ。

「やあ! やあやあ神崎君。相変わらずの美貌だね! どうだい、私専属のモデルの件は考えてくれたかな? 報酬は年間で一億までならよゆ――ぬおおおっ!? おっ、お嬢!? ヒールがっ、私の足にヒールの先がぁーーっ!!」
 ハイヒールのかかとはとても痛い!
「あいっ、かわらずのご挨拶ですわねっ! 黒川店長! ……で、事前にお願いした通りに進めていただけますかしら」
「あっ……ああ、足に穴があくかと……こほん……もうスタイリストは手配済みさ。神崎君のコーディネートが決まったらヘアカットして、着付けをしよう。そこそこ時間は取るだろうから、その間に君たちの着替えも済ますといい」

 朝日からすると、何やら自分がからむ間もなくするすると話が進む――いや、確かに主導権は五月に渡したのだが、気になるものはしかたがない。おずおずと口をはさむ。

「あ、あの……五月さん。ところで今日のディナーっていったい」
「ええ。それはですね――」

 これまた嬉しそうな五月の説明によると、高級大陸西方風料理――朝日視点だと、いわゆる高級フランス料理のレストランである。最高級店が入り乱れる高層ビルにある会員制の一店舗で、国内でも屈指の有名店とのことだ。

 当然、そのクラスになるとドレスコードもあるため、黒川の店舗で深夜子たちには貸衣装を手配。朝日はスタイリストによるヘアカットとメイクアップ、服飾コーディネートは五月がするフルコースの予定となっていた。

 ひとくちに高級レストランのドレスコードといっても、実際はそんなに厳しくはない。こと男性に関しては、ドレスコードなど制限の設定・・・・・をできるわけがない。ここは五月の方便である。せっかくなので、皆でオシャレを楽しもうという彼女なりの気づかいなのだ。

 さて、五月が朝日をつれ、別店舗で腕時計とネックレスを選ぶ。ずらりと0が並ぶ値札が気になってしょうがない朝日だったが、約束もあって口にだせず――腕時計とネックレスの二点で一千万円を突破してた事実は見なかったことにする。

 そのあとは黒川につれられヘアカットからメイクアップ、五月の選んだ服の着付けを終えて、店舗の待合室へと戻ってきた。

 のび放題だった髪はショートマッシュウルフにカットされ、サイドに軽くツーブロックも入れてある。眉毛もきっちり整えられ、さらには軽くメイクアップもほどこしてあり。元々文句なしの美形の朝日だが、さらに別人レベルに仕上がっている。

 服装は少し大胆に胸元をあけた水色のカッターシャツに、オフホワイトの薄手のジャケットとスラックス。五月肝いりのネックレスと腕時計も装備して、夏のさわやかアイドル系のイメージだ。

 当然その破壊力たるや凄まじく、メイクアップ現場は言わずもがな。着替えを済ませた三人それぞれの反応はというと――。


 最初に控え室に戻ってきたのは五月である。

 イブニングドレスは、光沢のあるワインレッドのワンショルダーマーメイドライン。胸元の露出は少ないが、深いスリットから見える脚が非常にセクシーな、五月の抜群なスタイルを活かしたチョイスだ。

「ああっ、朝日様お疲れ様でしたっ! さあ! 仕上がりの程を見せてくださいませっ! 五月はもう楽しみで楽しみでシッ――」
「えへへ。どうかな?」
 朝日を見た瞬間に、五月は眼鏡のレンズが砕け散らんばかりの勢いで目を見開き硬直する。 
「………………」
「さ、五月さん?」
 
 そして、目を見開いたまま数秒すると、バッグからスマホを取りだしてどこかへ連絡を始めた。

「蘭子さん、五月ですわ! 特殊保護男性の登録を一件、強制抹消しますわよ。ええ、いくら使っても構いませんわ。名前は神崎朝――」
「お、おい!? お嬢?」
「五月さん!?」
 突然、あまりにも不審な電話をはじめた五月に黒川と朝日が駆けよる。
「え? うふふ。そんなの何人かに不審死をとげていただければ、よろし――」
「ちょっと待ったーーーっ! お嬢! 絶対に口にしてはいけないことのみを口にしてるぞ!?」
「さっ、五月さん! しっかり、しっかりしてください!」
「うふふ。大丈夫ですわ。朝日様は五月のものですの……決して、誰にも渡しませんわ……うふふ」

