男性保護特務警護官~あべこべな異世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!

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第六章 おいでよ!男性保護省の巻

第七十一話 ごほうび

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「はうううう……お尻が……お尻ががががが」
 梅が運転するミニバンの後部座席で深夜子がうめいている。
「はは……あれってお尻叩かれてる音だったんだ……」
 岩盤工事と言われても違和感はなかった。
「朝日君。あたしもうダメかも……最後は、最後はせめてその胸の中で」
「おい深夜子! どさくさまぎれで朝日に抱きついてんじゃねーぞ! 助手席に座れ、助手席に!」
「これは朝日君の安全のため。後部同席は男性警護の基本」
「嘘つけっ! 朝日にぴったりくっついて何言ってやがんだよ!」
「それはともかく朝日君」
「俺の話を聞けええええええ!」

 転んでもタダでは起きぬ。朝日に甘えつつ、運転で自由の効かない梅を尻目にやりたい放題である。

「えと……深夜子さんどうしたのかな?」
「朝日君。あたし書類作業ちゃんと終わった!」
 真剣に話しているつもりだが、深夜子の表情は自然とにやける。
「あっ!? もしかして深夜子さん……自転車でわざわざ迎えに来たのって――」
「ご褒美は迎えに行くもの」

 後部座席後ろに積んである自転車を横目に、朝日との距離をずいずい詰める深夜子。ついでに鼻息も荒い。

「まあまあ、深夜子さん。そ、そのさ。ここじゃ仕事が全部終わったか、わかんないでしょ?」
「ふあっ!? そ、それは、えーと…………あっ! じゃあ五月さっきーに電話する」
 朝日の牽制にあせあせとスマホを取り出し、五月へ電話をかける。

「あっ、五月さっきー!! ね、あたし書類完成させたよね! うん。書類の……え? その――あっ、いやコンビニ! そう! あたしコンビニに行ってるだけ」
「深夜子お前。五月になんつって出てきたんだよ?」
「あっ……あー、あはは。深夜子さんもしかして……」

 華麗なる自爆。深夜子のスマホから五月の声は聞こえないが、不思議と内容はわかってしまう。呆れつつも朝日と梅は笑うしかない。

「はうわああああ!? さ、五月さっきーそうじゃない。違うから。うえ? ほ、ほら、また五月さっきーから殺気さっきーが漏れ――え? ううん。コンビニで立ち読みしてるから――えっ? うええええ!? ゆ、許して、それは、それだけは――」


 通話終了後、どんよりの深夜子である。
「うぼあああああ。墓穴、墓穴ー」
「深夜子さん。やっぱいつも通りだね……」
「あしゃひくん。まずい。五月さっきーに、五月さっきーに殺される。あたしといっしょに旅に、旅に出て」
「おい深夜子。別に一人で車飛び降りて旅に出てもかまわねーぞ」
 梅の顔は見えないが、ニヤニヤされているのは解る。
「くうううううっ! おのれ梅ちゃん。血も涙も胸も無いことを――」
「あっそうだ! 梅ちゃん。家のお米の買い置きがそろそろ切れそうだったから、帰りにいつもの商店街に寄ってくれないかな?」

 ヒートアップの気配を感じとり、朝日が気を使って話題を変える。実際、深夜子と梅の二人が消費する米の量は凄まじい。必要なのは確かであった。

 途中で春日湊の商店街へと向かう。黒川が経営する男性服飾店など、高級店が並ぶ区域とは離れた場所にある。食品や日用雑貨などが、庶民価格で販売されている節約家朝日の御用達商店街だ。

 もちろんそんな場所なので、男性が買い物に来るなど朝日以外に皆無である。当初こそパニックを起こしていたが、今では商店街のアイドルとして定着。様々なサービスを受けている。


 ――あれこれと買い物を終え。車に戻った朝日は手元のチケットを見つめてご満悦である。そのチケットとは。

「ふふーん。やったー! 温泉旅行! 温泉旅行!」

 ちょうど商店街で実施していた歳末福引き大会。温泉旅行招待は本来特等・・なのだが、とある理由で商店街の組合長から朝日に進呈されたのだ。

 招待先の温泉旅館は来る十二月に新築オープンとなる。しかも国内初の完全男性福祉対応別館が併設されている。これは武蔵区の大手企業数社が共同出資をした大掛かりなプロジェクトでもあった。

 現在、各企業あげての男性集客真っ只中。春日湊とは言え、男性客に縁のない商店街から一人でも男性が招待できた・・・・・となれば――詰まるところ大人の事情である。

「おいおい……本気マジで行く気かよ朝日?」
「もちろん! だってちゃんとした男性福祉対応だよ。しかも新築だよ。新築! みんなと温泉旅行か……ふふ、楽しみだなあ」

 大人たちの事情など露知らず。朝日は行く気満々でご機嫌だ。

「あ、朝日君と温泉……お泊まり……ふぇ、ふぇへへへへへへ」
「てめえは正気に戻りやがれ!」

 そんなご機嫌さん二人を乗せて、梅の運転するミニバンは無事朝日家へと到着。当然、家の外で待ち構えている方が約一名。

「あ、な、た、は何を考えていますのおおおおおおおっ!?」
「すまぬ……すまぬ……」

 仁王立ちの五月に、車からスライディング土下座を決める深夜子。梅はなに食わぬ顔で荷物を家に運び込んでいる。五月は土下座中の深夜子に、憤怒のオーラを浴びせながらスルー。朝日へ慈愛のオーラ全開で帰宅の挨拶、男性保護省訪問の労いを早口で伝える。
 
