男性保護特務警護官~あべこべな異世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!

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第六章 おいでよ!男性保護省の巻

第六十四話 梅と朝日

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 矢地がため息まじりに目の前で正座中の三条さんじょう門馬もんま鹿松しかまつを見下ろす。しかし、時間が無いこともあって渋々ながら手伝いを承認し、簡単な説明をしてから朝日の元に連れて行く。

「なんだよ三条。お前らいっつも本部にいんだな」
「うっさい。余計なお世話っしょ」
「えーと、梅ちゃんこの人たちは?」
「ああ、こいつらBランクのくせに待機率が高くてよ。三馬鹿B組って呼ばれて――」
「変な情報を追加すんじゃないっしょーーっ!」

 そんな三条たちだが、朝日に面と向かって話せばデレデレだったのは言うまでもない。彼女らに梅がこれから行う練習の内容を伝える。暴女役と穏やかではない大役に、反応はそれぞれの三人であったが、このアピールチャンスを逃すまいと各自意気込みだけはあるようだ。

 三条たちも着替えを終え、矢地の厳しい目が見守る中、順番に暴女役を試してみる。

 ――鹿松の場合。
「か、神崎さん。ご、ごめんなさい。ごめんなさい。仕事なんです。仕事なんですけど」
「泣いて謝るくらいならやらんでいい!!」
 ――門馬の場合。
「よろしくお願いします! うへっ、えへへへ、はへへへへへへ」
「よだれを垂らすな! 手つきがすでに気持ち悪い! 欲望がだだ漏れならやらんでいい!!」
 早くも二人が使い物にならないことが判明。

「やれやれ……どいつもこいつも。矢地課長! あたしが手本を見せるっしょ」
「ほう……大した自信だな」

 そんな中で一人自信満々の三条が白い手袋をはめ、ゆっくりと歩を進める。うっすらと笑みを称えて、余裕すら感じられる態度である。

「それでは神崎さんよろしくお願いします。この三条さんじょう久留美くるみにおまかせっしょ!」
「はい。よろしくお願いしますね」

 そう言って朝日の後ろに回る。少し目を閉じて集中し……いざ目を見開いた瞬間! 音もなく約2メートルあった朝日との距離を一瞬で詰める。あまりにも急な接近に驚いてしまう朝日だが、声を出す間もなく手袋をした右手で口をふさがれ、流れるように左腕が巻きつき、両手ごと身体を締め付けられる。さらに朝日の耳元で三条が冷たくささやく。

「おっと! 声を出さないで、死にたくはないっしょ」
「!? むっ、むぐっ!?」
 あまりの手際の良さと、迫真のセリフに朝日の背筋が凍りつく。口から悲鳴が――漏れることも手で塞がれ許されない!
「そう、おとなしくして……いい子ね。大丈夫、おとなしくしていれば何も痛いことはしないっしょ。すぐに気持ちよく――」
「貴様は前科者か何かかああああーーっ!?」
「くぉら三条! 朝日が涙ぐんでんじゃねえか!? ぶっ殺すぞ、てめえ!!」
「犯罪者! 犯罪者がここにいるっス!」
「ちょ? 完璧だったっしょ? 今の……って――はぎゃあああ!!」
 
 結局、三馬鹿の乱入によって、朝日の護身術訓練はグダグダのまま時間切れを迎えるのであった。


 ――夕食を終え、本日は移動日だったこともあり、それぞれが早めに宿泊用のフロアへ移動となった。朝日の宿泊場所は保護された当時にも使われた保護男性宿泊用の部屋だ。

 男性を宿泊させるとなれば、必然セキュリティ完備でなければならない。企画課があるフロアの一区画には同様の部屋が十室ある。このエリアの出入り口には、強力なセキュリティロックがかけてあり、朝日以外では矢地ら課長職者と担当である梅しかキーを持っていない。

 さらに、仮に朝日が自分のキーでエリア外に出た場合は矢地、梅のスマホに通知が入る徹底ぶりである。部屋の内装、設備は高級ホテルには敵わないが、そこらのビジネスホテルとは比べ物にならない充実ぶりだ。

 現在、時間は午後九時八分。こちらは梅がいるMaps宿直用の個室。

 すでにベッドに転がり、ビール片手にテレビを見てくつろいでいる。しばらくすると枕元に置いてあるスマホから呼び出し音が響く。発信元は朝日であった。

「はいよ、どうした朝日。ん……何かあったのか?」
『ううん。そうじゃないんだけど……あの……梅ちゃんさ、僕の部屋……来れるかな?』

 お部屋への誘いであった。

「うおおおおおいっ! 今度はなんの冗談だっての? いくら俺でも男性保護省内ここでそりゃやべえ――――!?」
『うん……ごめんね、ごめんね……僕……その……』

 最初はからかいの電話か? と思う梅であったが、スマホ越しに耳へと届く朝日の声が震えていることに気づく。日頃は鈍感女王の梅なのだが……。

「わかった。すぐ行くから切るぞ」

『マジに男が困ってる時にすぐ気づけるのが、本当の女ってもんなんだよ』――とは本日、梅が餡子に教えたありがたい格言の一つである。

 すぐさま朝日の部屋へと向かう梅。余談だが本日のパジャマは、ブルーのネコさんぬいぐるみ風ふわふわパジャマ(猫耳フード、しっぽつき)である。さすが本当の女!