 目からハイライトの消えた絶対に大丈夫ではない五月を、二人が宥めて続け正気をとりもどした頃……次に入ってきたのは深夜子であった。
 
 こちらはダークパープルのオフショルダースレンダーラインで、文字通りスレンダーな深夜子の体型を活かしたドレスだ。スリットはないが背中がV開きになっており、髪もシニヨンに結び黒薔薇のモチーフがついたヘアネットで飾り付けしてある。

 深夜子の目力を意識してか、後ろ姿に力が入れてあり、これまた見事なセクシーファッションなのだが――。

「ふおおっ! さあ、朝日君! あたしが余さず君の晴れ姿を記録しようではないかっ! ひゃっふう!」

 恒例の一眼レフを装備し、ダイナミックに転がりこんできて、シャッターポーズを決める深夜子。せっかくの衣装も、セクシーさも、見事なまでに台無しである。というかドレスでよくそんな動きができますね。

「ん――あれ? 朝日君?」
「わあ、深夜子さんのドレスも素敵だね!」
「!?」

 朝日の姿に気づくと、だんだん顔から耳まで余すとこなく真っ赤になり、口からはあわあわと声にならない声を発し、カメラにかけた手は力なく下がってゆく。

 ドレス姿を褒めながら朝日が近寄ると、なぜか顔を背けて逃げるように身体の方向を変えた。

「え? 深夜子さん?」
「……どちら様でしょうか」
「はいっ!? いや。深夜子さん僕だよ。朝日だよ」
「……そんな名前の人知りません。……あと、あたしは深夜子とか言う人ではありません。……それと、あまりあたしを見ないでください」
「えええええ!?」

 何かが許容範囲を超えたらしく、コミュ障を発症した模様である――。


 最後は着替えにやたら苦戦していた梅が出てくる。

「くそっ! なんで俺がこんなヒラヒラしたもん着なきゃなんねーんだよ!」
「「「!?」」」
「や、ややや大和さん……その姿は!? プフッ――」
「梅ちゃん!? ……ヤバ……そ、それ……くっ……ぶはぁっ!」

 梅、まさかのお姫様スタイル!

 王道のジュエルネックプリンセスドレスで、カラーはこてこてのピンク。とどめとばかりに、そのショートヘアにはウィッグと大きなリボンが追加され、正面からみると猫耳風に調整されている。可愛い系のメイクにもスタイリストのこだわりが見える一品だ。

「わあ、梅ちゃん。スッゴい可愛い! お姫様みたい!」

 腹筋をピクピクさせて悶絶する二人を差しおいて、目を輝かせたのは朝日であった。語尾に『~だニャン』がついても違和感のない梅のお姫様姿がどストライク! 久々のお兄ちゃんモードに突入である。

「なにぃ!? ぬわあっ! おっ、お前、朝日か? まて! 近づくな……その……おまえ……ほんとに、朝日……なのか……」
「猫耳リボンも可愛いー、えへへ。梅ちゃーん」

 朝日の顔を見つめて困惑する梅。いつもほどの強い口調にならず語尾が弱まってゆく。しかし朝日はそんなの関係ねぇ! と言わんばかりに梅に抱きついて、そのお姫様っぷりの堪能を開始した。

「おい、こらっ、だから! 抱きしめるのは……やめろって……言ってんだろ、おい、朝日……? あ……さひ……あっ……そ、その……もっと優しく抱きしめ……て」
「んなにぃ!? 梅ちゃんがデレた……だと!?」

 朝日に慣れている三人ですら散々なこの結果を受け、いろんな意味で危険だと判断し、メイクは落としてナチュラルに戻す。それでも充分な女性ホイホイとの黒川の助言から、以降はハイヤーを手配して、(朝日が)女性の目に触れないように移動することになった。

 さて、どうも良いトコなしの五月は、ラストチャンスのディナーで挽回したいところである。高層ビルの三十階にあるこのレストランは夜景が売りであり、当然窓際の特等席を確保済みだ。

給仕長メートル・ド・テルお久しぶりですわね。本日はよろしくお願いしますわ。あと身辺警護の二人は別席に案内いただけるかしら」
「かしこまりました」

 給仕長に案内され、予約の席へとむかう。高級レストランらしく、五月が朝日の手を取ってエスコートする。美女美男、恐ろしいまでのハイレベルな二人を遠間に、あちらこちらでフォークやナイフが落ち、コップが倒れる音が響く。
 