「――じゃあ、五月さん。僕はひと休みしたらお昼の準備しますね」
「よろしくお願いしますわ。それでは朝日様。お食事の時にゆっくりと・・・・・お土産話をお聞かせくださいませ。オホホホホホ」
 お上品な笑い声と共に土下座衛門深夜子へ手が伸びる。
「あ痛っ? さっ、五月さっきー!? 耳がっ、耳がちぎれるううう! あ、歩く。あたし歩くからああああ」
「さあ深夜子さん。たっぷりと貴女のお土産話も聞かせていただきますことよ!」

 わめく深夜子を引きずって、五月はお説教部屋へと消えていった。
 
「ほんとアホだな……。おう朝日、荷物入れ終わったぜ。食材も冷蔵庫に入れてあんぞ」
「ありがと梅ちゃん。一息ついたらお昼の準備するから手伝ってね」
「あいよ。りょーかい」

 朝日と梅は昼食準備、五月は深夜子のお説教。それぞれが一段落ついた後――昼食準備が整ったダイニングテーブルには朝日、五月、梅の三人。

「じゃあ、深夜子さんを呼んで来るね」
「朝日様……そんなに甘やかさなくてもよろしいですのに……」
「そうだぜ朝日。お前が気を使う必要もないしよ」
「んー、でも、ちゃんと約束の仕事は終わらせてるし。僕が言ったことだから……それに深夜子さんの気持ちわからないでもないんだ」

 なんせ深夜子を焚き付けたのは自分だ。少し責任を感じている朝日であった。それと力の入れどころは間違っているが、あの積極さは嫌いでは無い。

「本当……朝日様はお優しいですわね」
「まあな。優し過ぎる気もするけど。あれが朝日のいいとこだかんな」

 深夜子を呼びに部屋へ向かった朝日を見送る二人であった――。


「おーい深夜子さん。入るよ? ほら、お昼ご飯だよ。みんな待ってる――って、まだ落ち込んでるの?」

 一方の深夜子。そう、怒り心頭の五月から罰として自室で謹慎。ご褒美の消滅を言い渡されていた。部屋の電気を消して、カーテンを閉めているだけとは思えない暗さが漂っている。その落ち込みっぷりが伺えてしまう。

「うう……ご褒美。期待してたのに。仕事頑張ったのに」
「そうだね。だから僕が呼びに来たんでしょ」
「ふえっ?」
 部屋の電気をつけて、そう告げる。
「ふわああああああっ! じゃあ? じゃあ!?」
「約束だもんね」
「と、とととと言うことは! ごごご褒美のちゅちゅちゅうをををををば」

 深夜子のテンションは天空Vの字回復。挙動不審のオマケ付きだ。やはりちょっと落ち着け精神的に。

「えーでもーやっぱりはずかしいなーどーしよーかなー」
 棒読みで少し焦らしてみることにする。
「しょ、しょんなことない。全然はじゅかしくない! さあ、あたしのここに。朝日君。カムヒア! 大胆ダイターンに!」

 右の頬をぷくりと膨らませ、ぐいぐいと指差してアピールをする。やはり深夜子の反応は面白い。それを見て朝日もつい調子に乗ってしまう。ニコッと小悪魔な笑みを浮かべて――。

「あれ? ねえ、深夜子さん。なんか鼻にゴミついてるよ?」
「うえ? ゴミ? むう! こんな時に! んー、とっ、取れたかな?」
「取れてないかも? うん。じゃあ僕が取ってあげるよ。こっち向いて」
「ん、そう? はい」
 ――と深夜子が正面を向いた瞬間。

【ちゅ】
 深夜子と朝日の唇が優しく重なった。

「はひ!?」
 全身を貫く衝撃! 深夜子は自分の身に何が起こったのか理解できない。

「えへへ、特別サービス。みんなにはないしょだよ」
「ふ……へ……ほ……」

 深夜子は自分の唇に震える指をあてる。目の焦点は定まらない。頭の中でぼんやりと、今起こった事がリピートされ理解が追いついて行く。そうだ。やわらかい朝日の唇が、自分の唇に重なった。とても甘い香りがした。

「あ、あの……朝日……君。い、今の、ちゅ、ちゅう?」
「えっ!? あっ、そ、その――」

 少し色気を感じてしまうトロンとした表情の深夜子に見つめられ、問われる。軽いノリでやってしまった朝日だが、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。

「じゃ、じゃあ深夜子さん。みんながお昼ご飯待ってるから――」

 顔を真っ赤にして早口で言い残す。朝日はそそくさと部屋を後にしてダイニングルームへと戻った――。


「あら、朝日様。深夜子さんは? いっしょに戻られませんでしたの?」
「あいつ、まだ拗ねてやがんのか?」
「えっ? あっ? い、いや、そう言うわけじゃないと――」

『ヴェアアアアアアアアアサヒクンノクチビルウウウウウッッッッ!!!!』

「うおおっ!? なんだああああっ!?」
「雄たけび!? け、獣の雄たけびですの!?」

 朝日家に深夜子の咆哮(特大)が響き渡った。
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