「どうしたよ? 朝日」
「うん……ごめんね梅ちゃん」
 朝日の部屋に入ってから、ベッドに隣り合わせて座る形で話を聞く。少し泣いていたのか、朝日の目元は赤くなっていた。
「そのちょっと……色々考えてたら……心細くなって」
「ん? いまいちピンとこねーな……どういうこった?」

 大きめの宿泊できる部屋が十部屋あるが、他は誰も使っていない隔絶された広い場所に一人きり。さらにそこ・・は、朝日がこの世界へと転移してきた当初に寝泊まりした場所だ。少し前には重隅おもすみの聞き取りで昔も思い出した。そう、朝日は軽いホームシックになったのであった。

「なるほどねえ……そりゃあ思い出しちまったら辛いよな。でもよ……この部屋は矢地と企画課に行って、先に聞いてたよな? なんで場所変えろって言わなかったんだよ?」
「その、だって……ここが安全な場所だって言われて……それに急に部屋を変えたりは迷惑かなって、男性用の場所って簡単にある訳じゃないでしょ?」
「はああ…………お前も変なところで気い使いだよな。ま、そこが良いところっちゃそうなんだけどよ。ん、今……十時前か、あんま遅くまでいると色々まずいけど……仕方ねえ、もうちっといっしょにいて――」

 もうちょっといっしょにいてやるよ。――そう言い終わる前に、梅の身体は朝日に引き寄せられる。そのまま朝日の胸に頬が当たる高さで、きゅっと抱きしめられていた。

「ぬわああああ!? ちょ!? おい朝日? だから、いきなり抱きしめるのはやめろって、こら――――ん? お前……泣いてんのか?」
「ごめん。ごめんね梅ちゃん……わがまま、ばっか……ひぐ……どうしても一人……辛くて……うっ……ごめ」
「そっか……そうだよな」

 軽くため息をついて、梅は微笑みつつ朝日を抱きしめ返す。そして左手を頑張って回して背中をさすり、右手をギリギリまで延ばして朝日の頭も撫でる。164センチの朝日、149センチの梅、身長差が逆であればとても素晴らしい光景であったと思われる。

「朝日。俺は馬鹿だかんよ……お前の資料見ただけじゃ、あんまわかってなかったんだよな……。なあ、色々教えてくれよ。そんで思い出して……いっぱい泣けよ。俺が全部受け止めるし、慰めてやるし、それに絶対お前を守ってやる。後よ、泣きたい時にしっかり泣いた方がいいんだ。今、お前は一人じゃない。側に……俺がいんだからよ!」
「梅ちゃん……」
「な、朝日!」
「うん……ありがと……じゃあ、聞いて……くれる」
「ああ」

 日本での生活――。 
 家族のこと――。
 この世界へ来た時――。
 深夜子、五月、梅との出会い――。
 そして今日までの約半年間――。

 朝日は自分の気持ちを整理するかのように話をする。きっともう帰ることはできないであろう。これからこの世界で生きていくしかない自分。ゆっくりと噛み締めるように……途中、涙で声が詰まることもあった。それでもすべてを、振り絞るように、朝日は話をするのであった。

「あ……ひぐっ……ううっ……うわぁぁぁぁん」

 ついには感極まったのであろうか、号泣が部屋に響いた――。


「ちょ、梅ちゃん!? そんな泣かないで、ね? 大丈夫だから、僕ほんと大丈夫だから」
「だっ……だってよ……ぇぐっ……俺、妹が三人いんだけどよ……ひっく……末っ子が、……もし、もしお前と同じ……こと……に……なったら…………う、うええ……うえええええええ!」

 途中からいつの間にか立場が逆転し、最終的には大号泣で朝日に慰められている梅であった。十分ほど冷却時間インターバルタイムが経過する。

「すまねえ……俺、あの手の話によええんだよ。そ、その深夜子たちには――」
「あはは。うん内緒だね! それに僕も結構泣いちゃったし、お互いスッキリだね。本当にありがと梅ちゃん」
「ま、まあいいってことよ。おっと……もう十一時回ってんのか。朝日、そろそろ寝れるか? 大丈夫か?」
「あ……ごめん梅ちゃん……最後にもう一つだけ……僕が寝るまで横にいてくれる? やっぱ一人で寝るのは今日はちょっと……」
「へへへ。やれやれ、朝日はしょうがねえなあ」

 そう言いながらも、梅はご機嫌で部屋にあるソファーを担いでベッドの横へと移動する。そのソファーに転がって……。

「ほらよ……いい子にしてな……寝付くまで俺が見ててやっからよ」
「ありがと梅ちゃん……おやすみ」
「おう。おやすみ」

 ――十分後。

「んがあああーーっ」
 ソファーの上で梅が豪快にイビキをかいている。
「あはは。梅ちゃんが先に寝ちゃってどうするの? ほんと面白いなあ……でも」

 朝日は予備の毛布を取り出して、梅にそっとかけてやる。寝ている姿の梅を見るのは初めてだが、本当に年上とは思えない童顔だ。 


【ちゅ】


 むにゃむにゃと気持ち良さそうに寝ている梅の唇に、軽く朝日の唇が重なった。 

「ま、この位、いいよね……今日はありがと梅ちゃん……さ、僕も寝よっと」 

 こうして、保護男性の部屋でお泊まりと言う男性保護省始まって以来の偉業を達成した梅であった。


 ――翌朝、目覚めた梅がすぐ横に見える朝日の寝顔に大パニックを起こしたのは言うまでもない。
 もちろん、こっそり脱出を図ったところで矢地と鉢合わせをしたのも言うまでもない!
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