「ふわー、ほんとすごい。こんなとこで、本当にいいの五月さん?」
「もちろんですわ、朝日様」

 深夜子邪魔者たちは別席に送り込み、夜景に歓声をあげる朝日とゆっくりディナーを楽しむ。無論、料理は完全コース制であり、五月の高級食材知識をフル活用していいところを見せる予定である。

「それでは、コースの説明は後ほど――」

 朝日に対してまったく動じず。にこやかに会話をかわして、最高級レストランのフロア責任者の風格を見せ、一礼して厨房へと戻りゆく給仕長であったが――。

「朝日様、本当は食前酒、と言いたいところですが、そうもまいりませんので、ノンアルコールで準備してありま――」
(ぶっぱああああっーー!!)
「「え!?」」
(きゃーーーっ!! 給仕長? は、鼻血が、鼻血がーーっ!)
「さ、五月さん……なんか騒がしいみたいだけど?」
「おっ、おおおお落ち着いてくださいませ……まだ、まだあわてる時間ではございませんわっ!」
 やはり本日の朝日の破壊力は、推して知るべしであった。

 さらに五月にとっての不運は続く。ちょうどコースメニューの説明で深夜子、梅たちのテーブルに給仕主任シェフ・ド・ランがまわっていた。

「朝日様、こちらの総料理長シェフ・ド・キュイジーヌは国際西方料理コンクールで優勝経験もありますの。特に鴨肉を使った得意料理スペシャリテはとても評判がよろしいですのよ」
「へえ、鴨肉? うーん、僕なんかおそばでしか食べたことないや」
「まあまあ、朝日様ったら、ふふふ」

 順調。会話もはずみ、乾いた口を湿らすためノンアルのスパークリングワインを口にする五月。そこに、後方から深夜子たちのやりとりが聞こえてくる……。

「俺、追加でカツ丼大盛りな!」
「あたしチャーハンとギョーザ」
「ぶばっはあああっ!?」
 スパークリングワインが鼻へ逆流するのも省みず、五月は血相を変えて席を飛びでる。
「あ、それと大ジョッ――ではっ!」
 到着と同時に梅の後頭部をはたいて会話をとめさせた。
「あっ、あっ、貴女方はここをどこだと思ってますのおおおおおおおっ!?」

 五月にあれこれと説教つき説明をされ、しぶしぶと納得する二人であったが、時すでに遅し。

 すでに給仕ギャルソンたちからは珍獣扱い。本日、店内におけるカツ丼深夜子チャー定という不名誉な二つ名を獲得した瞬間である。

 結局、終始(周りが)落ち着かないディナーとなり、朝日と充分に楽しめたとは思えず。帰り道、ハイヤーの中で一人どんよりと落ち込む五月であった――。


 それを気にしてか家に帰って、就寝前に朝日は五月の部屋をおとずれノックをする。

「はい……」
「五月さん。いい?」
「あら!? 朝日様どうなされました。何か今日のことで……」
「いや、五月さん落ち込んでたから……その」
「あら、心配していただけて五月は幸せ者ですわ。うふふ……ふふ……はぁ」

 限りなく棒読みな上に最後はため息、なかなかダメージは深そうな様子。珍しく朝日を出迎えもせずにテーブルに突っ伏したまま嘆息全開だ。

 そんな五月の背後に朝日はまわりこみ――。

「今日はありがとうございました。おやすみなさい、五月さん」
「え?」

 きゅっと、背後から両腕を首に絡みつけて抱きしめる。

 五月の背中に朝日の胸板が押しつけられ、風呂あがりのよい香りがふわりと漂う。そして、耳元に唇が触れるか触れないかの距離で、吐息とともに今日の感謝とおやすみの挨拶が囁かれた。

 今、何が起きたのか。五月が理解できる前に――それじゃ! と朝日はそそくさと部屋を出ていった。

「…………ああああああさひさまがああぁぁああっ!!」

 それから深夜遅くまで、いや早朝に近い時間まで、五月の部屋から歓喜の雄叫びと、朝日への愛の悶絶が繰り返されることとなる。

 当然――。


「うるせえぇぇぇーっ! てめえ、いつまで変な叫び声あげ続けてやがんだぁっ!? 今、何時だっつーの! ちくしょーめぇ!!」

 ご存知のとおり、五月の部屋から壁一枚隔てた隣りは梅の部屋である。
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